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私の歩んできた道(1)  大川 達さん
飲食時の姿勢(会報31号 1999年7月10日発行)

 私が気管切開をしたのは1992年(平成4年)6月27日でしたが、この約7か月前から普通に寝ている体勢では、飲食物がだんだんと飲み込みにくくなってきました。

 いつまでも味覚を得たいために、口から食べたいと望むのがALSの患者ですが、一つ一つの機能が失われ、それがかなわなくなるのもALS患者だといわれております。私はALSの中でも、かなり進行した患者ですが、イヤシイのか、口から食べることにかかわりすぎたおかげで、いまでも味覚を得ることができるのはありがたいことです。

 その私にしても、これまで他の同病患者と同様、食べることが困難になるたび、その対応に以下のようなさまざまな方法(基本的に私から向かって右側から食べさせてもらう)を試してきました。

*舌が動かなくなることによって 
1. 飲み込みやすくなる舌の奥まで食べ物を運べません。
   
2. かんでも、口の中で混ぜることができなくなり、同じところをかむため、食べ物が細かくならず、飲み込んでも、のどにひっかかり、いつまでもすっきりしません。
   
+ + この二つを解決するため、ミキサー食にして、さらに奥まで流れ込みやすくなるように、出し汁や牛乳でのばして軟らかくしましたが、普通の体勢では口が開かないため、せっかくのミキサー食も入りません。

*順調に口に入れるために 
1. 大きな注射器にビニールホースを取り付け、口を小さく開けて、舌の奥まで注入する方法を試してみましたが、時間がかかりすぎるばかりでなく、口を小さく開ける首の角度では、ミキサー食を順調に飲み込めません。
   
2. 少しでも早く食べることが妻の負担を軽くするため、スプーンが口に入るくらいの首の角度にすると、いくらか飲み込みやすいが、その体勢を固定するのが難しいです。下あごは、寝ている少し状態でも動かせますが、上あご(頭蓋骨)はなかなか動かせるだけの力がないため、口を十分に開けることができません。
   
+ + この二つを解決するために、まず枕を少し高く(3〜4センチ)して、その枕(枕の幅は狭くする)をなるべく首根っこに当てると、頭が後ろへ反らされるから、口は十分に開けられますが、あまり反らせると、飲み込んだときに、気管へ入るため、その限度に注意をしてきました。
*飲み込んだとき順調に胃へ入れるために 
1. 少しでも鼻に入るのをそのままの体勢で飲み込んでいると、鼻がピタリとふさがってしまって、すっきりしません。
   
2. 気管に入った場合、刺激を受けても、咳き出す力もないため、吸引をするまで大変な苦痛になります。
   
+ + この二つを解決するためには、上記の1と2を合わせた状態で、つばを飲み込みながら調整をしましたが、まず真上から15度くらい右を向き、そのままの姿勢で左耳を左肩にできるだけいっぱい近づけるよう首を傾けると、ちょうど右枕元の天井を眺める格好になります。さらに、その姿勢のままで枕の左側だけ首根っこに寄せ、その部分を上から押して、右側よりわずかに低くします。この調整が一番難しさを感じましたが、以上の1と2と3の組み合わせで、15分くらいで食べてしまうことができます。
   
   この飲食時の体勢は、決まってから何年も変えることがなく、順調に食べられますが、一度で決まるときもあれば、少し狂うと、飲み込んだときに鼻や気管に入るため、2、3度なおすこともあり、妻は食べるたびに違うと思うらしいです。
*食事に関する8つの雑感 
*  呼吸器を装着してから臭覚は失いましたが、味覚は残されているため、それだけでいつまでも生きがいを感じます。それに私もいまは、あごでワープロを打っていますが、この口から食べるということは、口を開けたり閉じたりして訓練になるため、あごに疲れを感じることもなくワープロが打てるので助かります。
*  この食事時の体勢は、普通に寝ているときよりも、首の角度を曲げて捻るため、カフ圧が下がるときがあります。下がると、飲み込んだときに気管に入るため、そのときは吸引をしたりして、カフ圧の調整をしております。
*  薬は糖尿・前立腺・ビタミン剤を粉でもらっていますが、2種類はお湯で溶かして薬のみで、糖尿薬は溶けにくく、いつまでも口に残る感じがするため、効率よくオブラートに包み、先にお粥を2口入れてから、包んだ薬をおはしで舌の奥に入れ、さらにお粥を入れると、オブラートがくっつくこともなく簡単に飲み込めます。
*   ミキサー食の場合、泡が多くなると、舌の奥まで流れにくいため、飲み込みを悪くします。大根おろしはサラサラとして流れにくいですが、先に口に入れて味わってから、お粥で舌の奥まで流し込みます。
 また大好物のお刺身や漬物も包丁で叩いて細かくし、大根おろし同様に味わってから、お粥で流し込みます(お刺身はミンチにかけるより、包丁で細かく叩いたほうが、味が良いです)。
 タコだって、から揚げにして、天汁と共にミキサーにかけても、タコの味は十分に残されているため、おいしいです。これまでは食べ物にとろみをつける必要もなく、何でもミキサー食にして食べられています。
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 私の血糖値が食後50分で230から、高いときで298もあるため、主治医のご指導で、1日の摂取量を約1000から1200kカロリーにしております。
 春になると、モロヘイヤが出ますから、おひたしにしてから出し汁と共にミキサーにかけ、量的にはコップ1杯ですが、朝のおかずの一つに加えて、2週間食べ続けた結果、血糖値が食後50分で158にも下がったので、妻は「去年もそうでしたから、私の血糖値を下げるために合うかも……」と、モロヘイヤがある間は、毎日食べさせられます。

*  舌が動かないため、一度口に入れてしまうと、取り出すことは困難ですから、たとえミキサー食であっても、裏ごしをしたほうが無難です。
*  食事中だけでもと思い、両手を胸の上に置いていたところ、最初のころはそれだけで苦痛でしたが、それが訓練になったのか、いまは手の向きに限度も少なくなりました。
*  いまはこういうことは全くありませんが、最初のころは、食事時に十分な体勢ができていても、疲れや睡眠不足のときは、飲食物の飲み込みを悪くしました。
   
+ + この「ラッコ型」と思っている食事の姿勢は、あまりにもぶざますぎて、これ以上くわしく書き表すこともできないし、またこの方法が他の患者に共通するとは限りませんが、飲食物を気管へ引っ込んだときに苦しむのは同じですから、この苦しみだけでも同病患者から避けてやりたいという思いがします。
   
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