くも膜下出血の原因は脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう)という血管のこぶの破裂が80%、動静脈奇形(どうじょうみゃくきけい)その他が20%です。このうち動脈瘤によるものは家族性疾患です。一般人口中の自然発生率は10万人中15〜20人ですが、2親等内にくも膜下出血患者がひとりいると2.2〜7.8%に『遺伝する』といわれています。血管の構造は3層に分けられますが、そのうち筋肉成分の中膜が血管分岐部で遺伝的に欠損しており、長期にわたり血圧がかかることにより嚢状に拡大します。この動脈瘤に娘瘤ができると破裂しやすくなります。ただし動脈瘤自体は剖検例の約1%にあるため、動脈瘤が見つかってもその破裂率は1%以下と言われます。一般に破裂しやすい所見としては、瘤の直径が1cm(最近では3mmという意見が主流)以上または形が不整形(娘瘤があるもの)になった場合です。
くも膜下出血は、ひとたび発症すると約3割が治療対象になる前に重症化もしくは死亡、治療しても社会復帰が16〜65%と言われますが、その訳は、次々と合併症が待ち構えている疾患だからです。
@『動脈瘤が破裂』すると、激しい頭痛、嘔吐を認め、重症な場合は意識を失うことがあります。初回の重症度が、予後を左右すると言われます。破裂した動脈瘤は一旦止血されますが、時間を置いて A『再破裂』します。これは、24時間以内が4.1%、以後一日につき1.5%で、ほぼ全例に起こるものと予測されます。また、 B『脳浮腫』という脳の腫れが3日〜5日にピークとなり、2週間頃まで続きます。ほぼ時期を同じくして、4日〜2週間、 C『脳血管攣縮(のうけっかんれんしゅく)』という脳内の血管が細くなる現象が見られ、脳梗塞を合併します。統計上、脳血管撮影などで画像上確認できるものが70%、麻痺、意識障害などの症状を有するものが30%、重症化するものが15%です。発症から2週間くらいまでは、脳脊髄液の通過障害による D『急性期水頭症』がみられますが、発症後2〜6週間に E『正常圧水頭症』を3〜19%に合併します。当然、経過中に肺炎、痙攣、心筋梗塞などの F『合併症』を起こすこともあります。
尚、まれに発症の数日〜数週間前に、1〜2週間、頭痛が続くことがあります。これを『警告頭痛』と言い、本格的な破裂の前に、ごくわずかな出血が起こるものです。
治療は、先ず、再破裂防止のため『開頭クリッピング術』という破裂動脈瘤をクリップで止めてしまう手術をします。症例によっては開頭術を行わなくても『血管内治療(コイル塞栓術)』といって、カテーテルを用いて動脈瘤内にコイルを充填、血栓化により動脈瘤をなくしてしまう治療法があります。止血が確実となった時点で、脳血管攣縮、脳梗塞対策として、動脈を拡張させる薬、血小板凝集抑制剤(血をサラサラさせる薬)、脳代謝を抑える薬を使用し、脳灌流圧を確保するため、循環体液量を増やし血圧を上げます。しかし、脳血管攣縮に対しては特効薬が無いのが現状です。脳浮腫に対しては、脳の腫れを押さえる薬を点滴したり、程度が強い場合は、『減圧開頭』といって頭蓋骨を広範囲に外し、脳の腫れるスペースを作ります。数週間経過し脳浮腫が改善する頃、骨を戻す『頭蓋形成術』を施行します。
『開頭クリッピング術』、『血管内治療(コイル塞栓術)』の適応は、各病院のスタッフ、設備などにもよりますが、血腫量が多く脳浮腫が強い場合、動脈瘤が脳表に近い場合は前者が、出血量、脳浮腫が強くない場合、動脈瘤が深部の場合は後者が選択されることが多いでしょう。血管内治療の専門医とスタッフが常時スタンバイしているような施設では、破裂したときのために手術チームが待機しながら、血管内治療を第一選択としているところも増えてきました。緊急性のない『未破裂脳動脈瘤』の場合も、『血管内治療(コイル塞栓術)』が好まれます。
以上の如く、非常に重症な疾患ですが、ある程度の予防が可能です。
脳ドックを含め一般診療でもMRA(MRIを使った簡易血管撮影で無痛、造影剤不要で15分程寝ているだけのもの)により、動脈瘤の疑いがあるかどうか判定可能で、疑い例はCTAや脳血管撮影を行うことにより確認できます。未破裂脳動脈瘤が見つかった場合、上記の理由で、瘤の直径が1cm(最近では3mm)以上または形が不整形の場合は破裂し、くも膜下出血となる前に治療できます。以前では全例、破裂した場合と同じく開頭クリッピング術という手術を行いましたが、1997年より血管内治療というカテーテルを動脈瘤内に進め内部にコイルを充填することにより瘤は消失します。また特に対側の同部位は10年で約3%再発するとの報告があり、少なくとも5〜10年に一度はMRA再検を勧めます。
くも膜下出血のCT(内部の白いところ)


『開頭クリッピング術』術前後脳血管撮影(矢印、左が術前、右が術後)
『左前頭側頭開頭クリッピング術(前交通動脈破裂脳動脈瘤)』
CTA(立体撮影のため、寄り目をするようにして右眼で左、左眼で右の画像を見ると立体的に見えます)

『両側前頭開頭クリッピング術(前大脳動脈抹消部破裂脳動脈瘤)』
『左前頭側頭開頭クリッピング術(左中大脳動脈分岐部破裂脳動脈瘤)』
『左前頭側頭開頭クリッピング術(左中大脳動脈分岐部破裂脳動脈瘤)』
『右前頭側頭減圧開頭クリッピング術(右内頚動脈、後交通動脈分岐部破裂脳動脈瘤)』
脳浮腫を危惧し、大き目に開頭し骨を外してある(減圧開頭)
『右前頭側頭開頭クリッピング術(右内頚動脈、後交通動脈分岐部破裂脳動脈瘤)』
対側のくも膜下出血後、内部の癒着を危惧し、大き目に開頭
大型動脈瘤を含む多発性動脈瘤のCTA(動脈瘤の一部が脳底部の骨に隠れている)
ステレオ撮影のため、寄り目するようにして右眼で左の画像、左眼で右の画像を見ると、立体的に見えます。
『右前頭側頭開頭クリッピング術(右内頚動脈大型動脈瘤、右中大脳動脈分岐部動脈瘤)』
動脈瘤の全貌を確認するため脳底部の骨一部をドリルで削ります。また、動脈瘤の破裂に備え、頚動脈を確保、動脈瘤にクリップが掛からないときのために、動脈吻合を置きました。
出血量が多い場合、脳血管攣縮による脳梗塞を合併する可能性が高くなります。これを防止するため、術中、可及的に出血を吸引すると共に、術後は『脳室脳槽灌流』といって出血を洗い流します。
灌流液は、福島医大の方法に基づき、以下のものを20〜30ml/時で滴下。