頭部外傷

 頭部の外傷は、傷の程度により、打撲による皮下血腫(たんこぶ)からはじまり、帽状腱膜下血腫、骨膜下血腫、挫創、骨折、頭蓋内出血(急性 硬膜外、硬膜下、脳内 血腫)、脳挫傷などが挙げられます。明らかな損傷が無く、受傷時の記憶が無いものや意識障害はよく知られている『脳震盪』です。脳震盪のような意識障害が6時間以上続くものを、『びまんせい軸策損傷』と言い区別しています。
たんこぶの様でも、帽状腱膜下血腫、骨膜下血腫というものは、特にお子さんの場合は血腫の吸収が不良で、1週間くらいしても逆にブヨブヨと溜まってくることがあります。この場合、一度、穿刺して水様の血腫を吸引しないといけないことがあります。

重症な頭部外傷は、受診した病院やその時々で担当された先生に譲るとして、家庭で知っておいてもらいたいことが三つあります。

 第一に、頭部外傷は『時間との勝負』であるということです。
重症なものは1時間以内(通常20分くらいまで)に症状が出ます。頭蓋内で変化の起こりうる、いわゆる『ゴールデンタイム』は6時間と言われています。
「昨日の夜、子供が頭をひどくぶつけたので心配です。」→心配するなら、昨日のうちにして下さい!!!
すでにゴールデンタイムを過ぎて来院しても、あまり意味のないことが多いのです。おそらく、夜間でどこも受診のあてが無く、遠慮したあげく翌日来院したのかもしれませんが、強くぶつけたのであれば、なるべく早く受診した方が良いのは言うまでもありません。本当に心配で、どうしても受診する場所が見つからないのなら、『救急要請』も、やむを得ないのです。
 私がかつて、某都立病院へ勤めていた頃、近くの小児病院から問い合わせがありました。夕方、ちゃぶ台の角に頭をぶつけた1歳6ヶ月の子供さんが、しばらくして様子がおかしいとのことで両親に連れられ来院したとのことです。そのとき既に瞳孔散大、呼吸停止、すぐに呼吸機装着されたとのことですが、この時点ですでに手遅れだったのです。
通常、症状が出るのは6時間以内が多いのですが、1日はみておいたほうが安全でしょう。ただし、高齢者ではまれに『亜急性硬膜下血腫』という2〜3日経ってから起こるものがあるため注意を要します。

第二は、『吐いたら危ない』ということです。
頭部外傷後に6時間以内(通常1時間以内)に盛んに嘔吐するようなら、頭の中に出血などがある可能性があります。周囲を頭蓋骨で囲まれている脳は、脳挫傷や、頭蓋内の出血により圧迫され、逃げ場を失い脊髄へ向かって圧がかかります。このとき、脳幹部の嘔吐中枢を刺激され、吐くしくみです。この症状はかなり敏感で、ちょっとした脳震盪でも嘔吐することはしばしばみられます。ただし、高齢者は脳が萎縮しているため、フリースペースへ圧が逃げ、はっきりとした症状が出ないことがあるので注意を要します。

 ある資産家であった方のお嬢さんが、めでたく大学に入学、ある日、友人数人と連れ立ってスキーに行きました。不幸にも慣れないスキーで立ち木に激突、「頭が痛い」と言いながら何度か吐いたようです(おそらく外傷性くも膜下出血、急性硬膜外血腫の初期など)。友人は病院にいくように勧めたらしいのですが、本人持ち前の、遠慮深くやさしい性格が裏目に出てしまったのでしょう。「休んでいれば大丈夫よ。」と言って自室で寝てしまったそうです。翌朝、なかなか起きてこないので、友人たちがホテルの人に頼んで様子を見に行くと、心肺停止状態だったといいます。事故から十数年経った今でも、本人をよく知る方から、「美人でとてもやさしい、おっとりした、お嬢さんらしい感じの素敵な人だった。」という話を聞くと、見知らぬ人ながら、こちらもよりいっそうやりきれない気持ちになってしまいます。
 お父さんが事業をたたんでしまったのは、お嬢さんが亡くなられて間もなくのことでした。

第三に、特に高齢者や1歳くらいまでの乳児は、受傷から3週間以上経過してから『慢性硬膜下血腫』というものを合併することがあるということです。
高齢者では、受傷から2〜3ヶ月も経過して起こることもあり、

のような症状が出始めたら、一度、受診した方が良いでしょう。
60歳代くらいまでの方は、頭痛で来院する場合も多いのですが、高齢者ではあまり頭痛を訴えず、「最近、急に呆けてしまって、ここ1ヶ月くらいは寝たりおきたりしている」などと、家族が訴えて来院する場合があります。一人暮らしの方は、寝込んでしまうことがあるので、要注意です。


この他、受傷時に意識障害があった場合、『脳震盪』が疑われます。頭をぶつけた子供さんが来院すると、よく看護師さんが「すぐ泣きましたか?」と質問するのはこのためです。意識障害もなく、CTで出血など無ければ、脳震盪自体は心配ありません。

「倒れた後、ここに運ばれたことを覚えていない。」、「頭をぶつけたことを覚えていない。」、という声を良く聞きます。これも、脳震盪の一種ですが、頭部外傷後の記憶がとんでしまう『外傷後健忘』と、頭部をぶつける数分から数時間も前にさかのぼって受傷後までの記憶がとんでしまう『逆行性健忘』というものがあります。自転車で通勤の帰宅途中、夕刻、自動車と接触し転倒、頭を強く打って救急搬送された32歳の男性が、頭蓋骨骨折、髄液瘻(頭の中の水が耳や鼻などから出てくるもの)で入院、保存的治療開始。翌朝、「何で自分が入院しているのかわからない」と言う。昨日、昼食までのことは覚えているが、午後の記憶が定かでない。と、大体こんな感じです。
一般の方からすると、頭をぶつける前のことまで忘れてしまうのは変だと思われるでしょうが、実際、後者の方が多いのです。これは、記憶のメカニズムによるとも言われ、記憶が刻まれるまでの回路を廻っているうちのものは、とんでしまうということのようです。昔のパソコンで文書を作っても、『保存』しないで電源を切ると、全て消えてしまうのに似ています。時間の経過とともに、前後の部分は少しずつ出てきても、核心の部分は思い出せないことが多く、本人にとっては、非常に不可解な症状ですが、既に保存された昔の記憶が消えることもなく、また、今後、記憶力が悪くなるということもありません。


外傷による『頭蓋骨骨折は』、線状骨折であれば、急性硬膜外血腫などの頭蓋内出血を危惧し、経過観察入院、先ず保存的治療します。頭蓋骨が凹む『陥没骨折』は骨の軟らかい小児に多いものです。痙攣などの原因になることがあり、程度により『整復手術(頭蓋形成術)』をします。
頭蓋内の血腫は『外傷性くも膜下出血』、『脳挫傷』を含め、少量であれば、保存的治療しますが、『急性硬膜外血腫』、『急性硬膜下血腫』、『脳内血腫』など拡大すると、意識障害、さらに脳幹部を圧迫し、昏睡、呼吸停止、心停止を来たします。
悪化の兆しがあれば時を移さず、『緊急開頭、血腫除去』を施行します。
血腫の程度により脳が腫れてくることがあり(脳浮腫)、『減圧開頭術』といって大きく開頭し、硬膜という脳の膜を切開、人工硬膜による腫れるスペースを作り、骨を戻さず閉頭します。骨は清潔に保存し、数週間経過し脳浮腫が改善した時点で、『頭蓋形成術』という手術で骨を戻します。

 下記は過去の症例で、高速道路で自損事故を起こし、路上に出たところ後続車にはねられ受傷した
『急性硬膜外血腫、頭蓋骨粉砕骨折』の手術記載の一部です。幸いこの方は、全快し退院しました。 急性硬膜外血腫、粉砕骨折 手術記載

<頭部外傷の際、外来で渡していたプリント> 頭部外傷後の注意


頭部縫合後、抜糸までの注意

 頭を硬いものに強くぶつけると、7mmほど下には帽状腱膜と骨膜に覆われた頭蓋骨がありますので、すぐ腱膜まで切れてしまうことが多く、縫合が必要になります。今は頭皮の場合、剃毛、麻酔ともせず、ステープラというホッチキスのような縫合機を使うことが多くなりましたが基本は同じです。縫合した後、抜糸(抜鉤)は、通常1週間後です。できれば、創部の状態確認のため縫合翌日と、抜糸(抜鉤)のため1週間後には来院していただくことになります。

患者さんの中には、挫創を縫合した部分は、抜糸まで絶対濡らしてはいけないと勘違いされている方も多く見受けられます。

私も昔はそのように習いました。

しかし、ここ十数年のうちに、創傷治癒、感染の概念が変わってきており、むしろ、傷は洗った方が良いと言われています。
洗わずに、消毒だけしてそのままにしておくことで、創部に付着した血餅などが、逆に細菌の培地となり、感染源になってしまうことがあります。しかも、強い消毒液が肉芽を抑制し、創傷治癒の障害になるのです。また、手術室で手を洗う滅菌水というものがありますが、これも不要と、東北大学では手術室の手洗いを一般の水道水で行っています。日本の水道水が、いかに優秀かということです。

縫合当日は、まだ創部の肉芽が作られていません。また、処置の際、一度きれいにしているので、特に洗う必要もないでしょう。
縫合翌日からは、傷の表面も治ってきており、創部に強い刺激を加えなければ、洗髪は問題ありません。シャンプーの使用も可能です。髪の毛を乾かしたら、糸からの感染を考慮し、創部を『マキロン』などで消毒、『滅菌ガーゼ』などで保護しておけば良いでしょう。3、4日して、傷自体が乾いてきたら、絆創膏やガーゼも不要です。


擦過傷(擦り傷)に有効な治療方法

 擦過傷(擦り傷)も、軽症の割にはいつまでも傷が治りにくく、厄介なもののひとつです。
ガーゼをしても、交換の際、肉芽やかさぶたまで取れてしまい、感染を繰り返した挙句、完全に治るまで1ヶ月くらいかかることも稀ではありません。
 これも、やはり、10年ほど前から『洗浄と密閉』こそ、傷が早く治る秘訣と言われてきました。
最近は、良い傷絆創膏が出てきていますし、病院にも密閉できるシート(ビューゲル、デュオアクティブ、オプサイト)があります。しかし実は、傷を良く洗って、キッチンにあるサランラップを掛けておくだけで良いのです。傷を体内環境に入れてやるようなものです。少しずつ浸出液が出てきますので、もし、汚くなったり臭くなったら、さっと水で洗い流して、新しいサランラップをかけ直してやるのです。もちろん、サランラップがずれないように、周囲をテープで止めるような工夫は必要です。これで、大体3日〜1週間くらいできれいに上皮化されてきます。言うに及びませんが、クレラップ・他でも効果は同じです。

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