「僕が残せることは? 僕が残したいことは?」  (5) 

        まだまだ子どもと一緒に楽しむぞ

             後 則孝(うしろ・のりたか) 神戸市
 ちゃんと明日はくる
 ある人から、とてもいい歌を勧められました。 某全国ネットでCMがないテレビ局の人形と人間が出てくる番組での始まりの歌で、「青空しんこきゅう」という曲名です。 走っても歩いても 地球のスピードは同じ。幸せは、後ろから追いついてくる。だからここらで、ちょっと深呼吸、という内容ですが、僕は、この歌を聞いてかなり考えさせられました。  特に僕は、「あせってものんびりでもちゃんと明日はくるんです」という歌詞の部分がすごいと思った。

 聞いたときの生活の仕方や気持ちで、大きく二つに分かれるんです。 例えば、こんな難病の病気になって「どうしよう、どうしよう」とか、悩みごとがあり、「どうしよう、どうしよう」と少しパニック気味のときや、今のうちにあれもこれもやってしまわないと、と思い気合いが入りすぎて空回りしているときは、「あせりすぎてもいいことはないから、それにのんびり時間をすごしても明日はくるんだから、ちよっと、ぼーとしたり、他のことを考えよう」と言っているように思う。 逆に、こんな難病の病気になって、何もできない、何もする気や、やる気がしないと悲観したり、落ちこんだりしているときは、「何もしないで、ぼーとしてのんびりしていると、すぐに時間が過ぎてしまい、明日がきてしまう。だから今できることをしないと、大切な時間や貴重な筋肉をなくしてしまう」と言っているように思う。本当に不思議である。

あせっても、のんびりでも
 たぶん、それはたてまえでは、「日々医療は進歩している。iPS細胞も発見されたし、必ず薬や治療法が見つかるから希望を持ってがんばろう!」と言われたり、自分自身も「そうだ!」と思っている。しかし、日々動かなくなる身体を見て、医療の進歩のスピードよりも、自分の失っていくもののスピードのほうがはるかに速く感じ、「間に合うだろうか?」。これが頭から離れない。だから、この歌を聴いたときに自問自答をしてしまうのだろう。「あせっても、のんびりでも」、どちらも正解であり、不正解だからだ。

20106月下旬
 仕事をしなくなり、毎日テレビを観てゲームをして日々が過ぎていた。妻は、週23日パートの仕事をして、週1~3日、自動車の免許を取得するために2月から教習所通いをしている。子どもたちは、学校へ行っているので、1人でのんびりする時間が増え、ふと、人生を振り返り、「あれ? 何かが違う!」と感じた。

僕のからだは知っていたのか
 今から書くことは妻にも誰にも話してないのだが、僕の身体、いや、遺伝子は病気のことを知っていたのか?と思った。なぜなら、高校3年のとき、進路で悩み、最初はインテリア系の専門学校を目指したが、色覚異常で断念。急遽、大学受験の勉強をしたが、いままで勉強していなかったので合格できそうな大学が四流大学で、しかも運悪く、10月に右手小指を体育の授業で骨折をした。これがきっかけで結局四流大学へ行くなら手に職を付けようと、食べるのも好きで、個性が出せるパティシエになろうと思った。

 パティシエになるには専門学校か直接ケーキ屋で働くかの大きく二つあるのだが、僕は直接ケーキ屋に働くことにした。なぜだか?「早く早く、急がなきゃ」と言いながら僕の背中を誰かが押している感じで、僕を焦らせた。

 これが最初で、この後、結婚するとき、転職するとき、家を買うときなどの人生の大きな選択のときに必ず、「早く早く、急がなきゃ」と僕を誰かが焦らせた。また、今、何かしておかないといけないことはないか?と日々考えていた。今、振り返っても不思議な感じだ。しかも、ALSの症状が出る頃には、僕の背中を誰かが押すことがなくなった。本当に僕の体は病気を知っていて、早く物事を決めさせたのかなあと思った。

子どもたちとプールへ
 仕事を休み始めて1か月が過ぎた頃、子どもたちが夏休みになり、にぎやかな日々が始まった。

 妻が仕事に行っているときは、長男と次女がざるそばやそうめん、冷し中華などを作ってくれた。8月に入り、神戸の六甲アイランドのプールへ行った。このプールは、入り口から水際までフラットなので、車椅子でも水際まで行くことができ、浮き輪につかまりプカプカ浮かんで、プールを楽しむことができた。

 昨年と違い、夏休みでも行ける場所が決まってしまうが、まだまだ子どもと一緒に楽しむぞー。

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