| 連載第9 回 |
| 春の日に |
| 姫路市 大多和 清子 |
| バースデイ |
| 春のその日、私は58 歳の誕生日を迎えました。 いろいろなところから、バースデイカードやお花などを頂きました。 息子たちからも、そして小学4 年生と2 年生の孫たちからは、ねこ好きの私にふさわしいバースデイカードが届きました。 夫は私の好きなCD をプレゼントしてくれるそうです。 スタッフは、おめでとうと一緒に「大多和さん、春を撮ってきたよ」と、つくしや梅の花などの写メを見せてくれました。 みんなの気持ちを、今年ほどうれしく思ったことはありません。 元気なころは、プレゼントをあげる立場だったのが、逆になってしまいました。 私がALS になったからこそ、プレゼントをもらえたのでしょうか。 |
| 初孫が1 歳の誕生日のその日、朝からバースデイケーキを焼き、 午後から夫は、ピザの生地2 枚分をこねてくれています。私は、 トッピングの材料を切ったりして……。そうしていると、お嫁 さんたちも来て一緒に、からあげ・サラダ・ラタトゥーユ・ス パニッシュオムレツなどを作り、ピザも焼きあがり、みんなが テーブルにつき、バースデイパーテイが始まりました。みんな の歓声と笑顔は、いつまでも脳裏に焼きついています。 |
| 寝たきりの私が、花粉症に…… |
| 春の嵐のその日、午後からくしゃみの連続でした。 2、3 年前から花粉症になったのです。ある日、突然に……。 最初は、くしゃみと目のかゆみから……。なぜ、寝たきりの私が……。その理由は一日に、約10 人のスタッフの出入りがあるからかもしれません。 1 年前に玄関に花粉除去用のブラシを置きました。 スタッフが、それを使用するようになってからは、目のかゆみはなくなりました。 くしゃみは少し減りましたが、今なお苦しめられています。 日常的に鼻水が泉のごとくでているのに、そこにくしゃみをすれば大変です。鼻水が口腔内に溜まって、唾液や痰などと共に、口角からあふれます。 吸引のとき、なぜかくしゃみが多いのです。 特に口吸引の途中、くしゃみをすると、吸引カテーテルの先端をかんでしまうのです。 私が、くしゃみをしているときは、ほとんどのスタッフには分からないと思います。「大多和さん、吸引ですか?」と聞かれます。毎回、くしゃみだと答えますが、半信半疑のような気持ちでしょう。 元気なころのように思い切り「はくしょんっ」とくしゃみをしてみたいのですが、人工呼吸器を装着していると、くしゃみは音を発しません。残念ながら……。 |
| 春の門出に |
| 私のところには、毎年多くの看護学生さんが実習に来ます。昨年度は、例年とは少し変化を感じました。それは、既婚者で母親の学生さんに出会う機会が多かったのです。看護師を目指す姿は、20
歳であろうと30 歳であろうと同じです。ただ違うの は、人生経験を積んでいるか否かです。 訪看さんと同行しますが、事前に私の投稿文を読んで来てもらっています。 そうすることにより、私の病気についての思い、そして、物の考え方、見方を垣間見ることができるでしょう。 30 歳前後の学生さんたちは、投稿文を読んだ感想を素直に伝えてくれました(20 代の学生さんも、しっかりした考えを、持っている人も多くいました)。 彼女たちは、病院実習で神経難病の患者さんが多く入院しているところに行っていました。ALS の患者さんを担当したときの話も聞きました。 詳細は書けませんが、彼女たちは同じことを言っていました。 患者さんたちが「家に帰りたい」という思いを持っていたことです。 病院では、人工呼吸器を装着している患者さんを多く見ましたが、在宅で療養している姿を目のあたりにするのは、初めてのようでした。 穏やかに音楽を聴きながら、訪看さんと談笑している姿に驚いていました。 それは介護環境が整うか否かで大きく変わっていきます。 そこに至るには、一朝一夕では出来なかったことは、彼女たちは投稿文を読んで理解していると思います。 そんなとき、看護学生のA さんに出会いました。 A さんは既婚者で、ハンディを持ったお子さんの3 人家族です。 事前に会報を読んでくれていました。ALS に負けない強い心を持って生きる私の姿に感銘してくれたようです。 詳しいことは書けませんが、A さんは心の葛藤を乗り越え、看護師になる決心をしたのでしょう。 私がもし同じ立場なら、A さんのように人の役に立ちたいという決意はできないで、時の流れのままの日々を過ごしていたことでしょう。 帰り際にA さんが「大多和さん、看護師の国家試験に合格したら報告に来ますね」と。 「頑張ってね」と訪看さんと共に激励しました。 春のその日、一人の訪問者がありました。 「こんにちは。大多和さん。私のこと覚えていますか?」 きらきらと輝く瞳、はきはきした声。 「A さん。覚えていますよ」 「私、看護師の国家試験に合格しました!」 うれしさにあふれていました。 「良かったね!おめでとう!」 心から祝福しました。 勤務する病院も決まって二重の喜びです。自宅から遠い勤務先のことは夫も知っている病院でした。通勤も仕事も子育ても家事もすべて大変なことが待ち受けているのです。 夫もA さんと同じなのかも知れません。 仕事をしながら私の介護をしてくれています。夫は自分の経験を少し話してくれました。 常に弱い立場の人の目線に立って看護しているA さんの姿が目に浮かぶようです。 「また遊びに来てね」 「今度来る時は、子どもと一緒に来ます」 A さんはさわやかな笑顔を残し、去って行きました。 |
| 姫路城の桜 |
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| 姫路城の桜が満開のその日、夫はビデオカメラを持って撮影に行きました。 午前中に撮影を終えて、午後からスタッフも交えて観賞会をしました。 染井吉野が、お城を取り囲むように咲き乱れていました。 カメラは、1 本の枝垂れ桜を捉えていました。その花は八重で、薄紅の色が際立っていました。スタッフもその桜の存在を知らなかったのです。 夫がその場所を説明してくれましたが、おそらく観光客はもちろん、市民でもそんなに立ち寄ることのない場所だったのです。 私は、この枝垂れ桜の姿がいつまでも心に残っています。 |
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| 今年は、たくさんの春を届けてくれました。 |
| 小さい春を届けてくれた その日に……。 バースデイの その日に……。 春の門出の その日に……。 姫路城の桜の満開の その日に……。 |
| 長い冬から待ち遠しい春が、少しずつ届けられました。 とてもうれしい春でした。 みなさん、ありがとう。 |
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