連載第17回

 ガー子の冒険(U)

      姫路市 大多和 清子


(前回のつづき)
山本さんの車の方から「ガチャーン」と金属音が聞こえてきました。

山本さんと村上さんは音のする方に走っていきました。
車の横でガー子がゲージに頭から突っこんで、お尻を出しバタバタしてゲージごと倒れていました。
山本さんは急いでガー子をゲージから助け出し、「村上さんにガー子謝りなさい」とおじぎをさせました。ガー子は「クワックワッ」と鳴きました。村上さんは「ガー子、僕がエサを用意するのを忘れたから……ごめんな」。ガー子は、うつむきかげんで小さく「クワッ」と鳴きました。
 ガー子はゲージの中でエサを食べていました。

 「ところで山本さんは農場をやり始めて何年になりますか?」「3年が過ぎました」

山本さんは、あるスーパーの農産物の仕入れ担当をしていました。
この会社の社長の考え方に共感したから入社したのでした。

社長の理念は
常に相手の立場に立って考えること。
安心・安全な商品をお客様に提供すること。
決して売り上げ至上主義に走らないこと。
お客様は全て平等である。
山本さんは農家を1件1件回り、有機野菜・果物を作ってくれる契約農家を増やしていきました。ときには土から改良したりして努力を惜しみませんでした。
売り場には有機野菜や国内産の原料を使用した食品が並んでいました。
噂を聞きつけ遠方からもお客さんが多く訪れ、いつの間にか地域で1番になっていました。
そんなとき、社長が神経難病を発病したのです。進行が早く枕元には後継者である息子と山本さんたちがいました。社長は必ず理念を守るように、そして出店はするなと遺言を残しました。
しかし、新社長になった息子は四十九日も済まないうちに正反対の経営方針を打ち出したのです。山本さんたちは猛反対をしましたが、取り付く島もありませんでした。
出店こそしませんでしたが、有機野菜などはいっさい置かない、安心・安全な食品はおかない、という方針に変わったのです。山本さんは契約農家に1件1件あやまり、野菜をおいてくれる道の駅やスーパーなどに頼み、道筋を立てました。その後、山本さんたち大半の社員は退職しました。



山本さんは退職金と家を売ったお金で農場を開きました。3人の息子家族も一緒に加わることになりました。
山本さんは自給自足の生活が夢です。旬の野菜や果物。家族が食べるくらいの卵を産んでくれるニワトリ。乳牛から搾った牛乳、チーズやバターなどはスーパーや道の駅に置いてもらっています。
たくさんの物を有機農法にするのは大変でしたが、孫たちに安全で安心できる物を食べさせたい思いでいっぱいでした。

山本さんが辞めたスーパーはその後……
前社長の残した理念を守らなかったのです。
ワンマンでどんな小さなことでも報告しなければならないのでした。
社員のサービス残業も毎日のように行われていました。
何よりも粗悪な商品を売っていたため客足が遠のいて行きました。
そんな時、牛肉などの産地偽造が発覚したのです。
すぐに摘発され倒産しました。
悪いことをするといつかは天罰がくだります。まさにその通りになりました。

 「山本さんはガー子に対しても他の水鳥たちと分け隔てなく接しているのがよく分かります」と村上さんが言いました。
「ありがとうございます。単に平和にと思っているだけですよ」と山本さんは照れくさそうに答えました。

やがて二人は深々とお辞儀をして別れました。

山本さんとガー子は農場へと……。
山本さんはガー子に「帰ったらみんなと仲良くするんだよ」「クワッ」とガー子はうつむき加減に答えました。



農場に着くとガー子はみんなのいる所に飛んで行きました。
みんなは集まってキャッチボールの練習に行くところでした。
リーダーのマキはガー子に「あんたのことに関わるのはやめたわ」と走り出そうとしましたが立ち止まり「シーちゃんのことがあってから半月のローテーションになったのよ。あんたには関係ないけどさ。シーちゃんのお墓は、少し行った小高い丘の上にあるわ」。それだけ言うとみんなの所へ行きました。

 ガー子は、とぼとぼとシーちゃんのお墓の前まで来ました。
 シーちゃんのことを思い出しました。いつも優しくガー子に接してくれました。みんなからのいじめにも姉のように守ってくれました。ガー子の目から涙が溢れ出しました。

わがままに振る舞い、リーダーのマキといつも喧嘩。そんな自分を優しく見守ってくれたのは山本さんでした。何の取り柄もない水鳥はどこかの動物園に……はたまた最悪の運命に……。
 ガー子は今までの行いに対し、自分の傲慢さに気付いたのです。

 ガー子はいつものように散歩していると、何やら騒がしい様子が目に入りました。
 羊たちを3羽の水鳥が必死に小屋へと追い込みをしているのですが、一向に入る気配はなく収拾がつかなくなっていました。
 ガー子はすぐその場所に飛んで行きました。「私がやってみるわ」と言うと羊たちの前に立ちはだかり、右へ左へと高く飛びながら一際大声で「ガー!ガー!」と鳴きながら羊たちを追い込んで行きました。それを見ていた3羽の水鳥は「素晴らしいわ!ガー子に明日からお願いしてもいいかしら?」と尋ねたら「任せなさいよ!」と自信満々に答えたガー子でした。

 その光景を見ていた山本さんは「ガー子よかったね」と優しくつぶやいたのでした。

                        (おわり)


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