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介護保険制度がスタート

 いままで魚を買いだしに行ってくれていた父が癌で倒れ、それから妻が朝4時半に市場へ魚を買いだしに行くようになりました。朝4時半から私が一人になるので、母に泊り込みで介護をしてもらいました。その母も高齢で洗濯物を干すのが辛いと言いだしたので、介護事業所に吸引できる家政婦さんを探してもらい、週に二日間の長時間介護をお願いし、社協からは、ホームヘルパーに週に二日間(2時間)来てもらい、部屋の掃除をしてもらうようになりました。

 平成12年4月から「介護保険制度」が実施され、私の介護をしていた家政婦さんが、ヘルパー2級の資格を取得して、引き続き介護をしてもらいました。介護保険限度額を全部使って、昼間の介護プランを組ましたが、どうしても足りない分は自己負担し、私とホームヘルパーの1対1の介護生活が始まりました。

 吸引してくれるホームヘルパーがいれば、私は在宅で生き延びられると思い、訪問介護事業所に吸引をしてくれる人を数人紹介して下さい、と無理にお願いしましたが、吸引をするホームヘルパーがいなくて困りました。そのころはホームヘルパーの吸引行為は法的に認められないことは知っていましたが、たとえ法律違反してでも吸引をしてもらわなければ生きていけません。自分が安心して生きていくのに法律など言っていられません。せっかく呼吸器をつけて生きていこうとしているのに、ここまできて死ぬわけにはいかないと必死でした。

ALS患者との交流

 子どもを二人、大学に行かせたときは、妻が市場へ行っている間は一人でした。このとき何度も痰が詰って苦しみ、これでは、いつか死んでしまうと思いました。当時、携帯電話がはやり出したころで、妻に携帯電話を持ってもらい、痰が出そうになればメールで呼ぶようにすると、少し安心できるようになり、買い物に行ったり、その他の用事に行ったりするときも、一人で留守番をしていました。いま思うと、危険なことをようしたなぁと、ぞっとします。

 平成15年に支援費制度が始まり、このときから決まったALS患者の交流会とALS協会の役員会に出席できるようになりました。それまでは、ほとんど外出はできないと思っていたので、年に1回、日本ALS協会近畿ブロックの総会へ行くのが楽しみでした。

 平成15年7月17日に家族以外の者が吸引行為をしても良いと厚生労働省で認められましたが、吸引行為を積極的に取り組んでいただける介護事業所が少なく、いまでも吸引を必要とする多数の方が困っています。

意思伝達装置とコミュニケーション

 コミュニケーションの取り方はいろいろな方法があります。

 大きく分けて、パソコン・透明文字盤・口で「あ・か・さ・た・な…」と家族や介護者が言って、ALS患者がまばたきする合図で家族が一文字ずつひらい言葉にする方法があります。パソコンを打つ人(ALS患者)に口でコミュニケーションを取るときは、一文字1秒間隔で言っていくとうまくいきます。外出用に開発された「レッツチャット」は手軽で、誰にでも使いやすく、故障がないのが長所です。

私は、まばたきと、手と手を触れ合うだけで、その人の気持ちが通じます。これも立派なコミュニケーションと思っています。「まばたき」ひとつにいろいろな意味があります。挨拶から返事まで会話に使え便利です。

 私が最初に使ったパソコンはALS協会近畿ブロックの貸出しMSXパソコンで、スイッチは光センサーをセットしてもらい使いましたが、一文字、一文字打つのが面倒であまり使いませんでした。まだ、カスレ声で話せるからパソコンを使う気になりませんでした。

コミュニケーションは命の次に大切

 意思伝達装置を申請してから給付されるまで何か月もかかると聞いたので、すぐ申請の手続きをしに福祉課へ行くと、そのころは意思伝達装置を申請する方が少なく、市の職員にもあまり知られていなくて、対応できる職員が少なかったです。

 最初に申請したのはMacで、今年で3台目を使っています。私は口癖のようにコミュニケーションは、命の次に大事と言っています。私にとって意思伝達装置(Mac)は生きていく支えになったし、また多くの友達ができ、孤独から抜け出すことができました。

 食べられなくなれば経管栄養で補えますが、コミュニケーションが取れなくなると、それを補うことができません。私はコミュニケーションが取れなくなるのが一番怖いのです。自分の意思が伝えたくても、伝えられないと、すごくストレスがたまると思います。

 皆さんに覚えておいて欲しいのは、同じ透明文字盤を使っても、その人それぞれにコミュニケーションの取り方がみんな違うことです。パソコンで一文字「あ」を打つのに4回スイッチを押して書きます。400文字の原稿を書くのに1,700回くらい押して書きますので、根気と時間との闘いです。ALS患者がコミュニケーションを取るのは大変な作業とわかって欲しいです。

看護師と介護者に吸引の指導

 私の看護と介護に来ていただくスタッフには、私の吸引方法を教えて、してもらいます。みんな同じ吸引の仕方になるまで根気よく教え、マスターしてもらいます。吸引を覚えるまでスタッフがつぎつぎ変わるのがいちばん困ります。といっても、なかなか融通をつけてくれないのが現状です。吸引に慣れてもらうのに時間がかかるのが、私の悩みです。

 私の場合は1日に40〜50回吸引をするので、吸引の上手、下手で体に与える疲労が違ってきますし、その日の気分やバイタルも違います。

 吸引をするのに技術はもちろん必要ですが、それに加えて、その方にあった吸引方法を熟知することが大変必要です。それさえきちんと習得すれば、だれにでもその方にやさしい吸引ができます。患者は疲れない、やさしい吸引を望みます。

 在宅と病院とでは吸引圧が違うし、吸引方法も違うように思います。私の吸引機は低圧ですから、口の粘膜にカテーテルがくっついても出血することはありません。痰が粘っこいときには少し時間がかかります。

患者ごとに吸引方法が微妙に違う

 皆さんに伝えておきたいのは、呼吸器装着の患者ごとに吸引方法が微妙に違うことや、痰が溜まる場所も違うことです。呼吸器の1回換気量が少ない人は気管の奥の方に溜まる。1回換気量が多い人は痰が気管の上にあがってきます。

 気管を吸引するときに刺激が強い人、刺激がない人があります。刺激が強い人を吸引するときは、吸引中にガタガタ体が震えていても、早く痰を取り切ればすぐ震えが止まります。人それぞれに条件が違うので基本的な技術でカバーできないところがあり、経験を重ね、一人一人の特徴をつかむことがとても大切です。

 吸引は1回で取り切るように、早く痰を見つけて吸い取るように心がけてください。取り残しは患者が苦しむので、少し時間がかかっても1回で取り切る方が楽です。そしてもう一つは、患者さんの吸引をしている間は、看護師さんも呼吸を止めて行ってください。患者さんが吸引されている苦しさを少しでも感じ取れると思います。カテーテルを口に入れて体験してみてください。私の場合、吸引に自信を持っている看護師の方に、自分の吸引方法を教えるのがとても難しいです。

私と家族が責任を持ってホームヘルパーと看護師に教えること

* 最初に覚えてもらうこと*

1.吸引の仕方と合図。

2.パソコンのスイッチをセット。

3.枕の位置と頭の向き(ベッドの角度)。

4.吸引セットの交換と「ピンセット・吸引ビン」煮沸消毒。

5.アンビューバックの押し方(一番大事)。

6.呼吸器の回路の水抜きと加湿器の管理。

7.家庭用の吸引器と外出用の吸引器の取り扱い。

8.食事の用意と胃ろうからの注入。

9.カフ圧のチェックの仕方。

10.ヘルパーが一人で体を横向けて行う排便の処理。

 医療行為ばかりだと叱られると思いますが、上記のことを教えるのは、私が安心して在宅療養するために必要なことです。ホームヘルパーも看護師も安心して介護と看護ができると喜んで習ってくれます。

アンビューバッグの押し方

 アンビューを押す練習をするときは、主治医に許可を得て、指導を受けて練習するように心がけてください。

 アンビューは、呼吸器の1回換気量を目安に押すのですが、押し込む強さに気をつけないと危険です。一気に押し込むと肺に穴が空きますし、ゆっくり押し込めば患者が空気を吸っている感じがなく苦しみます。

 呼吸器の気道内圧の上がり方を頭で覚えておいて押せばいいのですが、緊急の場合はすぐ対応しないといけないので、そんなこと言っていられません。女性は握力がそんなに強くないので、普通に物を握る感じで押せばいいと思います。普通の肺は無茶に押さない限り穴が空いたりしません。

 私の教え方は、まずアンビューだけで、私が見えるところで空押しをして練習してもらいます。押す間隔と押し込む量を目分量で教えます。それからアンビューをつないで練習をするのですが、「押す強さ、押す間隔、押し込む量」をまばたきとパソコンで指示します。マスターできるまで訪問の日に毎回してもらいます。この内容は長時間介護のホームヘルパーに教えます。

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