スケバン刑事外伝・番外編 -“Obituary ZERO”-

ALLIANCE

仁美



 西脇は、その白狼連合支部自体については、れっきとした連続殺人事件であるから警察に委ねる、という方針を打ち出した。ただし、白狼連合そのものは SSS の「管轄」であり、周辺を叩くことによって、間接的に支部を潰すための支援はする、ということになった。
 何人か、途中で投げ出すようで納得いかない、という者はいたが、この事件の一部は既にニュースになっているので、SSS が前面に出ては、3 つの“S”の内、“Secret”が脅かされる虞がある、と西脇に言われて収まった。
 白狼連合の動きは警察がマーク、物量作戦に近い体制で、それ以後の「現金収入」は実質的に途絶えた。作戦を指揮する超能力者は小物であり、零も「同盟 (アライアンス)」メンバーの力を借りながら打ち倒している。娘達のことを気にしなくて良くなった零の技が冴えている、ということは言えた。
 一方 SSS は、黒竜会を挑発、その支部に対して敵対的行動を取らせることにも成功した。警察が動いていることは既に知れており、さすがに黒竜会も表立って手を出すことは控えていたが、これが支部を潰すチャンス、と見定めると、密かにではあるが活動を開始し始めた。構成員が一人になるところを狙って襲い掛かったりしていた。
〈5 人、だったな〉
〈うん。他はどうってことないよ。元々力を持ってない奴らだ〉
 キッツはここのところ大活躍であった。
 零が、超能力を駆使するについて素人である、というのはやはり事実であり、微妙なレベルではやはり制御が難しい。
 必要以上の力を発揮してしまうのは、敵を倒す、という点ではさほど問題はないのだが、いくらテレパス能力の弱いガイゼルでも、強い力の動きがあれば、それを察知する。キッツは零のそばでそれを隠す役目を負っていた。ガイゼル周辺の者達のレベルを知っているのはそのせいである。まだ、零の状態をよく把握しているのもキッツであった。
 安東の支部にいるメンバーの半分は、力は持たないが、行動を起こすときに役に立つ、「使える」人間である。ガイゼルはそれに力を与えて便利に使っていた。本来、超能力者である者はわずかに 5 人。
 これは、ガイゼルが、失敗した者、弱い者、意に添わない者を排除しては新しい者と入れ替えてきた結果である。そういう意味では精鋭と言っていいが、問題になるほどの力を持っているのは、今のところ、ガイゼル只一人であった。

 そうこうしている内、白狼連合本部では、その支部を閉鎖することを決定した様であった。安東は、その力ゆえに、一部の者に疎まれていたのである。
「ま、これで一段落ってところかな」
 ドリームフラット地下の作戦室。唯が言った。
「でも」
 仁美がポツリと言った。
「不完全燃焼ってのはわかる」
 志織は、その報せをわざわざ自分で持ってきた。経験を積んでいる唯や香織達はともかく、彼女達にとっては、歯切れの悪い終わり方だろう、と思ったからだ。ちょっと甘いかな、という気もしたが、やはり、電話で片付けるのは気の毒というものだった。
「仁美さん、気にしすぎですよ」
 とミキ。
「そうそう。あんな奴ら、いなくなってくれた方が楽になるってもんです」
 これは圭子。
「そうそう、あたしなんか今まで何度逃げられてるか」
 里奈が言ったが、それには、多すぎる、と全員が声を揃えた。
「そういうわけじゃないんだけど…」
 あの男は恐らく敵ではないのだろう。落ち着いて考えてみれば、敵対する者の空気ではなかった。だが、味方だ、と考える根拠も、彼女は持ち合わせていなかった。
 西脇が言ったのは「心当たりがある」ということだけだ。それがどういう人物なのか、こちら側の人間かどうかすらわからない。彼女も、敢えて聞きはしなかった。
(「敵じゃないこと」イコール「味方」ってわけでもない)
 それは彼女も実体験で知っている。そのどちらでもない者、どちらでもある者。いくらも名前を挙げることができる。
(そう、よくあることよね)
「仁美」
「はい」
 志織の声だった。
「独走は許さないからね」
「…え?」
「白狼連合がその後をどうするつもりかは知らないけど、恐らく、あの連続殺人事件を起こした奴らは、もし逮捕を免れたとすれば、他の支部や下部組織に移される。それを全部、掴まえるっていうのは現実的には無理な話」
 仁美は、何も言えず志織を見ていた。
 そんなつもりはなかったのだが。
 いや、今、そう言われて、自分が何かする可能性は 0 ではなかった、と思い直した。
「実質的に、白狼連合本部を相手にするに等しい。
 今はまだその時期じゃない。わかるね」
「はい」
「どうせその内、ぶつかることになる。それまで気長に待って」
「はい」

〈ガイゼル達が集まり始めています〉
〈場所は?〉
 誰かがイメージを送ってよこした。解体寸前の工場跡。
 イメージの視点が高くなった。やがて鳥瞰図になる。
〈荒川沿い。
 よくこんな工場が残ってたな〉
〈前に使ったことがあるみたいだよ〉
〈読んだのか?〉
 零は思わず声を上げた。そんなことをして監視していることに気づかれたらどうする。
〈ご心配なく〉
 スニークという、やはり猫のイメージを持った少年は快活に声を上げた。
 深呼吸する零。そうだった。自分の力は未熟なのだ。彼らを叱責したりできる立場ではない。そして、力の扱いに長けた者なら、相手に全く気づかれずに接触することもできる。まだ、エージェントとしての癖が抜けていない様だった。
〈気にしないでよ。
 郷さんの出番はもうすぐだ〉
〈集まって何をするつもりなんだろう〉
〈力を結集して何か〉
〈うーん、ガイゼルとそのおまけ、って感じだからね。集まっても、ガイゼルの 2 割増しってくらいだよ〉
 そもそも、ここの「同盟」メンバーがそうであるように、原則的に超能力は距離を問題としない。問題になるのは、その力が弱いときだけである。であれば逆に、彼らが 1 ヶ所に集まって力を結集したところで、さして問題にならない。
〈それは、強者の発想かもしれないぞ〉
 零が言った。
〈君たちは、近づかなくとも協力できる。だから 1 ヶ所に集まることに価値を認めない。
 だが、彼らは弱い。いくらかでも近いほうがいい、と考えるのは自然じゃないか〉
 驚きが広がっていく。
〈さすが、スパイをやっていただけのことはある〉
 誰かが言った。年配のようだった。
 スパイではないのだが。零は苦笑した。
〈そうですね。
 たった 2 割とは言っても、ガイゼルの力が元であれば〉
 舞は言葉を切った。
〈相当の強さ、ということだ〉
〈心配はいりません。私たちが郷さんを支援します〉
〈誰か、そこに何があるのかを調べることはできないか〉
〈何が?〉
〈奴らが単に集まっただけなのか、そこで何かをしでかす気なのかが知りたい〉
〈ちょっと待っててね〉
 レースという少女が言った。隠されたものを知覚する能力が高い。パラボラ アンテナからヒントを得ての「レース」だと聞いて、零はセンスに感心したが、テレパシーでも照れというものがある、ということはそのときに知った。
〈何か地下にあるわよ〉
 暫くするとレースの声が聞こえた。
〈なんか汚いなぁ。あんまり近づきたくない感じ。臭う〉
 嫌悪感の混じった声。
〈農薬かなんかじゃない?〉
〈有毒物質だな〉
 そのイメージを受けて、あちこちから意見が聞こえた。
〈ダイオキシンとか水銀とか〉
〈深さは!〉
〈5m くらい〉
〈不法投棄だ。工場の地下に有毒な廃棄物を埋めたんだ。
 ガイゼルはそれを放出するつもりで〉
〈川に?!〉
〈こんな下流で飲料水は取水しない。だが、それだけの量だと〉
〈郷さん!〉

「総統…」
「まだそう呼ぶのは早い」
 だが、少年は満更でもない様子だった。
「もう白狼連合のくびきは外れました。『安東さん』ではありません」
 度重なる失敗の記憶に、ガイゼルの右頬が一瞬、強張ったが、それは、「総統」となる道を歩き始めることの興奮の陰に消えた。
 長い間、放置されている工場。割れた窓から漏れる光の中に並ぶ、学生服の少年達。
 陰鬱な表情に皮肉の混じった笑み。とても高校生とは思えない、老成と言っていいような顔つき。
 異様な光景であった。
「当初の目的にはやや足りないが、金は手に入った。これをもとに、『帝国』の第一歩を記すことにする」
 ガイゼルの前の少年達 7 人は、左手を右胸に当てると、恭しく頭を下げた。
「まずは、その第一歩として、この工場の地下に眠る毒素を放出する。
 これによって下流は地獄となる。病を恐れる人間達は東京には近づかなくなる。そして、東京湾の水がどこに流れ出るか、人間達は疑心暗鬼となる。
 次には、かつて『夢の島』と呼ばれた地域に手を伸ばす。ゴミによって成り立っている土地に住む者達は恐慌を起こす。
 その混乱が」
 ガイゼルは、同じく左手を胸に当てた。
「私と、優秀なる超能力者の支配する帝国を生み出す原動力になる」
 ガイゼルは 7 人を見渡した。7 人が集まる。
「では、諸君。
『穢れ』を地上へ」
 鋭い音。
 天窓が割れた。

「それがどうかしたんですか」
《いや、急に暇になったもんだから》
 本部には香織しかいないらしい。大して面白くない情報しか入ってこないので、暇を持て余した香織はドリームフラットに電話をかけてよこした。
 こちらも唯は出かけていた。白狼連合の一件が中途半端な形で終結すると、確かに暇な日々が続いた。事件そのものは別に起こっていて、唯がいないのはそのせいなのだが、こちらもすっかり緊張感が抜けている。
「里奈、グータラしてると明日香さんにまた怒鳴られるよ」
 作戦室のドアを開けるなり、仁美が言った。
「香織さんからの報告を受けてるんですー」
「何かあったの?」
「荒川の廃工場に不審人物」
「白狼連合? 黒竜会?」
「わかりませーん」
「香織さん?」
《警察無線の傍受》
「…単に 110 番があったってだけですね?」
《ご明察》
 やっぱりだれている。仁美は電話を切ろうとした。
《黒づくめの青年。
 どうして悪い奴って黒い服着たがるんだろうねぇ》
「黒づくめ?」
《『黒服』じゃないよー。黒いジャンパー、黒いジーンズ、中肉中背》
「え、あ、ちょっと、仁美さん」
《どうしたの?》
 香織の声がしたが、仁美の様子がおかしいと思った里奈は、それを追いかけて行ってしまった後だった。

「『同盟』の者のようだな」
 不敵な顔つきでガイゼルは言った。
 零は無言だった。腕を組んだまま、割れた天窓から、ゆっくりと降りてくる。
「ほう…」
 7 人は、ガイゼルの前に並んだ。
「投降しろ」
 零の声が響いた。
「ガイゼルに忠誠を誓っても使い捨てられるだけだ。その目で見てきた筈だな」
 廃材が飛ぶ。零はわずかに横へずれてそれを避けた。
「力の使い方を誤るな。
 ガイゼルに義はない」
 7 人は目で合図した。朽ちかけている工作機械が、メリメリと音を立てて土台からはがれ、零に向かって飛んできた。
「これが最後の通告だ」
 7 人が振り向き、すぐに零とガイゼルの間に並ぶ。
 右端の少年の顔には汗が浮かんでいた。
「投降しろ」
 無駄だった。今度は、鋼材が 7 つ飛んできた。
「やむをえない。
 後悔するなよ。自分の選択だ」
 零は、脂汗をかいていた少年の前に降り立ち、ヨーヨーを放った。
〈ヴェイパー!〉
 イタリアにいる中年男性が零に意識を合わせた。
 そして、その漆黒のヨーヨーが少年の胸に当たった瞬間。
「うわぁぁぁぁっ!」
 少年は苦悶の表情で倒れた。
「あ、あ、ぁ」
 一生懸命に手をかざす。零にぶつけようとしているのだが、何も動かなかった。
「ご苦労だったな」
 その中年男の「ヴェイパー」という名前は、相手の超能力を中和してしまう能力からつけられたものだった。攻撃に対する防御として使うことが多いが、弱い者が相手なら、その者の力を完全に雲散霧消させてしまうこともできた。
 少年は、自分がただの人となったことに気づくと、ガイゼルに対しても恐怖の目を向け、あたふたと逃げていった。
 ガイゼルはそれを認めなかった。
「がっ」
 一瞬のうちに、少年の心臓を握りつぶした。
「ガイゼル!
 貴様」
 二人が突っ込んできた。零は宙に舞ったが、もう一人が追ってくる。その少年からは敵意だけが流れてくる。ガイゼルに対する忠誠心で動いているのではなかった。
(ガイゼルの同類か!)
 零はキャットウォークに降り立った。少年が空中を追ってくる。
〈ウィーゼル!〉
 零が放ったヨーヨーから何かが飛んだ。少年は、勢いで零の背後の壁に激突、落下していった。
 この、シベリア奥地の老人 (おそらく先は長くないが) は、「無」を作り出すことができた。一定の空間から、原子すら除去することができる。ヨーヨーから一直線に延びた「無」は少年の体を貫いたのだった。
 老人は特に名前をもってはいなかったが、零の説明した「かまいたち」という現象が気に入ったらしく、「いたち」を名のるようになった。
「なかなかやる」
 最初の場所から一歩も動かなかったガイゼルが言った。
 それをかき消す爆音。そして大きなドアが破られた。
(馬鹿な!)
 仁美だった。
 車でそのまま突っ込んでくる。
「安東!」
 けたたましい音を立てて車が止まった。仁美は、素早く降りると、特殊警棒を延ばした。
「『北海の暴れ虎』が何の因果かマッポの手先。
 けれど、あんな残酷な真似は許さない。
 神崎 仁美、『麻宮サキ』の伝説を受け継ぐ SSS の一員だ!」
 堂々の名乗り。
「安東 満雄、そして下っ端ども。観念するんだね!」
 左手のコンパクトをたたみ、とびかかる。
 ガイゼルは微動だにしない。超能力を持たない人間など相手にする気はないのだろう。
 だが、零はそうはいかなかった。キャットウォークから、仁美が相対している側近にヨーヨーを打ち下ろした。
 今度は、超能力は使えない。このヨーヨーは、力を誘導するためのものだ。線上に仁美がいないことが保証される状況でないと力は使えなかった。
 ヨーヨーは膝を直撃、バランスを崩したところを、仁美は蹴り上げた。
(反応は速いようだな)
 もう一人。零は警棒に大き目のナイフで襲いかかっている少年の左手にヨーヨーを巻きつけた。
〈くらえ!〉
 鎖の上を「苦痛」が走った。
「うわぁぁぁ」
 と長い悲鳴をあげて、少年はのけぞった。仁美も何歩か引いた。打ち合った瞬間に、零の放った「苦痛」が漏れたらしい。
(今の…何?)
 零は少年の前に立ち、仁美を下がらせた。
 少年が撃ちかかってくる。いつの間にか金属棒に持ち替えていた。横にいなす。いくら零でもこれを食らったらただではすまない。
 だが、少年も素早い。背後の壁を駆け上がると、上空から棒を振り下ろした。
〈逆転チェスト!〉
「な、あぁっ!」
 零の頭に棒が振り下ろされる直前、少年の両腕は突然、フィルムを逆転させたように持ち上がり、少年はバランスを崩して、みっともない格好で後に倒れた。
「な、なにが」
 人間が自分の直前の行動を覚えているように、筋肉にも、ごくわずか、ごく短時間ながら自分の活動の記憶がある。零はそれを呼び戻し、逆転させたのだった。
 何が起こっているのかわからずうろたえている少年は、零が一歩、前に進み出ると、息絶えた。またしてもガイゼルだった。
「人間は道具か、ガイゼル!」
 仁美は別の少年と打ち合っている。
「やぁ!」
 気合と共に、警棒が打ち下ろされた。再び少年の悲鳴。
(お京が見出しただけのことはある)
 その光景に、流石にガイゼルも考えを変えた様だった。
 右手が上がる。
 と、同時に、工場内に散らばっていた物が浮き上がった。鋼材、工具、机、工作機械、壁の破片。全てが。
(まずい)
 零が飛んだのと、それが仁美に向かって殺到してきたのとが同時だった。
 凄まじい音が響いた。
 もうもうという埃がおさまると、工場の中央に、機械の山ができていた。
「総統…」
「死んだか」
 側近が息を吹き返していた。

〈助かったよ、ブランケット〉
 簡単に言えば「バリアー」を張る能力を持った、ニュージーランドの女性。零と仁美は、その瞬間に力の毛布で包まれた。今は、その機械の山の下に辛うじてできた空間に座っている。
〈すさまじい力だな〉
 工場にあった物、いったい何千個あるのかわからない物を一瞬にして移動させることは、零にも不可能だった。
〈ヨーヨーを使った攻撃なんか簡単に跳ね返されてしまう。生身では勝てない〉
 零の決意が全員に届いた。
〈この娘を逃がすことは可能か〉
〈難しいね。
 出口が遠すぎる。
 その山はバリケードみたいになってる。身は隠せるけど、あんまり意味はない〉
 零の心にイメージが届いた。確かに、外まで走ったのでは、その間に標的になってしまう。
 仁美が零の体をゆすった。
「生きてるんでしょ。何か言ってよ」
「手を引け、という警告を聞かないから、こういう目に会うんだ」
「そんなこと言ってる場合じゃ」
「心配するな。
 この機械の山からは出してやる。
 君一人か?」
「そうよ」
 いや。わざわざ仁美の心を読まなくとも、残った 3 人が助けに来ることは見えている。
〈オートバイで向かってる。2 台。
 あと、15 分もしないうちに〉
〈キッツ、箱に入るぞ〉
〈郷さん…!〉
「ちょっと、途中でやめないでよ」
〈チャージにはどれくらいかかる〉
〈ガイゼルの攻撃にも寄るけど、5 分ってところだね〉
「5 分もかかるのか」
「なんだって?」
 ギシと音がした。二人は頭上を見上げた。
〈ガイゼルが山を潰そうとしてる〉
〈ブランケット、もう一度〉
〈待って。車が〉
「車のエンジンはかけたままか」
「そう…止めてない。
 私たち、潰されそうなの?」
〈圧力をかけたら爆発するかもしれない。
 その近さじゃブランケットでも〉
 ブランケットの、確かに危険だ、という不安が届いた。
「出るしかないな」
「どうやって。
 この壁は一体なんなの?」
「5 分だけ堪えろ。できるか?」
「え? 何が 5 分?」
「俺はこれから力を蓄えるために大人しくなる。復帰には 5 分かかる。それまで自分の身を守れるか」
「できるわ、それくらい。
 あなたのことだって守れるわよ」
「動けなくなるわけじゃない。それは心配いらない。
 いいか、奴の力に捕えられるな。意志で跳ね返せ」
「意志?」
「超能力は、つきつめれば精神力と同じ根を持っている。跳ね返すことは可能だ」
「何言ってるのよ、超能力って」
 仁美の言葉が切れた。
「あなた…」
「そういうことだ。お前達が追っている安東 満雄も、お前が逃がした連中も超能力者」
「なんですって」
「力のない人間が相手にしていい連中ではない。
 逃げられる状況だったら逃げろ。ただし、背は向けても意識を逸らすな。つけ込まれる」
「勝手なこと言わないで」
 ギシという音は頻繁に、そして大きくなった。
「いいな」
〈出してくれ〉

「総統…?」
 ガシャ!と音がし、山の一角が崩れた。零と仁美の体が飛び出す。
 着地すると二人は、屋根を支える太い柱の陰に身を隠した。
「5 分だ。いいな」
「何をする気」
 零は開いた手を胸の前に組み、目を閉じた。
〈みんな、彼女を頼む〉
「変転。
 匣力招来!」

Ver.1.0: 2002/1/19

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