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ALSの人工呼吸器、本当に泣かされる

ここから本題に入らせていただきます。まずハイボリューム・ベンチレーション。私の場合はかなり前から提案させていただいています。入院中は配管式の呼吸器を使っていますが、在宅になるとAC電源の呼吸器が使われています。最近は小型の人工呼吸器も出てきています。

最初に土居喜久子さんを診させていただくまでは、私は神経内科が専門ではございませんで、呼吸器をやっておりました。特に大分では珪肺、塵肺というのが非常に多くて、そういう方々の医療をやってました。それはもう悲惨な肺の状態で、最後は呼吸器を着けても1週間で亡くなるというようなことが多かったんです。それに比べて、ALSの患者さんの肺は本当にきれいな肺だなあと思っていました。ALS患者さんの人工呼吸は別に全然難しくないだろうというイメージをもっておりまして、気管切開や人工呼吸器になっても、数段簡単だろうとタカをくくってやり始めたというところがあります。ところが実際にやってみると、本当に泣かされるハメになってしまいました。

ハイボリューム・ベンチレーションで無気肺予防

土居喜久子さんは1991年5月に気管切開をして人工呼吸器を装着しています。最初の3〜4か月はまあまあよかったんですが、9月に1回目の肺炎を起こして、次に10月。その後はちょっと良くて、次は翌年の2月、3月、4月、5月、6月、7月。毎回治すのですが、またすぐに肺炎が起こってくるという状況になりました。そのため本人も苦しみましたが、本当にこちらの方が泣きたいというぐらいの感じになったんです。この段階では1回換気量400ccということでやっています。呼吸器内科の中でも1回換気量400ccというのはある意味で常識、みたいな線がありまして、これで始めてみたんです。たしかに良いときには一見、血液ガスの値も良いのですが、あまりに肺炎が続くものですから、何か手がないかということで試行錯誤しまして、1回換気量を600ccに増やしてみたらどうかと。そうしたところ、2月、3月、4月、5月、6月、7月と続いていた肺炎がピタッとここで止まったんですね。半年間なくて、12月、次はほぼ1年ない。その次はちょっとありますけども、ここ(95年)から先は肺炎は全く起こらなくなっているという状況に押し込むことができました。

それで、それ以後の管理を、先ほど言いましたハイボリューム・ベンチレーション、つまり肺活量を大きくした管理というものに変えていく形にしてまいりました。

これは今から5年ぐらい前、沖縄であった呼吸管理学会で発表させていただいたデータなんですが、大体900cc、800cc、ちょっと少なくて760cc、こういう感じにボリュームを増やしました。通常は400ccぐらいのところが非常に多いものですから、最初こういう値でやってるというふうに学会に出したときに、何というむちゃなことをするんだとかなり叩かれたのです。それでちゃんとデータを出さなきゃいかんと思って、10年間ほどデータを集めて、このような形で発表しました。
私の標準的ハイボリューム・ベンチレーションのやり方

実際この管理にしてから、それから何年もたっているのに、無気肺はなかったのですね。無気肺がないということは、常に痰が出されているということですから、肺炎も起こしにくい、そこにつながっているのではないかと考えました。

その当時のデータですけども、体重1kg.当たり換気量15cc、つまり40kg.の方だったら600ccということになります。そういうものを基準にしていいのではないかということです。ただ、たとえば800ccを目標にしても、最初から換気量400ccの方に800ccをドーンと入れたら、苦しがってまず無理なんです。で、まず1分間600cc×16回ぐらいだったら大丈夫かなということで、その後50ccずつ1週間ごとに増量していって、回数を1回ずつ減らしていって、最終的には800cc×12回、またそのあと慣れてきたら12、11、10回と一分あたりの呼吸回数を落として、最終的に800cc×10回という形にしていくのが、私の標準的なハイボリューム・ベンチレーションのやり方です。

気道内圧は20cmH?O以下に
この場合問題になるのが、気道内圧が上がることに注意していただかないといけないということです。たとえば400ccを1秒で入れると気道内圧は上がらないかもしれませんが、800ccを1秒で入れたら気道内圧がハネ上がります。これを抑えるために、1秒ではなくて2秒使ってゆっくり入れるということですね。多いのは800ccで1分間10回ぐらい、1回の吸気時間を2秒ぐらいとるという形でやると、患者さんも苦痛なくそのボリュームが入ります。大体、最高気道内圧は20cmH?O以下にするということがコツだろうと思います。
少なくとも1回換気量600ccは超してもらいたい

ただ、最近私かなり軟弱になりまして、1回換気量800ccとか900ccはあまりねらわないで、もう600ccあればいいかな、という感じで、ちょっといま実はパワーダウンしているところです。400ccでは絶対ダメだという確信は今でも持っています。少なくとも600ccは超してもらいたい。あとは患者さんの状態を診ながら、気道内圧が上がらないように、やや低めでやってるほうがいいのではないか。6年も7年もハイボリュームで気道内圧が高い状態を続けますと、やっぱり肺に一部荒廃が起こってくることもありまして、できれば20cmH?Oといわずに16cmH?Oとかですね、気道内圧はちょっと低めにやりたいなというのが最近の感覚です。

とにかく30cmH?Oを超すような高い状態を放置してはいけないということです。ふだん20cmH?Oでも、たとえば風邪をひいて痰が多くなったりすると、わりと簡単に30cmH?Oを超えてしまうことがあるのですね。それを放置するととても危険です。何が危険かというと、一気に肺全体が真っ白になってしまいます。これは肺炎が広がったということより、間質性肺炎を惹起させてしまうということですね。そのことがなかなかわからなくて、抗生物質を使っても良くならずに亡くなっていくというケースが結構あるようです。

ハイボリューム・ベンチレーションについては一応論文にしておりまして、『日本呼吸管理学会誌』の2001年に出ていますので、必要ならご参考になさっていただければと思います。
換気量を下げて酸素付加、ステロイド使用
(スライド5)

この方は私が診ていた患者さんではないのですが、在宅の患者さんで、換気量が確か800ccぐらいだったと思います。肺炎を起こして状態が悪い、ドクターからもう無理かもしれないと言われたということでうちに電話があったケースです。そこの先生とお話しして、「先生、とにかくすぐにボリュームを下げてください」と。聞いてみると、気道内圧は40ぐらいまで上がっているという話だったんです。「どんどん下げて、とにかく気道内圧は30cmH?O以下にしてください。それからすぐステロイドを使ってください」と。ちょうどそのときベッドが空いてなかったので、1週間待っていただいたのですが、そのあとでうちに入院してきたときの状態がこれです。もう硬くなってしまった肺があります。これをさらに換気量を350ccくらいに下げて、もちろんそのあと酸素の付加も必要ですが、とにかく気道内圧を20cmH?Oぐらいまで下げて、それからステロイドを使うということで、ここまで改善したんですね。もちろんあとは残ってしまいましたから、もとの800cmH?Oには戻すべくもありませんでしたけれども、現在はまた在宅へ酸素なしで帰れるという状況があります。

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