| 東海大学大学院平成21年度修士論文から |
| ALS(筋萎縮性側索硬化症)療養者ができることを |
| 見いだすきっかけと促進要因 |
| 佐々木公一さん(東京都) |
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佐々木公一さんのご紹介 1996年49歳で発症。4歳のまだ幼い息子がいました。 1997年、98年に、松本茂ALS協会初代会長を夫婦で訪問。松本さんの療養の日常を学ばせてもらう。続けて橋本みさお前会長(現・副会長)を訪問。呼吸器をつけての元気な日常に圧倒される。「私たちにもやれる。仕事も介護も両立できる」と元気をもらう。 実際に気管切開の時期になると、躊躇、混迷に陥り、「あきれるほど弱く涙にくれる自分がいた」。厳しい試練を越えて2000年3月から在宅人工呼吸器療養を開始しました。 2007年より、「介護される側からの介護研究」をめざし東海大学大学院健康科学研究科に入学しました。ちょうど佐々木さん還暦の年でした。東京都支部運営委員、NPO法人わの会理事長などを務め、広範に活動されています。 2008年8月から、日本ALS協会の承諾を得て、各支部を通して紹介を受けた同病患者84人にインターネット・メールによるアンケートを実施、70人から回答を得ました(回収率83.3%)。アンケートの分析を修士論文としてまとめられ、また発表用の抄録としてもまとめられましたので、佐々木さんのご承諾を得てご紹介します。 |
| (抄 録) |
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筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis:ALS)は、運動神経だけが侵される病気で、3〜4年で呼吸運動系の障害によって死に至る悲惨な病気とされてきた。しかし、近年の医療・保健の進歩、福祉制度の拡充、障害者支援におけるIT(Information Technology)の活用、さらに、ALSとの共存をかかげる「新たなALS観」などの動向の中で、「ALS療養者ができること」は拡大している。 本研究の目的は、ALS療養者の視点から、ALS療養者が残存する機能を生かして、どのようなことができているのか、またできたきっかけ・促進要因を明らかにすることである。 以上の目的から、次の6つの研究仮説をたてた。ALS療養者が「できることを広げる」要因として 1)ALS療養者との交流があり楽しめること、2)告知により生きる希望がもてること、3)パソコンが利用でき、パソコンによる伝達に信頼感をもつこと、4)医療・福祉制度を有効利用できること、5)子どもがいて、末子の年齢が低いこと、6)家族内での役割、また社会的役割を取得し、実践することである。 本研究の対象者は、日本ALS協会を通して承諾が得られたALS療養者70名で、インターネットメールによるアンケート調査を、2008年8〜9月にかけて実施した。アンケート項目には、属性と関連項目、また4つの生活領域を定め(日常生活の中で;趣味として;家族といっしょに;社会参加活動として)、このなかで91項目の「私にできること」を聞いた。 データの処理と分析方法は、単純集計(度数分布、カテゴリー回答の百分率など)及び、設問間のクロス集計、カイ二乗検定、偏相関係数(性別と年齢を統制)、因子分析(主成分分析法)および自由記述のカテゴリー化が使われた。 結果は以下である。回答者の性別、年齢構成は、母集団と比べ、多少若く男性が多いグループとなった。発症年齢は40代がもっとも多く、発症時の職業は会社員、自営業が多く、また、療養場所は80%以上が在宅療養者だった。さらに、80%以上が子どもをもつ親で、末子の平均年齢は29歳だった。療養期間は10年以下と10年以上におおよそ2分され、主な介護者は80%近くが伴侶だった。回答者の約50%が人工呼吸器装用者で、その65%以上は5年以上装用していた。説明変数と「私にできること」との相関関係は、回答者の80%が他の療養者との交流の機会をもち、療養者同士の交流は「私にできること」を拡大していた(p<.01)。 |
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回答者の90%弱が毎日1時間以上パソコンを利用し「パソコンの利用時間」が長く、「パソコン利用に信頼感が高い」療養者は、家族、医療・看護・介護関係者へ有意に伝達していた(p<.01)。パソコンはALS療養者にとって重要なコミュニケーションツールと言える。 自立支援給付制度や様々な医療・福祉制度の利用は、療養者の活動を拡大していた(p<.01)。 療養者の末子年齢と「私にできること」では、「私にできること/外出が必要」と有意な傾向が見られた(p=0.10)。 回答者の90%以上が「治療・新薬・介護などの情報を常に得ようとしている」と答え、75%が「家族の役にたっている」、68%が「社会の役にたっている」と回答した。そのためこの3項目の合計点を「役割取得点」とし、この役割取得点と「私にできること」とは有意な相関関係を示した。 ALS患者は残された機能を活かしてどんなことができているのか。その実現要因としては、療養者同士の交流、パソコン利用、医療・福祉制度の活用、また、家族や社会から情報を得ようとし、家族や患者会も含めた社会の中で役割を取ることが、ALS療養者の「できること」を拡大させていた。回答者が、当事者だからできることを生きる証として、積極的に家族として、一市民として可能な限り役に立とうと生きている姿を、この調査を通して見ることができた。このような療養者に生き方の中に、「人類そのものと人類の進歩を信頼して生きる」という悲観的でなく楽天的な生き方の根本(林、1987)が感じられた。 |
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