夏の思い出
西村隆(芦屋市在住)
小学生の夏休みの宿題といえば、もちろん絵日記ですよね。夏休み最後の日に家族総出で宿題を仕上げていた西村のびた、でしたけれども、なぜか絵日記だけは友だちのぶんも書けるほど好きでした。水町さんから原稿の依頼があったとき、得意だった絵日記を思い出して、依頼を快諾しました。絵日記に夢中だった40数年前といまとは随分と状況が違います。一番の違いは、いまは毎日、1年中、夏休みになったことです。
こうなると、あのときめき感、わくわくどきどきはありませんが、そこは子どもの気持ちをわが気持ちとして、この宿題をやり抜こうとおもいます。。
1.野球観戦
7月のある日、梅雨のまだ明けないその日、甲子園球場に阪神対中日戦を見に行きました。甲子園球場は今年リニューアルして、車椅子スペースもアクセスも格段によくなりました。今回はNPO 西宮メインストリーム協会のボランティアに息子・止揚と連れて行ってもらいました。私は野球が大好きです。でもテレビの主導権が子どもに移ってからは少し熱が冷めていました。
実はお誘いがあったときは、あまり乗り気ではありませんでした。出かけるのが、何となく邪魔くさくなります。皆さんはいかがですか。今回のお誘いは止揚に野球を見せたら喜ぶはず、との心遣いからです。こうなると父親として行かないわけにはいきません。付き添い気分、ちょっと引く気分のまま車で甲子園に。ボランティアのM さんはとても馴れていて、駐車スペースもすぐに見つけましたが、皆さんは電車がおすすめです。
野球少年の血がさわぐ
住宅地を抜けてスタジアムが近づいてくると、「ウワー」と歓声が聞こえてきます。知らず知らず、車椅子のスピードも早くなります。やっと、スタジアムに着いてからも、外野席まで歩く歩く。改めてスタジアムのでかさを実感しました。車椅子にはしっかりと案内がついて、エレベーターで座席までいける完全バリアフリー。なだらかな坂を上りきると一気に視界が拡がり、そこは別世界。第一に目に飛び込んだのが、グランドのみどりの鮮やかさ、
本当にきれいでした。
さあ、ここから40年前の野球少年の血がわきます。テレビとはちがいボールや選手の細かな動きは見えません。でも臨場感はたっぷり。そうです。
ともかく応援が面白い。止揚も野球は全く理解していませんが、すぐに応援の仲間入りすると、周りの人から次々に応援グッツをもらい、アッという間に小さな虎になりました。
  試合は6回まで中日の投手に完全に押さえられていました。これでは応援もしらけ気味、少しお腹もすいたので売店を見に行きました。選手の名前のついたお弁当はすべて完売。
世の中の不景気なんかどこ吹く風、球場の中はタイガーズの好調の風にのってバブル景気のような賑わいです。それにくわえて「阪神ファンの仲間」の絆(きづな)は強い。売店で呼び止められると、名物甲子園カレーをごちそうしてくれました。
わたしに「この子を立派な阪神ファンに育ててや、たのむで」。
かっこいいじゃありませんか。こんなセリフは巨人ファンには言えません。
後ろ姿を見送りながら普段の私なら皮肉な笑いが湧く場面なのに、なぜかし
ら、熱いものがこみ上げてきました。それにカレーのおいしいこと。なんで
こんなカレーがホテルではなくて、甲子園で当たり前に売られているのか。
普段はあまりカレーを食べない小さな虎もおいしそうに残さずペロリ。
甲子園は阪神ファンを育てる学校
さあ、待ちに待った7回のタイガーズの攻撃、ジェット風船飛ばし。何万という色とりどりの風船が宙を舞う光景は圧巻。すると、あら不思議。それまで、手も足も出なかった吉見(よしみ)投手を打ちまくり逆転すると、ファンの歓喜はピークに達します。隣りの人や近くの人とハイタッチや抱き合って喜びを分かち合います。小さい虎もこのころになると、ちょっとしたアイドルのように周りに可愛がられていたので、大勢の人と抱き合っていました。うらやましい。
8回には城島のホームランでだめ押し。すると小さな虎のまわりにお姉さんやおば(あ)さんがきて「ほら、このタオルをこうやってふるのよ。だめだめ、もっと元気だしなさい。そんなんじゃ、中日においつかれるー」応援の仕方や心得までを教えてくれます。戸惑いながらも小さな虎も熱意に押されてマネをしていました。甲子園は子どもを立派な阪神ファンに育てる学校みたいです。なるほど。
テレビ中継ではここまですが、球場ではマスコットのパフォーマンスや選手のファンサービスがあり、勝利の余韻に思う存分に浸ることが出来ます。
久しぶりの野球観戦は、野球を見るというよりもお祭りに参加したようです。なんか童心に帰る楽しい時間でした。ただ一つ小さな文字で書きますが、私は大の巨人ファンです。これを言うと私の住む芦屋の街は歩けませんが、そんな私ですら甲子園にいくと阪神ファンになりました。魔法のような一夜の経験でした。
2.家族旅行
恒例の家族旅行に8月14、15、16 日に出かけました。車椅子仕様のセレナは乗り心地が抜群で、しかも高速料金1000 円となれば、うれしくなります。何ヶ月も前から計画する人もいるでしょうが、パートナーの雅代が超多忙で、直前に「阿波踊りが見たい」となりました。ホテルはどこも満室で、二泊とも淡路島の小さなホテルをなんとか見つけられました。予約する雅代とホテルとの会話を聞いていると、車椅子を宿泊させたことがないので不安がるホテル側をみごとに説得する迫力には、ほれなおします。「段差があって廊下が狭いんだって、なんとかなるわよね」。これまでも何とかしてきた自信でしょうか。こうして一抹の不安を感じながらの出発です。
世界一のかき氷職人の長男
一番心配した車の渋滞もほとんどなく、最初の目的地、淡路島にあるイングランドの丘に向かいました。ここには世界一のかき氷職人の長男が働いています。親ばかですが、子どもが削った氷はみごとで、神戸肉のように口の中でスーととけます。よくある、食べたときにキーと頭に響くこともなく、キラキラ輝く宝石のようです。1時間ほど長男の働く姿に感動しつつ次の目的地、徳島にむかいました。これも高速一本で行けます。さすがに阿波踊りの会場に近づくと、交通規制が始まり、駐車場を探すのに苦労します。
こんなときは満車の看板に惑わされず、車椅子用の駐車スペースを迫力ある声で聞きましょう。3件目で市役所に停めることができて一安心していると、ポツリポツリと雨が降り始めました。お祭りの前の雨です。良い打ち水と思いこんで街をぶらぶら。
阿波踊りは「連(れん)」というグループ単位で踊ります。市街地の道路、10 カ所ほどを演舞場として観客席がつくられます。私たちは有料の車椅子席をとりました。
踊る阿呆に見る阿呆
踊りがはじまる6時ごろには雨もやみ、絶好の踊り日和となりました。
いろいろな連が出てきます。最初はミスユニバース日本代表、私はもうこれだけで、心が躍り出します。次々に有名な連が登場します。お馴染みの「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊りゃなそんそん」。あのフレーズが心地よく響きます。中には小さな踊り手もいて、それがまたうまい。いつの間にか踊りに目が釘づけになりました。間近で見られたので息づかいや、踊りにかける情熱が伝わりました。2時間ほどの演舞でしたが感動しました。
3.旅を終えて
この夏は記録づくしの暑さでした。わたしは胃ろうから栄養や水分をしっかりと入れますが、それでも旅の疲れから軽い脱水症になり、三日間寝込んでしまいました。いつものことですが、旅の最中は緊張していて、例えば排尿の回数もへります。喉の渇きや空腹感も鈍くなります。家に帰ると一気に緊張がとけて、なだれのように私を襲います。
それでも、ベッドから離れて旅行に出かけることをお勧めします。テレビでは感じることが出来ない空気や迫力は心の栄養になります。
さぁ、みなさーん、そとにでかけましょう。
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