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介護職員等によるたん吸引等(特定の者)の研修 |
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Q1 わが家では今まで、ヘルパーさんに吸引してもらってきました。なのに、なんでわざわざ法律にしたのかな。いままで通りではアカンの? A1 いやぁ、それはラッキーでしたね。みんながみんな、そうではなかったのですよ。 |
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Q2 えっ、ホンマ? A2 これまで認められていたのは、患者さんや家族から依頼を受けて、ヘルパー個人が「吸引を実施することに同意します」という同意書を交わして、個人の責任で吸引を引き受けるというやり方でした。「違法性阻却」といって……。 |
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Q3 何ですか? その難しい言葉。 A3 たんの吸引は医療行為なので、本来、ヘルパーさんはすることができませんでした。けれども、ALSを始めとする在宅の患者さんたちの強い願いがあって、運用上の扱いで、違法ではないとみなされてきたのです。あくまで窮余の一策だったのですね。 でも、ヘルパー個人が厚意で引き受けてあげましょう、ということですから、介護事業所は積極的になれません。そのうえ、「吸引した時間はボランティアだから、介護時間から差し引いてください」と指導した行政まであるのですから、リスクを恐れる事業所は引き受けませんでした。同意書による吸引は減っていく岐路に立たされていたのです。 |
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Q4 そうですか。そんなら、法律で決めるからには、絶対に「介護職員等によるたん吸引等の実施」をしてもらえるんやね。 A4 ところが、それもなかなか。平成24年4月1日から、一定の研修を受けた介護職員等がたん吸引等を実施できるようになるのですが、この研修を受けるにも、 ・利用者(またはその家族)から書面による同意があること ・主治医から指導看護師への指示書が交付されること ・指示書には研修を受ける介護職員の氏名等の記載もあること |
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Q5 研修はどこでするのですか。 A5 平成24年度から都道府県知事に登録した「登録研修機関」が行います。基本研修と実地研修がありまして、基本研修を受けた後、理解度テストを受けます。90点以上の得点で合格となり、次に、在宅での実地研修に進みます。 |
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Q6 在宅の実地研修というたら、患者・家族も参加するのですか。 A6 そうですね。在宅の実地研修は、指導看護師が指導し、評価票の手順に沿って「手順どおりに実施できたか」の評価を受けます。ここでは、患者さんとご家族にも調整能力や、受け入れの体制が必要になります。 |
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Q7 患者さんや家族にとっても、「楽してお任せ」ということにはならへんのやね。 A7 在宅人工呼吸療養の患者さんの場合、複数の介護職員が吸引等を実施していると思います。ヘルパーの数は1人や2人ではなく、夜勤者も入れると複数事業所トータル約10人〜20人、それ以上ということもありますでしょ。1人ずつ時間をかけて在宅実地研修を行って、無事パスしたら、都道府県に認定登録して、晴れて吸引や経管栄養が開始できます。 主治医や訪問看護、介護職員、そしてケアマネジャーも含め、適切な医療管理のもとに、事業所だけでなく地域での体制整備も含めた大がかりなシステムの構築が必要とされています。 |
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Q8 わぁ、大変! A8 ただし、重要な点は、「吸引はしない」という事業所があれば、利用者が説得する根拠ができた、ということです。安全性を確実なものにするために在宅ネットワークを構築すれば、報酬面でも介護事業所には加算があります。ヘルパー個人に責任を負わせることもなくなります。 だからこの仕組み作りには、地域や自宅で暮らしたい患者と家族が、在宅介護にかかわるみんなに働きかけ、尻込みする人がいれば、その人の気持ちを動かすつもりで、取り組んでいただきたいのです。 |
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Q9 いままで吸引してくれていたヘルパーさんも、また研修を受けないとアカンのですか? 十分上手だし、事故もなかったのに……。 A9 これまで同意書を交わすなどで、国の通知に基づき一定の要件のもとにたん吸引等を実施していた介護職員等は、今回からは「経過措置対象者」と位置づけられます。この経過措置対象者は、吸引の研修は受けなくてもかまいません。都道府県に手続きをすれば、「認定特定行為業務従事者認定証」を交付されます。 |
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Q10 またまた、ややこしい言葉やね。 A10 ホンマに。この認定証には特定の利用者の名前が書かれてありますから、その患者さんに対しては、平成24年4月1日以降も引き続き、吸引のみなら実施できます。この「みなし」の認定の手続き等は、都道府県から案内がありますから、都道府県のホームページなどで確認して手続きをしてください。 |
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Q11 「経管栄養」についてはどうですか。 A11 「経管栄養」は、これまでは認められていませんでしたから、ヘルパー等が行うためには研修を受ける必要があります。3月31日までに都道府県の研修を受けて登録認定を受ければ、平成24年4月1日から経管栄養を実施できます。 |
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Q12 それでは、4月1日以降に、新しくヘルパーさんが増えたとしたら、たんの吸引等をしてもらうためには、どんな手続きをすればいいのですか。 A12 改めて4月以降、研修を受ける必要があります。研修機関において「基本研修(講義と演習)」を受講します。研修を修了した後は、在宅で実地研修を指導看護師のもとに行います。 基本研修は介護職員1人につき1回限りの受講で済みますから、別の「特定の者」に対して吸引等を行う場合は、基本研修は修了済みとして、在宅での実地研修に進むことになります。 |
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Q13 経過措置対象者(みなし)として「認定証」を受けているヘルパーさんの場合、4月以降に新たな患者さんの吸引を引き受けるときは、みなしの「認定証」をすでに交付されているから、実地研修は免除されますか。 A13 いいえ、違います。経過措置対象者の認定証は、あくまで「特定の者」のみに対する認定証です。ですから4月以降、新たな患者さんの吸引を行う場合は、新たに実地研修を受講することになります。 |
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Q14 自費で契約している家政婦さんや、善意で手伝ってくれているボランティアさんについては、いままでどおりと考えていいのですね? A14 いいえ。この法律の「介護職員等」の「等」の中には、資格を持たない人、ボランティアで関わっている人、謝礼を支払って頼んでいる家政婦さんや、特別支援学校の教員の方も「等」に含まれますので、平成24年4月1日からは、国が定める研修を受けずに吸引等の行為を行った場合は(「みなし」を除く)違法となります。 |
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Q15 初めて吸引を研修したヘルパーさんが、実際に吸引するのは怖いと言うのですが、どんなふうに説得したらいいでしょうか。 A15 誰でも最初は怖いですよ。「吸引が一番うまいのは誰ですか?」と患者さん本人に聞くと、たいていご家族、または吸引頻度の多いヘルパーさんと答えることが多いです。反対に吸引する人にとって一番怖いのは、患者さんがジーッと見守る目、それに厳しい家族の視線、それに射すくめられると固まってしまうヘルパーさんもいます。 |
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Q16 確かに、そういう場面、ありますね。 A16 「私は吸引をたくさん経験してきたから大丈夫です」と自己紹介で言うヘルパーもいますが、信用してはいけません。吸引は、特定の患者さんの個性を最も尊重しなければいけないケアの一つです。 初めて患者さんに向き合うヘルパーには、まず家族の手技を納得いくまで見てもらって、教えてあげてください。そして患者さんに実際に吸引してもらったら、患者さんに確認をとってもらうようにします。「いまの吸引でよかったですか?」。患者さんがそこで「下手クソ!」と言ってしまったら、マイヘルパーを育てる機会を自分でつぶしてしまうことになります。 一人前のヘルパーを何人育てられるかが、患者と家族の腕の見せどころ。そういう意識を持っていただきたいのです。 看護師さんが訪問したときに、家族が吸引をして、必要な処置は看護師さんが行うというパターンはよくあります。いくら看護師であっても、特定の患者さんの吸引方法はわからないのが当然です。個々のやり方をしっかり学んでからでないとやらない、というのが在宅療養の基本です。 |
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Q17 吸引して事故が起きることはゼッタイありませんか。 「お正月3が日だけは家族と親戚で世話したいから、ヘルパーさんは休んでください」と言われたALS患者さん宅で、お正月2日に、家族が吸引したとたん、大出血を起こして、救急車で搬送の途中に死亡が確認された例があります。患者さんは重度の糖尿病も持っていましたから、出血しやすい状態が常にありました。医師や看護師がふだんから医療ケアを綿密に行っていても、防ぐことはできません。 |
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Q18 こわいですね。 |
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Q19 お医者さんでも……。 在宅療養では、看護師が吸引や経管栄養のたびに訪問できないことはご承知のとおりです。疲れている家族がもっと疲れると事故につながり、安全が保障されないことを身をもって知る患者さんたちは、「家族を休ませてやって。そのために、長時間滞在できるヘルパーさんに吸引してもらいたい」と心から願っています。 |
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Q20 そうした患者さんの願いが、今回の法制化で実現するんやね。 A20 はい。そのための法制化の手続きが、当初は煩雑で混乱すると思われます。けれども、吸引のように頻度が多く「いつ」が指定できないケア、1日3回〜4回も必要な経管栄養のケアが、家族だけではなく、研修を受けた介護職員によっても実施できることは、独居や介護者が高齢のALS患者さんにとって、最低限必要な環境です。みんなで協力して整えていかなければなりません。 |
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Q21
吸引について気になることがあります。ヘルパーさんができるのは「カニューレ内部の吸引」と研修テキストには書いてありますが、患者さんはもっと深く入れてほしいと、納得してくれないことがあるようですね。どうしたらいいでしょうか。 A21 ある医師の指示書の記載にはこう書かれています。「カニューレからの吸引は原則的に11pまでに留める。緊急時はこの限りではない」 原則的に11pというのは、カニューレ内部の吸引を指示されているということですね。これはカニューレを超えて深いところまで吸引すると誤って気道を傷つける可能性があるからです。 |
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Q22 「もっと深く入れてほしい」と患者さんが願うのは、たんが硬いから? A22 たんが硬いという状況は、人工呼吸器の加湿器の温度設定、水分摂取の状況、体位交換の状況も含めて、総合的に検討する必要があります。 入浴サービスを受けた後、たんが動きやすくなって、あふれるほどたんがよく引けますね。お湯の加湿と体動によって、たんが柔らかくなったことがよくわかります。 最近ではカフアシストを有効に活用される患者さんも増えてきました。カフアシストを使用すると、そのあと1時間くらいは吸引の回数が増えますが、たんは柔らかく、吸引しやすく、患者さんも楽そうです。 |
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Q23 口からの唾液が多く、水分の摂取を制限したいというほどの患者さんもおられます。 A23 口からあふれる唾液に苦しむ苦痛というのは大変なことですね。 近年は、口から唾液の流出が多い患者さん、たんや唾液が気道に落ち込みやすい患者さんには、喉頭閉鎖等の手術が有効と言われて、手術を受ける患者さんも増えています。日本ALS協会近畿ブロックの会員で、会報に「ペンギン通信」を連載している「ペンギンおやじ」も、気管切開後、さらに声門閉鎖術を受けました。手術の影響で2か月くらいはかえって吸引が増えたようでしたが、その後は落ちついて吸引の頻度も少なくなり、カフアシストも併用しているので、硬いたんに苦しむことはなくなったそうです。 口からの唾液の流出で苦しんでいた別の患者さんも、喉頭閉鎖術を受けた後、明らかに唾液が飲み込めているようで、口からの唾液の流出は減ったと言われています。 |
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Q24 ところで、さきほどの医師の指示書にあった「緊急時はこの限りではない」という言葉にドキリとしました。 A24 ドッキリやヒヤリはいつでも、忘れた頃にやってきます。家族が知らない間に蹴って、人工呼吸器の電源コードをコンセントから抜いてしまったり、呼吸器の内部充電が切れて、いきなり呼吸器が停止したこともありました。おうちの中はわりと騒々しくて、電源が切り替わったときの機械の合図の音にだれも気づかなかったのです。 また吸引器を清掃した後、フタの目地が合ってないのにフタを閉めたと思い込んで、吸引をしようとしたら吸引圧が上がらず、故障したとあわてることなんか、誰でも一度はありませんか。 |
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Q25 ヒヤッとする経験はあります。 A25 もっとすごい失敗もあります。カニューレから呼吸器の回路を外して吸引し、終わって、回路をカニューレに接続しようとしたら、「回路の先端が見あたらない」と大騒ぎした新米さんもいました。回路をたどっていけば先端にたどりつくのに、パニックになってしまったのですね。 人工呼吸器の回路の中にはいつも空気が一定の圧で動いているので、蛇腹という言葉を使うくらい、はねたり、動いたりするものです。回路の先端が布団に吸い付いて、アラームも鳴らずに、そのまま回路をカニューレに接続することを忘れると事故になります。 |
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Q26 事故を防ぐには、何が大切ですか。 A26 機器が故障したときは、アンビューバックを使用して空気を肺に送り込みながら、人を呼び、機器の点検を行える体制が、すぐにとれますか? 吸引器は予備の機器があるほうが望ましいし、もし代替機がない場合は、大きめのシリンジで吸い出す。昔は掃除機の先端に清潔な吸引チューブを取り付けて緊急に吸い出したという武勇伝もありました。ヘルパーたちは介護に携わっているうちに、こんな機転もきくようになります。これは、講義を受講しただけでは決して身に付きません。 新人は新人の役割、ベテランはベテランの役割があります。いっぺんにベテランになるわけにはいきません。いっぱいミスもトラブルもあるかもしれません。 患者さんも「下手クソ」と言わないで、ご自分の五感をフル稼働して、トラブルに対処し新人介護者を育ててください。 医師の指導のもと、家族と訪問看護師、ベテランのヘルパーが、新人のヘルパーをみんなで育てるための法制化になれば、患者と家族にとって幸いなことになります。(以上) |
| このQ&Aは、近日、NPO法人ALS/MNDサポートセンターさくら会より、啓蒙パンフレットとして発行される予定です。 |
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