連載第16回
 
 ガー子の冒険(1)
 
        姫路市 大多和 清子
 
 ある公園の一角に小さな池がありました。そこには、4羽の白鳥と茶色にグレーを混ぜたような色の水鳥が1羽いました。
 午前と午後の2回、5羽のショーが行われます。
 4羽の白鳥が輪になり、その中央に水鳥が小さめのビーチボールを受け返すしぐさが何ともいえず愛らしいので人気者になっていました。
 
 晩秋のある日のことです。
 
 いつものように、2回のショーが終わり、白鳥たちは身を寄せ合うように固まり、水鳥は離れて体を休めていました。夕闇がせまるころ公園の事務所の村上さんが巡回をしていると、池の畔に水鳥がぐったりしているのを見つけました。水鳥はすでに死んでいました。
 
 村上さんは急いである所に電話をしました。
 
 ある所とはここから二山も三山も越えた所にある農場です。そこの経営者の山本さんに電話をしたのです。
 
 水鳥が死んだことを伝え、早急に代わりの水鳥を持ってきてもらうように頼みました。山本さんは明日の朝、代わりの水鳥を届けると約束しました。
 
 翌朝、山本さんは公園にやって来ました。村上さんは亡くなった水鳥が入った木の箱を開け、山本さんに見せました。「シーちゃん、ごめんな。働きすぎたんだね」。背中をなでながら涙を流していました。木の箱を大切そうに車の中に置きました。そして、ゲージから1羽の水鳥を出そうとしたとき、「あっ! 間違えた!」足のタグの番号が違っていたのです。次の瞬間、水鳥は山本さんの手から羽ばたいて行ってしまいました。
 
 あの水鳥は「ガー子」という名前。名前のように、一際「ガーガー」と大きな声で鳴くのです。農場では問題児でみんなからいつもブーイング。
 山本さんと村上さんは網を持ってガー子を探しに行きました。
 
 逃げ出したガー子はキョロキョロと隠れる場所を探していました。「あっ!いいとこ見―つけた!」。そこは金網のフェンスがあり、その向こうは倉庫になっていました。ガー子はフェンスの上を飛び越えて倉庫の裏にひさしのある所を隠れ場所に決めました。そこで騒ぎが収まるのを待ちました。
 
 小一時間過ぎたころ、ガー子は見つからないようゆっくりと山本さんの車の近くまで来ました。山本さんはペコペコお辞儀をしながら村上さんに「申し訳ありません。ご迷惑をおかけ致しました」と、ひどく恐縮していました。山本さんは明日、外せない用があったので結局、代わりの水鳥は明後日持ってくることになりました。そして、捕まえることができなかったガー子を、明後日までに捕獲してくれるよう頼み、ゲージを村上さんに預けました。
 山本さんは、農場へと帰っていきました。
 
 ほっとしたガー子は「これでみんなが言っていた公園とやらを探検できるわ」。池の畔にやって来たガー子は恐る恐る水の中に入ろうとしましたが、やはり怖くなり、慌てて水面でバタバタしながら白鳥たちのいる所まできました。「まぁ、水鳥なのに泳げないなんて、おかしいわ。オホホッ」と白鳥たちに笑われました。
ガー子は急いでその場から逃げようと、勢いよく水しぶきを上げ飛んで行くことができました。
 
 池の畔にいくつかのベンチがあり、その内の1つにお母さんと3、4歳ぐらいの女の子が座っていました。
ガー子の水しぶきが女の子の服にかかったのです。女の子は泣き出し、お母さんはハンカチで拭こうとしましたが、トレーナーもズボンもずぶ濡れ。急いで公園の事務所へと行きました。
 
村上さんに経緯を説明して「どうにかしてよ! 風邪引いちゃうわよ!」とすごい剣幕で詰め寄りました。村上さんは何度も謝り頭を下げました。女性事務員によって、ストーブの前で濡れた服をハンガーに掛け、女の子に「ごめんなさいね。しっかり暖まってね」と毛布を掛けながら優しく声をかけました。
お母さんと、もう一人の事務員が子ども服を買いに行きました。
 
隠れ場所に帰ったガー子は、「あぁ怖かった。二度とごめんだわ。あんなとこ」。ガー子のせいで大騒ぎになっていることなど、知るはずもなく一休みをするガー子でした。
 
ガー子は空腹で目が覚めました。朝から何も食べてないことに気付いたのです。
みんなに見つからないように隠れながら食べ物を探しに行きました。
ショーが終わった池の畔は、人影も少なく閑散としていました。
 
見つけてしまったのです。ガー子はあのとき必死で逃げたから気付かなかったのです。池の近くに白鳥のエサを売ってるワゴンがあったのです。
ガー子は、後ろを向いてお弁当を食べているおばさんの隙を狙ってエサをくわえて逃げました。気配を感じたおばさんが「ドロボー!あの水鳥よ!」
村上さんが呼ばれ、エサ代を弁償して何度も謝りました。
 
エサを手に入れたガー子は、おなかが空いていたので思いっきり食べた後で気付いたのです。袋には、あとわずかしか残っていないことを……。
ガー子は明日、食べるものがないことを「明日のことは明日考えればいいわ」と楽天的に考えていました。
 
山本さんの農場は有機農法で、米や野菜などを作っています。
水田に苗が植えられ、ある程度成長すると水鳥たちは一斉に放たれ害虫の駆除をするのです。
約20羽の水鳥たちは、その仕事をするのですが、たった1羽だけ遊んでるのがいます。それは、ガー子です。
ガー子は小さいころから、水が怖くて大人になって挑戦しても無理でした。
 
水鳥たちは、農閑期に入ると、小さな池でキャッチボールの練習をします。
村上さんからの依頼で、数か所の公園の池で白鳥との「芸」をするようになり、1年が過ぎていました。
山本さんは、乗り気ではなかったのです。条件を出しました。それは、水鳥の健康面をたえずチエックこと。異変が起きたらすぐ連絡すること。
村上さんも了承して水鳥の「出張」は成立したのです。
 
山本さんは、水鳥たちが「出張」に備えてキャッチボールの練習を楽しくやっている姿を見て「これでよかったんだ」と自分に言い聞かせました。
 
太陽の光で目覚めたガー子は、辺りが静かで昼間の賑わいがないことに気付いたのです。
昼間の賑わいは池のエリアと反対の方から聞こえたことを思い出しました。ガー子は「探検するなら今しかないわ」と早速、行動を開始しました。
やって来たところは、子どもの遊ぶ乗り物がありました。その向こうの建物からいい匂いが漂ってきました。ガー子はどこかで嗅いだことのある匂いです。
思い出したのです。農場の山本さん家族が住む家から漂ってきた匂いと同じだったのです。
その建物は、カフェレストランです。朝からカレーの仕込みをしていたのです。
 
ガー子は、しばらく歩いていると事務所らしい建物の外で掃除をしている人が目に入りました。「あーびっくりした!」。そこにいたのは、村上さんでした。ガー子は飛んで逃げました。
隠れ場所に戻ったガー子は「危ないわ。もう少しで見つかるところだったわ」と今日1日おとなしくしようと思ったのです。そして昨日の白鳥のエサの残りを食べてじっとすることにしました。
 
いつの間にか公園は開園しており、池の辺りや乗り物に乗った子どもたちの歓声が聞こえています。賑やかさと空腹で目が覚めたガー子は思案しました。今日1日我慢するか、昨日のように一か八かやってみるか……。考えた末、空腹には勝つことが出来ず、行動を開始することにしました。
 見つからないように、そろりそろりと木の陰に隠れ、辺りを見渡しました。昨日、白鳥のエサを1袋失敬したワゴンにはおばさんはいなかったのです。よく見ると、ワゴンの上に透明のフタがしてあったのです。おまけに鍵までしてありました。ガー子からエサを盗られないようにしたのと、防犯のためでもあったのです。
 
 ガー子は、池の畔でお母さんと小学1年生ぐらいの男の子がベンチに座っているのを目にしました。男の子は無心でポップコーンを食べていました。ガー子は焦点をそのポップコーンに合わせ、一瞬にして袋ごと奪い去りました。
 「ないよ! ぼくのポップコーンが……」
 その光景を見ていたおばさんが、走って来て「行方不明の水鳥が、かっぱらって行ったのよ!」と言い、公園の管理事務所に電話をしました。
 
 村上さんが袋を持ってやって来ました。そして、男の子の前にひざまずき「坊や怪我はなかった? ごめんなさいね」と袋に入ったお菓子の詰め合わせを渡しました。
 「ぼくが悪いんだ。お昼ご飯の前に食べちゃダメだってお母さんに言われていたのに守らなかったから……」「きっと水鳥さんは、おなかが空いていたんだと思うよ。水鳥さんを見つけても怒らないでね」と村上さんにお願いをしました。母親も「かえって迷惑をかけてしまって申し訳ありません」と言い、親子はお辞儀をして去っていきました。
 
 村上さんは自分の愚かさに気付いたのです。ガー子を捕まえることばかり考えてエサをあげるのを忘れていたのです。そのことを男の子から諭された思いがしました。
 
 ポップコーンをせしめたガー子は、がむしゃらに食べましたが、夜と翌朝の分を残すことは忘れませんでした。
 おひさまが顔を出し始めたころ、山本さんが公園にやって来ました。その車の音で目覚めたガー子は、急いで残してあったポップコーンを食べました。
 
 そろりそろりと見つからないように、山本さんの車の後ろにまわりました。
 車のそばにはゲージが置かれていました。
 村上さんはすでに来ており、山本さんとお辞儀をしあっていました。
ガー子の行いはお互いのミスであるということで決着がついたのですが、山本さんは迷惑をかけたおわびに、たくさんの採れたての野菜を村上さんに渡しました。
 村上さんは恐縮しながら受け取りました。
 
 
 
「ところで代わりの水鳥は?」。車の中からゲージを出し、その中にはガー子より少し小ぶりで品のある水鳥が入っていました。
 「この子は、あやといいます。うちで1番運動神経があります」と山本さんはゲージから取り出しました。村上さんはあやを見て「かしこそうで、凛としていますね」と。
 二人は池にあやをつれて行きました。山本さんは両手であやを池の畔におきながら「あや、頑張るんだよ」というと、「クワッ」と返事をして白鳥たちの元にスイスイと泳いで行きました。白鳥たちとにこやかに会話して、早速ボールで練習をしていました。
 
 山本さんの車の方から「ガチャーン」と金属音が聞こえてきました。
                           =次回へつづく=
          (ALSに直接関連性がないかも知れませんが、広い視野
           で見た私のメッセーです)
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