侍戦隊 シンケンジャー vs. 風間三姉妹

ぼんぢからおりがみのよみがえり

梵字力折神蘇生 (前編)



 唯が鞭を持ってヤミワタリに突っ込んだ。ヤミワタリの裾が千切れ、夕日を浴びて消える。
 都心にある野球場の前の広場。人々は既に避難していた。
 由真のリリアンがヤミワタリの腕を捉えた。それを結花の折鶴が激しく傷つけたが、ヤミワタリはその腕を根本から切り離した。ボソ、と気持ちの悪い音がしたが、数秒後にはやはり日の光に灰となり、風に飛ばされた。
「おい、実体ができてきてるぜ」
「実体?」
 由真は不快そうに鼻筋に皺を寄せた。
「前より捕まえやすくなってるんだよ!」
 最初に現れたときには霞の様で、彼女達の攻撃は「暖簾に腕押し」という様子だったが、ヤミワタリの体はいまやしっかりとしたものになりつつあった。由真のリリアンが、それならそれで捕まえやすい、と伸びていったが、ヤミワタリは自分の体の一部を平気で切り落とした。それはいとも簡単に生えてくる。その速度も、次第に早くなっているように思えた。
「早く片付けないと」
「ご加勢申し上げる」
 どこからか太鼓の音が響いた。黒子が志葉の家紋が染め上げられた幔幕を広げていく。派手だなぁ、と由真が呟いた。
「一筆奏上!」
 ショウドウフォンを掲げる五人。
 丈瑠が「火」を。
 流ノ介が「水」を。
 茉子が「天」を。
 千明が「木」を。
 ことはが「土」を。
「はっ!」
 彼らが書いた文字が反転、光を帯びて彼らの体を包んだ。
「シンケンレッド、志葉丈瑠」
「同じくブルー、池波流ノ介」
「同じくピンク、白石茉子」
「同じくグリーン、谷千明」
「同じくイエロー、花織ことは」
「天下御免の侍戦隊。
 シンケンジャー、参る!」
 三姉妹はシンケンジャーに場所を譲った。その周りを、それぞれのチームと共に囲む。
 体を低くして入り込むシンケンジャー。下から払うようにしてシンケンマルを翻すと、やはりヤミワタリの腕が飛ばされたが、ヤミワタリはそれを打撃とも思っていないようだった。
「!」
「消えた」
 その飛ばされた腕が影を作る。ヤミワタリはそこに飛び込んだ。
「下か」
 自分達の体の下に影がある。シンケンジャーは距離をとって警戒した。
「上じゃ!」
 唯が叫ぶ。
「なに!」
 街灯の傘の下から現れたヤミワタリは、レッドの体の上にドッカリと座り込んだが、ブルーとグリーンに蹴飛ばされて転がった。
「殿、お怪我は」
「怪我はないが、臭い」
「なんと」
「都会だと思って油断してた。
 影ってこんなに多いんだ」
 ピンクが辺りを見回す。
「灯りがあっても、その後ろが暗いんや」
「くっそ、どうするんだよ、丈瑠!」
「考えがある。
 風間殿」
 レッドは唯にかけよった。
「なんじゃ」
「お願いがあります。
 ヤミワタリをこの球場の中に誘い込んでもらえませんか」
「中? グラウンドか」
「はい」
「わかった」
 唯は自分の頭を覆っていた装束を剥ぎ取ると、宙に放り投げた。
 元々黒いそれは、アスファルトにはっきりとした影を作る。ヤミワタリが姿を現した。
「そこじゃ!」
 三姉妹が一斉に切り込む。由真は嫌悪感をこらえながら、それでもヤミワタリの体を押しやった。追う。
 一時、球場の建物中に入る。ヤミワタリの姿が見えなくなった。
「止まったらいかん!」
 心配はない。
 あるいは、ヤミワタリの「知能」が発達したらしいことが上手い効果を上げていた。隠れていればいいものを、ヤミワタリは闇を渡り、自分の敵を追いかけてきていた。
「うっ!」
 日陰に入ったことで忍の装束が色を濃くする。先行していた忍の背からヤミワタリが湧き出した。仲間を攻撃することになる。一瞬の躊躇でできた隙、ヤミワタリはその忍を踏み台にして襲い掛かった。
 とり憑かれればまた踏み台にされる。最初の忍は事切れていた。
「伏せろ!」
 美芹の手を足がかりに宙に舞った成美が叫ぶ。その意図を察した忍たちは体を低くし、顔を隠した。
 煙玉の一種、近代兵器なら「閃光弾」と呼ばれるものだった。辺りを光が満たし、ヤミワタリは忍の装束を抜け出して、その光によってできた柱の陰に飛び込んだ。
「中じゃ!」
 唯の指示で忍たちは次々に球場の中に入っていった。
「なんて奴らだ…」
 グリーンが呟く。一糸乱れぬ動きだった。数十人、あるいは、姿を現さないままの者がいるだろうということを考えれば百人もいたりするのかもしれない。
「茉子ちゃん、その人」
 倒れた忍の様子を調べたピンクが首を振った。ヤミワタリが切り裂いたらしい首筋の梵字が赤黒く濡れていた。
「これが、風魔」
 ブルーが同じように呟いた。
「俺たちも行くぞ」
「どうするの」
「これだ」
 レッドがショドウフォンを高く掲げた。
「折神大変化」

「ちょっと、真っ暗じゃないの」
 珍しく結花が叫んだ。
 使われていない球場の中は、闇で臼を作ったかのようだった。
「どういうつもりなんだよ、あのガキ」
 由真にとっては、千明も丈瑠も同じに見えるらしい。
「じゃけんど、これは互角」
 唯は芝に足を踏み入れると体を闇の中に潜めた。赤雲隊の美芹と成美が後ろを守る。彼女達は、いつもより距離をとった。影が重なれば、そこは一層暗くなり、ヤミワタリの出入り口になってしまうからだった。
 忍達は同じように体を低くした。
 夜の闇にまぎれて活動するのは忍も同じ。あるいは、その闇を正しく活用することができるのが、彼ら忍である、と言える。唯が言った通り、今の状況は互角だと考えることができた。
 しかし、誰も口にしていないことがある。
 それは、ヤミワタリはただの「陰」ではない、ということだった。それは、外道衆のアヤカシでもある。誰一人油断などしていないが、わずかでも気を逸らせば命取りとなる。
「…」
「地震?」
 その集中を崩す出来事だった。足の下から振動を感じる。
「なんじゃ?」
 しかし、この振動は地震ではない。短く断続的なものだった。しかも振動は四方からやってくる。
「え?」
 ふと見上げた結花が思わず口にする。うっすらと青い都会の夜空を何かが隠した。ヤミワタリがいつの間にか巨大化したのか。
「増えてる」
 その影は五つ。
「五つ…。
 そうか。
 みんな、顔を隠すんじゃ!」
 唯が言い終わると同時に、真昼の光がグラウンドに差し込んだ。手で目を隠していてもまぶしい。
 球場のカクテルライトではない。
 巨大折神たちだった。
 その目が煌々と光り、グラウンドを照らし出しているのだ。
 五つの方向から同時に光を当てているため、影はどこにもできない。
 ヤミワタリはマウンドの上から跳びかかろうとしているところだった。
 逃げる場所も隠れる場所もなかった。

「おや」
 シタリがつぶやいた。
「なんだかおかしな具合だよ」
「しょうがねぇ。
 ナナシ連中を出せ」
 これまでの上機嫌はどこへ失せたものか、ドウコクはまたいつものように酒をあおった。

「げ」
 由真が嫌悪感たっぷりに叫んだ。
 ダッグアウトの隙間からナナシ連中が現れたのだ。
「新しいアヤカシかよ」
《それはナナシ連中だ》
「どっちもいいよ。
 こっちも本気出すぜ!」
 由真が胸のポケットからリリアン棒を取り出し、二刀流のように構えた。
「風魔鬼組、風間由真。
 人呼んで」
 指先でリリアン棒が回り、光が舞った。
「リリアンの由真」
「風魔鬼組、風間結花。
 人呼んで」
 指に挟んだ折鶴が反射した光が直線を描く。
「折鶴の結花」
「風魔鬼組頭、風間唯」
 振り下ろした鞭が芝を揺らす。
「人の心を食い荒らす闇の住人ども。
 すっかり退治してやるから覚悟せぇ!」
 唯の号令に忍たちが一斉に飛び掛った。かっこえぇ…と猿折神の中のイエローがつぶやいた。
「殿、加勢しなくていいのですか」
「ナナシは任せていい。
 今の俺たちはあの人たちの戦場に闇を作らないようにすることが先決だ。
 なにより、ヤミワタリに注意しろ。
 奴が二の目を出せば、シンケンオーで迎え撃つ」
「くっそ、虎折神がリカバってれば」
 グリーンが歯噛みしている。レッドは黙ってグラウンドを見つめていた。
 風魔は最大限のスピードを発揮していた。立つ位置や構えによってはわずかな陰ができる。しかし彼らは一定の場所にとどまらず、あるいは姿勢を固定せず、ヤミワタリに利用させないようにした。当然、ナナシ連中の登場によってわざわざ無意味に体を動かす必要もなくなった。あるいは、ドウコクの手出しは逆効果であるとも言えた。
 ナナシ連中は次々に倒れていく。彼らの持つ大刀は、そうしてスピーディに立ち回る忍たちには無効だった。
 由真のリリアンがナナシを捕らえると間髪をいれずに忍が切り込む。
 結花の折鶴に翻弄されたナナシに生じる隙を見逃す忍もいない。
「葛!」
 唯の声が球場に響き渡る。
 忍の一部がナナシの相手をやめ、一歩引いたかと思うと円陣を組んだ。ブルーが、なんでそのようなことを、と叫ぶ。円陣など組めば中央は影になる。ヤミワタリに、襲ってくれと言うようなものだった。
「違う」
 レッドの言葉が終わるか終わらないかのうちに、思っていた通り、その中央にヤミワタリが現れる。
 しかし忍たちは円陣を維持したまま、その中央へ一斉に苦内 (くない) を叩き込んだ。聞き苦しい悲鳴と共にヤミワタリはその影の中へ消えた。
「罠なんだ」
 ピンクが感心した様子で言った。この明るい球場内でわざと暗い影を作り、そこへ誘い出しては攻撃を加えている。唯の言う「葛」は、食虫植物の「うつぼかずら」から来たのに違いない。
「プロだぜ、こいつら」
 グリーンが呟く。
 そしてナナシは消え、ヤミワタリだけが残った。
 風魔は真っ暗な天幕を張った。折神たちに照らされたグラウンドに黒いテントが現れた光景は異様だったが、予想通りヤミワタリはそこに現れた。いや、そこしか居場所はなかったのである。
「あれ、なんやろ」
 イエローは、結花の折鶴が光を発しているのに気づいた。反射しているのではない。それは自らが光っていた。光はどうやら彼女の左手から鶴に流れ込んでいるように見える。
 それは由真も同じであった。彼女の足から地面に注ぎ込む光はシャワーのように舞い上がって、両手のリリアン棒に吸い込まれていく。
 そして唯は額の真っ赤な陣鉢を剥ぎ取った。五人が息を飲む。
「それが、『カーン』か」
 唯の額で銀色に輝く力強い梵字。
 おそらくは、結花の光は肩の「タラ」から、由真の光は足の「タ」から発しているのに違いない。
「それが風魔の梵字。
 風魔の力か」
「勝負!」
 三人の声が揃った。
 由真はリリアン棒を振った。
 光る糸が伸びる。それは一度、凝集したかと思うと弾けて広がった。それはさながら光の繭のようである。タイミングを合わせて天幕が外される。繭から紡ぎだされた糸がヤミワタリを縛っていく。それはやがて白く染まった。
 もはやヤミワタリは動けない。
 結花が宙を舞ってその背後へ。
 唯が正面へ走りこむ。
「は!」
 結花が鶴を振り上げる。
 唯が鞭を振り下ろす。
 白い繭に光の線が交差する。
 それは蠢くのを止めた。
 由真が指先をひねると、繭が割れる。
 ヤミワタリの体は煌々と照らされるライトの下で灰になっていった。
「やった!」
 そう見えた。
「来るぞ。
 風間殿、下がって」
 気配を察した唯たちが下がる。
 折神たちが飛び上がるのと、ヤミワタリが巨大化するのとは同時だった。二の目だ。唯の、下がれ、という声がかき消されそうになる。
「侍合体」
 五つの折神が変形、巨大ロボットに合体した。
「シンケンオー、天下統一!」
 ダイシンケンを抜くシンケンオー。
「一の目がいない」
「風魔が倒したんや」
「次は俺たちだぜ」
「今度は切れそうですね」
 ブルーが言った。
 由真が感じた通り、今やヤミワタリはしっかりとした体を持っていた。色に変わりはないが、腕も足もしっかりとした太さを持っている。
「奴は成長を続けている。時間がないぞ。
 参る」
 ゆっくりと踏み出すシンケンオー。その重さに芝がめり込んだ。
 ヤミワタリはふいに状態を反らした。と思うと、顔にぽっかりと穴が開き、そこから灰色の液体を吐き出した。シンケンオーは秘伝シールドをかざしたが、その液体をかぶった瞬間、シールドはまた灰色に色を変えた。
「またか」
 手が伸びる。ゴムのようなそれが直撃すると、シールドはまるで泥で作った壁のように粉々に砕け散った。
「なに」
「毒性アップしてやがる!」
「これじゃ近づけへん」
「殿、うかつに切りかかれば、ダイシンケンはおろか、シンケンオーも」
「ダイテンクウがいれば!」
「…。
 じい、今どこにいる」
《到着しました。
 これより》
「彦馬さん?」
「急げ。
 しばらく持ちこたえる」



カーン


Ver.1.0: 2009/6/21

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