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この中で二つ考えないといけないのは、痰が出しにくくなってきたことと、肺活量そのものが減ってきたことです。原因は呼吸筋麻痺、球麻痺です。先ほど言ったように咳ができなくなるから痰も増えます。それぞれの対処法は気管切開、補助呼吸です。それに吸引や酸素療法を併用します。
 私たちは肺活量50%でNPPVの説明を始める時期と考えています。肺活量が7割以下で導入するという施設も出てきていますので、これはあくまでも当院での基準です。肺活量3割以上の段階で導入することとしています。NPPVは延命効果はないと言われてきたのですが、最近は6カ月から1年ぐらいの延命効果が出ているという報告も出てきています。胃瘻と同じで、呼吸苦に対する対症療法に位置付けられると考えています。

 呼吸障害に対するアプローチ

呼吸障害に対して私たちは呼吸訓練を行っています。深呼吸の練習や肋骨のねじり運動など、自分でできる運動、人にやってもらう運動も可能な限り全て行います。その後にNPPVやTVなど人工呼吸療法の説明を行っております。
 ここで大切なのは、人工呼吸療法をやらなかった場合の治療法を説明することです。これはあとでまとめてお話いたします。

 NPPVの有効性

NPPVは有効な手段と考えています。呼吸不全における頭痛、倦怠感を改善してくれます。呼吸筋の疲弊の予防にも有効です。呼吸筋は24時間ずっと動いています。夜間8時間だけでもお休みしてもらうと、昼間の16時間は元気に動いてくれます。だから疲弊を防止する意味でも導入を勧めています。気管切開を予定している人でも、そこにたどりつくまでの間、低酸素状態であると、筋肉は弱ってしまうので、それを予防するという意味もあります。ただNPPVを使用できない方がいらっしゃいます。球麻痺が先行して唾液貯留や痰の多い方は導入が困難です。その場合は気管切開が先行することもあります。
 気管切開をしてNPPVを導入する方法は、大分の山本先生が気切バイレベルという方法をとられるようになってきましたし、当院でも一人この方法を取られています。
 これは肺活量が減っている方がNPPVを使って、その呼気を利用してお話をされるという場面です。(動画、割愛)

 ALSの人工呼吸器療法
 最近、ハイボリューム・ベンチレーションという方法があります。標準的な方法は自分の体重×10mLを一回換気量に設定します。最近は15mL もしくは20mLで設定する方法がとられます。何が良いかと言うと誤嚥性肺炎、肺炎の頻度が減ると言われています。人工呼吸管理導入直後、自発呼吸がある間はそのような方法はかなりしんどいみたいです。そのために人工呼吸管理導入直後はハイ・フリークエンシー・ベンチレーションといって、自発呼吸のある間は呼吸回数を増やします。呼吸回数を14回/分とか16回/分にして、一回換気量を下げて、自発呼吸が出なくなり人工呼吸器に依存するような設定にしておいて、慣れてからハイ・ボリューム・ベンチレーションに移行するという設定の変更を途中で行なうことが増えています。
 人工呼吸器選定のポイント

在宅で用いる人工呼吸器の性能はほとんど変わりません。日常生活に影響するものとして動作音がありますが、小型であればあるほど音は大きくなります。構造上、緩衝材を入れにくくなるためです。音を気にする人は形は多少大きくても音の小さいものを選んでいただくと良いです。
 日常的な機械操作は難しいほうが良いか、簡単なほうが良いか分かりません。あまり操作が簡単だと、家族が勝手に設定を変えてしまうことがあります。ですから操作が簡単であることが、一概に良いとは言いにくいのです。
 他に形状の問題があります。今日会場に来られている方はほとんど据え置き型か、ボックス型だと思います。車椅子に置けるような形のものを選んだほうが良いと考えており、私はどちらかというとボックス型をお勧めしています。重量に関してはそれほど気にしなくてよいと考えています。
 緊急時のバックアップも問題です。停電になったとき、どれぐらいの時間動いてくれるか。バッテリーは必須条件なので、最低でも数時間はバッテリーで駆動するものを選びましょう。

これらは当院で使用している人工呼吸器です。見ていただいたら大きさが全然違うことが分かると思います。TycoのAchievaは内部バッテリーは4時間。経年劣化するので、最低保障は半分ぐらいの2時間です。
 これはT―Birdです。この中で唯一閉鎖型の回路です。要するに機械から出た空気が機械に返るもので、空気の流れが非常にゆっくりとスムーズに出て入るものです。これは呼吸自体には非常に優しく、好きな方が多いです。ただ問題は内部バッテリーが25分しかもたない。そのため外部バッテリーが必須になります。外出するときに外部バッテリーを持って行くからこれにしてくれという方もいらっしゃるのですが、重たくなってしまうので、使うかどうか悩むところです。
 ニューポート、これが最も小さくて、内部バッテリーで10時間駆動します。
 少し古いPLV―100は動作音が最も静かです。回路交換も楽なので私は好きなのですが、内部バッテリーは1時間ぐらいしか持ちません。LTVも1時間ぐらいで同様です。だからこの二つは外部バッテリーをつける必要があります。
 ニューポートなどは内部バッテリーが10時間もちますから、長時間外出するときだけ外部バッテリーを持っていったほうが良いと考えています。

 気管切開の適応
 気管切開する理由は、ALSの方は人工呼吸器管理、誤嚥予防、痰の喀出です。その目的に応じてカフマシーンを使用したり、気道食道分離術を組み合わせています。
 気道と食道の分離
 気道と食道の分離術です。気管切開したら話せなくなると思われる方がいらっしゃいます。球麻痺がなければ工夫すれば話すことは出来ます。しかし気道と食道を分離してしまうと、確実に声を失います。口腔内と肺(気道)は完全に分離されているので、唾液の誤嚥はなくなります。ですから吸引回数も減ります。「話したいという気持ち」と「吸引が減るほうが良い」というのをハカリにかけて、どちらを選択するかということになります。ギリギリまで話したい方は、まず気管切開をして、そのあとで気道と食道の分離に進むという方もいらっしゃいます。ただそのためには気管切開の位置をどこにするかが問題になります。あとで分離術に進む可能性がある方については、気管切開の位置に注文をつけます。将来分離の手術をする可能性があるため気管切開口を低い位置に開けてくださいとお願いをしています。
 カフマシーン
 カフマシーンは、大阪では在宅でほとんど使われておりません。当院の患者さんで数人導入しているのみです。(独法)刀根山病院は積極的に導入しています。これは病院では呼吸リハの中で診療報酬が設定されており、その一環として使用できるからです。ただ在宅では診療報酬が設定されておらず、レンタルで月額約2万円のコストがかかります。本体が30kgあります。
 気管カニューレ
 気道・食道分離をしなくても、気管カニューレを適切に選択すると、唾液の誤嚥を減らすことが出来ます。気管カニューレも非常にたくさんの種類が出ています。私もたくさんの種類を使わせて頂きました。

(上の図)これは気管の形状の断面図です。

皆さん気管というと丸いイメージがあると思うのです。ところが、丸いのは半数ぐらいで、いろんな形の方がいらっしゃいます。カフが小さいとすき間がどうしてもできてしまいます。カフが大容量だと圧を上げなくて気管にピタッとくっつくような形になります。

上がポーテックスのブルーライントラキオストミーチューブです。
カフを実際にふくらませてみると、球形に近いですね。

下のマリンクロットのトラキオソフトシリーズは、円筒形に近いです。気管に接する面が長い。だから低い圧で比較的ピタッとくっつくので、唾液がたまっても、肺へ落ちにくくなります。ただし唾液がたまると、どうしても気管切開口から漏れてしまいます。気管切開口周辺の皮膚が唾液でただれることがあります。それまではそれだけの唾液が肺へ脱落していたのです。当院ではほとんどの方がこれを使っており、ほとんどの方は夜間の吸引の必要がなくなっています。
  カフ圧は一定 
 カニューレを使っている方は、カフ圧のチェックが必要です。トラキオソフト・エバック・ランツ付きのカニューレは見た目でカフチェックができます。(下図)@はしぼんでいますが、中のカフの圧は一定です。これはいちいちエアを抜いて入れないのです。空気を足し続けるだけなので、比較的楽に管理ができます。
 緩和ケアの方法

緩和ケアは何をするかというと、対症療法をきっちりやることが基本です。どうしても呼吸苦があり、しんどさがとれない方は酸素を投与します。酸素の単独使用の人もいますし、薬物との併用の人もいます。それでも難しい人は鎮静剤を使う。本来は麻薬(オピオイド)を使いたいのですが、日本ではがん以外の方に対するオピオイドは保険で認められておらず、ある特定の施設でしか使用されていません。患者さん側から、使用できる様にご支援いただいたら助かるという思いがあります。

以上で終わります。ご清聴ありがとうございました。(拍手)
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