| 厚生労働科学研究費補助金 (特定疾患対策研究事業) 分担研究報告書 |
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医療行為の増加で在宅ケア体制が脆弱化した事例の検討 ―ケアプラン再構築に必要とした支援と今後の課題― |
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分担研究者(研究協力者) 豊浦保子 日本ALS協会近畿ブロック (有)エンパワーケアプラン研究所 |
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| 研究要旨 「痰の吸引」や「経管栄養の注入」などの医療行為が必要となったことから、在宅ケア体制が脆弱化したALS患者の事例を検証し、保健、医療、看護、福祉(介護)の問題点を明らかにした。医療、看護は、栄養状態を把握し改善する治療計画、患者が納得のうえで受診して治療法を決定するための援助が必要だった。医師の安易な「ターミナル」や「看取り」発言が在宅サービス提供者を混乱させた。訪問看護が提出した「吸引・注入しない」趣旨の『合意書』の内容は、法的、倫理的にも問題がある。在宅療養体制の脆弱化は、ケアマネ交替、訪問介護を複数化、県外から経管栄養の世話をするために訪問看護を導入することで再構築に向かった。今後の課題は、家族介護は最低限にとどめ、患者の住居に近い訪問介護・看護、居宅介護(障害)事業所を探し育てる。経管栄養の世話など看護ができないケアは介護を指導してできるよう見直す。患者自身も、ケア担当者と常に話し合い相互理解に努める。保健師は患者家族支援の立場で、医療依存度の高い重症難病患者が希望に沿って在宅で療養できるための療養環境支援に取り組みたい。 | |||
| 共同研究者 水町真知子1)2) 杉本孝子1) 濱端敏恵1) 濱端孝之1) 小林智子1)2) 1) 日本ALS協会近畿ブロック 2) (有)エンパワーケアプラン研究所 |
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A.研究目的 在宅ケア体制が脆弱化したALS患者の事例を検証することにより、保健、医療、看護、福祉(介護)の問題点を明らかにし、在宅療養のQOL向上に資する地域難病ケア体制構築につなぐ。 |
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B.研究方法 ・平成19年5月上旬〜12月上旬、本人、家族の聞き取り、メール交換等。 ・保健所との協議、保健所作成・在宅療養支援会議議事録検討 ・報告は本人と家族の同意を得て行う。 |
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C.研究結果 1)事例紹介 闘病13年四肢麻痺・長期療養型 N県○町に居住するALS患者(女性59歳・要介護5、身障1級、障害福祉サービス130時間)は、会社員の夫と2人暮らし。在宅サービスを受けながら昼間独居で、ALS発症から13年間の闘病生活を送る。食事は普通食を全介助で経口摂取、排泄は車いすに乗ってトイレに行く平均10回/日、入浴:週5〜6日(湯船にも入る)、地元の訪問介護1カ所(毎日)、訪問看護1カ所(3回/週) を受け、日中車いすで過ごし、疲れたらベッドで休む生活をしていた。「胃ろうは絶対しない」「入院はいや、寝たきりになる」と考えていた。 5月中旬より、痰の吸引が必要になる。ヘルパーは吸引に対応した。訪問看護(7年前より利用3回/週)が入院までの10日間1回/1日訪問し入浴、吸引等に対応したが、5/26訪問看護は救急車を手配し入院させる。突然の入院に本人は驚く。点滴処置により、2、3日で本人は元気になった。家政婦が付き添い、家族も毎日訪問。点滴と、ゼリーを経口摂取。本人「早く退院したい」と意思表示。 3)5/29 第1回「在宅療養支援会議録」より 訪問介護・ケアマネ事業所内で開催(在宅医、訪問介護、訪問看護と夫が参加) 入院までの経過報告:食事摂取時もゴロゴロ感あり、ヘルパー介助に不安が高まっていた ・毎日訪問看護入り、随時往診依頼、経過観察、喀痰量の増加・経口栄養摂取困難状態持続、本人には入院打診、拒否が続いていた。 家族(夫)から:「寝たきりは避けたい。生活の質は維持したい。(入院中)ケアのことで不満高い(おむつの強要など)。本人は早く退院したいと言っている。現段階で、本人は胃ろう、経鼻摂取ともに拒否。栄養摂取について他の方法がないか、以前に戻れないのか、悩んでいる。できるだけ、いままでどおりサービス導入できるよう協力してほしい。自分は働く意欲があって(中略)、辞める必要はない。働く権利がある。家政婦が必要というのなら、依頼する用意はある。」 サービス提供側から:「今後、医療処置(吸引のこと?)が継続した場合、入院前のサービス体制は維持できない。近い将来家族がどこまでケアできるか、何をサービスとして依頼するのか整理・提示してもらう必要がある。 以前と同様の安定した状態で退院できても、@サービス予定時間内でできる、A本来の介護保険適応内でのサービス提供で対応していけるよう家族も協力してほしい(家族の食事作り、メニューや品数指定、洗濯等は避けてほしい) 退院に当たっての問題点、@嚥下困難の改善…唾液のたれ込み改善できるのか?A誤嚥回避の方法……ヘルパーで対応できるか?責任問題は?(中略)日中単身状態を継続するとき、サービス提供者が1人体制での密室サービスは危険。 ケア会議において、ヘルパーらは「こわいから訪問できない」と言い始め、県の担当保健師は「吸引しなくてよい」と発言する。 病院内のケア会議は2回開催。病院主治医、県の担当保健師、ケアマネジャー(CM)、訪問看護管理者、介護事業所、夫が参加。主治医は「何もすることがない、いつ退院しても良い」「いまはターミナル状態、いつ何が起こるかわからない」。保健師は「退院後は常時家族または家政婦をつけるように」指示、これまでの在宅療養を「サービスを使いすぎている」と発言。CM、訪問看護も同調した。会議へ本人の参加は求められず、説明もされず、本人は落胆する。 患者会へ「早く退院したい、どうすればよいか」と夫が電話相談。鼻腔栄養を医師に提案して落ち着けば退院可能なはずと説明。鼻腔栄養を実施。「2週間は家族が付く」を条件に主治医が了解し6/20退院。在宅2週間後、家族が復職して昼間独居となる。引き続き往診を依頼したM医師は「家族不在時はヘルパー2人体制」を条件に往診を継続。訪問看護は、「本来、利用者は医療施設への入院が必要である」「退院時決定した事項として24時間家族介護の許に、在宅サービスを提供する」「在宅療養生活における経管栄養法・吸引処置は基本的に家族が行う」等と記載した『合意書』に署名を求める。訪問介護も「入院が必要である」「医療行為は行わない」との『合意書』に署名を求めた。その後看護は「承諾しないだろうから」と一方的に訪問停止。介護は二人体制に変更。介護サービスの不足は家族と友人で埋める。その後、M医師は鼻管交換をしないため、M医師の了承を得て7/19からH医師に在宅主治医を依頼。H医師は家族の話を長時間聞き往診を承諾、依頼に応じ「ヘルパーは1人介護で可」と訪問看護指示書に記載。介護の二人体制を1人訪問に戻した。県の担当保健師の訪問を拒否、CMの交代を同一事業所内に依頼。地元で経管栄養に対応する訪看STはなく、7/21〜患者会関係の訪看STが県外から訪問開始(距離往復70q、高速料2800円)。地元事業所は看護も介護も注入を行わず、CMも保健師も、患者の「自宅で生活したい」希望には対応しなかった。本人の希望から、8/1よりCMを県外事業所に変更。「注入不可、入浴介助可能」と返事した地元訪問看護STに7月下旬より週2回の訪問依頼。計2か所の訪問看護となる。訪問介護は従来の社協に加え、新規3か所を加え、計4事業所となった。 退院後、体調安定し吸引は不要となった。社協ヘルパーは鼻腔栄養の注入はしないので、注入は県外の訪問看護と、家族、友人が行った。さらに体調安定し、経口食が増えた。粥やミキサー食を、 1〜2食/日。経管栄養1回〜2回/日。 新規に受診した病院神経内科で、丁寧な説明を受け、胃が複雑な位置にあることを納得。開腹による胃ろう造設を決意し手術を受ける予定であったが、11月上旬、1年前に罹病したネフローゼが再発した。胃ろう造設中止。多量のステロイド療法が必要で入院を勧められるが、本人の希望により、通院と往診医の治療を受け、在宅療養を継続している。 ALS介護の特徴であるが、トイレ介助、入浴、食事のつど、起床・移動・移乗を繰り返している。その介助の手数が多いほど、本人は体調維持ができる。体重は約42sであるが、四肢麻痺のため重介護感があり、訪問員の理解と協力が必要である。1月上旬現在、4事業所のヘルパーによる介護を受けている。 |
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D.考 察 @在宅における医療の介入、アセスメントがなかった。水分の摂取量、経口での食事量など、患者の生活、身体状況を把握しなかった。栄養状態を改善する治療計画が必要だった。A病院主治医が、医療的根拠も示さず「ターミナルの状態」とケア会議で述べたことが、在宅サービス混乱のきっかけになったと思える。B入院に際して患者へのICがなかった。患者を救急搬送するのではなく、患者が納得のうえで受診して治療法を決定できような援助が必要だった。C定年後再就職した仕事をやめて介護をせよ、医療行為は家族がせよという押し付けがあった。訪問看護は子息に吸引を指導したが、同時に、CM、保健師と連携して介護員が吸引するよう働きかける必要があった。昨年同県で市保健所中心に全県挙げて「吸引研修会」を実施したが、効果は市域にとどまり、県全域には及ばなかった。Dケア・チームは、「入院療養が必要な患者」が「会議の結論を無視して退院した」と受け止めた。退院前に開かれた療養支援会議は、本人の希望を優先して検討する場であるべきではなかったか。E合意書の内容は、法的、倫理的にも問題がある。F看護が経管栄養の注入をしないのは、訪問時間を超過するから。看護ができない経管栄養の世話は、介護を指導して引き継いでいくという在宅医療行為の見直しが必要。教育、研修に費やす時間と経費も認める必要がある。G利用者が訪問員に家族の食事をつくらせた等を、入院時の支援会議で問題にしているが、それ以前の在宅療養中に、できないサービスはできないと明らかにすべきだった。本人もサービスの内容、制度を学び理解しなければならない。HALS患者の介護は、人工呼吸器装着すれば寝たきりになることが多く、移乗など身体的ケアは減る。反対に、呼吸器を装着していないALS患者は、入浴、排せつ、食事を、車椅子を中心に移乗、移動して介護されることを強く希望する。重介護となり、ヘルパー、看護師らとトラブルが多い。ケア担当者と常に話し合い相互理解に努め、利用者本人も、ケアの合理化、省力化にも工夫をして、ケアメンバーに伝える必要がある。IALS患者は発語障害が重度になれば、コミュニケーションに時間がかかる。専門職は、本人抜きに、家族や周囲の支援者と相談して決めるほうが簡単だが、本人と話し合わなければ信頼関係は築けない。 今後の課題として、家族介護(夫)は最低限にとどめる(お互いストレス)。移乗介護は重介護であり、高齢の配偶者には負担が重く、無視、虐待をまねく。サービス事業所は県外からの訪問ではなく、患者の住居に近い訪問介護・看護、居宅介護(障害)事業所を探し育てる。重介護のため1事業所への集中を減らす。介護・看護の人材不足には抜本的な国の支援策が必要。介護の役割を増やせば、医療費は削減できる。保健師には患者の希望が、医療・看護・介護・福祉の連携に反映できるよう、幅広い見地で支援する役割を期待したい。 本人から保健所係長宛て「在宅療養支援会議」への意見――「何故あれほどもめたのか考えました。話しを進め、まとめる人がいなかったことです。皆、出来ないことばかり挙げて、後ろ向きで終わり、何も決まらずです。先生はこれ以上何も治療することはないといわれ、私は在宅退院を希望しました。医師と患者の想いが一致しているのに、何故うまくいかなかったのでしょう?なぜですか?保健師の立場は中立であるべきでは?」 E.結論 在宅ケア体制が脆弱化したALS患者の事例を、本人、家族の聞き取り、メール交換、保健所作成の在宅療養支援会議録等を検証した。結果、医療、看護の、アセスメント(水分の摂取量、経口での食事量など)が不十分だったこと、また医師の安易な「ターミナル」や「看取り」発言が、「入院療養が必要な患者」と在宅サービスを混乱させたことがわかった。退院後、訪問看護より合意を求められた吸引や注入をしないという『合意書』の内容は、法的、倫理的にも問題があるものだった。 N県では、昨年、患者家族・行政・看護協会が協働で「家族以外のものが行う痰の吸引に関する研修会」を実施し、医療依存度の高い重症難病患者が安心して療養するための療養環境整備に取り組んだが、残念ながら、その効果は全県に広まらなかった。 今回明らかになった保健、医療、看護、福祉(介護)の問題点から、サービス提供者側の立場(都合)で進めた患者不在の支援会議のあり方を変えていく必要がある。保健所保健師には、「家族が仕事をやめて介護をせよ、医療行為は家族がせよ」ではなく、家族介護を最低限にとどめて、患者・家族の希望が反映できるような地域難病ケア体制、希望する患者には、自宅で終末期を迎えられる療養環境整備をつくりあげる先導役となってほしい。 |
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引用、参考文献 @日本ALS協会近畿ブロック会報52号 p.7〜9、 平成18年4月A日本ALS協会近畿ブロック会報53号 p.65〜86、 平成18年10月 |
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