| 連載第 18 回 おはなし「ミクちゃんの夢」Ⅱ 姫路市 大多和 清子 (会報 66 号に書いた「おはなし」の続編です) 前回の簡単なあらすじ ミクちゃんはパパとママとねこのチコの3人と1匹で、幸せに暮らしていました。そんな時、ミクちゃんが不治の病にかかり、歩くことも食べることも、しゃべることも出来なくなりました。 ある日、チコの体調が悪くなり、動物病院で診てもらうと、腎臓が悪くなっていました。薬を与えようとしても飲むことなく、日に日に衰弱していくばかり。歩けないはずのチコがミクちゃんのベッドに力を振りしぼり駆け上り最後の挨拶をしたのです。 チコが亡くなり泣いていたミクちゃんは、ママのお友達から、お日様の光を体にため、頭が左右に動くピンクの小さな人形をもらいました。 窓辺に掛けられた人形を「ピンクエンジェル」と名づけ、友達になりました。ピンクエンジェルはミクちゃんの願いを 24 時間かなえてあげることにしました。ミクちゃんは「元気だった頃の体に戻りたい」のが夢だったのです。 ピンクエンジェルの翼に乗って着いたところは、ミクちゃんの家のリビングでした。そこには、パパとママとチコがいました。4人は抱き合いました。チコと「だるまさんが 転んだ」の遊びをして、おなかが空いたミクちゃんにママが作ったご馳走がテーブルに所狭しと並べられていました。ミクちゃんはおなか一杯食べ、いつの間にかソファで寝てしまいました。気がつくとピンクエンジェルが立っていたのです。「24 時間が過ぎるわ」 ミクちゃんはチコを抱いてピンクエンジェルの翼に乗り、少し飛んだところで、「チコは一緒に行けないのよ」。ミクちゃんは「チコー!チコー!」「チコ……」ミクちゃんが目覚めたとき、心配そうなママの顔がありました。傍らにはチコそっくりのぬいぐるみが置かれていました。窓辺ではピンクエンジェルが頭を左右に振り続けているのでした。 ミクちゃんは1週間に3回の訪問看護を利用しています。看護師の優子さんと気が合い、ケアをしながらいろんなお話をしてくれます。ミクちゃんは口パクで質問をしたりしました。 優子さんは、お父さんのお仕事の都合でいろんな土地に移り住んだそうです。その土地、土地のお話をしてくれました。 ミクちゃんが特に興味を持ったのは、北海道の富良野のラベンダーです。優子さんはたくさんの写真を見せてくれました。まるでお花のじゅうたんのようでした。いつしか行ってみたいと思うようになりました。そのことを優子さんに伝えました。 「ミクちゃん、いつか一緒に行きましょうね」と優子さんがやさしく言ってくれました。 いつも来てくれていた優子さんが1週間たっても来ません。2週間たっても来なかったのです。ミクちゃんは時間になると耳を澄まして「こんにちは」と玄関から聞こえる優子さんの元気な声を待っていました。 ママが看護師さんに聞いたところ、いとも簡単に「辞めましたよ」。理由を聞くと「さぁ?」とつれない返事が返ってきました。 優子さんはお休みを長くとる時はミクちゃんに「1週間、実家に帰ってくるわね」と、必ず伝えてくれました。今思えば、優子さんと最後に会った日は「ミク ちゃん、また来るね」と明るく手を振っていつもと何も変わらなかったのです。 ミクちゃんはショックで毎日泣いていました。ママはどうしていいのか分からず、「きっとまたミクちゃんに会いに来てくれるわよ」と慰めるしかなかったのです。 季節めぐりて春がやってきました。 ママはお庭に春の花をいっぱい植えました。赤や黄色やピンクの色とりどりでまるでお花の絨毯のようです。 ママはラベンダーの苗も植えました。きっと夏には花が咲くことでしょう。 ミクちゃんのお部屋の窓からお花の絨毯を見た瞬間、ミクちゃんの心にもようやく春が来ました。 梅雨も明け、せみの合唱が始まり真っ青な空。夏のはじまりです。 ミクちゃんの家の玄関から「こんにちは!」。聞き覚えのある声を耳にしたミクちゃんは満面の笑みで「優子さんが来てくれた!」。「ミクちゃん、ごめんなさいね。だまって辞めてしまって……」。ミクちゃんは、ただただ感激のあまり大粒の涙を流し、嗚咽が止まりませんでした。 優子さんとママも涙を流し、再会を喜びました。 優子さんはミクちゃんに会ったその日の夜、「ハハキトク」の知らせを受け九州へ帰ったのでした。幸い、命は取りとめたものの半身不随になり、ずっと看病を続けました。しかし、介護の甲斐なく桜を見ることなく天国に……。49 日を済ませ、ようやく帰ってこられたのです。 優子さんはミクちゃんに北海道旅行のパンフレットを見せました。富良野のお花畑が大きく写っていました。優子さんは「みんなで富良野へ行きましょうよ!」と目を輝かせて言いました。「ほんとに行けるの? 信じられない!」と興奮した ミクちゃんは「夢みたい!」と顔いっぱいに嬉しさを表しました。 ミクちゃんとママと優子さんの3人で行くことになりました。パパはお仕事の都合で行けないのです。 優子さんが借りた福祉車両で空港へ。ミクちゃんは初めて乗る飛行機に胸をおどらせました。空港では専用の車椅子に乗りかえて、一番最初に客室乗務員のお姉さんが席まで連れて行ってくれました。とても優しく移乗も手伝ってくれました。いよいよ離陸です。街が小さく見え青空の中に入って行きました。 北海道に到着しました。まっすぐどこまでもつづく道。見わたす限り広大な風景。ミクちゃんは感動しました。 あこがれの富良野に着きました。 まるでお花の絨毯です。それは写真と同じでした。優子さんは「ミクちゃん、来れてよかったね」。ミクちゃんは、コクンとうなずき、「夢を見てるみたい。優子さん、ありがとうね」と笑顔で答えました。優子さんは、ミクちゃんの写真をいっぱい撮りました。 ミクちゃんの夢はかなったのです。 北海道から帰ってから3日後に優子さんが来てくれました。 北海道で撮った写真の中から笑顔のミクちゃんの素敵な1枚。3人の笑顔。富良野のお花の絨毯。その3枚を写真立てに入れてプレゼントしてくれました。 優子さんは1冊のアルバムをミクちゃんとママの前に差し出しました。 アルバムを開けると「北海道の旅」と美しい文字で書かれていました。 次のページからは空港で客室乗務員とニッコリ。機内での様子。北海道の大自然。富良野でラベンダーの中のミクちゃん。ホテルでくつろいでいる姿。ついでに訪れた旭山動物園。初めて頭上に現れたアザラシにびっくり。珍しい動物とツーショット。 たくさんの思い出が手作りのアルバムにまるで宝石のようにちりばめられていました。 それから1週間後、「こんにちは」。優子さんが来ました。私服ではなく、看護師さんの制服姿でミクちゃんの前に現れたのです。ミクちゃんは驚き「優子さん、また来てくれるの?」。「そうよ。これからもよろしくね」と明るく答えた優子さんでした。その瞬間、ミクちゃんの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちました。優子さんとママも、もらい泣きして、やがて3人は笑顔になりました。 庭のラベンダーは今を盛りに咲きほこっています。 |
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