連載第20回
おはなし「ミクちゃんの夢」V
姫路市 大多和 清子
(会報79号の続きです)
ミクちゃんは看護師の優子さんが訪問してくれるようになってから明るさを取り戻しました。
天気のいい日は優子さんとお庭を散歩するのが日課になっていました。
ある日、いつもママが季節の花々を咲かせている花壇を見ていました。優子さんが「西の方へ行ってみましょうか」。西側には木々が植えられていました。そこにママがやって来ました。「あら! こんな木、植えた覚えがないわ」と、びっくりしてその木をただただ見つめるばかりでした。
その木とは「シュロの木」だったのです。ママは数年前「マキの木」の15pくらいの苗を植えた記憶がありました。マキの木は植えたきりそのままになっていました。パパは芝生の手入れはしますが、花や樹木はママの仕事です。ママは不思議さを覚え、シュロの木について調べました。シュロからタワシが作られていることは知っていました。他には実は漢方になること、鳥が好む実だということがわかりました。
ママはシュロの木のことをみんなに伝えました。
ママは改めてシュロの木の下に行ってみると、白くて丸い小さな実を見つけました。(これがシュロの木の実なのね)
ママはシュロの小さい実をみんなに見せました。1粒割ってみると、中から薄茶色の種らしきものが出てきました。みんなは「こんなに小さな実なのに、中に種が入ってるなんて不思議だわ」と驚きました。
ママはシュロの木の傍にそっと小さな実を戻しました。
ミクちゃんは優子さんからリハビリを受けていました。右手を動かしていたところ、ミクちゃんは何気なく親指に力を入れると、ほんのわずかに動いたのです。「ミクちゃん、ゆっくり動かしてみて」。5mmぐらい動いたのです。そのことをママに伝えると、「奇跡だわ?」とミクちゃんの親指を見ながら涙を流しました。ミクちゃんは口パクで「きちんと動くように練習するね」と笑顔で、ママと優子さんに言いました。その日から少しずつ動かす練習を続けました。
2週間たった頃、ミクちゃんの右手親指はしっかり動くようになっていました。
ミクちゃんの手足は数年前から動かなくなっていました。それなのに、右手親指が動いたのです。まさに「奇跡」としか言いようがありません。右手親指が動くだけで幸せ一杯のミクちゃんでした。
優子さんと作業療法士さんがミクちゃんの家にやってきました。作業療法士さんはパソコンを持ってきて、ベッドのテーブルの上に置き、セットしました。そしてミクちゃんの右手の甲にスイッチを貼りました。「ミクちゃん親指を動かして何か言葉を打ってみてね」。
「こんにちは、ミクです。」とゆっくり打ったのです。みんなから拍手が起こりました。
作業療法士さんは「♪を押してごらん」とミクちゃんに言いました。ミクちゃんが押すと「エリーゼのために」の曲が流れてきました。ミクちゃんが好きな曲でした。「これはママやパパを呼ぶとき、使うんだよ」
今までミクちゃんは、ママたちを呼ぶことが出来なかったのです。
キッチンでママが料理をしたりするのを見たりして、なるべく近くにいるようにしていました。♪を押せばいつでもパパとママを呼ぶことが出来るのです。
「ミクちゃん、次はきっと驚くよ」と言いながら「ここを押してごらん」。それは小学3年の学習が入っていました。国語を押すと漢字が書かれていて、ミクちゃんは読み仮名をいとも簡単にひらがなを押し、回答したのです。そのとき、赤○が出てきたのでみんなも「素晴らしい!」。その調子で算数などの問題も解いていったのです。なんと国語辞典も付いていて、他にも「読書」を押すと3年生にふさわしい本の題名がいっぱい出てきました。ミクちゃんはこれまではママに本を持ってもらい、読書をしていました。そのほかの勉強もママの手作りの教材で勉強してきたのでした。
優子さんから「ミクちゃん勉強をするときはこの眼鏡をかけてね」とミクちゃんの顔に眼鏡をかけました。「この眼鏡はパソコンから目を守ってくれるから」。ミクちゃんは鏡を見て「なんだか賢く見えるわ」。みんなは「よく似合っているよ」と笑顔で満ちあふれ、やがて感激の涙に変わりました。
ミクちゃんたちはシュロの木の下にいました。みんなが大きなその木を見上げていたとき、一羽の鳥が旋回していました。その鳥はまるで孔雀のような綺麗な羽を広げて、変わった鳴き声を発していました。やがてシュロの木の下に降り、何かを探しているようでした。すぐに白い小さな実を見つけ、くちばしでくわえて飛び立ったのです。再びミクちゃんたちの上を旋回して空に消えていきました。
「あの鳥さんは木の実をどこに持って行くの?」
「きっと幸せを運んでいるのかも知れないわね」