| 平成19年5月12日 総会講演 | |||
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| 安心感を届けます | |||
| ――ホームケアクリニックを開設して―― | |||
| 医療法人 拓海会 大阪北ホームケアクリニック | |||
| 神経内科医 藤 田 拓 司 先生 | |||
| 受け入れる側に | |||
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みなさん、はじめまして。大阪北ホームケアクリニックの藤田と申します。 私はこの仕事を始める前はALSの患者さんにご自宅へ送り出す側、つまり専門病院で神経内科医をやっておりました。実際に送り出している時に最も困ったことが、受け入れ側がいないということでした。そこで、自分が受け入れ側になろうと思いこのホームケアクリニックを立ち上げました。8年前の1999年に、大阪北ホームケアクリニックを大阪市淀川区に開設しました。 開設目的は「在宅で人工呼吸管理を受けているALS患者の診療を行う」というものでしたが、それだけで経営が成り立つほどにALS患者さんはいらっしゃいません。開設から1年はほとんどがん患者さんばかり診ておりました。神経内科医というのはがんに縁のない診療科なので、非常に苦労いたしました。その後徐々に神経内科の患者さんが増え、現在はALS患者さんを含めて70人ぐらいの神経難病の患者さんがいらっしゃるクリニックです。 |
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| 本日の内容 | |||
| 本日の内容は「自己紹介」「在宅療養に関する考え方」「在宅でどこまで見られるか」「患者さんの選択肢を支える」等々ですが、当クリニックでどのように診療を行っているかを通して、「在宅療養に関する考え方」「在宅医療の現実」をお話しさせていただきます。 | |||
| Ⅰ.在宅療養に対する考え方と現実 Ⅱ.在宅でどこまで診られるか(病状と介護体制) Ⅲ.患者さんの選択を支える(胃瘻と人工呼吸管理) Ⅳ.人工呼吸器をつけた人のライフケア 日常の呼吸器・胃瘻の管理など Ⅴ.長生きをするための提案 気管カニューレの選択、気道食道分離の提案など Ⅵ.人工呼吸器をつけない場合の緩和ケアの方法 |
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| ぼくは神経難病を一応専門にはしていますが、大学院は医療経済・医療経営を学び、そちらも専門にしています。在宅医療の分野では「神経難病の慢性期管理」「在宅人工呼吸器管理」「在宅経管栄養管理」を研究テーマとしています。 | |||
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「365日24時間往診できます」 |
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| クリニックは大阪市淀川区にあります。診療域は大阪市北部と豊中市と吹田市としているのですが、断りきれないこともあって、茨木市、枚方市、門真市、守口市にも患者さんがいらっしゃいます。現在クリニックの規模は医師が6人、常勤医が4人、非常勤が2人です。そのうち神経内科医は2人います。他のスタッフは看護師6人、保健師1人、事務3人です。特徴の一つは「365日24時間往診できます」とうたっていることです。 | |||
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ご自宅でカニューレ交換、胃瘻チューブの交換 |
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| 診療している患者さんの比率が大きいのはがん患者で、神経難病は約13%です。1年単位でみますと、がん患者さんは療養期間が短く、難病の方の療養期間が長いこともあり、現在診療している患者さんの2割弱となっております。医療依存度の高い方が多いことが特徴の一つでもあります。経管栄養を行っている患者さんは去年1年間で約70名、気管切開・人工呼吸管理の患者さんは16名、NPPV(気管切開しないマスク式人工呼吸器)は6名です。気管カニューレ交換は月間で約60回行っています。胃瘻チューブ交換は約30回です。気管カニューレや胃瘻チューブの交換は病院に行かなくても、ご自宅で交換しております。 | |||
| 担当するALS患者さん像 | |||
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ALS患者さんは、このクリニックが始まってから44名います。気切・人工呼吸管理の方は9名、NPPVの方は8名です。 現在は23名のALS患者の診療を担当しています。2名のTV(気管切開下の人工呼吸器)導入、7名のNPPV(気管切開しない鼻マスク式人工呼吸器)導入、2名のHOT(在宅酸素)導入を経験しました。 |
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| ALSの治療モデル | |||
| 日本ALS協会が出している『ALSケアブック』にも記載さている、このモデルを当院の基本的な治療モデルとしていています。当院で診ている患者さん全員にここまでは行うこととしています。ですから胃瘻を造るか造らないかは迷いません。基本的に胃瘻は造る。NPPVも基本的に導入する。これを一つの考え方としてやっています。 | |||
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ただ気管切開・人工呼吸管理はオプションです。「いやだ」という方もいらっしゃるので、ここは要相談ということにしています。他にコミュニケーションエイドはできるだけ早く導入する。吸引器、車椅子、筋力が落ちてきたときはスプリングバランサーなどの導入も積極的に行います。また介護者の確保にも早期から取り組んでいます。 ご家族だけではなくて、ヘルパーさんたちにできるだけ早期から関わってもらおうと思っております。経済的な問題もありますが、最終的に喀痰吸引を担当してもらう時に、吸引が必要になってから入る人と、それまでに入っている人とではモチベーション(意欲)がかなり違うので、できるだけ早期から関わってもらって、ご本人さんとヘルパーさんの間でコミュニケーションがとれるような環境をつくっておいてほしいと思っています。家族・ヘルパーさんへのアンビュー・バッグ使用の訓練もできるだけ早期から始めています。 |
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| インフォームドコンセントは本人の権利 | |||
| 次に、インフォームド・コンセントのお話をさせてください。インフォームド・コンセントはあくまでも本人の権利です。医療者とか家族の権利ではありません。ときどき家族で、ご本人に話をしてくれるなという方がいらっしゃいますが、私は基本的に了承しません。必ず本人に確認します。ただ本人にはインフォームド・コンセントを「聞きたくない」という権利もあります。「こわいことは聞きたくないから、話はしないでくれ」と本人に言われた場合には、基本的には柔らかい話しかしません。ですから「あなたは、このご病気の話を今後聞きたいですか」という質問から始まって、「聞きたい」と言われれば話します。「聞きたくない」と言われれば、だいぶ真綿にくるんだ形のお話をしていくことになります。 | |||
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我々の診療所は診断をつける医療機関ではないのです。患者さんは診断をつけたドクターや、それ以降に診療を受けたドクターから様々な話を聞いてきています。患者さん・ご家族がどこまでの話を聞かれてきたかという確認作業をさせて頂きます。胃瘻は造設していない、NPPVもしていない人の中で「私は胃瘻造設はしません、NPPV導入はしません」というお話をされる方もいらっしゃいますが、どこまでの情報を聞いてその選択をされているのかがわからないためです。 |
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| 真ん中のお話をします | |||
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最近、医師を含めた医療者は防衛医療に入っています。同じご病気でも最も良い予想と最も悪い予想があれば、医師の多くは「最も悪い予測」しか話しません。というのは、「最も良い予測」を話して、経過が悪ければ訴えられるのではないかと思うからです。そのために患者さんはこわい思いをするので、病院へ行くのはいやだなあと思って、病院へ行かない人まで出てきています。 |
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っとこわがりの方には、「心持ち良いほう」のお話をすることにしています。予想は外れることが多いので、これぐらいを目安にしてお話をしております。 |
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| インフォームドコンセントの役割分担 | |||
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最近よく見られるインフォームド・コンセントの実際はインフォームド・コンセントではなく、ドクターから患者さんへの「インフォームド」(説明)というより宣告に近いものです。「お話しました。あなたが理解しようが理解しまいが関係ない」というのが病院で実施されているインフォームド・コンセントの現状です。それは非常によくないと考えており、コンセント、つまりどのような要望を持たれ、どの程度理解され、納得されているのかを確認をします。 |
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病院の先生から紹介状をいただくときは、先生にインフォームド・コンセントの状況についての情報提供をお願いしています。○は話しました、✕は話していません、△は話はしたけど家族に話した内容と異なりますということを書いて頂きます。○が多いのですけど、患者さんに確認すると、「話はほとんど聞いてない」と話される方が多いです。 |
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| 神経難病(変性疾患)に必要な医療資源 | |||
| ALSだけではなく、神経変性疾患全般についてです。まず発症したらいずれかの医療機関に初診されます。専門病院(神経内科)に最初から行く人もいるし、診療所に行く人もいる。確定診断はほとんど専門病院で行われています。ALSは特にそういう傾向が強いです。 | |||
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体調が良いときは神経内科の外来に通い、デイケア、デイサービスを利用される。ADL(日常生活動作)が落ちて外出がしにくくなったら在宅医療になる。実は当院はこのあたりから診療に参加することになります。 |
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| 在宅医療を支える医師 | |||
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大阪はドクターがたくさんいます。当院の診療域は人口140万ぐらいですが、神経内科専門医はちょうど100人います。診断をつけるためには非常に良いところなんですね。青森県の先生とお話しすると、青森県では140万人の人口に、神経内科の専門医は18人しかいない。それで何とかやっているのに、なぜ大阪は何とかできないんですか、という話をされたことがあります。少し医師の分布が偏っているという気はします。大学病院や急性期病院に医師が多く、地域に在宅医療をやる医者がいない場合には、在宅医療を希望したとしても受けられないという患者さんも出てくる可能性があります。 |
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| 家族の休養のためのレスパイト施設をつくります | |||
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これは宣伝になります。皆さんも感じておられると思うのですが、レスパイトケア施設がありません。ないからレスパイトが出来なくても仕方がないとあきらめるのはいやなのです。だから自分で造ってしまおうと考え、外来、サロン的デイケア・デイサービスと病棟、これだけのものを今、大阪府豊中市に建設中です。来年の1月ぐらいにはできあがる予定です。難病の方のレスパイトケア入院を中心に行いたいと考えています。 |
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| 在宅で可能な医療処置 | |||
| 在宅でも、ALSに関してはほとんどの医療処置が医療保険で算定が可能になっています。酸素、人工呼吸器、気管切開、経管栄養が認められるようになっています。 | |||
| 在宅療養に必要なもの | |||
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基本的に在宅療養を継続するにはこれが要ります――介護力もしくは経済力ですね。現在の介護保険制度のみでは十分な介護力は提供できません。家族への負担が避けられないという現実があります。 |
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| 患者さんの選択を支える | |||
| 胃瘻造設に関しては、造設しないという選択肢はぼくの中にはありません。ただ解剖学的に胃瘻造設ができない方がいらっしゃいます。ぼくも経験があったのですが、横隔膜のドーム内に胃が入り込んでる、要するに胃下垂の逆です。上の方にあるのでアプローチできない、ということで断わられた方が1名いらっしゃいます。もう一人は胃の手術をされていて胃がない方、これは無理ということで返されたことがあります。もう一人は、太りすぎで胃瘻を開けることができない。この方は半年かけてやせていただいて、胃瘻を造設しています。 | |||
| ALS患者さんの評価のポイント | |||
| ALSの患者さんをぼくらはどういう点に注意して診ているか。QOLのSEIQoL―DW(QOLをはかる手法)はまだ導入できてないのですが、ADLの評価は、ALSFRS―Rの12項目を、4週ごとにスコアリングしています。あと肺活量などの呼吸機能検査、SpO2(サーチュレーション)、二酸化酸素の濃度(EtCO2)です。ただ呼吸機能検査は、人工呼吸器を使っている方と認知症のある方は難しいです。気管切開している方も難しいので行っておりませんが、それ以外の方は全員行っています。それから血液検査で栄養状態の評価と筋肉量の類推(Cr、CPK)を行っています。 | |||
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| ADL評価 ~ 食事に関係する指標 | |||
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飲み込むために必要な機能、唾液分泌と嚥下という二つの項目をみます。 |
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それ以外に、冷たい水を飲んでいただいて、飲み込んで一呼吸したあとに頚部聴診で泡沫音が聞こえるか。要するに、ちゃんと水を飲み込めていますかということです。 |
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| 唾液の分泌 | |||
| 口腔内に唾液が少し増えてきたころ(貯留するようになったころ)には、基本的に胃瘻造設の話を始めます。「ちょっと飲み込みにくくなってきたな」と一回でも感じている人が多いので、この時期まで来たら造設するかしないかを決めなければいけない時期です、というお話をします。 | |||
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| 当院に来る方は、上肢の筋力の弱い方が多いです。だからすでに介護者に食べさせてもらっている方が多いです。少し嚥下が悪くなってきたころが一番危なくて、誤嚥する可能が高いです。本人もあまりむせるという自覚がなくて、介助する人もむせないだろうと思って食べさせているので、そこで一回肺炎を起こすという方が結構いらっしゃいます。 | |||
| 食事障害に対するアプローチ | |||
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これは栄養状態だけではなくて、呼吸状態をみながらやらなければいけない。神経内科医が診ていても判断が遅れることが多いです。「ALSの患者さんに必要な栄養はどの程度ですか」「体重が減ってるけど、この量は十分ですか」という質問がよくあります。 |
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| 食事障害に対するアプローチ | |||
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肺活量が8割を切った頃に胃瘻造設の説明を始めます。ここでは私たちと患者・家族間にギャップがあります。私は、そろそろ食べられてないのではないかなと思っても、患者さん・ご家族は食べられていると考えておられることがあります。また胃瘻造設は先送りしたいという心理が働きます。このギャップを埋めていかないといけないと考えています。 |
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| 胃瘻造設を困難にする事情 | |||
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胃瘻を造らない場合には理由があります。先ほど少し言いました胃の形の問題、それと胃がんなどで胃を手術されている方は難しいです。他に経管栄養を実施する人手の確保が難しい人の場合には胃瘻造設は躊躇します。家族以外の者はできないというのが厚生労働省の解釈なので、独居の方と介護施設に入っている方が問題になることが多いです。要するに経管栄養剤を注入する人手をどうやって確保するかというのが問題になるのです。 |
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| 食事障害に対するアプローチ | |||
| 胃瘻処置を行なわないと考えたときに、介護者は、何もしない、できないということがあります。リハビリは疑問がつきます。介護者は、食事形態や介助の仕方を工夫する。でも今は胃瘻を、基本的にお勧めします。 | |||
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