『オオクボ都市の力 多文化空間のダイナミズム』稲葉佳子 

『週刊朝日』2008年12月12日号
週刊図書館「人」著者インタビュ
 

 東京都新宿区大久保。町会長の実感で「6割が外国人」の住むこの街を、買い物に来た日本人女性は「韓流の町」と言い、住人のマレーシア人は「クアラルンプールみたい」、中国人は「上海」と形容する。

 次々と外国人がやってきて新しいビジネスを興し、姿を変え続ける町に魅了され、18年間通って書き上げたのがこの本だ。

 最初のきっかけは90年。都市プランナーの仕事で、「地上げでアパートを追い出される高齢者の家を訪ねて、なぜ出なきゃいけないのか聞く」機会が多かった。

住宅弱者にも優しい街づくりを考えていこうという時代になってきていた。

 でも、ニューカマーと呼ばれた外国人は、一部屋に何人も住んでいる、トラブルが多いと騒がれる。外国人の実情を知りたい」

 さっそく社会学者や都市計画に携わる仲間に呼びかけて研究会を組織し、当時外国人が一番多く住むと言われていた大久保の実態調査に乗り出した。

「町中の賃貸住宅の1軒1軒を、しらみつぶしに当たって、外国人が住む部屋を見つけました。でも、当の住人は仕事や勉強で忙しくてなかなか会えない。あんなつらい調査はなかった」

 と、笑って振り返る。

 通ううちに大久保から目を離せなくなった。何しろ変化が速い。ホテル街だった町にエスニック料理店が増え、マンションの一室にモスクが誕生し、韓流グッズを扱う店ができる。9割が外国人入居者お断りだった不動産屋に「外国人歓迎」と張り紙が出る。外国人の不動産業者も現れた。

 90年の調査で訪れた貸主を、10年後に再調査すると言い分が変わっている。外国人はゴミの分別をしないと困っていた大家が、「ないよ、トラブルなんて。同じ人間だから話せば分かる」と言い切る。

「確かにこの町は、外国人が働ける歌舞伎町が近いし、日本語学校もある。家賃も安い。でも、それだけで、町の人たちが、他者である外国人を受け入れるのか」

 目を向けたのは歴史。江戸時代からの町の変化を調べ、街の気風を分析してみせた第5章が圧巻だ。その視点を培ったのは、学生時代。都市学者の陣内秀信氏について江戸時代と現在の地図を持って町を歩き、「長屋があったところは今も商店街がある。足の裏の感覚で、歴史的連続性が見えてくる」体験をした。

 歴史への視点。仲間と行った現場調査。そして、18年間通う中で、耳に入ってきた地元の人たちの肉声が、この本には刻まれている。 

 いなば・よしこ=1954年、東京都生まれ。法政大学大学院修士課程修了。都市計画コンサルタント会社で6勤めた後、90年に友人と都市計画事務所を立ち上げると同時に、大久保の調査を始める。現在は、都市プランナーとして外国人居住問題に関わる。法政大学大学院兼任講師 

『オオクボ 都市の力 多文化空間のダイナミズム』

(学芸出版社・1890円) 





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