74.「『まだ3冊全部かってない人‐の役にたたなきゃダメ、解るかい!?フェア』開催 補足 『映像夜間中学講義録 イエスタデイ・ネヴァー・ノウズ」の発売に寄せて』 アート倉持 (UPLINK/「映像夜間中学」東京校・学級代表)(2009年8月27日)


大変遅ればせながら「映像夜間中学講義録 イエスタデイ・ネヴァー・ノウズ」の発売に寄せて
Text : アート倉持(UPLINK/「映像夜間中学」東京校・学級代表)

 “なんでもあり”のルールを己に課してから10数年経った今になって、急に“当たり前”を欲する自分が居ることに気付きます。夏はオクラが安くて美味しいとか、香典への署名は薄墨でなければならない…とか。
 僕の仕事は遊びのようなもので、遊びもまた然りで仕事のようなものなのですが、その合間を縫ってバンド活動のようなこともやっておりまして、以前ギタリストの今井和雄さんに「倉持君はどういう音楽をやっているの?」と尋ねられたおり「いやー、出鱈目ですよ」と何の気無しに答えたところ、暫くの沈黙のあと今井さんに「出鱈目が一番難しいんだよ」と返され、その場ですぐさま襟を正したことを思い出しました、今。
 そう、本当は出鱈目が一番難しいんですよね。疑うべきは世の中の常識ではなく出鱈目とされる人、物、事であるべきでしょう。  ユダヤジャズの相馬大さんは、そういった出鱈目と常識の扱いが本当に上手い。故に、彼は自らが関わる現場には絶対に安易な決着を持ち込まないし、その姿勢を頑に崩さない。ならば「講義録」に添えられたDVD「男・友情の小さな旅」とは、実際のところユダヤジャズによる同書の“解説”と捉えるべきでありましょう。
 出鱈目を作り出すことの難しさを知る者が、最早言葉にすらならない思いを、言葉にならないからこそ違う方法を以て全力で放った豪速球なのだから、考えすぎるのは野暮。
 つまり、話し相手の言葉ににじむ訛りからその人の出身を察し、単なる詮索に止まらず気遣いを以てその先にハッテンさせることで初めて成り立つ世界というものがあり、それを僕たちは友情と呼ぶより外ないのだと思うんです。
 先に述べたバンド活動の一環で、僕は10月にスイスのローザンヌという街へと赴きます。この街には、「男・友情の小さな旅」の主演を務めた宮間英次郎さんが作品を提供し、パフォーマンス(?)を行ったと伝え聞いている「アール・ブリュ美術館」(世界唯一のアウトサイダーアート専門美術館。アウトサイダーアートの提唱者、ジャン・ドュビュッフェが1976年に設立)があります。
 僕たちのバンドを呼んでくれたスイス人の友人たちと、春に東京で会っている時に「Do you know Mr. Miyama?」と尋ねても首を横に振るばかりでしたが、「Ok, Do you Know Uncle hat?(じゃあ、帽子おじさんは知ってる?)」と尋ね直した時に彼らがみせた笑顔の輝きといったら、もう…。
 無駄に頭の回転が速いせいもあろうかと思いますが、兎に角僕たちは考えすぎるきらいがあるからこそ、どうしてもイイ塩梅というものが必要になってくるのでしょう。UPLINKで毎月最終金曜日に開催されているイベント「映像夜間中学」という場は、そういったイイ塩梅が不足している向きのために用意されている“心の湯治場”のようなものなのかな、と「映像夜間中学」開校10周年を目前に控える今になって初めて考えるようになりました。なんというか、根本学長と一緒にフルチンで湯に浸かる感じ(それに、悪戯とかあっち方面のことは温泉に入った後にするべきでしょう)。
 と、僕たちが温泉に浸かりながら、誰よりも頭の回転の速い根本学長から聞かせてもらったたくさんのイイ話の数々がまとめられたこの一冊、ご購入を今更ながら激しくお薦めする次第です。
 尚、最後に余談ではありますが、僕は先に述べたバンド活動の一環で、ローザンヌでのライブ終了後にフランスのマルセイユという街にも行くつもりです。その街には、根本学長の因果マラ兄弟的且つ孤軍奮闘的な鬼才、パキート・ボリノさん(出版芸術集団「Le Dernier  Cri」のボス)が住んでおり、この機会にご挨拶してこようと思っています。