| 私の歩んできた道(5) 大川 達さん |
加古川学園(少年院)で講話(会報36号 2001年3月21日発行)
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| *何度も死を覚悟しました |
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加古川学園の皆さん「こんにちは」。私は和歌山市から訪問をさせていただきました、ALS患者の大川と申します。よろしくお願いします。
このALSという病気は、身体を動かそうとする運動神経は完全に失われますが、痛み・かゆみ・だるさのわかる感覚神経と物事の判断をする知覚神経は、健康当時と少しも変わらないで残されているため、大変な苦痛に耐えなければなりません。それに、ほとんどのALS患者は呼吸をすることまで失われるから、生き抜くためにも、このように呼吸器を装着しなければならなくなり、呼吸器の故障を思うと、大きな不安に脅える毎日を過ごさなければなりません。
私が寝たきりになるまでは、健康当時から4年もかかりませんでしたが、この4年間は一つ一つの機能が失われる苦痛で、何度も「死」を覚悟させられました。そして、この病気に冒されてから今年で14年になりますが、14年前は中学・高校・大学と3人の息子を抱えておりました。息子どもにとっても一番大切な時期であったため、どこの父親でも思うように、私もまずは「息子どもにすまない」思いでいっぱいでした。この思いは私にとって大きな負担を背負うことになったわけです。
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| *150人の少年が静かに聞いてくれた |
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近畿ブロック事務局長の水町真知子さんから、私が和歌山市で常にお世話になっているご住職の山本正廣さんと、加古川学園訪問のお電話を受けたときは、簡単な考えで了解しましたが、すぐ後になって、この重大な任務を「私に果たせるだろうか」と、大きな不安が襲ってきました。
それで、この不安を少しでも小さくするには、メッセージで訴えるよりほかにない思いから取りかかりましたが、これまた、メッセージには学園の指導方針に逆らうような表現は記せなく、少年たちを刺激させる表現も記したくないなど、気を遣っていたら、不安はますます大きくなるばかりでした。
それでも何とか下記のメッセージを書き終えましたが、たくさんの不安は一つも消えることはないまま、昨年の12月6日に、山本ご住職、水町さん、妻・悦子、三男・貴経の4名で加古川学園を訪問させていただいたわけです。ところが、園長先生を初め、職員の皆さま方が、厄介者の私を普通の人間として迎えてくれたうれしさと、学園の雰囲気が厳しさの中にも優しさと明るさがあり、私に昔の田舎を思い出させてくれたため、いまだに田舎(尾鷲市古江)を愛する私の気持ちに余裕が出てきました.
それに私のような重度障害者の訪問は初めての計画と聞き、「よーし、がんばろう」の思いが勢いをつけて、いくらか不安も薄らぎ、会場である講堂へ向かうと、そこでは体格は大きいが、かわいい顔をした150人の少年たちに迎えられて安心をし、残されていた最後の不安も消えてくれました。
いま、あちこちの学校で問題になっている、授業にならない学級(学校)よりも、今年も各地の成人式でそうでしたが、世間から悪評を受けている新成人のマナーよりも、少年たちは学園で規則正しい生活をしているため、よほど礼儀は正しく、1時間30分を超える時間を、姿勢も崩さず、静かに聞いてくれたから、満足感にあふれ、「行ってよかった」の思いで帰宅しました。
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| *家族が必要としてくれた |
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これだけの苦痛に耐え、不安に脅え、また、大きな負担を背負ってまでがんばっているのは、動けなく、話もできない私を、家族が必要として、支え続けてくれたため、何とか家族の期待に応えてやりたい思いになったからです。
いまはごらんのとおり、身動き一つできないため、すべてが人さま任せになりましたが、私も昔は皆さんのように元気旺盛な時期もありました。もし皆さんが4年で私のようになるとしたら、どのようなお考えになるでしょうか。私は健康当時があまりにも自由であり過ぎて、「自由も奪われて、呼吸器・吸引器・意思伝達装置に頼ってまで生きたくない」という考えの一人でした。
しかし、死に際まで追い込まれた私一人の命でも、生き抜くためには家族ばかりでなく、ALS協会近畿ブロック・医療関係者・ご住職の方々と、これまで200人を越える人さまのご協力を受けているため、いまではたくさんの喜びや楽しみに囲まれるようになりました。それがありがたく、生きる意欲にあふれることが、支えてくれる人さまに対する恩返しと思い、がんばっております。
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| *皆さんの優しい手を必要としている人がいる |
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それだけ人の命は大切なものですから、今後、皆さんがどのような苦境に立たされようと、あきらめずに、生きてがんばる気持ちになるだけで、必ず大勢の人さまが助けの手を差し伸べてくれることも間違いありません。
また、世の中には皆さんの助けを求めている人は大勢いるのはずですから、そのときは皆さんの優しい手をおしまずに差し伸べてください。
あと25日で21世紀に入りますが、この21世紀の日本を背負っていくのは主に皆さんですから、皆さんを信じて私は三つのお願いがございます。
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| *表現の下手な大人を理解してください |
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私はこの身体ですから、いまの若者たちに対しては、ほとんどがテレビに出てくる若者しか知りませんが、昔に比べれば、言葉による表現が上手ではないかと感心しております。
その点、大人の方々は皆さんよりは年を重ねているだけあって、知識や体験は豊富ですが、表現の下手な人が多いため、注目をすべき人に対しては無関心になったり、すぐに手を上げたりすることも多くなります。これは、大人の早くわかって欲しいための苛立ちからくる行動の欠点の一つですから、皆さんはこの大人の欠点に対して、「切れる」こともなく、ご理解いただけますようお願いします。
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| *世界にはばたいてください |
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皆さんも9月のシドニーオリンピックに続き、10月のパラリンピックの素晴らしさに感動を受けて拍手を送りましたか。選手の皆さんは学歴に関係もなく、練習による努力と辛抱で世界中の人に感動をさせたそうですね。
何もメダルや世界記録ばかりが感動を与えて有名になるわけではなく、競泳でおぼれそうになりながらゴールまでたどり着いた黒人選手を見ましたか。あのときは、メダルや記録に関係もなく、決して格好がよいものではありませんでしたが、それでも努力と辛抱に観客は総立ちになって拍手を送り、有名人にされたため、その後もあのときの健闘ぶりをたたえる各国から招待をされて、「超有名人」にされたそうです。
このように「有名」であるかないかは、「格好がよいこと」ばかりでなく、人さまにその「努力と辛抱」を認められてつけられるものですから、若さと自由があり、努力と辛抱ができる皆さんにとっては、日本ばかりでなく、世界にはばたく可能性は充分にありますから、その機会に向かってがんばることをお願いします。
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| *完全な反省をしてください |
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長い人生の中には、ほとんどの人に小さな失敗や、自分の頭を抱えるような大きな失敗はあるものですが、完全な反省をすれば、むくわれることも多くなります。
私も過去には小さな失敗を何度も重ねてきましたから、偉そうなことを言う資格はありませんが、自分なりに反省をしていると思っても、失敗を重ねるようでは、完全な反省になっていなかったのは確かなようです。
それで私は「完全な反省」とは、その失敗がいつまでも自分の心に残ることであり、自分の心に残るからこそ、二度と失敗を重ねることもないと思っております。過去の失敗がいつまでも自分の心に残っていても、世の中の人さまやご家族の方々は完全に忘れてくれますから、皆さんはこの学園で一生懸命に自分を磨き、一日も早く世の中にはばたくことをお願いします。
さらなる皆さんのご健闘をお祈りして、私のメッセージを終わらせていただきます。ありがとうございました。
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| 大川さんの講話を聞いた加古川学園の少年たちから、後日、お礼の手紙が寄せられました。そのうちのほんの一部を紹介します。 |
| *くじけそうになったら大川さんを思い出します Y・A |
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大川さんの講話は今まで聞いてきた中で一番よかったと思います。なぜならば、いろんなことを知ったし、学べたからです。
その中でも一番学べたのは、命の大切さです。世の中にはALSという重い障害を持ち、ひっしにがんばって生きている人もおるんだなと思うと、今の自分がとてもなさけなく思えます。これからはこういう障害を持った人たちを助け、協力してあげたいなあという気持ちです。ぼくは今までこんな気持ちを持ったことがなかったけど、講話を聞いてこういう気持ちを持つことができたんで、大川さんに本当にかんしゃしています。また、時間をかけてぼくたちに書いてくれたメッセージはとても心にしみました。
これからもいろいろしんどいこと、つらいことがあると思うけど、大川さんならきっとのりこえられると思います。これからもお元気でがんばっていって下さい。ぼくもくじけそうになった時は大川さんを思いだし、がんばって行きます。
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| *大川さんもすごいが、奥さんもえらいです D・H |
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どうしたらそんなに強く生きられるのですか。僕にはおそらく真似のできないことだと思います。大川さんには奥さんがいて、子供がいて、そして孫がいる。だからそんなに強く生きられるのだと、僕は思います。がんばって病気と闘っている大川さん自身すごいと思うし、その大川さんを支えている奥さんや子供さんもすごいと思います。
特に奥さんはすごいと思うし、えらいと思います。大川さんはしゃべることができませんが、奥さんは大川さんの言いたいことがだいたいおかると言っていましたが、それは本当にすばらしいことだと思います。やっぱり夫婦っていいものですね。おそらく奥さんは大川さんのことを愛していると思うし、大川さん自身も奥さんのことを愛しているだろうと思います。だからいつまでもそういった良い関係を続けていってください。
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| さいごに |
| *逆に励まされました |
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訪問時から半月経過した12月20日には、少年たちから42ページになる感想文が届きました。その感想は皆さんが完璧な文章で、訪問者に対して「完全な反省と更生」を誓うばかりでなく、私に対しては優しい励ましの言葉が記されているため、訪問時に園長先生がおっしゃった「大人の考えている以上に、少年たちは純粋な考えでいる」を思い出し、再び「行ってよかった」の喜びがこみ上げて、涙があふれました。
私は少年たちを励ましてやりたい考えで訪問した結果が、逆に優しく励まされて、「罪を憎んでも、人を憎まず」を教えられた思いで感謝をし、この感想文を粗末にしては少年たちを裏切ることになるため、20世紀末に届いた最高のクリスマスプレゼントとして、いつまでも大切な私の宝物にするつもりです。
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