頭をぶつけた後、特に高齢者や1歳くらいまでの乳児は、受傷から3週間以上経過してから『慢性硬膜下血腫』という頭蓋内の水様の血腫を合併することがあります。
高齢者では、受傷から2〜3ヶ月も経過して起こることもあり、
のような症状が出始めたら、一度、受診した方が良いでしょう。
60歳代くらいまでの方は、頭痛で来院する場合も多いのですが、高齢者ではあまり頭痛を訴えず、「最近、急に呆けてしまって、ここ1ヶ月くらいは寝たりおきたりしている」などと、家族が訴えて来院する場合があります。一人暮らしの方は、寝込んでしまうことがあるので、要注意です。
高齢者では、棚に頭をぶつけるなど、ごく軽微な打撲に起因することもあり、また、頭部をぶつけていないのに発症する特発例を20%ほど認めます。このため、年間の発症率は10万人対1〜2人と言われますが、頭部外傷に対する正確な頻度は不明です。しかし、だいたい1%未満と予想されています。
脳組織が損傷されると、硬膜下腔(脳の表面)で凝固(血液を固める)活性が起こると言われます。凝固系(血液を固める)が活性されると、同時に線溶系(血液を溶かす)の活性も起こり、このバランスが崩れることで、次第に硬膜下で出血が繰り返されるということです。実際には脳の表面にあるくも膜という組織に裂け目ができ、このスペースに溜まるため、血腫は周囲の肥厚した膜(袋)に包まれたような形になっています。この血腫の中では、tPA(組織プラスミノーゲンアクチベーター)という線溶系(血液を溶かす)の物質が血液中の3倍くらいに上昇しており、一度完成された血腫は、通常、保存的治療では吸収されません。小さいものでは、まず経過観察、定期的にCTを撮ります。拡大するようなら手術になります。ある程度の大きさになり、麻痺などの症状があれば、数日から1〜2週間で次第に意識障害が出てきますので、手術適応です。手術的に線溶系成分を含んだ内部の水様血腫を洗い流してやると治ります。
● 手術は局所麻酔下による『穿頭血腫洗浄ドレナージ術』というものです。頭部の血腫が厚いと思われる部分の皮膚に局所麻酔し、3cmほど切開します。骨に1個所穴を開け、硬膜、血腫外膜を切開し内部の血腫を洗浄、1日、ドレーンといわれるホースを入れておきます。翌日、ドレーンを抜き、1週間して再発の傾向がなければ終了です。『ツイストドレナージ術』といって、洗浄せずドレーンホースを入れるだけの手術もありますが、効果の差は無いようです。幼少例は大人と管理が多少異なるため、小児病棟や子供病院で加療されます。
数年前までは、手術のみがこの疾患に対する治療法と考えられておりました。しかし、保存的治療でもかなりのケースで奏効することが着目されています。実際、慢性硬膜下血腫の自然治癒例の報告も少なからずあり、治癒機転はいまだ、解明されておりません。● 保存的治療としては、以前から『利尿薬』や『ステロイド』の有効性が指摘されていました。これは血腫の増大が血腫外膜内外の浸透圧差(水の濃さの勾配があると濃い方に水が引き込まれること)によって起こるとされる説に基づくものです。最近、この機序を受け利尿効果のある『五苓散』という漢方薬の効果が注目されています。
再発の因子としては、@慢性アルコール中毒、A高齢者、B乳児、C血液透析、D血小板凝集抑制剤(脳梗塞の血をサラサラさせる薬)、E血友病のような血液凝固障害、Fシャント手術を受けた方などです。
慢性硬膜下血腫のCT(脳表の黒いところが水様の血腫)

慢性硬膜下血腫のCT拡大図、(脳が右へ圧排されている)

『穿頭血腫ドレナージ術』術後CT(内部に白く見えるものはドレーン:矢印)

慢性硬膜下血腫のCT(量の多いもの)

上記症例『穿頭血腫ドレナージ術』術後CT

両側慢性硬膜下血腫のCT

上記症例『両側穿頭血腫ドレナージ術』術後CT

『穿頭血腫ドレナージ術』左:片側例、中:両側例、右:開創部
