在宅看護のゲンバから その6
 
ALS患者さんの排便について その3
 
 
小林 智子 (エンパワー訪問看護ステーション)
 
 
 
(会報69号に) 引き続き、 お通じの話です。 次は下痢のほうを  と引きずつてきたのですが、実はALS患者さんで下痢って あまり聞かない かも。わざと下剤を使って便をゆるく調整している方は時々お見かけしますが 。
ということで、今回は下痢で思いつくことをとりとめもなく書いてみます。(いつも系統だっているわけでないので、 別段変わりないですね)
 
下痢にもいろいろあります
下痢とは、便の水分量が増え、形のない便が出る状態です。では、なぜ便の水分が多くなるのか  ?
人が1日に摂る水分は飲み物や食べ物から大体2リットル、分泌される消化液(唾液や胃液、胆汁や膵液、腸液など)が約7?10リットル、合計9?12リットルの水分が腸を通過します。そのうち99%は腸で吸収され、便として排出される水分は100グラム前後になります。 その過程で水分出納バランスが崩れて、便として出てしまう水分が増えると下痢になりますが、機序によって4つのタイプに分類されます。
 
 
下痢の機序によ る分類
@ 腸からの水分吸収が妨げられる 「浸透圧性下痢」
腸管に吸収されない食べ物や薬剤によって浸透圧が上昇すると、 体は
腸内の浸透圧を低下させようとして腸管壁から水分を引き出し、 水分
の含有量が多くなる。 ダイエット食品や人工甘味料、 乳糖不耐症による下痢など。
 
A腸からの水分分泌が増える「分泌性下痢」
細菌の毒素やウィルス、 ホルモンなどの影響で、 腸管からの水分分泌
が亢進することで起こる。
B吸収時間が短くなる「蠕動(ぜんどう)運動性下痢」
腸の蠕動運動が亢進し、食べ物が短時間で腸を通過してしまうと、水
分の吸収が不十分になり、下痢になる。香辛料やカフェイン・アルコ
ールなどの刺激物によるもの、 過敏性腸症候群など。
C炎症で滲出液が増える「滲出性下痢」
腸に炎症があると、腸管壁の透過性が高まり、タンパク質や血液、粘
液などが滲み出て便の水分量が増える。 クローン病や潰瘍性大腸炎など。
機序を知ったからって、 どやねん?って感じかもしれませんが 。 @の浸透性下痢。後で出てくる、注入食による下痢と関係ありです。また、漫然と処方薬を飲んでいる場合 (中身を意識していない、 なんてことはないですか?)、Mg制酸薬などが入っていれば、@もBも関係ありです。@の場合は、原因になっている食品や薬剤を中止すれば比較的すぐに治まります。 AやCは専門的な治療が必要ですね。
下痢便に血液が混じっている、 熱がある、 腹痛や吐き気がある、 などの場合は、 早めに診察を受けてください。
 
水分補給は、 どの場合も必要
下痢の原因によって、 下痢止め使用の是非はありますが、 どの場合でも水分補給は必要です。症状が軽い場合は、お好きな飲み物でよいでしょう。 しかし、重度の下痢や嘔吐、発熱で水分やミネラルが大量に失われる場合には、効率よく吸収される水分を選択する必要があります。
スポーツドリンクが頭に浮かぶかもしれませんが、ポカリスエットやアクエリアスなどはアイソトニック飲料という種類で、体液と同じ浸透圧(等張)に作られているため、 水分の吸収に時間がかかります。 速やかな水分補給のためには、ハイポトニック(低張)の方が適しています。
また、汗に比べ、下痢や嘔吐ではナトリウムやカリウムなどの電解質が奪われる比率が高いので、 それらも補う必要があります。 もしスポーツドリン
クを使うのであれば、 水で倍に薄めて浸透圧を下げ、 塩を足しましょ う。 1 リットルに対して合計3g程度の塩になるように入れればいいようです。塩は精製塩よりも、 ミネラルを含む天然塩のほうが良いでしょう。
栄養士さんや薬剤師さんが「手作りの経口補水液」 の作り方を紹介されていたので、それも載せておきます。 (作り方・使うジュースなどによって、常に適切な濃度のものができるとは限らない、 という留意点はありますが。)
 
 
〈経口補水液〉
水   1,000ml
砂糖 40g(大さじ4と2分の1杯)
塩   3g(小さじ2分の1杯)
 
 
〈カリウム入り経口補水液 その 1〉
水   700ml
無塩トマトジュース   300ml
砂糖 40g
塩   3g
 
 
〈カリウム入り経口補水液 その2〉
水   550ml
100%グレープフルーツジュース  450ml
塩   3g
 
 
〈カリウム入り経口補水液 その3〉
水   600ml
100%オレンジジュース  400ml
塩   3g
 
簡便なのは、 ドラッグストアで販売されている 「経口補水液」 の利用です。商品名としてはOS-1(大塚製薬)、アクアソリタ(味の素ファルマ)、アクアライトORS(和光堂)などがあります(スポーツドリンクよりちょっと高いですが、糖分・塩分その他の電解質がバランスよく配合されています)。 ちなみに、OS-1の塩分量はポカリスエットの約2.4倍、アクアソリタ・アクアラ
イトORSは約1.7倍です。 アクアライトは乳幼児向けで、 リンゴ味になっていて飲みやすいそうです。 また、OS-1にはゼリータイプもあり、咀嚼(そしゃく)・嚥下(えんげ)障害のある患者さんにはこちらの方が飲みやすいかもしれません。
平時にOS-1を試飲したときは、 しょっぱくて、正直「まずつ!」 と思ったのですが、 風邪でしんどいときに飲んだら、 結構おいしく (?) 飲めました。体が欲しているときは感じ方も違うようです。
ただし、 塩分やカリウムを多く含んでいるので、 それら
の制限が必要な患者さんは、医師等に飲む前に確認してくださ
い。 もちろん、 それらの制限のない人でも、 普段飲む飲料には適しません。
 
 
 
薬剤が原因のこ とも
抗生剤で下痢を起こすことはよく知られています。 ターゲットとなる細菌類だけでなく、 消化吸収に関わる腸内細菌にも影響し、 腸内環境が乱れるためですね。 また、 解熱鎮痛剤で胃や腸の粘膜が障害されて下痢を起こすことも珍しくありません。
そのほか、 薬剤が原因で起こる特殊な腸炎が数年前からちょっと話題になっています。「Collagenous colitis:CC」と呼ばれるもので、「膠原線維性大腸炎」 とか 「コラーゲン層形成大腸炎」 と訳されています。 これは小腸で代謝しきれなかった薬が大腸に到達し、(普通は大腸までは降りてこない薬に対して) 有害物かもしれないと判断した体が、 吸収を妨げるために腸壁にコラーゲンのバリアを作り、 そのために水分の吸収も阻害されて下痢になる、 というもののようです。
その原因として疑われている薬は多種あるのですが、 日本での報告例が多いのはPPI(プロトンポンプ阻害剤) という制酸剤です。商品名では、オメプラール、タケプロン、パリエットなどがあります。胃・十二指腸潰瘍の他、逆流性食道炎の診断でも処方されるようになり、 長期に服用する患者さんも増えていると思います。その他、先述のロキソニン、ボルタレン、バファリンなどの解熱鎮痛剤(非ステロイド系抗炎症鎮痛剤:NSAIDs)、高血圧の薬(カルシウム拮抗剤)などもCCの原因になりうると言われています。
長く 下痢が続いている場合、 飲んでいる薬が原因の場合もあり ます。 複数の病院から処方を受けている方は、 服用中の薬が把握できるように 「お薬手帳」などを活用して、かかりつけの医師や薬剤師に確認してもらうことも必要です。薬剤性の下痢は、その原因となっている薬剤を中止すると1週間?1 か月ほどで治まることがほとんどです。
 
経腸栄養剤に関連した下痢
経鼻チューブや胃瘻を通じて食事をされている患者さんが下痢になった場合、 経腸栄養剤に関連した原因があるかもしれません。 下痢の発生要因は、投与速度、 浸透圧、 栄養剤の組成、 細菌汚染の主に4つが考えられます。
 
投与速度
投与速度はできるだけ遅い方が良いと言われています。人間の胃の排出速度は200Kcal/時なのだそうです(年齢が高くなると、排出速度は遅くなっていく傾向がある)。 だから、 安全を考慮して投与速度は 100Kcal/時が望ましい  とか。でも、それだと、 1回に400Kcalほど入れないといけない患者さんは4時間以上拘束されることになります。逆流予防のために30 もしくは90 ベッドアップ、注入後さらに30分程度は頭を下げない方が安全 となると、かなり臀部への負担がかかりますよね 。
というわけで 。術後管理と違って、消化機能に問題のない患者さんの場合は、様子を見ながら投与速度を上げていってもよいと思います。もちろん、経管栄養開始時は少量 (必要に応じて濃度も薄める) をゆっくり注入しますが、 徐々に量や濃度を増し、 目標量にある程度慣れてきたら、 徐々に時間を短縮していく、という感じで。その途中で気分不良・動悸・下痢などの不調があれば、またゆっくりペースに戻して、様子を見ます。私がかかわっている患者さんの多くは1?1.5時間くらいで注入を終了しています。
胃の排泄速度は注入物のカロリーに左右されるので、 先に水分を早めの速度で入れて、そのあと栄養剤をゆっくり入れると、胃の張る感じはましかもしれません。 もともと経腸栄養剤の塩分は少な目で、塩を処方薬として入れる場合もあるくらいですから、このとき入れる水分を「経口補水液(ORS)」にすれば、 さらに吸収速度が増して胃内貯留量を減らせるでしょう。 ただし、 しつこいようですが、ORSの使用については、 かかりつけの医師に確認してく
 
ださいね。
また、栄養剤を固形化・半固形化すると、注入自体は速く行えます(というより、こちらは速く入れなければなりません)。300?600mlを5?15分程度で、 一気に入れることで腸蠕動が惹起されるからです。 固形化・半固形化によって消化はゆっくり、 胃食道逆流はしにくい状態になりますし、 下痢の改善に効果があると言われています。 ただ、 寒天で作成するのは手間がかかりますし、ゲル化剤・増粘剤、市販の半固形化栄養剤は安価ではありません。
しかし、下痢が続いておむつ代・水道・電気代がかかり、本人の苦痛と介護者の苦労が相当な場合、コストが多少かかってもメリットが上回っている、と考える方もあります。 半固形化栄養剤や食物繊維入りの栄養剤が保険適応になればいいのですが 。
 
 
浸透圧
以前は浸透圧が下痢の原因と考えられていましたが、最近は浸透圧が高い栄養剤でも、 投与時間を調整することで下痢は防げると考えられています。希釈については、細菌感染の原因になりうる、薄めた分、量が多くなり余計に時間がかかる、時間が長くなると菌の増殖リスクが高まる 等々の理由で、(開始時以外は) 勧められていません。
日本で使われている経腸栄養剤の濃度は1?2Kcal/mlですが、同じ濃度でも製品によって浸透圧は異なります。 ゆっくり注入しても下痢が止まらないようなら、別の製品に変更する選択もあります。
栄養剤だけでなく、浸透圧の高いシロップ剤などでも下痢を誘発することがあるようです。
 
 
栄養剤の組成
栄養剤の組成は製品によって異なり ます。 乳糖不耐症の場合 (牛乳で下痢をする方) は乳糖を含まない栄養剤を選択し、 脂肪の消化吸収障害がある場合は、 脂肪含有量の少ない栄養剤を選択するなどが必要です。
また、 中鎖脂肪酸、 食物繊維やオリゴ糖配合の製品も下痢の改善につながる場合があります。
 
細菌感染
栄養剤という名前の通り、とても栄養価の高い液体であるがゆえに細菌感染の危険性は高いと言えます。 特に在宅ではイリゲーターを長期に使用する場合が多く、 洗浄が非常に重要になってきます。
イリゲーターのふたの裏側や、 チューブ先端の硬い部分の内側などに汚れが付いたままになっていないでしょうか?  1日放置でかびが生えることだつてあります。 気を付けて目を凝らさないと、 汚れが落ちていないことに気が付かないことがあるんですよ 恐ろしいことに。
ある調査研究によれば、水、熱湯、中性洗剤、それぞれ単独の洗浄では、直後?3時間で細菌が検出され、 衛生的に不十分であることが示されています。望ましい方法は、中性洗剤で洗浄後に、次亜塩素酸ナトリウム溶液(ミルトン・ハイターなど)もしくは熱湯に通し自然乾燥させる、とあります(蛇足ですが、 消毒液につける前にきちんと汚れを落としておかないと、 消毒効果は十分得られません)。
ミルトンを使われているおうちもあるのですが、イリゲーターが浸かる大きめのバケツに消毒液を作るとなると、 結構コストも手間もかかるので、 二の足を踏んでしまうことも多いと思います (本当はそうしたほうが良いと分
かっていても  )。 私は、 台所洗剤で洗った後、 何回か湯を通し、 最後に熱湯を流すようにしています。
シャカシャカでは、汚れが残ります
洗浄と言えば 。ヘルパーさんに注入の実地研修を行っ
たときに、 複数の方から言われて驚いたことがあります。 「台所用スポンジが油などで汚れていることが多いので、 スポンジは使わずに洗剤を入れてシャカシャカしています」 とか「洗剤と指で洗っています」 とか 。ふたの裏の細かい目地などは機械的にこすらないと汚れは落ちないので、 「シャカシャカ」 では汚れが残ってしまいます。
おうちの方にお話しして、食器洗浄スポンジとは別に、注入物品用のスポンジと、 小さなブラシを用意していただいたところも何件かありました (ちなみに、 油でギトギトも嫌ですが、食品のカスがついたままのスポンジは、数時間で排水溝並みの細菌が繁殖するとか 。 食器を洗った後はスポンジも
きれいにしなく ちゃいけませんね。 もちろん、 イ リゲーターを洗った後のスポンジも栄養剤が残らないようにきれいにすすいでください)。
チューブの内側にへばりついている栄養剤の塊もときどき見かけます。 ラコールやエンシュアリキッドなどの半消化態栄養剤では、PH(ペーハー)が酸性に傾くとカード化(ヨーグルトのように固まる)現象を起こします。例えば、 栄養剤に続けてジュースを入れるなどすると、 チューブ内に残っていた栄養剤とジュースが反応して塊が出来ます。 それをすぐに洗浄して流してしまえばいいのですが、 時間がたつと相当頑固にへばりついてなかなか取れなくなります。 栄養剤とジュースの間には必ず白湯を通してくださいね。 チューブに付着してしまった塊はしごきながら流していくしかありません 。
洗剤をつけたスポンジで管の外周を押さえながら洗い、洗剤で滑りやすくした状態でクレンメ (ストッパー)を閉じたまま移動させると、結構塊が移動します。 何度か繰り返して湯を流せば、 ある程度きれいにはなります。 小さなブラシが届く先端部分はブラシで洗浄しましょう。
 
 
その他
温度管理については、温めても時間をかけて注入している間に冷めてしまう、 温めることで細菌増殖が加速される、 などの理由から、 常温注入が勧められています。 ただ、 冬場は保管場所によってはかなり冷たくなっている場合もあるので、 人肌程度に温めたほうが良いと思います。 私は缶や袋を湯煎してから使っています。
 
豆知識 (?)
 
 
尿テストテープ
尿の糖やタンパクなどを調べるテープが、 ドラッグストアでも購入できるのですが、これを下痢便の鑑定(?)にも使えると、よその訪問看護師さんに教わりました。 栄養剤が原因の下痢の場合、糖やタンパクが陽性になり、抗生剤などの副作用で下痢の場合は陰性なんですつて。 幸か不幸か、 それを聞いてから試す機会がないので、やってみたことはありませんが 。
 
 
プロバイオティクス、プレバイオティクス、シンバイオティクス
プロバイオティクスとは、腸に有益な作用を与える生きた菌(乳酸菌・ビフィズス菌など)、または、それらを含む食品のこと。プレバイオティクスとは、 食品に由来する成分で、 腸内の有用菌を増殖させる働きのあるもの (オリゴ糖などの少糖類、食物繊維、ラクトフェリンなど)のこと。シンバイオティクスはこの2つを併用すること、 あるいは併用する食品のことを指します。
状態がなかなか改善しないときに、週に2回ヤクルトを飲むことや、 1/日だけ栄養剤をアイソカルサポート(グアーガムという水溶性食物繊維を含有)に置き換えることで下痢が止まることもあるようなので、 毎日や毎食と気負わずに、 少し取り入れてみるくらいの気持ちで始めてみるのもよいかもしれません。
 
長々と書いてしまいましたが、事務局からは「患者さんのエピソードのほうが分かりやすいし、皆知りたがっていると思うよ」 と言われていたのに、そちらは全然書けませんでした。 また、 機会があれば  (こうやってまた自分の首を絞めることになるんですよね )。
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