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平成19512日 総会講演
安心感を届けます
――ホームケアクリニックを開設して――
医療法人 拓海会 大阪北ホームケアクリニック
神経内科医 藤 田 拓 司 先生
 受け入れる側に

 みなさん、はじめまして。大阪北ホームケアクリニックの藤田と申します。

 私はこの仕事を始める前はALSの患者さんにご自宅へ送り出す側、つまり専門病院で神経内科医をやっておりました。実際に送り出している時に最も困ったことが、受け入れ側がいないということでした。そこで、自分が受け入れ側になろうと思いこのホームケアクリニックを立ち上げました。8年前の1999年に、大阪北ホームケアクリニックを大阪市淀川区に開設しました。

 開設目的は「在宅で人工呼吸管理を受けているALS患者の診療を行う」というものでしたが、それだけで経営が成り立つほどにALS患者さんはいらっしゃいません。開設から1年はほとんどがん患者さんばかり診ておりました。神経内科医というのはがんに縁のない診療科なので、非常に苦労いたしました。その後徐々に神経内科の患者さんが増え、現在はALS患者さんを含めて70人ぐらいの神経難病の患者さんがいらっしゃるクリニックです。
 本日の内容
本日の内容は「自己紹介」「在宅療養に関する考え方」「在宅でどこまで見られるか」「患者さんの選択肢を支える」等々ですが、当クリニックでどのように診療を行っているかを通して、「在宅療養に関する考え方」「在宅医療の現実」をお話しさせていただきます。
             Ⅰ.在宅療養に対する考え方と現実
             Ⅱ.在宅でどこまで診られるか(病状と介護体制)
             Ⅲ.患者さんの選択を支える(胃瘻と人工呼吸管理)
             Ⅳ.人工呼吸器をつけた人のライフケア
                         日常の呼吸器・胃瘻の管理など
             Ⅴ.長生きをするための提案
                         気管カニューレの選択、気道食道分離の提案など
             Ⅵ.人工呼吸器をつけない場合の緩和ケアの方法
 ぼくは神経難病を一応専門にはしていますが、大学院は医療経済・医療経営を学び、そちらも専門にしています。在宅医療の分野では「神経難病の慢性期管理」「在宅人工呼吸器管理」「在宅経管栄養管理」を研究テーマとしています。

「365日24時間往診できます」

 クリニックは大阪市淀川区にあります。診療域は大阪市北部と豊中市と吹田市としているのですが、断りきれないこともあって、茨木市、枚方市、門真市、守口市にも患者さんがいらっしゃいます。現在クリニックの規模は医師が6人、常勤医が4人、非常勤が2人です。そのうち神経内科医は2人います。他のスタッフは看護師6人、保健師1人、事務3人です。特徴の一つは「365日24時間往診できます」とうたっていることです。

ご自宅でカニューレ交換、胃瘻チューブの交換

 診療している患者さんの比率が大きいのはがん患者で、神経難病は約13%です。1年単位でみますと、がん患者さんは療養期間が短く、難病の方の療養期間が長いこともあり、現在診療している患者さんの2割弱となっております。医療依存度の高い方が多いことが特徴の一つでもあります。経管栄養を行っている患者さんは去年1年間で約70名、気管切開・人工呼吸管理の患者さんは16名、NPPV(気管切開しないマスク式人工呼吸器)は6名です。気管カニューレ交換は月間で約60回行っています。胃瘻チューブ交換は約30回です。気管カニューレや胃瘻チューブの交換は病院に行かなくても、ご自宅で交換しております。
 担当するALS患者さん像

ALS患者さんは、このクリニックが始まってから44名います。気切・人工呼吸管理の方は9名、NPPVの方は8名です。

現在は23名のALS患者の診療を担当しています。2名のTV(気管切開下の人工呼吸器)導入、7名のNPPV(気管切開しない鼻マスク式人工呼吸器)導入、2名のHOT(在宅酸素)導入を経験しました。

 ALSの治療モデル
 日本ALS協会が出している『ALSケアブック』にも記載さている、このモデルを当院の基本的な治療モデルとしていています。当院で診ている患者さん全員にここまでは行うこととしています。ですから胃瘻を造るか造らないかは迷いません。基本的に胃瘻は造る。NPPVも基本的に導入する。これを一つの考え方としてやっています。

ただ気管切開・人工呼吸管理はオプションです。「いやだ」という方もいらっしゃるので、ここは要相談ということにしています。他にコミュニケーションエイドはできるだけ早く導入する。吸引器、車椅子、筋力が落ちてきたときはスプリングバランサーなどの導入も積極的に行います。また介護者の確保にも早期から取り組んでいます。

ご家族だけではなくて、ヘルパーさんたちにできるだけ早期から関わってもらおうと思っております。経済的な問題もありますが、最終的に喀痰吸引を担当してもらう時に、吸引が必要になってから入る人と、それまでに入っている人とではモチベーション(意欲)がかなり違うので、できるだけ早期から関わってもらって、ご本人さんとヘルパーさんの間でコミュニケーションがとれるような環境をつくっておいてほしいと思っています。家族・ヘルパーさんへのアンビュー・バッグ使用の訓練もできるだけ早期から始めています。

 インフォームドコンセントは本人の権利
 次に、インフォームド・コンセントのお話をさせてください。インフォームド・コンセントはあくまでも本人の権利です。医療者とか家族の権利ではありません。ときどき家族で、ご本人に話をしてくれるなという方がいらっしゃいますが、私は基本的に了承しません。必ず本人に確認します。ただ本人にはインフォームド・コンセントを「聞きたくない」という権利もあります。「こわいことは聞きたくないから、話はしないでくれ」と本人に言われた場合には、基本的には柔らかい話しかしません。ですから「あなたは、このご病気の話を今後聞きたいですか」という質問から始まって、「聞きたい」と言われれば話します。「聞きたくない」と言われれば、だいぶ真綿にくるんだ形のお話をしていくことになります。

我々の診療所は診断をつける医療機関ではないのです。患者さんは診断をつけたドクターや、それ以降に診療を受けたドクターから様々な話を聞いてきています。患者さん・ご家族がどこまでの話を聞かれてきたかという確認作業をさせて頂きます。胃瘻は造設していない、NPPVもしていない人の中で「私は胃瘻造設はしません、NPPV導入はしません」というお話をされる方もいらっしゃいますが、どこまでの情報を聞いてその選択をされているのかがわからないためです。
殆どの方が断片的な情報で今後の療養を選択されている印象が強く、最初から全部やり直しが必要な方が多いです。すでに気管切開されている方であったり、意思を表出する手段をほとんど持たないのにコミュニケーションエイドをまだ導入されていない方に関しては、そのような確認作業を家族の方に代理をお願いしなければならないこともあります。

 真ん中のお話をします

 最近、医師を含めた医療者は防衛医療に入っています。同じご病気でも最も良い予想と最も悪い予想があれば、医師の多くは「最も悪い予測」しか話しません。というのは、「最も良い予測」を話して、経過が悪ければ訴えられるのではないかと思うからです。そのために患者さんはこわい思いをするので、病院へ行くのはいやだなあと思って、病院へ行かない人まで出てきています。
当院での説明は「真ん中」のお話をします。予想されることを、悪いほうへずれることも、良いほうへずれることもあるという説明を加えた上でのことになります。ただ、ちょ

っとこわがりの方には、「心持ち良いほう」のお話をすることにしています。予想は外れることが多いので、これぐらいを目安にしてお話をしております。
もう一つ、疾患や今後の病状を理解することと、受け入れること(受容)は違います。理解されても受け入れるまでにしばらく時間がかかります。胃瘻を造設しなければならない時期にお話しても、理解は出来たとしても納得できるかは別なのです。胃瘻が必要になる1~2ヶ月前に一度お話をしておくことを心がけています。

 インフォームドコンセントの役割分担

最近よく見られるインフォームド・コンセントの実際はインフォームド・コンセントではなく、ドクターから患者さんへの「インフォームド」(説明)というより宣告に近いものです。「お話しました。あなたが理解しようが理解しまいが関係ない」というのが病院で実施されているインフォームド・コンセントの現状です。それは非常によくないと考えており、コンセント、つまりどのような要望を持たれ、どの程度理解され、納得されているのかを確認をします。
ただ、いまだに医師に対するハードルは高いのです。「先生には話しにくい」と仰る患者さん・ご家族は少なくありません。病院に入院中は病棟の看護師さん、ご自宅にいらっしゃる場合には保健師さんに「私はこういう話をしてきました。本人・ご家族に、この話がどう理解されているか、納得されているかを聞いてほしい」と依頼します。その報告をまたもらうことを繰り返しながら、インフォームド・コンセントを進めさせていただきます。大阪府下の北摂地域では保健所の保健師さんが熱心に取り組んでおられるので、非常にやりやすい環境にあります。

病院の先生から紹介状をいただくときは、先生にインフォームド・コンセントの状況についての情報提供をお願いしています。○は話しました、✕は話していません、△は話はしたけど家族に話した内容と異なりますということを書いて頂きます。○が多いのですけど、患者さんに確認すると、「話はほとんど聞いてない」と話される方が多いです。
また医師と看護師・保健師と家族の三者の役割分担を決めます。医師は説明をする係、看護師・保健師は「先生にこんなこと言われた」など悩みや不安を聞く係です。家族から「ぼくたちは何を話したらいいのでしょうか」と質問されることが多くあります。「ご家族は何も話さなくてもいいです。基本的に話は私からするから」と答えています。ご家族には「悲しい」「うれしい」といった感情を共有する係になっていただきます。基本的にこの三者の役割分担でやっていきましょうというお話をします。これは患者さんに隠れて話をしているので、患者さんは知らないことになります。

 神経難病(変性疾患)に必要な医療資源
 ALSだけではなく、神経変性疾患全般についてです。まず発症したらいずれかの医療機関に初診されます。専門病院(神経内科)に最初から行く人もいるし、診療所に行く人もいる。確定診断はほとんど専門病院で行われています。ALSは特にそういう傾向が強いです。

体調が良いときは神経内科の外来に通い、デイケア、デイサービスを利用される。ADL(日常生活動作)が落ちて外出がしにくくなったら在宅医療になる。実は当院はこのあたりから診療に参加することになります。
大体発病から2年ぐらい経過している方が多いのですが、インフォームド・コンセントが十分できていれば診療継続がスムーズなのですが、そうではない場合が多いのです。診療開始直後からあわてて胃瘻造設の話をすることもあります。
 胃瘻造設時の入院、肺炎を起こしたときの入院などは、専門病院と連携をとって行っています。

 在宅医療を支える医師

大阪はドクターがたくさんいます。当院の診療域は人口140万ぐらいですが、神経内科専門医はちょうど100人います。診断をつけるためには非常に良いところなんですね。青森県の先生とお話しすると、青森県では140万人の人口に、神経内科の専門医は18人しかいない。それで何とかやっているのに、なぜ大阪は何とかできないんですか、という話をされたことがあります。少し医師の分布が偏っているという気はします。大学病院や急性期病院に医師が多く、地域に在宅医療をやる医者がいない場合には、在宅医療を希望したとしても受けられないという患者さんも出てくる可能性があります。
 特に診療所を開設している神経内科医は非常に少ないです。当院のある地域でも十指に満たないくらいです。それで神経内科以外の一般診療所の先生に日常管理はして頂いて、インフォームド・コンセントなどは神経内科専門医が行うなど、専門病院と診療所との連携が高槻市などで行われ始めています。
 当院の場合ですが、神経内科医がどのような疾患を診ているかというと、あまり神経内科疾患は診てないのです。がんもありますし、下痢や便秘などの消化器症状もあります。私が診ている一番多い疾患は、ALSでも脳血管障害でもなく、実は便秘です。下痢も併せると、8割近い方がなんらかの消化器症状をもっています。そういう症状管理をやらなければならないのは在宅を診る私たちの宿命です。神経内科領域だけやろうとしてもだめなのです。
レセプトの病名を調べたら、神経内科領域の疾患は10%ぐらい。認知症は3割、内科まで入れると7割です。約3割は、肺炎などの感染症屋や整形外科領域、がんなどこれまで専門としていなかった領域です。こういうことですから、一般内科の先生のほうが日常管理は上手ではないかなと思うことがあります。

 家族の休養のためのレスパイト施設をつくります

これは宣伝になります。皆さんも感じておられると思うのですが、レスパイトケア施設がありません。ないからレスパイトが出来なくても仕方がないとあきらめるのはいやなのです。だから自分で造ってしまおうと考え、外来、サロン的デイケア・デイサービスと病棟、これだけのものを今、大阪府豊中市に建設中です。来年の1月ぐらいにはできあがる予定です。難病の方のレスパイトケア入院を中心に行いたいと考えています。
 また専門病院の外来は非常に混雑しています。ですから時間をかけて診ることができない現実もあるので、時間をかけてゆっくり診られる外来スペースをとります。

 在宅で可能な医療処置
 在宅でも、ALSに関してはほとんどの医療処置が医療保険で算定が可能になっています。酸素、人工呼吸器、気管切開、経管栄養が認められるようになっています。
 在宅療養に必要なもの

基本的に在宅療養を継続するにはこれが要ります――介護力もしくは経済力ですね。現在の介護保険制度のみでは十分な介護力は提供できません。家族への負担が避けられないという現実があります。
 もう一つ、在宅で私たちが看取りを行うためには、意思決定をする人が必要です。家族がいないと困ります。終末期の緩和ケアでは意識低下が見られます。意識低下のある人に対して経管栄養や投薬をするのは、家族がいないと今の制度では無理です。ヘルパーさんでやってくれる方はいらっしゃるかもしれませんが、制度化されていないこともあり、おしなべて全員が提供できるというレベルにはないと思います。

 患者さんの選択を支える
 胃瘻造設に関しては、造設しないという選択肢はぼくの中にはありません。ただ解剖学的に胃瘻造設ができない方がいらっしゃいます。ぼくも経験があったのですが、横隔膜のドーム内に胃が入り込んでる、要するに胃下垂の逆です。上の方にあるのでアプローチできない、ということで断わられた方が1名いらっしゃいます。もう一人は胃の手術をされていて胃がない方、これは無理ということで返されたことがあります。もう一人は、太りすぎで胃瘻を開けることができない。この方は半年かけてやせていただいて、胃瘻を造設しています。
 ALS患者さんの評価のポイント
ALSの患者さんをぼくらはどういう点に注意して診ているか。QOLのSEIQoL―DW(QOLをはかる手法)はまだ導入できてないのですが、ADLの評価は、ALSFRS―Rの12項目を、4週ごとにスコアリングしています。あと肺活量などの呼吸機能検査、SpO2(サーチュレーション)、二酸化酸素の濃度(EtCO2)です。ただ呼吸機能検査は、人工呼吸器を使っている方と認知症のある方は難しいです。気管切開している方も難しいので行っておりませんが、それ以外の方は全員行っています。それから血液検査で栄養状態の評価と筋肉量の類推(Cr、CPK)を行っています。
 ADL評価 ~ 食事に関係する指標

飲み込むために必要な機能、唾液分泌と嚥下という二つの項目をみます。
 他に食べ物を口に運ぶために必要な機能として摂食行動、要するに手を口までもってくる、お箸を使う、スプーンにするのか、フォークになるのか。お箸で食物を切れるのかとか、そういう評価です。ただし、トイレに行くのが億劫だから、お水を飲む量を減らしましょうという方がおられる。
 神経内科医には、ALS患者さんが胃瘻を造るときに、肺活量50%以上でないと胃瘻造設は行えないという、50%ジレンマというのがあります。ただ最近は50%でなくてもいいのではないかという話も出てきていますが、一回ラインを決めてしまったもので、なかなか変えられないということがあります。
 その他の評価として反復唾液嚥下テスト、30秒間に唾液を何回ごっくんできますか。これは簡便です。

それ以外に、冷たい水を飲んでいただいて、飲み込んで一呼吸したあとに頚部聴診で泡沫音が聞こえるか。要するに、ちゃんと水を飲み込めていますかということです。
 それから、咀嚼の評価。飲み込めるけど噛めない人もいます。こういう人は食事を刻み食にしてあげたら十分食べられます。逆に噛めない人、噛むための筋肉、咬筋が弱くなって、飲み込めるけど噛めない。この人に刻みを食べさせると危ない。丸飲みしてしまうのですね。――こういう評価をしながら食事形態を考えていきます。刻み食で十分な人と、ミキサー食とかペースト食の人は、観察だけで十分判断できるので、自宅でもできます。
 肺活量(ピーク・カフ・フロー)の測定は、ひと昔前までは大変なのですが、今は自宅でもできます。
 そして食べるための姿勢の保持ができるかどうかも評価ポイントです。少量なら嚥下できる人は、ギャッジアップで90度に座れるか、これが無理なら少し倒しぎみにするとか、そういうところを見ながら、食事形態を考えていくことになります。

 唾液の分泌
 口腔内に唾液が少し増えてきたころ(貯留するようになったころ)には、基本的に胃瘻造設の話を始めます。「ちょっと飲み込みにくくなってきたな」と一回でも感じている人が多いので、この時期まで来たら造設するかしないかを決めなければいけない時期です、というお話をします。
 当院に来る方は、上肢の筋力の弱い方が多いです。だからすでに介護者に食べさせてもらっている方が多いです。少し嚥下が悪くなってきたころが一番危なくて、誤嚥する可能が高いです。本人もあまりむせるという自覚がなくて、介助する人もむせないだろうと思って食べさせているので、そこで一回肺炎を起こすという方が結構いらっしゃいます。
 食事障害に対するアプローチ

これは栄養状態だけではなくて、呼吸状態をみながらやらなければいけない。神経内科医が診ていても判断が遅れることが多いです。「ALSの患者さんに必要な栄養はどの程度ですか」「体重が減ってるけど、この量は十分ですか」という質問がよくあります。
 病状の初期はカロリーを多めにとらないといけない。筋肉が痩せてきた時期には、カロリーは逆に絞っていかなければいけないと最近言われるようになっています。
 私たちがいつも説明するのは、経管栄養というのは空腹感に対する対症療法ということです。「熱が出たら熱冷ましを使うのと同じなので、やりませんか」というお話をします。胃瘻を造設しても生命予後は改善しない。だから「やらなくていいのではないの」という話をする先生もいますが、ぼくは「だからやったらいいんじゃないの」という話をします。
 胃瘻はできるだけ早いうちに造ったほうがいいです。造ったら食べられなくなると思っている方がいらっしゃるのですが、そうではなくて、造ってから好きなものだけ、形状の良いものだけを食べる。お水は一番飲みにくいです。だからお水とか薬は胃瘻から入れていったらどうでしょうか、というお話をします。

 食事障害に対するアプローチ

肺活量が8割を切った頃に胃瘻造設の説明を始めます。ここでは私たちと患者・家族間にギャップがあります。私は、そろそろ食べられてないのではないかなと思っても、患者さん・ご家族は食べられていると考えておられることがあります。また胃瘻造設は先送りしたいという心理が働きます。このギャップを埋めていかないといけないと考えています。
 胃瘻は肺活量50%以上で造設するのが望ましいと言われていますけれど、ほんとにそうなのかと考えることがあります。当院の患者さんに関しては、肺活量が3割を超えていれば安全に開けられるのではないかと思っています。3割を切ると、術後肺炎などの合併率が高くなりますので躊躇します。
 胃瘻造設を決定する時期は、具体的なお話をするように心がけています。体重が1か月に2kg以上減少した場合。他の医療機関では一ヶ月に1kg以上と設定しているところもありますので、この2kgという数字は全国的なコンセンサスが得られている数字ではありません。
 血液検査で栄養状態が悪い場合。誤嚥性肺炎を一度でも起こした場合には胃瘻を造設するかどうか決める時期ですと説明しています。嚥下障害以外にも、手が動きにくいとか脚が動きにくくて、食事量が減っていくことがあります。
 嚥下訓練というのは基本的に口の周りとか、嚥下筋、嚥下するための筋肉のリハビリではなくて、脳のリハビリです。脳血管障害の人には比較的有効なのですが、ALSの方には有効なのかどうかは疑問を正直持っています。
 あとは食事の形態や温度の工夫、食事する時の姿勢、食べさせ方など介護者の訓練が中心になります。道具の利用、スプリングバランサー(腕などを吊る機器)などの利用も考えます。そして経管栄養は胃瘻をお勧めします。中心静脈栄養の選択を勧める医療機関は最近少ないと思います。

 胃瘻造設を困難にする事情

胃瘻を造らない場合には理由があります。先ほど少し言いました胃の形の問題、それと胃がんなどで胃を手術されている方は難しいです。他に経管栄養を実施する人手の確保が難しい人の場合には胃瘻造設は躊躇します。家族以外の者はできないというのが厚生労働省の解釈なので、独居の方と介護施設に入っている方が問題になることが多いです。要するに経管栄養剤を注入する人手をどうやって確保するかというのが問題になるのです。
 それから、経管栄養は「食事」ということなので、厳密な意味でいうと栄養剤は保険診療外です。いままで目をつぶってもらっていたものが、昨年あたりから厳しくなることが予想されています。当院でも昨年11月、12月で診療報酬をバサッと落とされてかなりの被害を蒙りました。支払い基金などと交渉し、胃瘻関連の材料を制限して診療報酬を認めるという折り合いをつけた形になっています。

 食事障害に対するアプローチ
 胃瘻処置を行なわないと考えたときに、介護者は、何もしない、できないということがあります。リハビリは疑問がつきます。介護者は、食事形態や介助の仕方を工夫する。でも今は胃瘻を、基本的にお勧めします。
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