介護職員(ヘルパーさん)による
医療的ケアのある 在宅療養生活
岡部 宏生(おかべ ひろき)さん

2011年2月11日、東京 ホテルグランドヒル市ヶ谷で開催された JALSA講習会「医療的ケアを要する難病患者セミナー事業」報告会において、U部「医療的ケアの実践」で岡部宏生さんが意見発表されました。在宅療養を支えるヘルパーの医療的ケアの問題を議論する検討会に大きな期待が集まっていますが、ヘルパーの不足と地域格差の拡大も、顕在化してきています。岡部さんと主催者・日本ALS協会の承諾をいただきまして、講習会資料から発表文を転載させていただきます。

こんにちは。東京都江東区で在宅療養をしている岡部と申します。

私がALSを発症したのは2006年春頃、確定は同年9月でした。

2007年7月より在宅療養を開始し、2009年2月に胃ろう造設、9月に気管切開しました。人工呼吸器を使用開始して約1年5ヶ月です。

冒頭に医療的ケアのある生活と言いましたが、医療的ケアがない生活は有り得ません。それでは生活というより生命が維持出来ないからです。

今日はのこのこ患者として出てきましたので、差し障りのない話ではなく患者の偽らざる気持ちをお話したいと思います。(私は一患者であり、患者を代表しているものではありませんが。)お聞き苦しい点があると思いますが、ご容赦ください。
日常受けている医療的ケア

私が日常受けている医療的ケアは、痰の吸引(気管内)、経管栄養の注入、カフアシスト(排痰補助装置)の実施、呼吸器の簡単な管理から装脱着、カフ圧の調節があげられる。

痰の吸引は一日に20回から多いときには40回程度、経管栄養は食事と補水で、8回程度である。これらのケアはすべてヘルパーさんと妻が行ってくれている。 

ヘルパーさんによる医療的ケアは、我々にとってまさに根源的な問題であるとともに、現在時事問題でもある。

私もたびたび傍聴に

皆様もすでに御存じの通り、昨年春より厚労省で「介護職員(ヘルパーさん)によるたんの吸引等の実施のための制度の在り方に関する検討会」が立ち上がり、 そこでは、これまで違法性阻却論に基づいて一部の介護職によってのみ実施されてきた吸引と経管栄養に限り、法律に位置付けるべく議論が行われている。

この検討会は現在まで6回開催されていて、私もたびたび傍聴に行っているが、そこでは実にさまざまな意見が出ている。

介護職、看護職、医師、法律家、ジャーナリスト、学識経験者などとさまざまな立場の委員がいるので、意見もさまざまなのは当然であろうし、さまざまな意見をまとめることによって進むべき方向が出るのだろうと思いながら聴いているのだが、けっこう腹が立つことや暗澹たる気持ちになることも多い。

委員の中には当事者の代表として橋本操さんが参加されていて、各委員はそうとう橋本さんを意識して発言しているのに、である。

もし橋本さんが席に着いてなかったらどうなってしまうのだろう?と何度も不安になった。
とても正論 しかし……

今回の検討によって、現在の療養生活に提供されているケアは少しも後退しないことが前提になってはいるが、

「現状を認めることで、本来あるべき姿を追求しないということがあってはいけない」という意見も出されていた。

なんかとても正論に聞こえませんか?

しかしこの意見の中には、現状を否定したニュアンスが含まれていると思うし、言い換えると、あるべき姿のためには現状のケアができなくなっても仕方ないと言っていることであると思う。これはさらに言い換えると、現状で生活している患者が、制度があるべき姿になるためには犠牲になっても仕方がないということにもなる。

そこまで意図して発言したかどうかわからないが、そもそもこの委員は何をもってあるべき姿と定義するのだろう??

私は遠慮なく言わせて貰った。  なにしろ声が出ないので。

「なにをぬかすか、現場のことを知らないな。 それで在宅療養生活が破綻する患者や、これから生命の選択をする患者や家族の選択肢を奪うものであることを知らないで、上っ面だけの正論を吐くなよ。」

自分の発言が、どんなことを意味するのかよく考えて貰いたい。それが解かってのことならこちらも覚悟をもって耳を傾けるというものである。
医療的ケアの課題 患者サイドから

医療的ケアの課題を患者サイドから言えば、

誰が安全に適切に必要なときにそれをやってくれるかどうかである。

痰の吸引を必要とする患者には365日24時間介護者がいてくれないとならない。

それでは誰が常時適切で安全なケアを提供してくれるのだろう?

現在の制度や社会通念的には看護師さんがこれの適任者となるわけであるが、24時間カバーするなどということはありえない。絶対数が圧倒的に不足である。

ちなみに私の1週間168時間のケアのうちで、医療保険での訪問看護師さんのケア時間は6時間である。(それでも大変重要な役割を果たしてくれている訪看さんが存在するが。)

私の住んでいる場所は地下鉄で日本橋から3駅、人口も多く、決して過疎地ではないが、訪問看護師が不足で、これ以上入ってもらえないという状況である。従って、162時間はヘルパーさんか家族に頼ることになる。

 うちの場合は、妻だけが介護に携われる家族であるが、高齢の母の面倒を見ながら働いて、さらに妻自身も持病で通院するという厳しい環境であったので、在宅療養支援に精通したソーシャルワーカーからは、気管切開して人工呼吸器をつけての在宅療養は無理だと言われた。

もちろん自分でもわかっていたので、気管切開をする前にヘルパーさんによる24時間介護体制が作れるように準備をした。(体制が組めたのは気管切開の手術をして入院している間であったが)

 つまり162時間は、ヘルパーさんが医療的ケアをしてくれることが前提かつ絶対条件であったし、今もそれは続いている。

他に選択肢があると思う方もいるかもしれないが、人工呼吸器を付けたALS患者を長期に入院させてくれる病院はとても少ない。また、入所可能な施設も極めて少ないのが現状なので、在宅療養が実現出来ないと、生きていくという選択の幅はかなり狭まることになる。

そして在宅療養において家族の介護力に頼れない場合や、家族の介護負担を減らそうとした場合は必然的にヘルパーさんの医療的ケアが必要となるわけである。

これが現実なので患者からすると、ヘルパーさんに医療的ケアをやって貰うことの是非を論じている場合ではない。

問題はヘルパーさんの中でも医療的ケアを引き受けてくれる人、出来る人が少ないことである。

難しそうな医療的ケアを引き受けなくても、ケアの仕事はたくさんあるし、事業所としてもリスクは高いと思われるのに、それに見合う報酬に全然ならないような仕事は敬遠する事業所が多いのである。

常に慢性的なヘルパーさん不足に大いに悩まされている我々患者としては、なんとか医療的ケアが出来るヘルパーさんが増えるように、事業所やヘルパーさんの負担は少なくてかつ医療的ケアが実施出来るような育成の仕組みを作って欲しいのである。

実際に、さくらモデルという研修の方法で重度訪問介護従業者を育て、この8年多くのヘルパーさんが医療的ケアを提供してきた実績がある。

今後も現実的に可能な、このような研修でヘルパーさんを育てて、あとは患者のところでのOJT (注) を重ねていくという方法を継続して欲しいと切に願っている。もちろん患者も育成のために自らの身体を呈するという相応かつ相当な努力を忘れてはならないと思う。

        (注・会報) OJT(On the jov Training → 実務に就きながら訓練を受ける)
共通の解があると信じる

検討会では繰り返し医師法17条の医師・看護師等以外の者が医業(医行為)をしてはならないということについて議論がなされた。

痰の吸引や経管栄養の注入は医行為なので本来ヘルパーさんにさせるわけにはいかないので、医行為からはずすべきだという意見や、そもそも医行為の範囲はなんであるかを議論していて、なかなか前に進まなかった。

もちろん医療的ケアの範囲をどこまでにするかというのは、大変難しい問題であろうが、この度の検討会では何を対象とするかが明確なわけで、それについて討議をすればいいはずであるから、それが実施可能かどうかと、その影響と、具体的な方法論を話せばいいことであるように思えた。

 現在の療養状況の中で訪看さんは何をすべきで、ヘルパーさんは何をしなければならないか、医師の指示はどうで、たくさんの専門職の方々は何を必要とされているかを患者の立場で整理してみれば、相当すっきり出来ると思うし、必要な連携も明確になるはずである。

それは極めて個別性の強い問題であるが、その中にこそ共通の解があると信じたい。
ヘルパーの絶対的な不足と地域間格差

また、今回の検討によりヘルパーさんによる医療的ケアの一部が法律的認められたとしても、訪看さんと医療的ケアが出来るヘルパーさんの絶対的な不足と地域間格差は非常に大きいものであり、それは自治体では解決できない課題であるのだから、まさに国として検討して欲しいものであると思う。

ぜひそういう課題こそ検討会で取り上げてくださるようお願いして、患者の立場としての話を結びます。
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