スケバン刑事 -少女守飛立伝世-

マヌケな弁護士 (前編)



「なんの用?」
「なにそれ」
 理枝の言葉は彼女らしくもなく冷たかった。弥帆は反射的に声を上げてしまった。
「だってアポもとらないでいきなり来るんだもん」
 弥帆は構わずに玄関で靴を脱いだ。
「まぁった、あたしと理枝ちゃんの間でそんな堅苦しいこと」
「こっちにだって都合ってものがあるんだからね」
「え、ひょっとして若いボーイフレンドでもできた?」
 言いながらキッチンへのドアを開ける。まさしく、勝手知ったる他人の家、であった。
「あんた、人のこと心配してる余裕なんかないでしょ」
 しまった。それもまさしく自分の墓穴を掘る台詞だった。
 シンクの周りにはカップが並んでいる。
「え、お客さんなの?」
「そう」
「あらら。
 おじさんの?」
「違う。あたしのお客さん」
「じゃ、やっぱり、若い男」
 理枝は、それにも構わず、一度、手を叩いた。
「そうだ、あんたにも紹介してあげる」
「え、いいよ。男なんか」
「違う違う。
 女の人。すっごい美人」
 言いながら客間のドアに手をかける理枝。早くおいで、と手招きする。
 入っていくと、その女が立ち上がった。髪の長い、確かに美人。いかにも、仕事ができます、という感じのダークスーツ。
「あ…」
 弥帆がなんと言っていいのか当惑していると、向こうが口を開いた。
「はじめまして、早乙女と申します」
「あ、どうも。
 水島 弥帆です」
 早乙女と名乗った女は理枝に視線を投げた。
「あ、この子は、あたしの亭主の会社の社長の娘さん。
 平たく言えば、友達ってことになるんだけど、今日の話はこの子じゃないから」
「そうですか。
 どうりで若いと思いました」
 言いながら、穏やかに微笑んで、早乙女は名刺を差し出した。
「弁…え、弁護士?」
 想像もしていなかった。
「って、まさか理枝ちゃん、離婚とか?!」
「バカ言わないでよ!」
 後ろから背中を叩かれる弥帆。
「え、だって。
 店の事は関係ないんでしょ。なんで、弁護士の人」
「あたしの知り合い。
 ちょっと家のことでもめてるって言うから、紹介してあげようと思って」
「あ、そういうこと。
 びっくりした。理枝ちゃんが離婚しちゃったら、あたし遊びにこれなくなっちゃう、って」
「どうしても離婚させたいみたいね」
「そんなこと言ってないじゃん」
 理枝は台所に戻っていった。弥帆の分のカップを用意している。
「本当にお友達みたい」
「え」
 弥帆は、客に対する遠慮がなかったことに気づいて、首をすくめた。
「早乙女…『しおり』さんでいいんですか?」
「えぇ」
「きれいな名前ですね。うらやましい」
「水島さんの『ミホ』はどう書くの?」
「『弥生』の『弥』に、船の『帆』」
「あぁ…。
 素敵じゃない。きれいだと思う」
「でも、一発で読んでくれた人いないし。
 最初はいつも、『やほ』って言われる」
「そうか…。
 からかわれたりした?」
「それはもう。中学生くらいの頃まではずっと、ヤッホー、ヤッホーって」
「最近はないんだ」
「友達いないから」
 早乙女志織は、え、という顔になったが、弥帆はそれに気づいていないようだった。志織の名刺を財布の中に入れる。
「理枝ちゃんとはどこで知り合ったんですか?
 パーティなかんか」
「そう。
 旦那さんのお店のパーティで。
 私は関係ないんだけど、事務所の先輩が、旦那さんと同じ学校だっていうことで連れてってもらったの」
「へぇぇ。
 それで早速、依頼してるんだ」
 志織が小さく笑った。
「え?」
「身上調査みたい」
「あたしの目が信用できないっていうの?」
 トレイを持った理枝が賑やかに入ってくる。
「あんまり…」
「生意気に身上調査なんかするんじゃないわよ。子供の癖に」
「自分だって、元スケバンの癖に」
 弥帆は、志織の目の輝きが一瞬、変わったのに気づかなかった。
「あ、弁護士とは昔からおなじみだったのかなぁ。いろんな意味で」
「あたしはそんなドジは踏んでません」
「うまく立ち回ったんだ」
「あんたとは頭の出来が違うの」
「わ」
 悪かったね、と怒鳴りそうになったが、客がいるのだということを思い出した。
「いいですね、楽しそうで」
「こっちは大変なんですよ。
 ちょっと甘やかしすぎたかなって思ってるところなんです」
 理枝はカップを並べながら口も動かしている。
「おたがい、周囲に年の近い同性がいないんですよ。この子は女子高だけど、それを別にすると、一番近い女同士。
 この子は末っ子だし、うちのはこの子のお父さんの後輩で、親子ほどは離れてないけど、姉妹ってほど近くもない。
 だから変な友達関係がキープできてるんでしょうね」
「でも、そういうのって楽しそう」
「それはそうですけどね」
「あたしが合わせてるんだからね」
 弥帆の言葉に、理枝が顔をしかめる。志織はまた笑った。
「でも、福原さんは確かに変なこと教えてそうですね」
「え、どうして」
「だって、今時の子たちは」
 志織の目が弥帆に向いた。
「『スケバン』なんて言葉は知りませんよ」
「あぁ…」
 理枝が、しまった、という顔をし、弥帆が笑う。
「それを理枝ちゃんから教わったっていうのは間違いないよね。
 あたし、日にちも言えるよ、きっと」
「うるさい」
 理枝がポットの紅茶を注ぎ始める。志織の関心はどうやら弥帆にあるようだ。
「その調子だと、普段から使ってるでしょ」
「え」
「『スケバン』って言葉」
「…ん」
 弥帆は一瞬、ためらった。
「あんた、使ってるの。
 そんなことしてると浮いちゃうよ」
「もう浮いてるし。
 ていうか、使ってないよ」
「本当?
 早乙女さん、この子もね、結構、危ないことやってるんですよ」
「ちょっと、理枝ちゃん」
「人助けのつもりなんだろうけど、あんた、そろそろやめなさいよ」
「しょうがないでしょ、頼まれちゃうんだから」
「そんなこと言ってね、怪我するのあんたなんだからね」
「ほっといてよ」
「水島さん、本当なの?」
 また、志織の視線が弥帆を貫く。弥帆は答えられなかった。
「…」
「福原さんの言うとおりだと思う。自分を犠牲にして戦うのは」
「関係ないでしょ」
「確かに大事なことだけど」
 言い返そうとした弥帆は黙った。予想していない言葉だったからだ。「かっこつけてるだけ」「酔っているだけ」、そんなことを言われるのではないかと思っていた。
「大事だけど、とても難しいこと。やり方を間違えば、自分が傷つくだけで、誰の役にも立たない、目的も達せられないってことになる。
 もし、福原さんの言うことが少しでも当たってるようだったら、考え直してみて」
 驚いているのは理枝も同じだった。どうも普通の「弁護士」らしかぬところが早乙女にはある。だから信用する気になったのだが、これもその一つだった。
 呼び鈴が鳴る。理枝は、あ、来た、と立ち上がって玄関へ行った。
 弥帆は、志織から視線を外すとしばらく黙っていた。やがて、振り切るように立ち上がる。
「本当のお客さんが来たみたいだから帰ります」
「天に道なく、地に道なし。我、ただ人の道を歩む。
 私の父の言葉。
 立派な言葉だけど、父はそれで傷ついた。
 私も昔、同じようなことをして、自分も傷ついて、友達も傷つけてしまった」
「早乙女…さん?」
「今ならわかる。
 何を極めるにしても、やり方がある。
 分別臭い、年寄り臭い、そう思えるかもしれないけど、誰も傷つかないで目標にたどり着けるのならその方がいい。それを模索するのは決して逃げなんかじゃない。私はそう思う」
 弥帆は、口をモゴモゴと動かすと頷いた。
「何かあったら連絡して。
 できる限り、力になるから」
 玄関から賑やかに理枝とその友人が入ってきた。弥帆は、珍しくその友人にきちんと頭を下げると、部屋を出た。

(妙なこと言うてしもうたな)
 だから弥帆がその気になったのかもしれないが。
 志織は、自分が所属する法律事務所の応接室の窓から外を見ていた。弥帆から、相談したいことがある、と連絡があった。もう 10 分ほどでやってくる。
 きっかけは、弥帆が口にした「スケバン」という単語だった。かつて自分が「スケバン刑事」であったことがあの一瞬でよみがえってきた。
(初めて会うた頃のお京にそっくりじゃった)
 麻宮サキを名乗って転校した梁山高校で総番だった少女。短くない時間が流れ、彼女は今、その「スケバン刑事」を生み出した組織、暗闇機関のエージェントをやっている。
 あの頃の彼女が持っていたのと同じ、ちょっと危ないことを楽しんでいる雰囲気が弥帆にはあった。
 受け答えはしっかりしていたから、分別がない事はないと思う。あそこでの理枝との会話が、額面どおりのものなら、彼女はそれを人のためにやっている。「ワル」ではない。
 だが、その境界は実はあやふやで壊れやすいものだ。自分の、「スケバン刑事」としての経験も、弁護士としての経験もそれを物語っている。人は、自分は正しいと信じながら、いとも簡単に罪を犯す。
 若かった自分がその線を間違わずにたどることができたのは、相手が、絶対的な「悪」と言っていい存在だったからだ。自分のやっていることの正当性を疑う隙はなかった。強大な敵ではあったが、逆にそれは幸運だった。
(あの子は、一体、何と戦こぅとるんじゃろう)
 ドアが開いて、早乙女先生、お客様です、という声が聞こえた。続いて、事務員に案内されて弥帆が入ってきた。小さくお辞儀をする。
「どうぞ」
 弥帆は、志織に勧められた席に座った。まずは向かい側に座る志織。さっきの事務員がコーヒーを二つ持ってきた。
「学校、ブレザーなんだ」
 弥帆が着ているのは白いブラウス。紺色のネクタイをしていた。
「あ、はい。
 一応、正装で来てみました」
「そんなにかしこまることないのに」
「一応、初対面みたいなもんだし。体裁つくろわないと」
 志織は小さく笑った。
 相談に来た人に対しては、リラックスさせる意味もあって機会を見つけては笑いかけるようにしているのだが、基本的に飾らない性格であるらしい弥帆に対しては無理に探す必要もなかった。
(頼まれごとをする、ちゅうのは、そういうことじゃろうな)
「それで」
「はい」
 弥帆が表情を引き締め、志織もそれに答えた。
「この人、知ってますか」
 雑誌の切抜きを差し出す弥帆。志織はそれを手に取った。
「…。
 ごめんなさい、聞いたことない。
 フェニックスの名前は知ってるけど、販売会社までは…」
「あ、それはいいんです」
 弥帆が志織に見せたのは、フェニックス モーターズの社長、舟木康孝がインタビューを受けたときの記事だった。
「この人がどうしたの?」
「え…と。
 舟木さんは今、病気で入院してます。社長は、親会社のフェニックスから派遣された人が代わりになってます」
 別の記事を滑らせる弥帆。社長の交代を知らせる、小さな新聞記事である。
「うん」
 志織は余計な口を挟まないことにした。いくら社長令嬢とはいえ、一高校生に過ぎないこの少女が、自動車販売会社の幹部の動静にどういう関係があるのか見当がつかない。
「で…」
 一瞬、志織の表情をうかがう弥帆。志織は、催促と疑いの表情を出さないようにしながら見返した。
「倒れた原因は、そこに書いてある通り、脳梗塞で、日にちも 7 月 6 日なんですけど」
 今度は視線を上げなかった。弥帆は、自分が差し出した記事を見ながら口をかすかに動かした。
「水島さ――」
「あたし、舟木さんが逮捕されたところを見てるんです」
「…逮捕」
 語尾を上げないように気をつける。彼女の言うことを疑う理由は今のところない。しかし、想像していなかった言葉ではあった。
「家の前から、男たちに連行されていきました」
「手錠かなにか見えた?」
「服で手元を隠してました」
 それでは「逮捕」とは限らないが。
「連行してった男たちはヤクザとかじゃありません」
「わかるの?」
「一応、父親が怒鳴り込まれた、とかいうのは見たことありますから。なんとなくは」
「そう。
 車は? パトカーだった?」
「普通のやつ」
 疑う理由はないが、信じるに足る手がかりもない。ここはまだ中立でなければならない。
「この元社長のことは知ってるの?」
「父親の友達だから。
 何回か、使いに出されて家に行ったこともあるし、顔は知ってます」
「見間違いではない」
「絶対に。
 それで、あたし」
 弥帆は、自分が少しずつ早口になっていることに気づいていない。話は一向に核心に近づかなかった。
「その後、何回か家に行きました。お見舞いってことで。
 でも、奥さんは必ずいるんです」
「奥さんが、いる、って?」
「だって、脳梗塞って重病ですよね。誰かがずっとつきっきりでなきゃいけないような病気でしょう。
 それなのに奥さんは必ず家にいるんですよ。これっておかしくありませんか?」
「そうね」
 否定半分。一応は金持ちの部類に入る家だろう。その「つきっきり」を、金を払って人に頼む、ということはないことではない。
「その奥様は、会社の仕事にはタッチしてるのかな」
「え…。
 そんなの聞いたことない、けど」
 仕事に関わっていれば、病人の世話ばかりはしていられない、ということはある、と思ったのだが。
「入院先には行ってみた?」
「教えてもらえない。
 あたしだけじゃなくて、誰も知らないみたいなんだ。静かに治療したいってことで秘密にされてる」
「元社長が逮捕されるようなことをしてた、って話は聞いたことある?」
「ない」
「そう…」
「あの」
「ちょっと考えさせて」
 志織は弥帆の言葉を遮った。
 弥帆の疑問はわかる。逮捕されるのを見た人が病気で入院したことになっている。おかしい、と思うのは当然だ。だが。
「それがやっぱりヤクザの類だった、っていう可能性はない?」
「ないよ!
 だって」
 弥帆は知らずに立ち上がっていた。しかし言葉が出てこない。一瞬、自分を見失った。
(あたし、何やってるんだ?)
 あれは逮捕だ。逮捕した人間が言ったんだから間違いない。
 そして、共犯者を捕らえるために、入院ということにしてあるのだ、とその本人が言った。
(あたし、全部、知ってるんだよね)
 それなのに、なんでここへ相談しに来たのだろう。弥帆は、力が抜けたようにすとんと座った。
「水島さん?」
 弁護士なら、「暗闇機関」とかいう組織のエージェントに会わせてくれる、と思った?
 あれ以来、姿を見せなくなっている氷室を探してくれると思った?
 絶対に中に入れてくれない道場に掛け合って、やたらヨーヨーの上手い女から話を聞けるようにしてくれると思った?
 その女が昔、「スケバン刑事」をやっていたかどうか聞き出してくれると思った?
(んなこと、言えるわけないじゃん)
 普通の人が真に受ける話ではない。反対に、あたしよくそんなこと信じてるよな、と思う。
 それはおそらく、自分が体験したことだからだ。野口の口調も、「頭領」とか呼ばれていた女の嫌味な話し方も、自分の耳で聞いた。彼らの態度も自分で感じた。だから嘘ではないと思う。
 だが、それを納得させることができるか? 無理だ。
「いいです…」
「え?」
「なんでもありません。
 さっきの話、忘れてください」
「そんな。
 水島さん、何か困ったことがあって、電話をくれたんじゃないの?」
「困ったっていうか…」
 自分でもなぜだかわからなくなってきた。
「自分の見たことと、世間で言われていることが違っているから、納得できない。そういうことじゃないの?」
「まぁ、そうなんですけど」
 言ってしまえばそれだけのことだが、決して、それだけのことではないとも思う。その理由は弥帆自身にもわからない。
「それ自体は正しいことなのよ」
 弥帆は顔を上げた。まただ。この女の言う事は、弁護士らしからぬところがある。
「あのね」
 志織が静かに言った。
「社長が、反社会的な勢力に脅されていた、って可能性はあるんじゃないかな」
「…」
「不正がばれて脅されていた、彼らのために不正を働くように要求された、理由はわからないけど。
 それで家から連れ出されて、暴行を受けた。
 入院しているのは本当。
 でも、それを口止めされているから、入院先は言えない。
 社長にとどまることもできない。
 これでも説明はつくと思うんだけど」
「…。
 あぁ…」
 半ば、ここに来たのは無意味だった、と思っていた弥帆だが、その説明が筋の通ったものである事はわかった。確かに、弥帆が見た一連の事件は、そういう解釈も可能だ。
 というか、それを思いつかなかった自分の頭がうらめしい。最初にそう思っていれば、あれは一体どういうことだ、などとつつきまわすこともなかったし、あの小さい女に殺されかけたりすることもなかった筈だ。
「なるほど」
 さすが弁護士と呼ばれる人は違う。妙に第三者的な感想が浮かんできた。それを聞いただけでもよしとするか。
「水島さんの顔は見られてないの?」
 志織が意外なことを言う。
「多分…」
「あれから、身の危険を感じるような事はなかった?」
 それは日常茶飯事だが、そのことと関連して、ということはなかった。寧ろ、自分からトラブルに近づいていっている、という感じがする。
「なかった、と思う」
「一ヶ月ちょっとか…。
 もうちょっと警戒しておく必要はあるかもしれないわね」
「警戒…」
 いや、野口が会いに来てくれるのなら、それは願ったり叶ったりだが、志織が言っているのはそういうことではないわけだ。
 最初に、志織の言ったようなことを想像していたら、自分は父親にでも助けを求めただろうか。弥帆は頭の隅でそのようなことを考えていた。
「そう。
 目撃者と思われているとすれば危険だから。
 私、ちょっと調べてみようか」
「え?
 いいですよ、そんなの」
「だーめ。依頼者の危険を見過ごすなんてできないから」
「いや、そんな、大丈夫ですって」
「どうして?」
「だって…今までも大丈夫だったんだし」
「何言ってるの。
 向こうがどういう企みをしているかわからないんだから」
「でも」
「心配しないで、この調査はサービスにしておいてあげる。
 もし本当に危険なことだとしたら、お父さんに相談するから。これで、どう?」
「え、っと」
 強引な人だ。しかし、心配してくれているらしい事はわかる。
 それに、弥帆にはあれがヤクザなどではない事はわかっている。向こうだって距離をとりたがっている。こちらから、そのまずい領域に入り込まなければ問題はないはずである。
 そもそも、どこをどう調べても病気療養中になるように野口達が動いている。いくら弁護士でも、それを暴くのは難しいだろう。万が一、近づいたとしても、野口は弥帆と同じように警告を発するに違いない。その申し出を承諾することで志織に迷惑をかける事はない、と弥帆は思った。
(一応、進行状況は確認したほうがいいかな)
 見当違いの方向に行ったのなら黙っていればいいし、万が一、危険が及ぶのなら、例の道場にねじ込んでやる。人の命がかかっている、と言えば、無視もしないだろう。
「わかりました」
「はい、交渉成立」
 志織が右手を差し出してきた。そのきれいな笑顔に、弥帆の顔も緩んだ。強く握り返す。

Ver.1.0: 2008/8/24

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