脳梗塞

 脳梗塞は動脈硬化に起因することが多く、高血圧、糖尿病、喫煙、(高脂血症)などが危険因子となり、その成因により 『脳血栓』と『脳塞栓』に大きく分けられます。

『脳血栓(のうけっせん)』とは、動脈硬化により脳の血管そのものが血栓で詰まったもの、『脳塞栓(のうそくせん)』は、他の場所でできた血栓、脂肪片、組織片などが脳の血管を通るときに詰まったものをいいます。
『脳塞栓』は、骨折などの外傷、出産などでも起こりますが、代表的なものに心房細動(しんぼうさいどう)という不整脈を持つ方には心房内血栓が発生しやすく、これが脳に詰まる心原生塞栓症というものがあります。

 脳梗塞の主な症状は、手足のしびれ感や脱力、片麻痺、呂律が回らない、強い眩暈、視野狭窄、意識混濁などです。脳梗塞の好発部位から、しびれや麻痺は同側の上下肢に起こることが多く、また、変わった例では手口症候群といい、視床に小さな梗塞が起こると片側の親指の周囲と同側の口の周りがしびれることがあります。 いわゆる脳梗塞の予備軍といわれるものに、一過性脳虚血発作(いっかせいのうきょけつほっさ:TIA)、椎骨脳底動脈循環不全(ついこつのうていどうみゃくじゅんかんふぜん)というものがあります。症状は1日以内に自然消失しますが、これらを4年放置すると11%が梗塞に移行するといわれているため注意が必要です。
 脳梗塞はひとたび発症すると1〜2日の間に次第に完成し症状が重くなっていくことがしばしばあります。症状の進行が強い物ではBAD(branch atheromatous disease)といって、細い動脈の起始部に動脈硬化による狭窄があり、ここが詰まることによってその動脈の灌流域に梗塞層が延びて行くことで症状が重くなることが知られるようになりました。
 脳梗塞の画像診断は、発症初期にCTで分からないものが多く、MRIの拡散強調画像(diffusion)というもので確定(発症1時間から10日までは明瞭)します。CTではっきり分かるのは、通常8時間以上経過してからです。また、小脳、脳幹部は骨が密なため、梗塞CTにはっきり出ないことがあります。この場合もMRIが有効です。

 脳梗塞は通常、点滴による保存的治療が一般的です。具体的には、@脳灌流圧を確保すべく安静、A約2週間は降圧をしない(160〜180を目標)、B血症板凝集抑制剤(オザグレルなどの血をサラサラさせる薬)、C過酸化反応を抑制する薬(フリーラジカル補足剤)、D脳浮腫改善薬などの点滴、E抗痙攣薬の内服、F早期離床、早期リハビリテーションです。心原生塞栓症などの超急性期には点滴やカテーテルによる『血栓溶解術(t-PA製剤投与)』を施行し、塞栓を溶かすことがあります。また太い血管に原因がある場合、『ステント』『頚動脈内膜剥離術』、脳内の血管が閉塞もしくは高度狭窄している場合は症例を選び『浅側頭動脈中大脳動脈吻合術』などを行うことがあります。

 脳梗塞の慢性期は、@血圧管理(一般的に135〜140/85〜90以上が治療対象になることが多いのですが、130/80以下が推奨値です)、A梗塞の再発予防(禁煙、脱水予防、散歩などの適度な運動)、B痙攣に対する注意(起きた場合、吐物が気道を塞がないよう横向きに寝かせ、救急受診)を踏まえ、再発予防薬(脳梗塞のお薬)の処方、画像撮影、患者さんによってはリハビリテーションを含め、外来通院が必要です。

 脳梗塞の3大危険因子は@高血圧、Aタバコ、B糖尿病 です。脳梗塞の患者さんは血圧管理をするとともに『タバコは必ず止めてください』。高脂血症(コレステロール、中性脂肪)も脳梗塞の原因になることがありますが、脳の領域で問題になる値は500〜1000と非常に高い場合が多く、一般的にはあまり遭遇しません。通常、高脂血症が問題となるのはむしろ、狭心症、心筋梗塞など、心臓の領域です。

<水分補給について>
 「脱水に注意してください。」というと、とにかく水をたくさん飲むことと勘違いされている方がいます。心臓や腎臓に問題が無ければ良いのですが、敢えてたくさん飲む必要はありません。必要以上の水分を摂取しても、排尿回数が増えるだけで、血液粘度(血液がドロドロした状態)は日中の飲水直後、一時的には低下しますが、一番問題となる、早朝の血液粘度には影響しないという研究報告もあります。大切なのは、必要水分量を確保するということです。
 個人差があるので一概には言えませんが、家の中で普通に生活した場合に必要な水分摂取量は一日に2000〜2200mlくらいといわれます。このうち、800mlくらいは、すでに食事の中にも含まれておりますので、実際に必要なのは、活動することも加味して、せいぜい食後や休憩時間にお茶やジュース、お水をコップ1、2杯飲めば良いことになります。注意することは、疲れていたり、少し喉が渇いているのに、夜間トイレに起きるのが億劫だからと、水分補給せず寝てしまったり、暑い中、我慢して行動したりすることです。また、温泉や入浴時、普通に入って出てくると200mlくらいの脱水になっています。少し長く入ると400〜600mlくらいの脱水になることがありますので、入浴前にお水一杯、出てから、もう一杯くらいのつもりでいれば良いでしょう。強い動脈硬化が無ければ、サウナも禁忌ではありませんが、入る前の水分補給と、あまり無理しないよう心掛けて下さい。担当の先生から止められている方は、もちろん禁止です。入浴後のビールをおいしく飲むために熱くても、ずっとがまんして給水しないなどは、もってのほかです。尚、アルコール類、カフェインは飲んだ後、しばらくすると排泄するために、逆に脱水になることも知っておいてください。

小窩性梗塞のMRI diffusion(拡散)強調画像(白い部分)
小窩性梗塞MRI diffusion

小窩性梗塞のMRI T2強調画像(白矢印)
小窩性梗塞 MRI T2

右頭頂葉梗塞(分水嶺梗塞)のMRI FLAIR法
分水嶺梗塞 MRI FLAIR法

動脈硬化による頚動脈壁の不整(左)、椎骨動脈解離性動脈瘤による狭窄(右)
左内頚動脈撮影、右椎骨動脈撮影

『浅側頭動脈中大脳動脈吻合術』
手術記載

『浅側頭動脈中大脳動脈吻合術』
手術記載

『浅側頭動脈中大脳動脈吻合術』
手術記載

脳血管撮影(左:術前、頭皮の血管が、右:術後、吻合部から脳表へ入っていく細かい血管の分布が見られます) 術前後の血管撮影

別症例、脳血管撮影(左:術前、右2枚:術後、吻合した血管が血流の需要に応じて太くなっているのが分かります) 別症例、術前後の血管撮影 前後像、左2枚:右(反対側)からの撮影で術前に側副血行を介し左へ延びていた血流(点線)が、術後は左(吻合側)からの血流が充足したため消えています。 右半円2枚:術前後の撮影(術後に脳の血管が描出されています) 術前後の血管撮影、前後像

術後CTA(左:骨陰影付き、右:骨陰影なし) 術前後のCTA前後 術前後のCTA斜位

SPECT(スペクト)について

 それでは、本当にこの手術が必要かどうかという判定ですが、現在のところ最も信頼のおける検査がSPECT(スペクト、single photon emission CT、単一光子放射CT)という検査です。

 脳の血管は条件により拡がったり締まったりして必要な一定の血流を保とうとする性質(自動能)があります。何らかの理由で血圧が下がったり、脳の活動が活発になり血液が足りなくなった場合、脳の血管が拡がって血流を補充します。
 ところが片方の脳の主幹動脈に狭窄部位(病側)があると、血流がすでに低下しているため、病側脳ははじめから血管が拡がっている状態です。そこへ、先のように実際に血管が拡がる必要が生じた場合、健側(狭窄部位の無い方)の脳の血流は増えますが、病側の脳はこれ以上血管を拡げることができないため、必要な血液を還流させることができません。このように循環障害を来すと一過性の片麻痺、脱力などが現れることがあり(一過性脳虚血発作)将来の脳梗塞につながります。これが脳血流の予備能低下というもので、血管吻合(バイパス)手術が必要な状態です。

 これを模擬的に起こさせるものがSPECTのダイアモックス(アセタゾラミド)負荷試験というものです。血流は放射性同位元素といって、人体に害のない微量な放射線を放出するヨウ素(I 123)などの元素を注射し脳血流とともに流れてくるこの物質をCTで測定します。初めに安静時の状態を測定し、数日後にダイアモックスという脳血管を拡げる薬を注射した上で同じ検査をします。このとき病側の血流も増えるかどうか(予備能があるかどうか)という検査です。下図の中でstageUというオレンジ色の部分が予備能が低下している部分です。
 術前(上)のものに比べ、術後(下)はこのオレンジ色部分が小さくなっていることが分かるでしょう。

『術前SPECT』
術前SPECT

『術後SPECT』
術後SPECT

脳梗塞(脳血栓、脳塞栓)前任病院病棟管理マニュアル

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