侍戦隊 シンケンジャー vs. 風間三姉妹

けっかいやぶれたり

破結界



「そこまでだ!」
 ショッピングモールの中庭に女の声が響いた。
 今は真昼、ベンチで食事を取っている人も多く、また、ピエロやぬいぐるみも出て賑やかだったが、一瞬で闇の中に切り取られた。まるで黒い大きな筒に閉じ込められてしまったように、高い空に太陽は見えているのだが、辺りの気温は激しく下がった。子供達は両親の腕の中に抱えられていたが、その親たちも寒さに震えている。
「暁 (あきら)!」
「はっ」
 その闇の中に同じく黒い装束をまとった一団が一斉に展開した。
 風魔鬼組の副官、風間由真と、その直属のチーム、「白雲隊」である。
「あたしが張ってるところに出てくるとは、マヌケな奴だ。
 結界!」
 辺りを忍たちの声が満たした。
「臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前!」
 いくらか寒さが和らいだが、辺りは逆に薄暗くなった。その中心にうっすらと見える、「ウミワタリ」。
「奴の結界は?」
「姉貴、来たのかよ。
 あたし一人で大丈夫だよ」
「自分で呼んだんじゃないの」
「呼んだんじゃなくて、報告だろ」
 これは、同じく鬼組の幹部、風間結花である。
 結花は懐から「鶴」を取り出した。金属の折鶴を指に挟み、顔の前へ。そして目を閉じる。
 精神を統一することによって、全ての雑音から切り離され、真実の姿だけを感じることができる。「止観」である。
「強い結界ね。
 これじゃ買い物客を外には出せない」
「倒しちまえばいいんだろ」
「簡単に言うじゃない」
「簡単だろ、きっと」
 由真が合図すると忍達は包囲を狭めた。「ウミワタリ」はうろたえているようだった。
「ほら、ビビってる」
「どうして」
「囲まれちまったんだ、当然だろ」
「馬鹿なこと言わないで。
 あの陰は下っ端じゃないわ。『果心居士』に近い空気を持ってるんだから」
「生まれたてなんじゃねぇの?」
「そうなのかな…」
「だったらおっきくなる前に!」

「あて!」
 千明は何かにぶつかったように後ろへ転げた。
「な、なんだよ、これ?!」
 鼻が赤くなっている。確かにぶつかったのだ。
「殿、これは」
「結界だ。
 あのアヤカシ、そんな技も持ってるのか」
 丈瑠はその見えない壁を二度、三度、拳で叩いた。
「強いな。何重にもなってる感じだ。
 一筆奏上!」
 いっせいにシンケンジャーに変わる。
「流ノ介、茉子、開けるぞ」
「はっ」
「ショドウフォン」
 レッドが中央で姿勢を低くすると、ブルーとピンクがその両脇に立った。そして二人で「門構え」を書く。
「殿」
「千明、ことは、先陣だ」
「はい」
 レッドが「とりい」を書く。大きな「開」の文字が現れ、結界が破れた。
「はっ!」

 取り囲んだ忍たちの手から一斉に手裏剣が飛んだ。
「ウミワタリ」は前と同じように体をくねらせ、あるいはしぼんだり伸ばしたりしてそれをよけたが、数が多い。いくつかは体に突き刺さったり、襤褸布の裾を切り裂いたりした。
「ん…?」
 やった、と言いかけた由真の表情が曇った。
「結界が」
「破られてる!」
 辺りは明るくなったが、「ウミワタリ」は力を取り戻した。
「援軍か?」
「今のうち、みんなを!」
 結花は、バックアップに回っていた自分の「紫雲隊」を使って、人々を避難させようとした。
 そこに飛び込んでくる五人。
「シンケンジャー」
「どうやって入ったんだ」
「まさか、結界を破ったのは」
「あいつら…!」
 シンケンジャーは、まっすぐに「ウミワタリ」に向かった。だが、やはり隙間を渡って移動を繰り返す。
「おのれ、チョロチョロと」
「あれ、なんだこれ」
 グリーンが倒されたテーブルの下に黒いものを見つけた。
「触るな!」
 由真が叫んだが、グリーンは聞こえなかったようにそれを拾い上げた。
「あれ?」
 その黒いものはグリーンの手の中で灰になったかと思うと消えてしまった。
「てめぇ」
「ちょ、なんだよ、あんた」
「触るなって言ったろ!
 消えちまったじゃねぇか!」
「おっかねぇおばさん」
「…。
 もう一遍、言ってみな、小僧」
「あ、いや」

 踏み出したレッドを止めるものがあった。
「十臓か」
「やめておけ。
 お前に勝てる相手ではない」
「なんだと?」
「お前を倒すのはこの俺だ。
 あんな化け物の手にかかることは許さん」
 腑破十臓がアヤカシを「化け物」呼ばわりする。レッドは、奇妙なこともあるものだ、と思った。
「なぜだ」
「俺が決めた」
「それを聞いたのではない。
 なぜ、俺があのアヤカシに負ける」
「アヤカシ…?」
 十臓は無表情な視線を丈瑠に投げてよこした。
「まだその程度か。
 であればなおさら、ここを行かせるわけにはいかん。奴に食われるだけだ」
「俺は行くぞ」
「力づくでも止める」
 十臓は裏正の束に手をかけた。
「力づくでも通る」
 そこへ一陣の風。「ウミワタリ」はそれに驚いたかのようにまた隙間へ姿を隠した。
「風間殿」
「…。
 何者だ」
 レッドは十臓を見た。今日は驚く日だ。十臓が風間唯に興味を示すとは思わなかった。
「丈瑠殿」
 そう言った唯の視線は十臓に注がれた。
「あんたは」
「腑破十臓。
 お前は」
「風魔鬼組、風間唯」
「風魔…」
 十臓は「ウミワタリ」がいたあたりへ視線をやった。そして一人合点に頷く。
「なるほど」
「あたしは丈瑠殿に話がある。外しちくり」
「いいだろう。
 お前たちが手を組むなら、私もこの男の体を心配する必要もない」
「…。
 何のことかわからんけんど、そうしてもらえると助かる」
「志葉丈瑠。
 お前を倒すのは俺だ。それだけは覚えておけ」
 そう言うと十臓の姿が消えた。
「いつもいつも勝手なことを」
「この間はすまんかった」
 いまいましげに十臓を見送ったレッドは唯に向き直った。
「いや、こちらの方こそ」
「あたしは勘違いをしちょった」
「勘違い?」
 人々は避難したようである。しかし、シンケンジャーの四人も、風魔の忍達も警戒を解かない。闇は完全に消えたわけではないし、気配も残っている。
 ブルーは、レッドと唯が話をしていることに気づくと、音がしそうな足取りで近づいてきた。由真とにらみ合っていたグリーンは疎ましげにその場を離れてやはりこちらに来る。結局、全員が集まってしまい、風魔の忍だけがあたりを守っている、という状態になった。
「あたしは、あんた達が陰をアヤカシとかいうものと勘違いしている、そう思っちょった。
 じゃけん、それは間違いじゃった」
「どういうことです」
「あれは、陰であると同時にアヤカシでもある」

「あいつはどうしたかねぇ」
「あの、腐った単 (ひとえ) みたいなのかい。いなくなってくれてせいせいだよ」
 六門船。この世とあの世の狭間を流れる「三途の川」に浮かぶ船。
「ふうん、確かに太夫の嫌いそうな奴ではあったねぇ」
 骨のシタリがからかうように笑うと、薄皮太夫は嫌悪感に頬を引き攣らせた。
「でもねぇ、見込みはあると思うんだよねぇ、あたしは」
「見込み?
 あんたの考える事は相変わらずわかんないね」
 シタリはさして気にしている様子でもなく肩をすぼめた。
「だってねぇ、あれだって元はと言えば人間なんだ。
 それが、自分を殺した奴への恨み一心で、どの隙間を渡ったのか知らないが、この三途の川にやってきて、川底の古いアヤカシの死骸やらゴミやら糞やらを取り込んで自分の体を作った。
 つまりあいつも、人間であると同時にアヤカシなんだ。いや、なんでも、向こうでは『陰』とか言われてたらしいんだがね」
「そいつはまた、日のあたらねぇ三途の川に閉じ込められてる俺たちにはぴったりじゃねぇか」
 奥から姿を現したのは、外道衆の御大将と呼ばれる、血祭りドウコクであった。
「相性がいいとでも言うつもりかい。勘弁しておくれよ」
「そう嫌ったもんでもないよ。
 ほら」
 シタリは船縁に行くと長い竹を三途の川につきさした。
「ほんのちょっと、本当にちょっとだけなんだけどね、水が増えてるんだよ。
 どうやらあいつ、なかなか頑張ってるようだよ」
「俺は別に、三途の川の水が増えてさえくれれば、誰がやってもかまわん。
 よし、その祝いに一杯行くとするか。
 太夫、楽しいところを一曲やってくれ」
「あいよ」

Ver.1.1: 2009/6/7
Ver.1.0: 2009/5/31

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