スケバン刑事 - 花のあすか組! 外伝 -“00”-

BLUE WIND (前編)

−「花のあすか組!」第 12 話「もう一人のあすか」より−

「なんの用だい」
 公園。髪の短い少女が一人、通路を歩いていると、その前に一人、後ろにもう一人が立ちはだかった。
 奇妙に時代がかった格好をしているのはいつものことである。確かに、これでは目立つのだが、それは彼女達に考えがあるからだ。
 つまり彼女達、「全中裏」の兵士や幹部は、例えば、あるものは「紅 (くれない)」、あるものは「弥勒」というような名前なのだが、それによってターゲットの中学生に威圧感を与えようと考えているらしい。
 名前にしろ服装にしろ、それそのものは失笑を買いかねないのだが、彼女達は実際に武器をふるって、抵抗者の血を流す。その積み重ねによって、その衣装を一目見れば、抵抗していい相手ではない、ということがわかるようになる。その方針は、確かに効果を上げていた。
(それでも、変な子供が増えた、という程度にしか思っていないわけだ、平成元禄の大人たちは)
 無関心は子供の専売特許ではない。
(そこに大人が気づいてない、というのが問題なんだがな)
 海槌家、青狼会、陰…。警察勢力に対する負の働きかけ、というのを別にすれば、彼らが勢力を広げ、大きな被害が出るまでに成長してしまったのはまさに大人の三無主義が原因だ、と零たちは考えている。
「悪いけど、用事があるんだ。
 後にするか」
 少女は向き直った。
「手っ取り早く終わらせるかにしてくれ」
 少女は、その年頃特有の高い声で、はっきりと言い、ニヤリと笑った。
 その眼。
 対する少女 2 人は、懐から何か取り出した。
(トランプ…いや、カルタか。もう一人は…あれは、貝か?!
 次から次へとよく見つける)
 鞭や弓などというのは明らかに武器だが、懐紙や扇子もあった。扇子には刃が隠してあったが、そういうのを別にすれば、危険だといって咎めることはできない。だが材料を吟味し、製法を工夫し、使い方を変えれば立派な武器になる。全く、うまいところに目をつけるものだ、と零は思った。
「蒼久 (そうきゅう)
 前に立った方が名乗った。と同時にカルタを放つ。
 少女が下がる。カルタが 2 枚、地面に突き刺さった。
 後から声がした。
「翠久 (すいきゅう)
 貝が少女の背中に当たった。
(ご丁寧に絵入りか。
 あれが本物の蛤なら、結構、効くぞ)
「あすか、お前は邪魔をしすぎた」
 零はこの一部始終を、この公園の小山から見ていた。高低差は 3m くらいで、山という高さではないが、疎らとは言いながら木が並んでいるため、相手が別のことに集中していれば、身を隠すには充分だ。
(そろそろだな)
 ペダルに乗せた足に力を入れる。チェーンの音、タイヤが枯れ木を折る音、風を切る音。
 3 人が振り向いた。
 その脇、ギリギリの距離で通過する。
 蒼久は零を避けようとして大きく下がった。それは恐いであろう。自転車とは言え、30km/h 以上も出ているのである。
 ギアをローに落としてブレーキ。後輪をロックさせて、左足で回る。すぐにギアをトップに持っていく。
 今度は翠久が立ちはだかった。貝が唸りを上げて飛んでくる。
「!」
 翠久は零の足を狙った。予想通り、効く。続いて蒼久のカルタが零の目を襲った。
「お前らの相手はこのあたしだ。
 浮気するんじゃねぇ!」
 あすかが叫んだ。全く、大した度胸だ。
「オジンはひっこんでなよ」
 だからと言って大人しくしているわけにもいかない。零は自転車をとめ、チェーンロックを手にした。
「義を見てせざるは勇なきなり、ってね」
 チェーンロックを蒼久の足元に叩き込む。あすかの手刀が蒼久の腹に入った。
「年寄りの冷や水っていうんだよ、そういうの!」
 蒼久と翠久の間に隙ができた。逆にあすかが挟まれる。
「情けは人のためならず」
「贔屓の引き倒し。
 ジジイは邪魔だ!」
 零はあすかと翠久の間に入った。
 すると翠久は零の背後に向けてカルタを放った。上の方で何かが割れる音が響いた。
 零はふりむいた。大きな枝が落ちてくる。枝をよけようと、あすかがあとずさって、零にぶつかった。頭でコンと音がする。
 あすかは、零を睨んだ後、頭をさすった。
 零はそれに構わず、あすかの背後から、蒼久の手に向かってチェーンロックをぶつけた。
「蒼久!」
 翠久の声に揃って振り向く。今度はあすかが早かった。得意のコインを打ち込む。
「引け!」
 蒼久が叫んだ。翠久は、コインで痛めつけられた肩を押さえたまま消えた。
 あすかも。
「おい、ちょっと待てよ」
 コインを拾い上げると、あすかは何も言わずに帰ろうとした。
「オジンに用はないよ」
「まぁ、そう言うなって」
「余計な手出ししやがって。
 おかげで、またあいつらの相手しなきゃならねぇ」
「いや、それは、悪かった」
 あすかは零に背を向けてスタスタと歩いていってしまう。
「待てってば」
 急に立ち止まって零を睨む。
「チャカを持ってるヤツの話は聞けない。後が恐いからな」
 零は胸を押さえた。ジャケットの裏のホルスターに銃が入っているのを忘れていた。
「どういうつもりか知らないが、ガキの世界に首をつっこむのはよしな。
 ガキは思い込んだら周りが見えなくなる。思わぬところで火傷するぜ」
 あ、いたいた、という声が聞こえた。
 香月はるみと堂本ミコ。
「あすかさん、この方は」
「さあね」
「お前、まさかロリコンか?」
「相手にすんな。
 行くよ」
 零はこの 2 人の顔を見るのは初めてだが、全く見慣れない、ということもない。
 同じ目をしている。
 3 人の麻宮サキや、その仲間達と。
(もうちょっと後にするか)

「全中裏」というのは、全国の中学校の裏番を束ねた組織である。
 これは、警察やメディアが誤解しているような、不良生徒の争いは日常茶飯事で、たまに死人が出ることもある、というレベルではない。暗闇機関の捜査した範囲では、全中裏絡みでの死者は既に数十人という単位に達している。彼らの目には、それが子供のケンカとは映らなかった。彼女達は本気で戦っている。
 全中裏の総帥は「ひばり」という。副官の右大臣が「春日」、左大臣は空席で、次に十人衆が控えているが、その内の何人かはあすか達が倒している。
 今のところ、本当に中学生だけの組織らしい、ということは言われている。だが、それだけであれほどの「組織」が動くとはとても思えない。ひばりは車で移動するし、本部は立派な御殿である。大人が関与していないはずはなかった。
 全中裏に対向しているのが、九楽 (くらく) あすかという、さっきの少女である。
「あすか組」というからグループなのかと思ったら、彼女個人がそう名のっているだけであった。それぞれが自分の信じるところを行け、それを押しつぶそうとするものがあれば自ら戦え、というのが彼女の考え方らしい。つまり、さっきの 2 人は、あすかと対等の「親友 (マブダチ)」であって、「あすか組」のメンバー、つまり部下ではない。「はるみ組」「ミコ組」というわけである。
 零個人は共感を覚えるが、多くの人にとってはきびしい要求のように思われた。が、それはどうやら支持を得始めているらしい。いくつか、全中裏の支配を撥ね返した地区もある。十人衆の内、「風林火山」を名のる 4 人は別行動を取っている、という情報もあった。全中裏は、「あすか以後」、苦戦を強いられているらしい。
 あすかの手助けをする形で、これに関与するべきなのかどうか、これが機関の目下の関心事だった。
 既に何人か調査を開始しているが、たまたま任務の切れ目があって、零は一時的にこの件の担当を命じられている。
 あすかが言った通り、零が年を食ったのは事実である。二代目との年齢差は 2 つだったが、三代目の唯とは 4 つ。あすかに至っては一挙に 7 つである。正直言って、話が通じるものか不安はある。
 話が通じなくとも、零はあすかへの伝言を預かっている。それは届けなければならない。これをきっかけにしてあすかに接触し、その印象を報告しろ、という命令を受けている。2 人のスケバン刑事を知っていることが買われたようだ。

 翌日。
 零は、復讐戦を挑むだろう、と考えて蒼久と翠久を監視していたのだが、案の定、2 人はあすかを、とある寺の境内に呼び出した。荒れ寺で誰もいない。零は、全く、よく見つけるものだ、と思ったが、全中裏が荒れ寺にした可能性もあった。
 蒼久と翠久は、彼女達の母体である蘭塾にも、ひばりのいる総本部にも戻らなかった。「蘭塾」というのは、全中裏の訓練学校のようなものである。
 全中裏そのものを探っていたエージェントから入った情報と考え合わせると、この 2 人は手柄を焦って暴走しているのであるらしい。命令も受けていない。つまり修行中の身。技が中途半端なのはそのせいだ。
 このことは、全中裏の苦戦を裏書きする。下っ端が危機感を覚えるような組織は、既に、相当程度まで危なくなっていることが多いのである。仮に全中裏そのものはまだまだ安泰だとしても、九楽あすか排除すべし、という意識を全中裏のメンバー全員が共有している、ということは言える。間違いなく、全中裏にとって、あすかと「あすか組」、独立スケバン連合は脅威なのである。
 さて。
 あすかがやってきた。一人だ。
 零は床下に隠れている。
「待たせたな。
 今日は、邪魔者なしでじっくりやろうぜ」
 零は、あすかのことを試さなければならない。ケンカを売ってみるというのも考えたが、「あすか組」というのが信念であることを考えれば、問題は力ではない。後に機関が本当に味方になる可能性もあるのだから、最初から味方であることを明確しておく方がいい。というわけで、いずれかのタイミングで邪魔、いや加勢に入らなければならない。
 戦いは静かに始まった。蒼久と翠久があすかを挟む。
 カルタが風を切る。貝が唸る。どれも、あすかは身軽によけた。
 あすかが掴まったら、と思っているのだが、掴まらない。これはやはり、あすかが巧くて、この 2 人が下手なのである。零には人のことは言えないが、実力の差ははっきりしている。
 戦闘に参加せずにあすかに近づく方法を考えた方がいいかな、と思った頃、うまい具合にあすかがつかまった。翠久が背後から首を押さえている。
(さて)
 零は横手に出て、チェーンロックを構えた。あすかが抵抗して激しく位置を変える。翠久の背中が見えたところを見計らって、チェーンロックを放つ。翠久がうめき、力が緩んだ。
 あすかの顔がこちらを向く。
「待てば海路の日よりあり」
「わけのわかんねぇこと言ってんじゃねぇよ!」
 走りこむ。早速、蒼久のカルタが飛んできた。よけつつ、あすかの隣に飛び込む。零はチェーンロックを拾った。
 よける。あるいは、叩き落す。この 2 人にはこれしか技がないのか。当たればかなり痛いのは事実だが、当たらなければどうということはない。
「!」
 また貝が飛んでくる。同時にカルタも。
 カルタが貝にぶつかる。
 パン、と鋭い音がして貝が割れた。破片が飛び散り、襲い掛かる。
 顔を庇った零の左手に、いくつか破片がつきささった。
「そういう手もあったか」
 零はあすかの前に立った。これは充分に危険だ。
「どけ、オジン」
 そのとき、甲高い音がした。呼子のような音だった。
 翠久の顔が上がる。零は渾身の力をこめて腹にチェーンロックを投げつけた。苦悶の表情と共に翠久は崩れた。
 だが、蒼久には逃げられた。
「ジジイが首つっこむなって言ってるだろう!」
「こっちにも事情があってね」
「ガキのゴッコに、チャカを持ったヤツのいる場所なんかねぇ!」
 零は腕の血をジーンズに擦りつけた。大した傷ではなかった。
「ガキのゴッコで終わるのか」
「どういう意味だ」
「これは本当に、ガキのゴッコで終わるようなことなのか」
 あすかは眉間にしわを寄せた。
「お前、マッポか?」
 それは答えるわけにはいかない。
 零はジャケットのポケットから包みを出した。
「お前に預かってきた」
「マッポに貰うものなんかねぇ」
 零はそれを開いて見せた。青いおはじきが一つ。
「棟方 遙子からだ」
「…ヨーコ姉 (ねぇ) ?」

Ver.1.1: 2002/8/25 Ver.1.0: 2002/6/16

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