呼び鈴が鳴った。
捻挫した左手が上手く動かないためドタバタと着替えをしている最中だった大崎は苛々と舌打ちをした。
「誰だよ、朝っぱらから」
また鳴る。何度も。
「はいはい!
ちょっと待ってなさいよ」
やっとベルトを締め終わる。大崎はいくらか足音を鳴らしながら玄関の覗き穴に目を当てた。
リリィだった。
ドアを開ける。
「おはよう……」
「朝ならいいんでしょ?」
「でも、俺、すぐに会社」
「遅刻するって電話して。
医者に寄って行くって言えば大丈夫でしょ」
「勝手なことを言うなよ。
そうでなくたって仕事、遅れてるんだから」
「大事な話なの」
リリィは引くつもりはなかった。いつになく強い口調である。
「俺の怪我は別にそんな大層なことじゃない」
「今はそうでも、大変なことになるかもしれないの」
「大変なこと?」
「中に入れて。
立ち話で済むようなことじゃないから」
「あ、はい。
どうぞ」
その勢いに押されてしまう大崎。リリィは、先日とは打って変わり、まるで遠慮するような様子も見せずに奥まで入っていった。テーブルは前と同じ場所にあった。そこに座る。
「コーヒーなんかいいです」
「あ、そう」
大崎は、昨日のことで怒ってるのか、と思った。彼には思い当たることが何もない。やってきて、向かい側に座った。
「会社に電話は?」
「この時間はまだ、警備員しかいないから」
「そう」
リリィはわずかに息を吐いた。
何をどう話すべきかは決めてきた。残念ながら、いくつか嘘をつかなければならない。
(私は、ずっと大崎さんに嘘をついてきた)
だが、それもやむをえない。
そして、あるいは、今日で解消できるかもしれない。
大崎が、これから話すことを理解してくれれば、嘘であることを謝った上で、すべてを話すことができる。
「あの……」
その沈黙に耐えられず、大崎が口を開いた。
「大崎さんを二度、押した人間には心当たりがあるの」
「え……え?」
あっけに取られる大崎。そうだろうとは思ってはいたが。どう話しても驚かれるに決まっている。
「心当たりって。
しかも、押した人間って。
どういうことだよ」
「多分、あたしを尾けてた人たち」
「え……」
「大崎さん、あたし達、きっと狙われてるんです」
「狙われてる、って」
まず、今日の最初の嘘。
狙われているのはリリィだ。大崎は、そのとばっちりを食っているに過ぎない。
だが、そうとも言い切れないのではないか、ということに、日付が変わった頃に気づいた。リリィは、その仮説を元に、今日の話を組み立てている。
「誰に。
狙われる、ってどういうことだよ」
「誰かはわからない」
二つ目の嘘。
「わからない、って……。
ごめん、もうちょっとわかりやすく話してくれ」
「こないだ、爆発事故がありましたよね。
メイ・フォレストの跡地で」
「あぁ、あれか。電源装置の解体に失敗してって奴。
それがどうかしたのか」
「あれ、ホテルの電源装置じゃないかもしれません」
「?」
首をかしげる大崎。
「じゃ、なに?」
「わからない。
でも、ものすごく重要な何か」
「全然、わかりやすくなってないぞ。話が」
「私だってわからないんだからしょうがないじゃないですか」
「あの敷地は俺がいる会社の敷地だぞ。
そこで事故が起こったんだから、俺だって話は聞いてる。多分、よその人よりは詳しいはずだ。
あれは、ホテルを立てた当時は使われてたけど、計算ミスで容量が足りないことがわかって、すぐに使われなくなったっていう話だ。地下なもんだからホテルをどかさないと撤去もできなくてずっとそのままになってて、外装も弱くなってた、って聞いたぞ」
「爆発した場所はわかります?」
「地図は見た」
「そこにその電源装置ってありました?」
「俺、見たことないもん」
「つまり、本当にその装置が爆発したのかはわからないわけですよね」
「何が言いたいの。
ひょっとして俺の会社に文句つけてる?」
「誰がやったのかはわからない、って言ってるじゃないですか」
「ダメだね。
後にしよう。俺は会社に行く」
支離滅裂だと思われたらしい。大崎は腰を浮かせた。
「あの記者はそれを探ってたんですよ」
これは効いたらしい。大崎はゆっくりと座りなおした。
「あの人、あれきり来てませんよね。
あたし達と同じように脅されてるんだと思います」
「ちょっと待て。
水飲んできていいか」
「……。
あたしも欲しい」
「わかった」
ミネラルウォーターのボトルを持ってくると、音を立てて飲む大崎。リリィも一口飲んだ。唇はからからだった。
「あそこの地下に、何かとんでもないものがあるとしよう。
あの新聞記者はそれを探っていたが、脅されて大人しくなった。
そういうことにしておく。
で、何で俺達が狙われるわけ。
あのホテルの関係者は何十人もいるぞ。辞めちゃった従業員を入れれば相当な数になるし、大体、その装置が怪しいって言うんなら、建築当時までさかのぼらなきゃいけないことになる」
「あたし達、あのホテルで、犯罪者に会ってますよね」
「あのチンピラのことか。
あいつらは別に」
「だから!
本当にそうかどうか、じゃなくて、あたし達とあの立てこもり犯と秘密の装置に関係がある、って思っちゃった人がいる、っていうことなんです!」
「あ……。
あ?」
目を白黒させながら唸っている大崎。リリィは黙っていた。ややこしそうに見えるだけで、そんなに複雑な話ではないはずだった。
何もかもが。
「なんとなく、わかった。
田舎で立てこもりとか、普段はぱっとしない社員が女子高校生を助けたとか」
「『ぱっとしない』は余計です」
リリィの抗議を無視する大崎。
「急な閉鎖とか、工事の遅れとか、爆発とか。
勘ぐろうと思えば勘ぐれる材料はいくつもあるわけだ」
「はい」
「たとえば、あの犯人と俺達は、事件を起こしたようなふりで秘密の取引をしてた、とか」
「そうですね。
女子高校生が解放されたのは、そのカムフラージュとか。
想像を膨らませることはいくらでもできます」
「つまり、ヤバいかもしれない、ってそう言いたいわけだ」
「もう怪我してるじゃないですか」
「……」
大崎はベッドのヘリに寄りかかった。天井を見つめて考えている。
「考えすぎじゃないの?」
「え?」
リリィは、信じられないことを耳にした。
「大崎さん?」
「そんなことを考える悪い奴らがさ、階段から突き落とす、なんてことするかな」
「どういう意味ですか」
「そういうつもりがあるんだったら、突き落とすにしても、階段じゃなくて、ホームとかさ、ほかに方法があるだろう。階段だって、一番上から、とかさ。俺が押されたの下のほうだよ。生ぬるくない?」
「大崎さんは怪我したじゃないですか!」
「だから、こんな捻挫なんかじゃなくてさ」
「二日続けてでしょう?
これからエスカレートするかもしれないんですよ」
「かも、だろ?」
「大崎さん!」
「ストーカーはどうした?
まだいる?」
「……」
言葉が出てこない。なぜ、そんな風に楽観できるのか。あるいは、怯えてしまって、逆に事態を過小評価することで安心しようとしているのだろうか。
「どう?」
「減りました。
でも」
「ほら。
考え過ぎだって」
「大崎さんの方にシフトしたからです」
「それだって、『かも』だろ?
調べたわけじゃないんだから」
「あたしは、そんな嘘を――」
ついている。たくさん。
だが、ここで口ごもっている場合ではない。
鵜川、つまり、大崎がいる会社の重役秘書がボウテール人、エゴロスの社員であることは事実なのだ。これを放っておけば、大崎が無事で済まないことは間違いない。
「警察に行きましょう、大崎さん。
このことを話して」
「妄想だって言われるのがオチだよ」
「逃げちゃだめです!」
「そんなんじゃないよ」
大崎の抗議に力がこもる。普段、穏やかな大崎も、逃げと言われて穏やかではいられなかったようだ。
「このままじゃダメです。
一緒に戦いましょう」
「そんな大げさな」
「相手が大きくても、協力して、頭を使えば立ち向かうことはできます」
「落ち着きなさいって。
深呼吸してよく考えて」
「あたし達が一緒だったら勝てます!」
大崎は、唇を一文字に結んで、わずかに息を吐いた。これもリリィには予想外の表情だった。
「問題をごっちゃにしてるな」
「え?」
「ストーカーのこと、俺の怪我のこと、ホテルの事故のこと。
それに……俺達のこと」
大崎の声が頭の中で反響しているような気がした。不協和音が唸っている。リリィにはもう、大崎が何を言おうとしているのかわかってしまった。
「それは、全部、別々のことだ。
君は、ある事柄に気を取られて、それをゴチャゴチャに混ぜてしまっている」
ある事柄。
「前にも言ったつもりだったけど……」
聞いた。だから、二度は聞きたくない。
「俺は、君を」
嫌だ。言うな。言わないで。
「恋愛の対象として見ることはできない」
リリィは両手で耳をふさいだ。
「違いすぎるだろ。年が」
手に力を込める。聞きたくないって言ってるのに。
「一つや二つじゃない。
俺は君の倍も年を取ってるんだ。合うわけが」
「うるさい!」
アパートをリリィの悲鳴が満たした。
スカートの上に輪ができる。ほかの部分より、濃い色合いの輪。一つ、二つ。
心配してるのに。
助けたくて、朝早く来たのに。
なんでこんな仕打ちを受けなければならないの。
涙は止まらない。うつむいたリリィの目からこぼれた輪は上着にもできていた。
リリィは唇をかんだ。
なぜかはわかった。
最初の選択を間違ったのだ。
リリィは、耳をふさいでいた両手を下ろした。ポケットからハンカチを出して目に当てる。涙は止まらないし、鼻もみっともないことになっているはずだったが、もうそんなことを気にする必要はない。終わったのだから。
無言で立ち上がる。
大崎も無言だった。その意味は違うが。
力が入らない。入ってきたときは比べ物にならないほどゆっくりと歩くリリィ。
柱に手をかけないと、玄関の靴も履けない。
ドアに手を伸ばす。大崎はまだ黙っていた。こんなときに気の利いた台詞の一つも言えない。そんな男を好きになってしまった。
「高校生――」
「え?」
つぶやくようなリリィの声に、大崎も小さな声を出した。
「高校生なんかにならなきゃよかった」
「……?」
大崎がその意味を理解できるはずがない。
リリィは勢いよくドアを開けるとそのまま走り出した。
一週間。
大崎は、自分の言ったことを後悔する毎日だった。
あのときは、気のせいだと思ったが、狙われているかも、と言われて注意してみると、確かにそういう視線を感じる。階段を下りるときは必ず手すりを握るようにしたし、ホームでは最前列には立たないようにした。それは横断歩道でも同じで、時折、何か落ちてくるのではないか、と高層ビルを見上げたりした。
ただ、その気配は五日目で消えた。
理由はわからない。あるいは、リリィが自分で警察に届けて、ストーカーたちが捕まったのかもしれない、と思った。
リリィの「うるさい!」という悲鳴が耳に残っている。
高校生が、三十代半ばの自分に恋をする、なんてことがあるはずない、と思っていた。確かに、あの立てこもり事件でリリィと同じ学校の生徒を助けるようなことはあったが、それとこれとは別。現実に、テレビでも雑誌でも、彼自身のことはほとんど話題にならなかった。それをきっかけにしてからかわれているのではないか、と思っていた。
しかし、彼女は彼女なりに真剣だったのだ。
(それがわかってれば)
そのたびに大崎はため息をつく。わかっていてもどうしようもない。普通なら、女子高校生に言い寄られれば、それが本気だろうが遊びだろうが、大喜びするものなのかもしれないが、大崎はどうしてもそういう気にはなれなかった。
ああするしかない。今はつらいだろうが、しばらくすれば、女子高校生特有のパワーで立ち直るだろう。
(高校生なんかにならなきゃよかった)
だが、結局、彼女にはどうしようもない理由でふってしまったことになる。今、十七歳である、ということは彼女の責任ではない。「チビ」とか「デブ」とか言ったのと同じことだ。
「大崎っ!」
「は、はい」
「ボーっとしてる余裕はねぇぞ!」
「はいっ」
また上司に怒られた。
この一週間、日に三度は罵声が飛んでくる。
仕事に集中できないのだからしょうがない。
(どうしてるかな)
一人暮らしの筈だ。確か、両親はロンドンだかロサンゼルスだかに赴任しているとか。東京に叔母がいるからいざというときでも心配はない、とも言っていた
(いざというとき、って)
思いつめる年頃のような気がする。どこか芯の強さを感じさせる性格だから、心配はないだろうが、食事も喉を通らない、というようなことはあるんじゃないだろうか。
(……。
後で――)
「大崎!
お前、会社なめてんのかっ!」
「い、いえっ!」
そうは言っても、いきなりマンションに行くのも気が引ける。大崎は、デスクワークでは役に立たないと書類の運搬を命じられたのを幸い、晴嶺学園に寄った。遅れればまた怒られるだろうが、リリィのほうが心配だった。
「あの子たち」
リリィはいなかったが、いつもリリィと一緒の二人が目に入った。彼女達に聞けばいい。
「こんにちは」
亜矢と真美は、ふいに声をかけられ、はっきり一歩、下がった。
「あの。
大崎です」
時間が妙だから頭に浮かんでこないのか、と思い、名前を繰り返す。
「大崎賢吾。
あの、いつもリリィにからわかれてる」
「なんだよ、あんた」
「ほら、小田リリィって」
「だから、大崎もリリィも知らないよ」
「ちょっと。
そんなこと」
大崎が前に出ると、二人は更に下がった。
「寄るなよ。
警察呼ぶぞ」
「俺だよ。
ほら、リリィがいつも」
「だから、リリィなんて知らないって言ってるじゃないですか!」
亜矢のときは、からかわれているのかと思った。彼女はいつもそうだったからだ。
だが、真美がそう叫んだとき、からかっているのではないのではないか、という気になってしまった。彼女は、亜矢の暴走を止めることが多かったはずだ。何度か会ったときもそうだったし、リリィ自身がそう言っていた。
「君たち」
「近寄るな、っつってるだろ」
「本当に、小田リリィを知らないのか」
「知りません」
「同じクラスだったんじゃないのか」
「同じも違うも、そんな変な名前の奴、うちの学校にはいねぇよ」
「本当か?」
大崎は真美を見た。
「君は、リリィの後ろの席で、黒板が見えにくくて、メガネの度が合わないとかって」
「今の席でピッタリです。変なこと言わないでください」
「嘘だ」
今度は亜矢を。
「君たち二人の席の間にリリィが」
「あたしたちは前と後ろで隣どうしだ。
キモいこと言ってると、本当に警察呼ぶぞ!」
二人は、そのまま後ろに下がり、早足で歩き去った。大崎はその場に残される。
「どういうことなんだ?」
つぶやく。何度も、同じ言葉が口をついて出てくる。
彼女達は大崎のことを知らない。
リリィのことも知らない。
座席の配置も違う。
立ちすくむ大崎。生徒達がいぶかしげな視線を投げてその両脇を過ぎていくが、大崎はそれにも気づかないでいる。
誰かに騙されているのか。それとも、リリィをふったことで恨みを買い、それで嫌がらせを受けているのか。
いや、そんなことだろうか。あの二人の表情は、怪しい人間に話しかけられて怯えている少女の表情だった。演技でもないし、嫌がらせでもない。
(どういうことだ。
俺の記憶がどうにかなって――)
はじかれたように顔を上げる。
見た。
すっかり忘れていたが、前にもあったことだ。
コテージでの事件で、捕まった犯人達は、リリィのことに全く触れなかった。トイレに行かせろと執拗に要求した大崎のロープを緩めたら、それであっという間に倒された、と証言したのだ。
それは大崎自身もそうだった。彼は、内緒にすることを約束したからだ。女子高校生があんなところに侵入して腕力で立てこもり犯をひねりつぶした、ということになったら、いくら腕に覚えがあっても外聞が悪いからだろうと勝手に理解した。犯人達だって、女子高校生にやられるのと、大人の男にやられるのとでどっちがいいか、と言えば考えるまでもない。
だが。
「消せるのか?
記憶を」
リリィは犯人をやっつけた後、細長いツールを犯人達の額に当てていた。いや、はっきり、忘れさせた、と言っていたような気がする。
「そんなバカな」
引き攣った笑いが浮かんでくる。
だが、そうだと考えれば説明がつく。
彼女はなぜ、自分に対するストーカーと、大崎を階段で押した人物と、新聞記者が来なくなったこととをつなげることができたのだ。
調べたのだ。大崎は、調べてないだろ、と言ったが、そうではなかった。
リリィにはその力がある。あのツールにはそういう機能がある。
「え、ちょっと待てよ」
ということは、二人が狙われている、というのは本当だったことになる。
だが、大崎はここのところ、危険な目には会っていない。それは――
「バカ!」
理由は一つ。
リリィは、その何者かに立ち向かおうとしている。
大崎は走り出した。
新幹線が出発した。リリィはシートにもたれかかった。
旅行会社に連絡して、地球での滞在をキャンセルした。荷物を整理し、手続きを済ませ、帰りの便も手配した。今、ランデブー地点に向かうところだ。
「お土産、買う暇もなかったなぁ」
同僚達に怒られるかもしれない。いや、それはトランジットのときでもいい。
「メールが来たから心配になって帰ってきちゃった、ってことにしようかな」
あれはいいタイミングと言えばいいタイミングだった。
「持ってきちゃった。
こんなの」
原価千円にも満たない、おもちゃのようなタイピン。
大崎の気を引こうとして、百円ショップで集めた材料で作ったもの。いつか亜矢が言ったとおり、本物のタイピンでは断られるだろう、と思ったからだ。女子高校生が一生懸命作りました、おもちゃみたいですけど、だったらいいだろう、と思ったのだが。
そもそも、地球の高校生の姿を借りたのが失敗だった。
この星で最強の存在、自由奔放に振舞い、毎日の生活をフルに満喫している種族。
長期滞在での観光にうってつけのこの姿は、大崎との恋には向いていなかった。阻害要因でしかなかった。
(だって、そんなつもりなかったんだもん)
出会いは旅の醍醐味。
だが、そこで、立てこもり犯を説得して女子高校生を助けるようなヒーローに出会えるなんて誰が想像できるだろう。
勿論、その後で会ったとき、大崎は思っていたよりも気弱な人間であることはわかったが、それはなんの傷にもならない。俺はヒーローなんだ、などとふんぞり返っていたらどうしよう、と心配していたくらいで、逆にほっとしたほどだ。
おかげでライバルもいない。楽勝の恋のはずだった。
「堅物なんだから……」
結局、大崎はリリィを寄せ付けなかった。子供と大人の線をきちんと守りぬいた。
そういう人だから好きになったのだが。
リリィは目頭を指でぬぐった。
この鬱屈は別で晴らす。
エゴロスは、あのホテルの跡地で何をしているのだ。それをつきとめてやる。そして、それが地球の都合を考えない無法なことだったら。
「ぶっつぶしてやる」
エゴロスがちょっかいを出さなければ、この恋にはもっと別の展開があったはずだ。計画的なアプローチは、あの記者と鵜川のせいでズタズタにされた。
「乙女の恋心を踏みにじったらどうなるか。
見せてあげるからね」
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