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「お京、帰らんがかね」
放課後。皆、帰った後だというのに京子が教室に残っていた。サキは先生の方の西脇に用を言いつけられて、今まで残っていたのであった。雪乃はとうにお迎えの車で帰った後である。
「ちょっとな」
京子は一人暮らしである。親や兄弟が一緒なら、帰りたくない、ということもあるのだろうが、それはないはずである。
「何かあったがか」
京子はしばらくサキを顔を見た後、机に突っ伏してため息をついた。
「帰り道にさ」
「うん」
「汚ねぇ古本屋があるんだよ」
「うん」
「そこにさ…」
京子は言いにくそうに黙った。
「古本屋がどうかしたがか。おまんは読書家ちゅうタイプと違う」
「行かねぇよ、あんなとこ!」
急に立ち上がって、予想外に大きな声を上げる京子。
「なんじゃ、うちは別に…」
口をとがらすサキ。京子はまた座り込んだ。
「ごめん」
「だから、その古本屋がどうかしたがか」
「いるんだよ」
「誰が」
「あいつ」
「あいつって」
京子は、サキを恨めしげに見た。わかってくれよ、という顔である。
「だから、誰なんじゃ」
「牧 令」
驚くサキ。
「驚くよなぁ、やっぱり。あいつも、ふざけた真似するよなぁ」
「うちが驚いとるのは、お京が嫌がってるからじゃ。一体、誰がいるのかと思うたぞね。うちはおのろけは聞きたくない」
「のろけてるわけじゃねぇよ。いつのまにかあんなとこでバイトなんか初めやがって、うっとうしいんだよ、あいつ」
「何を言うとるんじゃ。この前だって、危ないところを助けてもらったんじゃないがか」
牧は既にサキ達の戦いに関与している。敵の組織にもマークされている。サキ自身は、これ以上この戦いに人を巻き込むことには反対だったが、それもかまわず京子を守るべく牧の方で首を突っ込んでくるのであった。本人はそういう意識はないのかもしれないが、既に抜き差しならないところまで来ている筈だった。
そんなわけでサキも、むしろ仲間と認めた上で共闘した方が牧の安全のためにもいいのではないか、と思い始めているところであった。
「冬休みだけのバイトかなぁ。だったら我慢してもいいんだけどなぁ」
「うちは知らんぞね。あん人はおまんの恋人じゃ」
決めつけるサキ。
「そんなんじゃねぇよ! 頼むよ、なんとかしてくれよ」
「知らんちゃ。心配して損した」
と言ってサキは帰ってしまった。
サキをはじめ、雪乃も、京子の子分達も、京子と牧は相思相愛だと思い込んでいる。それは全くの勘違いなのだが、京子の反論が「関係ないんだってば」一辺倒であり、その一方で牧はすこしづつ馴れ馴れしくなってくるので、説得力がない。
京子の方も、まだまだ頼りにならないとは言え、少なくとも戦いのパートナーとしては認めつつあるので、前と違って口を極めた悪口は影を潜めている。これも誤解に拍車をかけていた。
帰らないわけにも行かず、今日はいないかもしれない、という一縷の望みをかけて古本屋の前を通りかかる京子。
「お京!」
店の方には視線をやらず、早足で歩いているのに牧には見つかってしまうのだった。むしろ走り出したくなってしまう京子。
牧はすっかり仲間になった気でいるので「お京」と呼んでいる。京子も、最初は怒っていたが、最近では面倒になって一々指摘するのはやめてしまった。
「今、帰り?」
「じゃ、またな」
「ゆっくりしていってよ。せっかく逢えたんだから」
「うるせぇな」
サキの言う通り、助けてもらっている義理はあるからしょうがなくて返事はしてやったが、それだけでも出血大サービスだと思っている京子。
名残惜しそうな牧を残して、スタスタと言うよりは、足を踏みならして店の前を立ち去った。別の道を探した方がいいな、と考えながら。
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Ver.1.1: 2001/8/19
Ver.1.0: 2001/4/22
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