第80号
2012年1月14日収録


 

 
このページは田英夫氏のもとに集ったジャーナリスト仲間による懇談を
月一度をめどにお届けしています。


◎一体改革に政治生命懸ける野田首相

米大統領選は混戦、戦争の可能性も

 今年の展望から始めよう。まず国際情勢はどうだろうか。
B 米中ロ仏で大統領選挙や指導者の交代があるが、明るい材料はなく良くはならない。国際的な金融、財政危機も解決の道の見通しがつかない。ユーロが潰れる観測もあり、そうなると中国経済も危ない。新興国も「張り子のトラ」。米大統領選はオバマが勝つだろうが、そう簡単ではない。そのためには例えばイラン問題をフレームアップして選挙に利用するのではないか。小規模な戦争があるかもしれない。
 大統領選は共和党の指名が確実視される前マサチューセッツ州知事のロムニーが有利ではないか。オバマは雇用政策に失敗し、ウォール街占拠デモに見るように国民の失望を買った。ロムニーのインパクトは弱いが、今の情勢が続くならオバマより分がある。ただ保守派のティーパーティーに引きずられていたら、現実的な政策は打ち出せないし、米中関係は不安定化するなど混沌たる時代に突入するのではないか。
B ロムニーはオバマの半分しか選挙資金を集めていない。ロムニーがアイオワ、ニューハンプシャー両州の予備選で勝利したのは、雇用、経済政策を示したためだ。他の候補者と比べて多少現実的な政策を出した。民主党に近いと言ってもよい。オバマは政権与党だから、選挙までいろいろな手だてを打てる。政策転換も可能だ。いまの時点では、オバマ有利ではないか。しかし、欧州は火の車。中国もリーダーシップを取ることができない。大恐慌並みの年になりそうな気配も漂う。ここを切り抜けるため、どこかで戦争が起きるのではないか。

▼政府、財界、マスコミの増税大合唱

 ガイトナー米財務長官が朝日新聞とのインタビューで、大震災後の日本の「経済復興」を評価し「日本社会や日本経済の強靱さを示す感動的な実例だ」と持ち上げた。一体、日本経済の現状の何を指して好調というのか。
 日本から資金を出させるためのリップサービスだよ。ただ補正は遅れたが、今後は復興事業、公共事業も出てくるし期待はできる。ガイトナーは全体をセットで見て、好調と言ったのだろう。問題は実体経済がどうかということだ。円高で空洞化が進行している。
 日米欧とも濃淡はあるにせよ金融不安、債務危機、財政赤字の危機に直面している。日本経済の弱点は輸出依存型にある。先進国では多国籍企業が他を圧しており、資本蓄積や設備投資が国内の需要や雇用、消費に直結していない実態になっている。
 消費が伸びても儲からない。昔とは違う。資本の運動の法則で収拾がつかない。何十年ぶりかの貿易赤字になる可能性がある。日本は社会資本の整備を逃した。財界も同じような見方だろう。
 世界経済は危機的状況だ。米誌ニューズウィークなどが今年の経済予測の特集をしているが、全くといっていいほど中身がなかった。NHK番組「クローズアップ現代」も世界経済の危機をテーマに欧州、米国、日本の状況を紹介したが、日本について言えば結局のところ収斂する先は消費増税。これではまるで財務省のキャンペーン番組という印象だった。要するにあまりに危機のスケールが大きすぎて処方箋はないということに尽きている。
 政府、財界、マスコミを含めて増税の大合唱だ。
 先ほど巨大な有効需要を生むなら戦争という指摘があった。米ジャーナリストのナオミ・クラインが著書「ショック・ドクトリン」の中で、市場原理主義や新自由主義は戦争、自然災害を利用して利潤を追求すると指摘している。大義名分は「復興」だ。ナオミはこれを「惨事便乗型資本主義」と名付けた。東日本大震災の前に書かれた著書だ。
B 米国が戦争を仕掛けるとすればイランだろう。
 米軍はアフガニスタンとイラクで疲弊した。イランには地上軍は出せないから継続的な戦争はできない。やるとすれば空爆ぐらいだろう。

 ▼野田・岡田ラインで民主蘇生狙う

 野田は通常国会前に参院で問責決議を受けた一川防衛相ら5閣僚を退任させ、岡田を副総理・一体改革担当相に起用する内閣改造を行った。改造が社会保障と税の一体改革の実現を目指した布陣であるのは明確だが、これで正面突破できると考えているのだろうか。
 野田・岡田ラインによって民主党が蘇る可能性があるかもしれない。自民、公明は対決姿勢で解散・総選挙を迫る場面もありそうで、どう展開するか未知数だが、政権交代の内実を固めなければならない。それを担えるのは野田と岡田だ。ついでに言えば、政治資金収支報告書の虚偽記載で強制起訴された小沢は公判の被告人質問で、土地購入の4億円の出所について納得できる説明はできなかった。結局は古い自民党の体質をさらけ出した。国民感覚から大きくずれてしまった。もう出番はないだろう。そうすると、野田、岡田、枝野あたりが、自民党と比べて「まだましな保守勢力」という命脈を保つかもしれない。
 一体改革の方向は正しいと思う。消費増税で野田政権が政治生命を懸ける姿勢は支持したい。社共が反対と唱えられる時世ではない。反対なら財源のビジョンを出すべきだ。ドイツは東ドイツ吸収のために、増税策を取り吸収のコストを捻出した。日本も大震災のコストを払わねばならない。自民党政権はむだ遣いが多かったが、税に手を付けないと医療・健康保険も維持できない時代だ。もちろん独立行政法人の整理など歳出削減が前提だ。一体改革に向けて合意形成が要求される。ただこういうときは、橋下大阪市長の動向に象徴されるポピュリズムが台頭することが懸念される。ドイツ・ナチスのようなファシズムの台頭とイメージが重なる。

 ▼公約反故は自民譲り

 民主党は政権を取った2009年の総選挙のマニフェスト(政権公約)をことごとく反故にした。消費増税、普天間基地移設、大型公共事業の復活など枚挙にいとまがない。政権交代による変化を望んだ有権者には裏切られたという気持ちがある。それでもなお民主党政権に期待できるものがあるのか。
 有権者はマニフェストに期待をかけていなかったと思うよ。公約が実現しないから政権交代の意味はなかったという見方は短絡的だ。自民党が選挙目当てに攻撃材料にしているだけだ。そういう自民党も公約をどれだけ守ってきたのか。ほとんど守ってこなかったのが実態だ。八ツ場ダムも前原が中止を言わなければ、問題にはならなかった。
 野田政権になって、「人からコンクリート」に戻った。外環(東京外郭環状道路)、新幹線も復活した。沖縄基地移転問題も「最低でも県外に」と言いながら自民党案に戻った。民主党が示した公約、マニフェストは、単なる絵空事で、政権獲得だけが目的の政治屋集団だったことが露呈してきたと言われても仕方がない。「民主党というのは何だ」と言いたい。
 マニフェストなんて誰も相手にしてないといえるのか。これほど公約を放棄した政党は珍しい。日本の議会制民主主義そのものが問われている。野田政権は自滅の道を歩んでいるのではないか。一体改革とは名ばかりで社会保障の改革に値するものは何もない。野田は財務省と一体となった、というより財務省に操られている操り人形に過ぎない。その証拠に天下り根絶については一言も言えない。ただただ、消費増税を目指しているだけだ。そのために岡田を副総理にした。岡田は管内閣の幹事長時代に民自公3党協議で、マニフェストを覆した張本人であり、もともと消費増税論者だ。
 民主党政権になってから日本の政治はどん詰まり状況だ。野田だけの責任ではないが、外交面でもちぐはぐだ。米国との関係も疎遠だし、中国やロシア、北朝鮮、さらにイラン問題でも外交の軸がない。北朝鮮は米国の方が先行するだろう。大震災を経済復興のテコにしようとしたが「がれきの荒野」は変わってない。これほど政治が劣化した時代はなかったが、だからといって自公に「戻ってきて」という現象も起きないだろう。

▼政治不信利用する橋下氏

B まさにそういう閉塞状況の中で急浮上したのが橋下大阪市長率いる大阪維新の会だ。次の国政選挙では大阪維新の会など新しいポピュリズム政党が出てくるだろう。根底にあるのは有権者の政治不信や不満、何か変わったことをしてくれるんじゃないかという漠たる期待感だ。
 橋下はいまのところ大阪がテーマだ。石原東京都知事や亀井国民新党代表が担ぎ上げて国政に進出するのではないか。それと橋下はけんかに勝つ方法を心得ている。いまの政治では望みが実現しないと思っている庶民の間には、橋下ならやれるのではないかという一種のブームみたいなものもあると思う。橋下もそれを利用している。
 過大評価だ。橋下も維新の会もいずれ消滅するよ。最近の彼の言動は当初より過激さが姿を消してきた。大衆迎合、ポピュリストそのものだね。そんなものと手を組んで新党結成をなどという既成政治家も情けない限りだ。
 それにしても各党の橋下や維新の会への「擦り寄り」は目に余るね。いずれも選挙目当てだろうが。
 民主党という政党はこのまま生き残れるかどうか大きな疑問だ。どの政党が政権を担っても政治の低迷は続く。象徴は普天間基地移設と原発。この避けて通れない大問題を解決するだけの政治力を持った政党が出現するとは思えない。

▼日本も国民に信を問え

B 野田改造内閣の評価に移ろう。まず平岡法相を代えた理由は何か。
 従来、少年事件は凶悪犯罪に限定して弁護士などの付添人がついたが、すべての少年事件に付添人がつく制度改正に熱心だったのが平岡だ。また在任中、死刑執行に署名しなかった。秘書が詐欺容疑で逮捕されたのも影響したかも知れないが、死刑執行、少年事件の制度改正などで法務官僚とうまくいっていなかったのではないか。
 防衛相に田中直毅を起用したのは小沢への配慮だろうが、仲井真沖縄知事は、田中には会ったことがないと言っていた。
 平野文科相は橋下維新の会への迎合。橋下は教育委員会に対する権限強化を狙っており、平野も教委の在り方について改革が必要と言っている。
 いずれにしてもポリシーのない内閣だ。マスコミはその内閣を応援している。小沢問題への対応もそうだ。1月13日の朝日の社説は「小沢氏は政治家失格」という見出しで、小沢の存在を封じる内容を展開した。しかし小沢裁判は明らかに政治裁判ではないか。政治とカネという汚名を着せて一人の政治家を抹消しようという恐ろしい企てが進行しているというのに、そのことには全く触れることもなく小沢一郎は悪徳政治家というイメージを煽り立てるマスコミには言葉がない。今や東京新聞の「こちら特報部」だけが斬新な角度から問題に切り込んでいると思う。
 消費増税について言えば、「財源不足だから社会保障が破綻する恐れがある」「破綻を回避するためには増税が必要」という論理をすんなり受け入れてよいだろうか。国際競争力強化を理由にした法人税減税の穴埋めに消費増税があるのではないか。財源では行政改革、公共事業、政党助成金の見直しなども必要だ。自らは身を削ることもなく国民に、それも弱者に犠牲を強いるような政治は結局は自滅する。
 税収はじり貧状況で、歳出はカットせざるを得ない。つまり大きな政府はありえないのが実態だ。ただ民主党のやり方は、歳入を増やしてそこだけ手当するポピュリズムの側面はある。もうひとつ忘れていけないのは、長期的な人口動態変わらないということだ。高齢化の進行で、若年層が多くの高齢者を支えなければならない矛盾が深化している。ポピュリズムに引っ張られずに、合意形成を図るべきだ。
 今年は主要国の指導者が国民の信を問う年に当たっている。交代が確実視されている国もある。民主党も選挙の試練を受けていない内閣が2代も続き、マニフェストは放棄し、政策は公約と違ってきている。民主主義を重んじるならば野田は正々堂々と国民に信を問うべきではないか。その結果、展望が開けるわけではないところが今の日本の厳しさだが、それでもやはり正道に立ち返って衆議院の解散・総選挙―それしかないと思う。

                      
ブログ編集版も、ぜひご覧下さい。
一部週刊誌、また、インターネット上で、「斎藤まさし氏」が、田英夫の娘婿であるとの、
記述を散見しますが、過去・現在において、そのような事実はありません。参議院予算委員会で、「斎藤まさし氏を娘婿」とした質問の箇所は質問者によって取り下げられ、議事録から削除されました。事実に反する情報であり、流布は私人である田遺族、「娘婿夫婦」に対する名誉毀損に相当します。関係各位にはご承知いただきたく、お知らせ申し上げます。
*ウィキペディア等ネット百科の田英夫情報にも「娘婿」記述がありますが、削除、復活を繰り返しております。

ご報告:7月7日の自民党、
礒崎陽輔氏 7月21日、同、山谷えり子氏の「斎藤まさし氏は田英夫の娘婿」との発言箇所は議事録からの文言削除に応じて頂きました。両議員並びに社民党福島党首、関係各位に御礼申し上げます。





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2001年6月開設
田英夫とジャーナリストの会
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第1号 2002年11月  大局を見た判断と人権重視の報道を
第2号 2002年12月  いまある「戦争の危機」を回避せよ
第3号 2003年1月  米国のイラク攻撃を支持するな-主体性問われる日本外交
第4号 2003年 3月  右傾化する政治
第5号 2003年3月  始まったイラク戦争
第6号 2003年4月  国会に復帰した 田議員
第7号 2003年8月  日本の暴走を食い止めよう
第8号 2003年9月  政治と報道に「常識」を取り戻したい
第9号 2003年10月  総選挙の争点は「憲法」と「民主主義」
第10号 2003年11月  いま「日本の針路」を考えよう
第11号 2003年12月  「戦争のできる国」への道を防ごう
第12号 2004年年2月  時代の空気
第13号 2004年3月  憲法の原点を見つめよう
第14号 2004年4月  イラク危機
第15号 2004年5月  本道の政治論議を
第16号 2004年6月  憲法9条を守るために投票しよう
第17号 2004年7月  9条に立脚した世界を築こう 二大政党論に毒されるな
第18号 2004年8月  オリンピックに流されず日本を見つめよう 59年目の8月に残したいこと
第19号 2004年10月  「日米同盟」の呪縛を解き放とう
第20号 2004年11月  危機に果たすべき政治の責任 あらゆる場で「自由にものがいえる雰囲気」を
第21号 2005年1月  許せないNHKへの政治介入
第22号 2005年2月  第9条に立脚した外交で、積極的護憲を。動き出した改憲策動をはねのけよう
第23回 2005年4月  燃え上がる中国の反日デモ
第24回 2005年6月  「靖国」があぶりだすこの国の今
第26回 2005年9月   「争点」は憲法と暮らし小泉マジックに惑わされるな
第27回 2005年10月  800万超す票の重みを生かせ護憲勢力の結集で運動を広げよう
第28回 2005年11月  右傾化の中で重い後藤田氏の遺言
第29回 2005年12月  争点を国民に提示せよ――「小泉改革」の負担は国民に
第30回 2006年1月  アジアで問われる日本の針路
第31回 2006年2月  ライブドア強制捜査、検察のねらいはどこに
第32回 2006年2月  本当に大切なことを論議せよ
第33回 2006年3月  混迷を打開する行動を
第34回 2006年4月 アジアとの友好を阻害する首相の靖国参拝 メディアは汚い小泉戦略を批判せよ
第35回 2006年5月 日本の国のかたちが問われるとき
第36回 2006年6月 国際感覚疑われる日銀総裁 優先審議狙い重要法案継続に
第37回 2006年7月 「敵基地攻撃」などもってのほかだ
第38回 2006年9月 安倍内閣の危険性を見極めよう
第39回 2006年10月 北朝鮮核実験の衝撃 日本の核武装論を許すな
第40回 2007年12月 教育基本法改悪をゆるすな
第41回 2007年1月 安倍政権は短命の可能性
第42回 2007年2月 安倍政権の正体を見極めよう
第43回 2007年3月 無党派頼みの政党政治って……
第44回 2007年3月 米国も危惧する安倍首相の右翼ぶり −「反ファシズム」を広げよう
第45回 2007年4月 憲法無視の「集団的自衛権」行使は絶対に許されない
第46回 2007年5月 安倍政治の横暴を阻止しよう
第47回 2007年7月 安倍強権政治を国民はどう審判?
第48回 2007年11月 この国はどこへ行こうとしているのか(号外)
第49回 2008年9月 福田退陣が曝した自公政権の今
第50回 2008年10月 半世紀も自民政権続く日本政治の異常
第51回 2008年11月 日米同盟再考の転機
第52回 2008年12月 緊急対応こそ政治の責任だ
第53回 2009年1月 政権交代確実だが見えぬ将来展望
第54回 2009年2月 政治の劣化、危険水域に
第55回 2009年3月 小沢氏去就は世論の動向次第
第56回 2009年4月 麻生政権支持率回復の不思議
第57回 2009年5月 北朝鮮の危険な賭け。狙いは?
第58回 2009年7月 外務次官らが歴代管理 日米間の核持ち込み密約 政権交代見据え真相を証言
第59回 2009年9月 役割終えた自民党
第60回 2009年10月 暴かれる自民党の悪政
第61回 2009年11月 発足2カ月の鳩山政権
第62回 2010年1月 検察と小沢の「最終戦争」 民主党政権に大きな痛手
第63回 2010年2月 小沢氏、検察と取引か
第64回 2010年3月 安保体制維持に動き始めた民主党
第65回 2010年4月 さまよい始めた鳩山政権
第66回 2010年5月 抑止力の虚構に固執 普天間、社民は政権離脱
第67回 2010年6月 期待裏切る世襲政治家
第68回 2010年7月 根底に民主党政権への失望
第69回 2010年9月 尖閣で多難な菅改造内閣の船出
第70回 2010年10月 右旋回必死の民主党政権 漁夫の利を得た米国
第71回 2010年11月 戦略ない民主党政権の弱点露呈
第72回 2010年12月 問われる既存のメディアの資格
第73回 2011年1月 菅第2次改造内閣は財務官僚主導格
第74回 2011年4月 原発推進で問われるマスコミの責任
第75回 2011年6月 部分最適化の果て
第76回 2011年6月 ▼菅直人は権力亡者
第77回 2011年9月 大局観ゼロ、劣化した政局報道
第78回 2011年10月 米国に迎合するしかない野田政権
第79回 2011年11月 早くも岐路に立つ野田政権