「一つお伺いしてもよろしいでしょうか」
《なんだ》
ボイズたちが慌しく「デアボ・ム」の準備作業をする中、リダ・ローダはバシュトワルに尋ねた。
「なぜ、砲撃なのでしょうか。
我らには i 光量子がありますのに」
《ラボ・ルナティックは r 光量子の塊だ》
「はい。ですから」
《そこに i 光量子のエネルギーを叩き込めば、万が一の確率で『a 光量子』が生まれるやもしれぬ》
「しかし、それは」
《私は科学者だ。
それが絶対の 0% でない限り、起こりうるものと考える》
「しかし、i 光量子銃は成功したではありませんか」
《エネルギー量が全く異なる。
a 光量子はそう簡単に生まれるものではないが、もし LLN を破壊するほどのエネルギーを用いれば、その確率は無視できる量をはるかに超えることになる。
今はまだ、旧科学、旧技術を用いらざるを得ない》
「わかりました」
リダはそう言ったが、納得しているようには見えなかった。
しかし、その表情は直ちに消えた。
「な、なんだ」
ふいに地面から振動が伝わってきたかと思うと、LLN の建物がかすかに揺れた。
そして沈み始めたのだ。
「地下に隠れるつもりか」
LLN の周囲に埃が上がる。その施設は、とても巨大な建物が動いているとは思えないほど静かに、しかも素早く沈んでいった。
「砲撃用意!」
しかし、ボイズたちからは、LLN が電磁バリアに包まれている、という報告が上がってきた。
「…。
移動中は弱い、ということは知っているわけだ」
であればなおのこと今がチャンスである。リダは構わず砲撃の用意をさせた。目標を LLN の中心に設定する。
「やれ!」
耳を劈く音とともに 3 台のデアボ・ムから砲弾が発射された。
それは確かに目標としたポイントに着弾したのだが、バリヤがそれを阻んだ。LLN には傷一つつかない。バシュトワルは「旧科学」と言ったが、砲弾の破壊力は決して旧型のものではない。
「電磁バリヤの設備を探せ」
「そうはさせない!」
飛び込んできた 3 台のギグスがボイズたちをなぎ払った。
「ヘリオスクワッドか!」
グレアが構え、スパークとラスターが揃った。リダとにらみ合う。
「お前が司令官か」
「私の名はリダ・ローダ。
“ips”を束ねるマスター・バシュトワルの片腕だ」
「ナンバー・ツーってことだね。
じゃぁ、丁度いいや」
リダの頬が強張る。
「丁度いい、だと?」
「ここで決着をつけるのよ」
「できるものか!」
リダのその声と同時にボイズが殺到した。
「こいつは…やばい」
ヘルメットの視界にデータが流れていき、ボイズたちの輪郭がなぞられる。赤いものは、自爆するアンドロイドだ。それに捕まれば爆発に巻き込まれる。3 人はそれを右や左、あるいはジャンプしてよけた。
「いつまでも逃げられると思うな」
リダの横にいたボイズが i 光量子銃を構えた。バシュトワルの言うことに従えば、LLN に当たることがあってはならないことになるが、LLN は間もなく地下に完全に隠れるところだ。その心配はない。
「つ!」
i 光量子の束がグレアの足を掠めた。バランスを崩して転倒する。そこに自爆型ボイズが覆いかぶさった。
「グレア!」
「ラッシュ・スタイル!」
スパークが変形させたリプレイザーがボイズの体に巻きついた。珍しく力んだ声が上がり、そのままボイズの体を投げ捨てる。それは着地と同時に爆発した。
「大丈夫?」
「あぁ」
破損したスーツから貴彦の肌が見えている。
「リフスーツが修復されない」
「もう 5 分」
三人は改めて体勢を整えた。
ボイズたちがまた飛びかかってくる。セイバー・スタイルに変えたリプレイザーで対抗するヘリオスクワッド。
だが、ボイズたちの体の動きは彼らの想像を超えていた。巧みに誘導され、わずかに隙のできた一瞬を狙って、i 光量子銃が打ち込まれる。スパークの肩、ラスターの腕の部分が破損した。
「ん?」
リダは、前に一瞬で修復されたスーツが、今回はそのままになっていることに気づいた。
「…。
なんだ?」
また地響きが轟く。
山が割れた。
ラボ・ルナティックの背後にある山に亀裂が入ったと思うと、そこから鈍い反射光が見えた。何かがせり出してくる。
「これは、一体、何だ?!」
ベース・ムーンライトである。
LLN が地下に沈み、その上に BML がスライドしてきて盾となり LLN を守る。これが「バックシフト」、三枝の言う「ガーディアン・シフト」である。
敷地が広大なのは、このための構造を支えなければならない、という理由もあった。
「今だ」
ボイズとリダは重たげな音をあげて移動する BML に気を取られている。ヘリオスクワッドはデアボ・ムに走った。
「リプレイザー!
トライライト!」
砲身の中に吸い込まれていったレーザーが炸裂、一台が爆発した。
「撃て!」
我に返ったリダが叫ぶ。ボイズが i 光量子銃を撃つ。三人は残っているデアボ・ムの陰に隠れた。
LLN と BML の移動中は、rPhRein から r 光量子を転送することができない。スーツが修復されないのはそれが理由だ。どうやらリダも気づいているようだった。執拗に i 光量子銃で狙ってくる。
《エネルギー、減って来ちゃったよ》
《あと二分よ》
移動にどれだけかかるかはわかっている。それを織り込んで設計されているので、今回のような破損のケースを除けば、その間にスーツを維持するためのエネルギーがなくなってしまう事はない。だが、リプレイザーは別だ。使えば使っただけ減る。激しい戦闘になれば、そのスピードも速くなる。
「あっ!」
デアボ・ムの上からボイズが降ってきた。自爆型だった。
「ラスター!」
「放して…離れなさい!」
グレアとスパークが渾身の力で引き剥がす。
「そうだ!」
スパークはふいに体を落とすとボイズの体を抱え上げた。
「それっ!」
もう一つのデアボ・ムに向けてその体を投げつける。ぶつかる直前に爆発、デアボ・ムも四散した。
「お前…」
「すごいことするわね」
「何が?」
ロボットであることがわかっていても、人の形をしたものを「武器」として使うというのは後味の悪いものである。スパークは、僕が作ったんじゃないもの、と悪びれる様子もなかった。
「あ、お腹」
「え」
グレアのわき腹の部分がまた破損していた。今の騒ぎの最中に狙われたらしい。
「そろそろまずいわね」
よく見れば、シューズやグローブも傷だらけである。気づかないうちに随分と撃たれていたようだ。このままでは戦闘に支障が出る。
「あと一分」
デアボ・ムは残り一台になったが、ボイズたちも守るものが減った分、ヘリオスクワッドに投入されている。また、身を隠すものも減っている。
「持ちこたえられるか」
「待ってるのはやだなぁ」
「問題はあの銃よね」
リダが i 光量子銃で LLN や BML を撃たないのと同じように、彼らもあの銃をリプレイザーで撃つことができない。
「あぁ、撃たなきゃいいんだよね」
「え?」
スパークはふいに走り出すと、一番前のボイズから棍棒を奪い取った。
「上手く取ってね。
ラッシュ・スタイル!」
その棍棒にリプレイザーの「鞭」をまきつけると、スパークは起用にそれを振った。先端で解き放たれた棍棒が、i 光量子銃を持ったボイズの手に当たる。
短い悲鳴と同時に銃が飛んだ。
「そうか!」
ラスターがジャンプ。宙に舞った銃をつかんだ。
「もう一丁」
「そうは行くか」
リダの声。
「それはこっちの台詞」
ラスターは奪った i 光量子銃を構えた。これなら撃っても問題ない。
《リダ、引け》
「マスター・バシュトワル。しかし今は」
《見よ、あれがラボ・ルナティックだ》
顔を上げる。
いや、ラボ・ルナティックは完全に姿を消し、その上に覆いかぶさっているのはベース・ムーンライト。背の低い建物が並んでいるのは同じだが、色合いは全く異なる。LLN が研究所然としたクリーム色であったのに対し、BML はグレイ一色。もしそこに砲台があれば、戦艦の艦橋と言っても差し支えない。
「く…」
《ヘリオスクワッドのスーツはどうなっている》
「スーツ…!」
破損した部分は既に修復されていた。移動完了と同時にすべての機能が復旧したのである。
《ラボ・ルナティックは我々が思っているような単純な組織ではないようだ。
戦略を立て直す。今は引け》
「承知しました」
ボイズが後退を始める。
「待ちなさい!」
そう叫んだラスターの手で i 光量子銃のランプが点灯した。
「なに?」
「危ない。捨てろ!」
慌てて放り投げる。銃は空中で爆発した。
「!」
驚きはしたが、大した爆発ではなかった。ロボットたちと同じで、i 光量子そのものは一瞬で消滅する。機械部分が破裂したに過ぎない。
「え、まさか」
ラスターの予想が当たった。一台だけ残っていたデアボ・ムも同じように破壊された。
「立つ鳥後を濁さずって奴か」
その間にリダもボイズたちも姿を消していた。
《お疲れ。
ユーティズと協力して周辺の警戒と捜索に当たって。
それで異常が見つからなければ、バックシフトは解除する》
「了解」
リダはスクリーンに映し出される解析結果を見ると、はっきりと苛立った表情を見せた。
「旧科学の産物ではあるな」
「一台とは言え、デアボ・ムは残っておりました。あの時、破壊していれば」
バシュトワルは続いて表示されるデータを見ながらまた呟いた。
「確かに、どれだけの期間で復旧できるのか、ということも興味深いデータではある」
リダは、その様子に眉をひそめた。
「それは、どういう意味ですか、マスター・バシュトワル」
「ラボ・ルナティックの実力と、どのような者達が支援しているのか、ということは知っておくべきかもしれない」
「支援…」
「r 光量子は実用段階にない。それはまだいかなる財をも生み出さない。
あそこにいる科学者個人が持っている特許、あるいは、r 光量子から派生した技術によるものもあるかもしれん。だが、そうした特許使用料だけでは、あれだけの設備を賄う事は不可能だ。相応の財力を持った者が支援している筈だ」
「では、それを」
リダは早速、気持ちを切り替えたらしい。目に胡乱な光が宿った。
「うむ、それを調査し、可能ならば支援をやめさせる。
私が否定し、奴らが礼賛する経済によって自滅させてやる。
ゆけ、リダ・ローダ!」
「はっ!」
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