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地上では、風魔が球場の外に出て戦いを見守っていた。シンケンオーは最後の頼みであるダイシンケンを鞘に戻し、間合いを計っている。優位に立ったことを知っているのか、ヤミワタリは攻撃を仕掛けもせず、グラウンドの中を巡っていた。
「なに」
「駕籠?」
黒子のかつぐ駕籠から彦馬が降りた。三姉妹のもとにやってくると、両手を膝にして、丁寧に頭を下げた。
「あんたは志葉の」
「先日はご無礼をいたしました」
「どうする。
あれでは仕掛けられんじゃろ」
唯はシンケンオーに視線をやった。
「それについて、お願いがあってまいりました」
「…。
円盤か」
「はい」
懐から三枚のディスクを出す彦馬。
「お取りいただけませんか」
三人は困惑を隠せない様子だった。当然である。サムライではない彼女達に何かができるとも思えない。
「お願いいたします」
彦馬に強く請われ、半ば、しょうがないな、という気持ちでそれぞれがディスクを手に取った。
「今からで間に合う――」
「おぉ」
それには、彦馬だけでなく、三姉妹自身が驚いた。カビとも泥ともつかない物に覆われていた円盤が一瞬、光を帯び、それがはがれ落ちたのである。
「やはり。
皆様は、モヂカラによく似た力をお持ちなのです。
それも並大抵の強さではありません」
「モヂカラ…」
だが、まだ回復していない。くすんだ色のままである。
「私達に、これを直せ、ということなの?」
「はい」
「どうやって。
仮にあたしらにそんな力があるとしたって、あんなものどうするんだよ」
由真はヤミワタリと対峙するシンケンオーを指差した。
「これをお使いください」
黒子が袱紗を広げる。そこにショドウフォンが並んでいた。
「これは、サムライが使うものじゃないんか」
「おそらく、皆様も使いこなせる筈でございます」
由真が、本当かよ、と呟いた。
「何を書けばえぇ」
「皆様の文字を」
「梵字ちゅうことか」
「それでいいの?」
「皆様の力を、この折神に分けていただければ十分でございます。
それには皆様自身の文字を書いていただくのが一番です」
唯は、剥げ落ちたとは言え、まだカビがまとわりついているディスクを見つめた。そんなことができるのだろうか。
彼女達が持っている梵字に力がある事は間違いない。だが、このディスクは本来、あのサムライ達が修行の末に操れるようになるもの。よそ者である自分達が役に立つとはどうしても思えなかった。
「考えてらっしゃいますか」
「当たり前じゃ」
「それはおそらく、ご自分にそんな役目がつとまるのかどうか、その不安でございましょう」
「失敗したらどんげする。
この円盤が壊れてしもうても、あたしらに責任は取れん」
「その恐れがあれば、逆に心配はない、と考えます」
「…」
それはそうなのかもしれない。自信満々、自分には何でもできる、と考える人間にろくな者はいない。だが、それをこの状況で云々してどうなる。
ヤミワタリの毒液が飛んだ。シンケンオーは、右腕の亀折神を素早く畳んで腕を守ったが、わずかな飛沫が付着し、元に戻らなくなった。
「お願いいたします」
「…。
四の五の言ってる場合じゃないみたいだぜ」
「少しでもその可能性があるのなら」
「そうじゃね。
彦馬さん、それを借りる」
「お願いいたします」
それぞれにショドウフォンを取る。
「みんな、力を貸しちくり」
唯が言うと、忍達が一斉に両手を合わせた。
「臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前!」
唯はゆっくりとディスクを足元に置いた。ショドウフォンを開いて高く掲げ、それを見つめる。
アヤカシを取り込み、あるいは逆に取り込まれてしまった、あの「陰」を葬らなければ。巨大な「二の目」を倒すには、シンケンジャーと協力しなければならない。
「行くわよ」
最初は長女の結花だった。
矜羯羅童子を示す、「タラ」の文字をディスクの上に書く。
ディスクに細かなひびが入る。結花は、失敗か、という恐怖に息を呑んだが、彦馬は力強く頷いた。そのひびはかすかな音と共に割れ、弾け飛んだ。
「きれいな、青」
透き通るような青に力強い黒の紋様が表れた。
「よし。
次はあたしだ」
由真の体にある、制多迦童子を表す「タ」の文字。
同じようにディスクの表面の泥が消える。
「いい色だ。
あたしにピッタリだぜ」
由真は純白のディスクを取り上げた。
「参る」
唯が不動明王を意味する「カーン」を書くと、ディスクが震えた。表面の汚れがすっかり消えると、明るいオレンジのディスクが蘇った。
「まぶしいの」
「それぞれ、舵木折神、虎折神、兜折神でございます」
「マジかよ…」
「サムライ以外でもあのようなことが」
「脱帽って感じ」
「うち、感激やわ!」
「流ノ介、千明、受け取りに行くぞ。
茉子、ことは、しばらく任せる」
レッド、ブルー、グリーンが降り立つ。
「ありがとうございます」
「ちゃんと動けばえぇんじゃけどな」
ディスクを受け取ると、レッドはそれをシンケンマルに差し込み、回転させた。
「いかがですか、殿」
「目覚めたばかりだからな、パワーは弱い。
だが、間違いなく復活している」
「おぉ、舵木折神もです」
「俺の虎折神も!」
「なんだ、それ、お前のなのかよ」
白いディスクが千明のものであることを知った由真は、ちょっと手を抜けばよかった、と悪態をついた。
「ありがとう、姐さん!」
「勝手に姉御呼ばわりすんなっつの」
シンケンマルの束からあふれる光は強さを増していたが、やがて変化は止まった。
「これが限界か。
ダイテンクウは無理だ。
侍武装で行く」
レッドが深々と頭を下げる。ブルーとグリーンも続いた。そしてシンケンオーに戻る。
「完全復活じゃないちゅうことか」
「はい。
言わば病み上がり。先日、ご覧になった、あの鳥の姿になる事はできないようです」
「悪いな」
由真が言った。皮肉でも照れ隠しでもない。やはり彼女達の力では不十分だったのだ。三人ともそう感じていた。
「いえ。
十分でございます。
あの五人も色々と感じるところがあった様ですし」
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