今回のテーマは、「排便について」です。もともとの排便習慣はそれぞれあるでしょうが、ALSを発症してから便が出にくくなったと感じられる方は、ほぼ全員と言ってもいいのではないでしょうか。「どうしても出ないときは薬局でイチジク浣腸を買ってきて、死ぬほど苦しんで出しています。」と言われる方もあるようです。
「どうして、出にくくなるのか?」というと、複数の要因が絡んできます。
まず1つ目は、嚥下障害が進むと食事も水分も摂取量が少なくなります。特に、何度も噛まなければならない繊維質のものは敬遠されるので、食物繊維の持つ保水性や便のカサ増し効果が得にくくなります。
2つ目に、手足の力が弱くなると運動量が減り、それに伴って腸の動きも悪くなります。
3つ目は、腹筋や横隔膜などが弱くなるためにいきむことが難しくなります。トイレに座ってではなく、ベッド上で排泄する状態ではさらにお腹に力を入れることが困難です。
4つ目に、便意を我慢すると便意が消失してしまい、これを繰り返すと便意を感じにくくなったり腸の動きが悪くなったりします。運動機能の問題でトイレに行くまでに時間がかかる場合、介助者が不在で出来ない場合、外出先ではトイレの構造に問題がある場合などが考えられますし、排泄ケアを受けることへの羞恥心が影響することもあるでしょう。
このような状況で、便の出にくさをそのままにしていると、便の水分が吸収されどんどんと硬くなっていくのでより一層出すのに力を要するようになり、「死ぬほど苦しい」排便になってしまいます。それ以外にも、便が停滞すると腸内で悪玉菌が繁殖し腐敗発酵してガスが発生、便でふたをされた肛門からガスが出せず、お腹の中にガスが充満します。お腹がはって苦しい、吐き気がする、呼吸も苦しくなる、そうなると当然食欲が落ち、摂取量が落ちるとさらに便が硬くなる…悪循環が色々な面で出てきてしまいます。 ですから、排便のコントロールはとても重要です。
では、排便がコントロールできているとはどのような状態なのでしょう? 便秘でなく下痢でもない状態? では便秘とは…? 毎日出なければ便秘でしょうか?それとも3日出なければ…? 実は、便秘の定義というのは曖昧なもののようです。3日に1度でも便がスムーズに出て、残った感じもなくすっきりするなら、それは便秘ではなく、逆に、毎日出ていても出すのに苦労し、便がカチカチで量が少なく、残った感じがする場合は便秘と言えるでしょう。便の形成は食事内容にも左右され、個人差が非常に大きく、日数で決められるものではないのですが、個人的な経験(自分自身のではなく、これまでかかわった患者さんの排便状況)では、週に2回は便を出さないと、硬くなりすぎるように思います。
硬すぎず柔らかすぎない適度な硬さの便がスムーズに排出され、お腹のしくしくが続いたり、後でダラダラと便が出続けたりしない状態を目指したいものです。便は「食物繊維」と「消化しきれなかったもの」と「水分」からできています。主な便の材料(?)となる食物繊維、日本人の目標摂取量は1日25グラムとされていますが不足しがちです。水溶性と不溶性の2種類があります。水溶性繊維は海藻やこんにゃく、オクラやモロヘイヤなどのヌメリのある野菜、バナナ・リンゴなど果物などに含まれ、保水効果で便を軟らかくします。不溶性繊維はゴボウやニンジンなどの野菜、豆類、イモ類、穀類などに含まれ、カサ増しして便意を促します。腸の動きが悪い人が不溶性繊維を多くとりすぎると却って便秘になる可能性もあるので、偏らないようにバランス良くとりましょう。
腸内の善玉菌を増やし、整腸作用が期待できるものには、ヨーグルトや納豆、キムチやチーズなどの発酵食品や、腸内ビフィズス菌のえさになるオリゴ糖があります。また、油類(オリーブオイルなど)は腸内の滑りを良くしたり、腸を刺激して便を出しやすくする効果があります。
食物繊維の多い食品は圧力なべで煮てからミキサーにかけてスープにすると、とりやすくなるかもしれません。水分不足だと便が硬くなって出にくくなるので、できるだけたくさんとるように…というイメージがありますが、とりすぎても尿として排出されてしまいます。尿量が1500ccを超えているようなら、水分量としては充足しているので、それ以上に水分摂取をする必要はありません。便を促すという意味では、硬水(カルシウムやマグネシウムを多く含むミネラルウォーター)をとると良いかもしれません。
排便習慣
食事をとると反射的に腸の蠕動運動は活発になります。特に朝食は、夜の間休んでいた腸に食物が入るので、刺激が大きく排泄反射が起こりやすいと言われています。そのため、朝食後にトイレに座ることが勧められますが、個人差や諸事情(介護の必要性など)もあるでしょう。便意を催してすぐにトイレに行ける人ばかりではありませんし…。すでに便意が消失してしまった状態でも、ウォシュレットで刺激すると便意を催すこともあります。ある程度時間を決めて、自分なりのリズムを作っていくのが良いと思います。
食事や生活習慣で排便コントロールがつけばよいのですが、そう簡単ではないかもしれません…。
*マッサージ・指圧
お腹をマッサージすると腸蠕動が促されます。おへそを中心にして時計回りに少しずつ場所をずらしながら押さえていきます。右腰骨辺りから徐々に上へ移動し、肋骨の下まで上がったら少しずつ左へ移動、徐々に左腰骨辺りへ下がっていきます。左の骨盤の内側へ便を送り込むような気持ちで押さえていき、最後は恥骨の少し左上を圧迫すると(うまくすれば)便が押し出されると思います。便が固ければ、腹壁上からでも手にはっきりと便を感じます。痩せた患者さんだと、目で見て便の形が分かります。ガスが溜まっている時はあまり押さえると痛むので、優しめに繰り返しガスを送るようにする方が良いと思います。本人でないと痛みが分からないので、介助で行う場合には力加減を確認しながら行ってください。
便秘のツボは<天枢><大腸愈><神門><足の三里>、下痢のツボは<大椎><三陰交><裏内庭>というところらしいです。興味のある方は調べてみてください。
* 便秘薬
下剤にも色々種類がありますが、大きく2種類に分けられます。機械化下剤と呼ばれる水分を移行させ便を軟らかくし量を増やすことで腸を刺激するもの、刺激性下剤と呼ばれる小腸や大腸の粘膜を直接刺激するものがあり、前者を使用しても効果がない場合に後者を加えるのが一般的です。代表的な薬としては前者は酸化マグネシウムやCMC(バルコーゼ)、後者にはひまし油(小腸刺激)や、センナ・コーラック・ラキソベロンなど(大腸刺激)があります。上記分類の他、漢方薬も便通に効果のあるものが多種類あるようです。
多くの下剤は効果が出るのに6〜18時間程度かかるので、前日に服用し、翌日適度な硬さの便がすっきりでるように内服時間や量を調整していきます。ベースの整腸剤(ビオフェルミンなど)と下剤を併用しながら、コントロールがつけば下剤を減らしていきます。
* 浣腸・座薬
直腸まで便が降りてきているのに出せない場合には、浣腸や座薬を使用します。浣腸液は先の患者さんが言われていたように、市販のイチジク浣腸もありますが、医師に処方してもらうこともできます(薬局で市販のものを購入すると実費になりますが、処方してもらえば保険適応です)。一般的に処方されるグリセリン浣腸液は60ccとかなり量が多めですが、入れる時に半分くらいに加減することは可能です(最初に捨てておけばOKです)し、医師に相談すれば小児用の30ccを処方してもらえるかもしれません。液を入れてから3〜10分ほど便を我慢しなければならないので、移動が難しい場合はトイレに座ってから(便器に乗ってから)注入し、しばらくティッシュなどで押さえておきます。
レシカルボン座薬は腸内でCO2を発生させ胃腸の運動を亢進させます。浣腸液だと、肛門を閉じておけずにすぐに流出して効果が得られない場合も、座薬なら大丈夫な方もあります。
* 摘便 (てきべん)
手袋をはめて指に潤滑油やゼリーなどをつけて、文字通り肛門に指を入れて便を摘出する方法です。患者さんには、(肛門の力を抜くために)口を開いて呼吸するよう声をかけながら行います。
* 飲んでいるお薬の見直し
薬の中には、副作用として便秘になるものがあります。リルテックもその一つです。他に、抗不安薬、抗コリン薬(唾液分泌抑制のため処方されることあり)、オピオイド(呼吸障害、疼痛に対して処方されることあり)など。もともとの処方目的があるので、どちらを優先させるかを医師と相談し、可能なら他の薬剤と変更してもらうなどが必要な場合もあるかもしれません。
排便時の体位について
座位がとれるなら、トイレに座った方がいきみやすく、また、重力が加わるため直腸に力が入りやすくなります。やや前傾姿勢のほうがいきみやすいので、体幹が不安定な場合は、後ろにもたれるよりもひざにクッションなどを重ねて前かがみになった方が良いかもしれません。
臥位の場合、下肢に力が入るなら、膝を深く曲げて、お尻を浮かすようにすると腹圧がかかりやすいようです。
摘便等の介助で出す場合、患者さんには左側臥位になってもらい、介助者の利き手が患者さんの足元になるように立つと処置しやすいと思います。ただし、患者さんの顔が反対向きになる場合もあるので、時々表情などの確認をしてください。
排便障害の中でもほとんど便秘に関する内容になりました。下痢も続くと大変なので、ケアについて書いた方が良いのでしょうが…。
(では次回は下痢で、お願いします)