スケバン刑事外伝 -“00”-

SECOND MOVEMENT

無限連鎖円環



 空気が沸騰した。
 その中、唯は羽鳥の体を外に出した。
「唯様!」
「美芹、水じゃ」
 駆けつけてきた美芹は、理由も問わず、素早く背から水筒を取り出した。
「羽鳥さん、飲みない」
 解毒剤を飲ませる。それを見届けると唯は立ち上がった。
「美芹さん、羽鳥さんを。
 成美さん、わちらは」
「待て、風間」
 羽鳥は立ち上がった。
「あんたはまだ」
「風魔に借りを作る気はない」
 口を使って、器用に腕の傷口を縛る。
「…勝手にせんね」
「どこに向かうつもりだ」
「薬品の保管庫じゃ」

「お前が、服部を倒した麻宮サキか」
 志織と平尾が対峙する。
「あの男のようにはいかんぞ」
 ロープが飛んだ。素早くよける志織。
 ヨーヨーが平尾の顎を掠める。これもよけられた。何度、投げても同じだった。掠りはするが当たらない。
(見切られちょる)
 平尾が、服部のように半ば機械となっている、という話は聞かされていない。零がどれだけ平尾のことを掴んでいるかはわからないが、それはやはり考え難いことだった。
 あのときのキーポイントはそこだった。体が機械だからこそ、電流を流すという手が有効だったのだ。生身で高圧電流が平気、ということもないだろうが、目に入る範囲では、それに使えそうなものはなかった。
 それよりも、体が動かない。頭は当時の動きを記憶していて、同じ動きを要求しているのだが、手や足がそれに応えていなかった。鈍っているとは思わないものの、当たり前のことではあるが、ここ暫く、実戦経験は皆無である。
 ぶつけられるものもない。あるのは大きな机と椅子だけだった。サキと麗巳はすでに別の場所に移動してしまっていた。
 飛んでくるロープをよけ続けていたが、これでは先がない。体力がなくなれば掴まる。
(よけながらでは当たらん。
 じゃったらいっそ)
 志織は仁王立ちになった。全神経を集中、「究極のヨーヨー」の要領で、丁寧にバックスイングを開始する。
(来た)
 ロープが伸びる。それがはっきりと見えた。動体視力が失われていないことに志織は感謝した。
(そこじゃ)
 平尾はサイドスロー。肩は、垂直方向には止まっている、と言っていい。志織のヨーヨーはまっすぐにそこに吸い込まれていった。
 気持ちの悪い音がした。続いて、平尾の悲鳴。
 満身の力をこめたヨーヨーで、平尾の右肩が砕けたのだ。
 だが、ロープは飛んできていた。志織はそれに弾き飛ばされた。床を滑る。
 倒れているのは平尾も同じ。それが見える。なのに体の自由が奪われていた。滑っているのはほんの一瞬だろうが、永遠に思える時間だった。
 足にショック。壁があった。力をこめる。
 立つ。
 立ち上がりながら平尾の位置と姿勢を確認。院内の状況を映しているディスプレイの前。
 志織はヨーヨーをその一つに叩き込んだ。甲高い音と同時に、ひびが入る。
 次は、砕かれた右肩を左手で押さえている平尾。平尾はバランスを崩してディスプレイの前にあるコンソールにぶつかった。
(決まりじゃ!)
 全体重をヨーヨーに乗せる。
 空を切って伸びた鎖が平尾の背後にあるディスプレイの亀裂に吸い込まれて行った。
 激しい音。ディスプレイが割れる。次に火花が飛び散った。
 平尾はその勢いで一回転し、膝から崩れ落ちた。
 息をつく志織。肩に痛みを感じる。壁にぶつかったとき、思ったより強く打ったらしい。
「大丈夫ですか!」
 機関のチームだった。早くも態勢を立て直したようだ。
《志織!》
 リーダーらしい男が持った無線機から、京の声が聞こえた。
「すまんけんど、お京に、うちは大丈夫、と伝えとうせ」

 地下にある薬剤保管施設は、見た目はコンビニエンス ストアのようであった。常温では保管できない薬品などを保管するための冷蔵庫がある。その向かい側は、通常の薬品棚らしい。
 唯は、入り口に成美を残した。破壊できるものなら、鍵を破壊しろ、という指示も与えた。人間が出入りし、薬品を処方する部屋でもあるから、倉庫のように重い扉があるわけではないが、簡単に出入りできるようにはなっていない。ここに閉じ込められるのは避けたかった。
 薄暗い。
 蛍光灯は適当に間引きされ、1/4 程度しか点灯していなかった。
 羽鳥と唯はガラス越しに冷蔵庫の中を確認して行った。美芹が、その背後を守る。
 ほとんどの冷蔵庫はまだ稼動していない。動いているものがあれば、扉を開け、中を念入りに調べた。そして一番奥の冷蔵庫。
「これか」
 京から伝えられた形状とも一致する。北 時宗の細胞を保管してある、香水と同じくらいの大きさの瓶が 10 本。そのケースを取り出す。
「唯様!」
 入り口から成美の声。組み合う音。
「美芹さん、これを」
 唯が瓶のケースを預けた。それを抱えて走る。唯が並び、羽鳥が後からついた。
 銃声が続く。羽鳥の手裏剣の腕前は大したものだった。奥から姿を現した者達を的確に倒していく。
 出口が見えた。成美が引き受けていた数人が二つに分かれ、こちらに向かってきた。
 唯のヨーヨーが飛ぶ。
 指先の操作でヨーヨーは二つに割れた。それがそのまま、二人の男の鳩尾 (みぞおち) に入る。体勢を崩したところに、唯の左手、続いて足がめりこんだ。
 その向こうで成美の敵が二人、倒れる。
「風間、急げ」
 そのとき、室内の灯りがいっせいに消えた。
「?」
 何かが走る音。
「扉が!」
 大きな音がして扉が閉まった。
「…二重だったとはな」
 羽鳥が懐中電灯をともした。
「申し訳ありません。迂闊でした」
 成美が唇をかんだ。閉まっていた扉の鍵は破壊したが、別の扉が隠されていたのだった。
「成美さん、それは後じゃ。今は、ここを」
 唯と、それに続いて成美が扉に取り付いた。美芹は、ケースを抱いたまま動かなかった。今の、彼女の任務はそれを確保することだ。
「一枚か…」
 縦に滑る大きな扉が一枚。
「扉そのものは重くはなか。じゃけんど、がっちりロックされちょる」
「爆薬は持ってないの」
 羽鳥が言った。自分の服からもそれらしい容器を出す。
「ありますが、前の作戦で使いましたので、それほどの量は」
「何がどれくらい?」
 4 人の持ち分を合わせる。扉を吹き飛ばすには少ない。
「別に、粉々にする必要はないわ」
 羽鳥は、それを、四角形の頂点に来るように、扉に貼り付けた。
「下がって」
 唯達が背後に下がると、羽鳥は、さっき倒した男の手から拳銃を奪い、その爆薬に打ち込んだ。耳を劈く (つんざく) 音。数十 cm の穴が 4 つ開いた。舌打ちする羽鳥。
「後は任しちくり」
 唯が前に出る。深呼吸して、ゆっくりとヨーヨーをひきつけた。
「は!」
 彼女にしては珍しく、気合とともにヨーヨーを叩き込む。再び凄まじい音がして、扉のその部分が吹き飛んだ。
 羽鳥が走り出る。銃声がした。続いて脱出した唯が見たのは、操作盤の下に倒れている男。扉を閉めたのはこの男だった。
「細胞の容器は回収した」
 羽鳥が指揮車に報告する。京の声が返ってきた。
《了解だ。
 すぐ建物から出てくれ》
「どういうこと?」
《ここは市街地だから爆発でもされたらやばい。電気とガスを切ることにした。
 変なところにいたら、今度こそ閉じ込められるぞ》
「自家発電装置は?」
《野口さんが押さえてる》
「わかった」
 それは唯のヘッドセットにも届いていた。
「羽鳥さんのおかげじゃ」
 走り出そうとした羽鳥に、唯は右手を差し出した。
「私が握り返すとでも思っているの」
「少なくとも、今は仲間じゃろ」
「私達は違うものだ」
 羽鳥の冷たい表情に変わりはない。唯の眉が曇った。
「違う…もの?」
「考え方も、行動様式も違う。
 今回、たまたま同じところに集まっただけだ」
「たまたまって、そんげな」
「その接点が、お前を含む『麻宮サキ』であったことは認める。
 私達に新しい世界を見せてくれたことに、礼を言ってもいい」
「羽鳥さん…」
「だが、別のものであることに変わりはない」
 唯は、差し出したままだった手を下ろした。
「わかったわい。
 そういうことにしといちゃる」

「体の切れは衰えていないようだね、サキ」
 付属病院の屋上。サキと麗巳の戦いが続いていた。
 サキも、零も、海槌 麗巳のことは今日で決着をつけるつもりだった。15 年前のように、生死不明という形では後に災いの種となる。この事件がまさにそうであるように。零は、この付属病院と、それを含む紳明学院大学の敷地全てを包囲するよう指示を出していた。
 麗巳のレイピアが閃いた。扱える武器が豊富にある麗巳だが、どうやらサキを自分の手で殺す、ということにしたらしい。
 サキが身をかわす。彼女のヨーヨーは、当時よりも鋭さを増していた。誰にも語らなかったが、おそらくヨーヨーを放すことはなかったのだろう。
「そうだよ、サキ。
 そうでなくてはね」
「よくしゃべるね、麗巳。
 寂しかったのかい」
「あぁ、そうだよ」
 麗巳は止まった。構えなおす。アン・ガルト。
「お前に会いたくてね、サキ」
 頬が緩む。麗巳の笑顔。ヘビのような。
「お前に会いたくて会いたくて。
 私から肉親を奪ったお前の顔を切り刻み、苦しめ苛んで、自分のしたことを思い知らせてやりたくてね、サキ!」
 トゥシュ。
「お父様はお前に殺された」
 もう一度、突き。
「『憤死』という言葉を知っている?」
 サキは答えなかった。
「亜悠巳は獄中で死んだわ。お前のことを許せなくてね。
 そして久巳は、絶望してその後を追った。
 何もかもお前のせいよ」
 サキは下がって突きをよけ、麗巳はまた構えなおした。
(楽しんでいる…)
 あの頃もそうだった。海槌家がサキの前に姿を現した頃、彼女達がやっていたことは、単に金持ちのゲームだったのだ。
(人の人生と、命をもてあそぶゲーム)
 だから許せなかった。
「教えてあげよう、サキ」
 円を描くように麗巳はレイピアを下ろした。
「これは、あたしたちが前から計画していたことだったんだよ」
「…なんだって?」
「ラルフ・ホーナーという名前を覚えているかしら。彼のサイバネティクス・コントロールで海槌家に従う人間を大量に作り出す計画だった。
 お父様は、その工場として紳明学院を手に入れようとお考えだったのよ。お前のせいで、実現はしなかったけれど」
 レイピアが止まる。
「今の経営陣は、私が戻ってくると、一も二もなくひれ伏したわ。
 それが普通の人間の反応なのよ、サキ」
 動かないサキ。
「お父様のアイディアだけれども、脳に手を加えて従わせる、というのは面白いゲームだった。
 私の、新しい海槌家を興すには絶好の手段でもあったしね。もう少しのところではあったけれども、まぁ、それはどうでもいいわ。
 お前に会えたのだから」
 再び構える。
「海槌家を復活させるために矢島グループをのっとろうとしたのか」
「それにしても遅かったわね。
 私が『蟲交 嶺見』という名前を使い始めて何年経ったと思っているの」
 突き。傷つけるつもりのない攻撃。サキは横に移動してよけた。
「やはり、あなたには私の考えていることなど理解でできないのかしらね」
「忙しいんだよ、あたしは」
 麗巳の顔が強張った。
「なんですって」
「あんたのお相手ばっかりしてるわけにはいかないんだ。
 こんなレベルの低い卒業生ばっかりの大学にかまってる余裕なんかないね」
「あら。
 あなたよりは賢い筈よ」
 今度は上から下に振り下ろす。サキは右に逃げた。
「麗巳、あんたは何も変っちゃいない。
 自分以外の人間は全て道具だ」
「当然でしょう」
「頭をいじられて、人生を誤った奴、そいつにいいように使われた奴」
 突き、それをかわすサキ。
「その挙句に命を落とした奴。
 あんたはそうやって、人を踏みつけないでは生きていられない」
「そういうものなのよ、サキ。
 私は選ばれた人間なのだから」
 サキが止まった。
「誰に」
 ヨーヨーが飛ぶ。麗巳も止まった。
「気の毒にね、麗巳」
「!
 もう一度、言ってごらん、サキ」
 麗巳の頬に赤味が差した。
「頭も悪いようだ。
 普通の人間は、苦労すると成長するもんだけどね」
「サキ…」
 麗巳の動きが止まる。
「麗巳、つくづくあんたが哀れだよ」
 鋭い突き。切っ先がサキの襟元を掠めた。
「私は、他人に同情されるような人間ではない」
「同情なんかしないさ。
 頼まれてもね」
 ヨーヨーが飛ぶ。麗巳の左手にヒット。
 麗巳が猛攻を仕掛けてきた。連続的な突き、あるときは振り下ろし、すくい上げる。サキはそれを冷静にかわし続けた。
「サキ!
 受けなさい!」
「あんたが、妹達や父親を奪われたって言うんなら、あたしも言うさ。
 あんたは、あたしの大事な人を殺した。
 その報いを受けな!」
 怒りの篭ったヨーヨーが飛んだ。
 金属音。
 麗巳のレイピアがはじけ飛んだ。
 その方向を呆然と見ている麗巳に、再びヨーヨー。
 鈍い音に続いて、麗巳の悲鳴が響いた。
「2 人もね…」
「サキ――!」
 サキはヨーヨーを、膝をついた麗巳の足元に叩き込んだ。火花が飛び、コンクリート片が待った。
「ほんとは打ち殺してやりたいところだ。
 だけどそれをしたら、あたしはあんたと同じところまで堕ちることになる」
 静かな声のサキ。
「あんたの大嫌いな暗闇機関が待機してる。大人しく連中にしたがいな」
「私が、お前に情けをかけてもらうような人間だと思うの、サキ」
 言うが早いか、麗巳は胸元のブローチを引き抜き、自分の首に刺した。
「麗巳!」
「楽しかったよ、サキ。
 あんたのおかげで、最後まで楽しかったよ」
 笑う。哄笑であった。それは、一帯に響き渡った。
「麗巳、お前」
 甲高い声を上げながら、しかし、おぼつかない足取りでサキに近づく。憤りに震えるサキは動かなかった。
「どうあっても、あれはゲームだったって言うのか、麗巳!」
 答えない。笑い続ける麗巳。
「麗巳――あっ!」
 麗巳はサキの首を掴んだ。
 力。死にかけている人間とは思えない凄まじい力でサキの首を締める。
「れ…麗巳…」
 笑う。
 笑う。
 笑う麗巳。時折、その理解不可能な嬌声の中にサキの名前が聴こえた。
「くる…苦し」
 どこにこんな力があったのか。サキは意識が遠くなるのを感じた。このままでは。
 破裂音。
 銃声だった。
 サキの首を折らんばかりの力が消えた。
「サ…」
 麗巳の体が崩れた。
「サ、キ」
 苦しみ、いや、恐らくは怒りと恨みに目を見開いたまま、麗巳は事切れた。その、何かを求めるような手は、サキに向かって伸びていた。
「麗巳…」
 荒い息。サキは首をさすった。まだ締められているような気がする。
「大丈夫ですか」
 靴音が駆け寄ってきた。
「いいとこ、持ってくね、坊や」
「すみません。
 ここまで来るのに手間取りました。
 立てますか」
 零が手を差し伸べたが、サキはそれには頼らず、自力で立ち上がった。
「最後まで、理解できなかった。
 憎くもない、邪魔でもない人間を殺すことができるなんて…ゲームにできるなんて」
「理解する必要はありません」
 サキは零を見た。予想外の言葉だった。
「我々の尺度は、排除するべき存在かどうか、それだけです」
「坊や…」
「それだけだったんですね」
 零が麗巳を見つめている。見てはいないのかもしれない。サキはその様子に眉をひそめた。
「どうしたんだい」
「あ、いえ」
 零はヘッドセットを合わせ直した。
「お京か。海槌 麗巳を…あぁ、そうだ。
 無事だ。
 これから降りる。もうしばらく指揮を頼む」
 サキがヨーヨーを差し出した。それを受け取る零。
「世話になったね、坊や」

 前庭。
 既に機密保持は解除されていた。パトカーや救急車が並んでいる。
 サキが歩いてきた。
「美咲さん!」
 唯が装備を外すのを手伝っていた慧は、それに気づいた唯が示した先を振り返った。駆け出す。
「あたし…ずっと見てました。
 ずっと、最後まで」
 あふれ出そうな気持ちを一生懸命に押さえている。
「お帰りなさい…」
「ただいま」
 慧は、口を固く結んで頷いた。
 そして、二人のサキが迎える。
「あんた達にも迷惑かけたね」
「サキさん…」
「あたしがもうちょっと人間的に強かったら、『スケバン刑事』なんてものは生まれなかったかもしれない。そうすれば、あんた達を辛い目にあわせることもなかった」
「やめとうせ。
 うちらは、一時でも『麻宮サキ』を名のれたことを、幸福じゃと思うちょる」
「ほんで、今回は、こうして一緒に戦うこともできた」
「ほんとうに…ごめん」
「サキさん…なんで」
 サキは、志織の抗議を無視した。
「唯…あんたも、そうやって、体を張って戦い続けるんだね」
「先輩…」
「悪いけど、あたしは勝手に、あんた達を引きずり込んだことを背負って行く」
 サキは薄く笑った。それは、あるいは、自分に対する苦笑いなのかもしれなかった。そして、それ以上は何も言わず、慧を連れて歩き出した。
「それは許さんぜよ、サキ」
 志織が言った。サキは立ち止まった。ゆっくりと振り向く。
「できてしまった関係を、なかったことにすることはできんちゃ」
「志織…」
「わちら、それぞれ、別々に辛いことも潜り抜けてきた。じゃけんど、これからは――ひょっとしたら、場所はそれぞれ違っても、一緒に歩いていけるのかもしれん」
「唯には姉さん達が、うちにも大事な親友がおる。
 おまんには慧がおるじゃろ。
 うちらが、一人を気取るのは、もう、しまいじゃ」
 サキは、振り向いた姿勢のまま、目を伏せた。もう何も言えなくなっていた。そのことが、彼女の気持ちを雄弁に物語っている。
「そうじゃ!」
 急に唯は、サキに駆け寄った。
「打ち上げをするかい、連絡先を教えてくれんね」
 目を上げる。わずかにサキの頬が緩んだ。
「…何だろうねぇ、この三代目は」
「まずいじゃろか」
 何か言おうとしたサキだが、人影を認めて、その方向に目をやった。
「あんたが幹事かい」
 視線の先。京はヘッドセットを外した。
「あたしでよかったら」
「立派な幹事ぶりだったよ」
 三人のサキと、それをとりまく輪ができる。そこだけが暖かい。
《けど、麻宮サキが集まったら、暗闇機関の悪口大会になっちまうよ》
《オフレコにしときますよ》
《姉さんたちは酒、どうなんじゃ、唯》
《結花さんが飲むところって、あたし想像できない》
《由真姉ちゃんはちょっと問題じゃけんど》
 笑う。3 人の麻宮サキと、その仲間たちが。
 零は、指揮車の中から、黙ってそれを見ていた。

Ver.1.0: 2003/7/27


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