第2回 エッセイ:アマルティア・センの開発論

このコーナーでは、これまで学校で習った事の中から、仕事で役立ちそうな内容を現実問題と結びつけて紹介していきたいと思います。第2回目はアマルティア・センの開発論についてです。このテーマは、フォードスクールのValue and Ethicsの授業で議論した内容を自分なりに整理したものです。

開発と聞くとみなさんは何をイメージされますか?私のイメージの開発といえば、大規模な施設整備をイメージします。その結果として、GDPあるいは1人あたりGDPが上がり、貧困が解消され、国が豊かになってゆく。これが開発のプロセスだと思っていました。実際、日本の開発(高度経済成長)を振り返ってみると、1960年代に全国総合開発計画を策定し、国民所得(1人あたりGDP)を高めることをスローガンに、高速道路や臨海工業地帯整備などのインフラ整備を積極的に進め、GDPが世界第2位(当時)になるまでに成長しました。

しかし、このような開発とは違った見方をしたのがアマルティア・センという人物です。センは、インドの経済学者で、98年にアジア人としてはじめてノーベル経済学賞を受賞しました。貧困、平等などをテーマに開発経済学における実証研究の第一人者です。

センによる開発とは人々の自由を一つずつ獲得してゆくプロセスのことです。自由とは、例えば、政治家を選べる自由だとか、教育を受けることだとか、好きな食料を買える自由だとか、職業が選べる自由だとか、好きな所に行ける自由だとか、自然災害にあわない自由などいろいろ考えられます。経済的な自由もありますが、政治的なものや、人間の権利(人権)に関わるすごく基本的な自由もあります。センによると、国が貧しければ、自由が制限され、人々は不自由な状態にある。だから、貧しい国の開発では、不自由を取り除く、つまり、人々の自由を1つづつ拡大して、自由を獲得してゆくことが大切になってくるというのです。

このようなセンの開発論で行くと、一般的に考えられているGDPを中心とした開発論とは、いろいろある自由の中の経済的な自由に限定した話だということになります。GDPが高まっても本当に人々が幸せかどうか、人々が豊か(welfareとかwell-beingといいます)になったかどうかは経済的な自由度だけでは判断できないということなのでしょう。具体的には、センは「capabilityアプローチ」という概念で、人の福祉についての議論を展開しています。人々の福祉は、その人のcapability、つまり、その人の生き方の幅が広ければ広い方が良く、そのcapabilityを高めることが重要であるとの議論を展開しています。発展途上国の開発問題で人権問題の議論が出てくるのも、このcapabilityアプローチなどのセンの開発論を勉強してみると納得がいきます。最近では、国連の貧困指数(Human Development Index)などでセンの考え方が強く繁栄された指標が採用されているそうで、開発論の世界のスタンダードとして彼の開発論が浸透してきているのかもしれません。

もし私のように既存のGDPを中心とした開発学しか知らないのであれば、幸いにも日本では訳されたセンの「自由と経済開発」があるようですので、一読してみてはいかがでしょうか。


mike,Oct 2, 2003





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