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黙って看護・介護しないでください

 ALS患者は運動神経が侵される分、他の神経が敏感に反応します。頭はいたって健康で、自分の意見はハッキリ言います。ですから看護・介護をするときは患者とコミュニケーションを取ることです。しゃべれないから話をしても仕方がないと思わないでください。黙って看護・介護をすると患者に拒否されます。ALS患者のコミュニケーションが取れない方も、何をされているか全部わかっているので、看護・介護をするときに話しかけながらケアをすることです。

 私が一番いやな言葉は、看護師・介護者にコミュニケーションを取ろうと合図しているのに、「わからない」と言われることです。この一言です。ALS患者はコミュニケーションに命をかけているのです。それだけ重要なことだと理解して欲しいのです。

 例えば、看護師と介護者に私が用事を一生懸命伝えようとしているとき、50音も使わないで「わからない」と言われたら、ガクッと気が抜けてしまい、この人に何を言ってもあかんわとあきらめてしまいます。

 ALS患者には、初めは看護と介護が下手でも、一生懸命コミュニケーションを取りながらケアする看護師と介護者は好まれます。患者に一生懸命に看護・介護する気持が伝われば患者は満足すると思います(私はそのような方を選びます)。

呼吸器装着の患者を看護・介護するときに気をつけて欲しいこと

1.呼吸器の「換気量・呼吸回数・気道内圧・家庭用の電源ランプ」を看護・介護に入ったときと帰るときに確認して欲しい(正常ときと変化があれば、必ず主治医か家族に連絡してください)。なぜ、うるさく言うのかは、看護者と介護者が帰った後に、トラブルが起こることがあるからです。

2.回路のウォタートラップの水抜きをした後にカップを正確に取り付けたつもりでも、漏れて気道内圧下限アラームがピーッと鳴るときがあります。アラームが鳴れば、看護師と介護者がどう対応していいかわからず、パニック状態になり、アンビューを押すことも気づかないときもあります。

 呼吸器のアラームが鳴れば、すぐアンビューを押す訓練をしておく必要があります。患者に不安を与えると、看護師と介護者を信頼しなくなります。そんなことが起こらないように、回路の水抜きをした後は気道内圧が正常か確認しましょう。気道内圧が上がらないときは水抜きのカップを取り付け直し、気道内圧が正常か確認してください。

 加湿器の水の補充後や回路をつなぎ替えた後も、気道内圧の確認をしておくと安心です。みんな仕事に慣れると油断し、確認を忘れ、トラブルが起こりやすくなります。冷静なときはアンビューを押すことがわかっていても、緊急のときに対応できないこともあります。確認は10秒で出来るから忘れないようにして欲しい。

患者の顔を見ればわかります

3.パソコンのスイッチを外したときに、コミュニケーションの取り方は「まばたき・透明文字盤・顔の表情・口で50音」といろいろな方法があります。患者とコミュニケーションを取るのは短時間のケアに入っている方には難しいですが、家族に教えてもらいながら覚えて欲しい。

 患者自身が何か伝えたいことがあるときは、顔を見ればわかります。最初に患者と「はい、いいえ」の合図を決めておくことです。患者は話しかけてほしいのです。

4.アンビューバッグの押し方は、主治医の指導を受けて、ときどき練習が必要です。その後は、家族と患者の協力を得て練習させてもらえばいいと思います。患者の呼吸器の1回換気量をめやすに押して、合図ができる患者には空気が多いか、少ないかを聞くといいと思います。押す回数も患者に合図をしてもらうと習いやすいでしょう。押し込む強さも大事だから聞くことです。アンビューバッグを押している間は患者の顔から目を放さないようにしてください。

5.吸引行為は上記にも書きましたが、ホームヘルパーは主治医と看護師の指導を受けてします。患者ごとに微妙に吸引方法が違うし、痰が溜まる場所も違うから、担当の患者と早くよい関係を築くことです。

 患者によって気管の刺激が強い方と刺激が感じない方もいます。刺激が強い患者の吸引を始めると痙攣するから、慣れていない看護師と介護者はこわがって吸引を止め、カニューレにホースを付けるので痙攣が止まりません。痙攣がしても早く痰を取りきれば、すぐ痙攣が止まるから、こわがらずに吸引して欲しい。そして患者さんに優しい吸引方法を目指して頑張って欲しい。

6.ALS患者は人間関係が難しくていやだという看護師と介護者の話をよく聞きますが、ALS患者はちっとも難しくありません。ALS患者は看護と介護に「こだわり」を持っているから、勝手に看護・介護をされるのを一番嫌います。

 コミュニケーションを一つ一つ取りながら看護・介護をすれば患者は安心します。コミュニケーションがうまく取れれば、他の患者と変わりはありません。ALS患者とのつきあい方がわかれば、やりがいを感じ、楽しく看護・介護ができると思います。

7.ALS患者のほとんどの方は体位変換をしますが、私は体位変換をしません。体位変換をするとパソコンが打てなくなります。最近のエアーマットは機能が良くなっているので、背中が痛くならないで快適に寝ていられます。またALS患者は褥瘡(じょくそう)ができにくいと言われます。

 ベッドに寝ているときに気をつけることは、「シーツのシワ、手の位置、足の位置、ひじの位置、枕と頭の位置」を正確にしておかないと、苦痛で寝ていられません。正確な位置を決めるのに「ミリ単位」で、ALS患者仲間は言います。

 オーバーに言っていると誤解されることもありますが、オーバーではありません。本当です。ALS患者は筋肉がないので、痛みは健常者の3倍感じるのです。ALS患者を看護・介護すれば本当のことがわかります。

 ケアをするとき、腕とひじは気をつけてくれるのですが、指の先まで気づいてくれないことがあります。指の先が目で見てわからないほど曲がっていても痛いので、ケアの最後に指の先が伸びているか確認して欲しいし、気を配ってほしい。

ALS患者について

 呼吸器を装着したALS患者は、一度は死ぬ目にあい、どんぞこからはい上ってきた人だから、がまん強いです。呼吸器をつけてない人も、このまま行けば「あと数年の命」と、つらい告知を受け、死ぬか生きるかの選択肢をかかえ、辛抱強く生きています。

 看護師と介護者に口うるさく言うのは、少しでも長く生きたい気持が強いし、体調を崩して入院をしたくないためだと、ご理解していただきたいのです。患者は看護師と介護者に無理ばかり言っているのではありません。看護・介護される患者には、譲れることと、譲れないことがあります。患者の意思を無視して行う看護・介護は本当の看護・介護と言えるのでしょうか。患者の意思を無視して行えば、必ずトラブルになります。

 ALS患者の呼吸器装着者は、一度「三途川」を渡って、死の恐怖を体験しています。それだけに生きることの大切さを知っていますし、一日、一日を大切に過ごしています。健常者より命を大切に考え、少しでも長生きできるよう頑張って生きているのです。

 ALS患者はみんな優しい方ばかりです。

 今日、ご出席していただいた学生さんには、私を見て本当のALS患者を知っていただきたいと思います。

 最後に、学生の皆さんは病院勤務につかれると思います。病院は看護師不足で忙しく大変と聞いています。病院ではALS患者がいてもコミュニケーションを取っている時間がありません。もしALS患者の担当に当たったときには、時間のゆるす限りコミュニケーションを取っていただきたいと思います。

 病院と訪問看護とでは患者の接し方や仕事も違うと思います。

 学生の皆さんには患者に好かれるような看護師を目指して頑張ってください。

 ありがとうございました。

                                   
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