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私の歩んできた道(4)  大川 達さん
デンマークの福祉官(会報35号 2000年10月19日発行)

*私の在宅療養を見たい、と 

 昨年6月28日の夕方、和歌山県庁の健康対策課からお電話がありました。電話を受け取った妻は、一時判断に苦しんでいましたが、理解できたのか話がはずみ、了解までしました。それは、福祉国世界一を誇るデンマークで、福祉関係の職場に勤務している中口和巳さんが、私の在宅療養を一度見たいと県庁を訪ねたため、県庁職員からその了解の確認の電話でした。

 中口さんは現在58歳。28歳で単身イギリスへ渡り、本格的に福祉を学んでから、デンマークの看護婦さんと結婚されました。その後、いったん日本へ帰国したので、奥さんも大変な努力をされたらしい。ところが奥さんに苦労をかけるより中口さんご自身が苦労したほうがよいと、紳士の国にふさわしい優しさで、再びデンマークに渡ったそうです。

 中口さんは勉強家、努力家だけあって、いまではデンマークのヒロオウド市で福祉官として勤務しています。

 デンマークは九州ほどの大きさで、人口は約530万人。給料の50%前後が所得税、消費税は25%というが、税のすべてがガラス張りのためわかりやすく、老後に備えた貯えも必要ないというから、国民からは高い税でも何一つの苦情も出ないらしい。福祉についても行政は、国民の声に対して速やかに動いてくれるため、対応に遅れることもないというから、何ともうらやましいことです。

 このようなことは、国の大小にかかわらず、人間性の問題ではないでしょうか。今年の6月13日に衆議院選挙が公示され、立候補者はやれ「国民主体の政治を……」とか「税金の無駄遣いをなくす……」と12日間も叫び続け、25日に選挙が行われました。しかし、「国民主体は納税」だけで、「税金の無駄遣いはお任せ」と聞こえてしかたがありません。お役人の、理解もできない無駄遣いや横領があるから、納税者の脱税もある……。高額所得者ほど金欲が強い日本の国に、税金や福祉について安心をして暮らせる日はくるのでしょうか。特に税務署職員が3000万円も横領をし、造幣局の職員が横領をする日本では、まぁー、その可能性はないだろうと落胆も大きくなります。

*お若くて、低姿勢で、超好人物 

 ところで福祉国世界一を誇るデンマークの福祉官が、なぜ私のような者の在宅療養を見たいのか-―。中口さんとお会いするまでの1週間、私はさまざまなことを考えましたが、その理由さえわかるはずもありません。それで私は、この病に冒されてからの状態と、昨年の看護・介護体制のことを記して、楽しみに待ち焦がれ、7月3日にお会いすることができました。

 そのときの中口さんの第一印象を私は日記に、「お若くて、低姿勢で、好人物」と記しています。

 その中口さんから、デンマークの教育・福祉の素晴らしきお話を聞いているときに、読売新聞の記者から取材の申し込みがありました。私は、ALSに対して一人でも多くの理解者をとの望みから了解しましたが、中口さんは「そこに福祉前進への第一歩がある」と大変喜んでくれました。

 新聞記者はいったいこのことをどこから聞きつけたのかと思ったものですが、中口さんが私を訪ねてくれるにあたって、まずは読売新聞社を訪ねたがわからず、県庁でわかったらしい。読売新聞を訪ねたとき、記者から取材を申し込まれたが、中口さんは私を気遣って、お返事ができなかったとのこと。それだけに私の速やかな了解は、中口さんのお望み通りで、二人の話がはずんでいるところへ記者が話の仲間に入ってきました。

 そして私に、「中口さんのお話を聞けたことに対する感想は」と尋ねられたので、「すべてに感激と感動の連続」とこたえると、中口さんからも同感と言っていただきました。さらに記者は「いまの日本に強いて望むことは」と聞くから、私は「行政の速やかな対応」とこたえました。

 中口さんは、日本の福祉が少しでもよくなるよう、日本とデンマークの掛け橋になる目的で忙しく駆け回っておられますが、私の看護・介護体制を見て、「予想以上のでき」と少しは安心されたようでした。さらに、この看護・介護体制は自分から求めたものか、それとも和歌山市内の患者の皆さんがこのような看護・介護体制なのか、等々のご質問を受けて、私は「アカサタナ……」で妻を通じて伝えると、同じ市内でも各患者によって違いがあることに大変不満そうでした。

 途中で何度も私の疲れを気にしてくれた中口さんは、20分ほどで引き上げる予定だったそうですが、話がはずんだおかげで、3時間余りもいてくれました。それなりに得るものがあったのかとうぬぼれています。二人は再会を誓ってお別れしましたが、また一つ大きな任務を与えられた思いです。

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