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目隠しのまま歩かされる。靴音が響くところを見ると、ここはビルのエントランス ホールか何かだ。
「あ、つ」
前を行く五代が躓いた。高村はそれに突っ込みそうになった。
「階段なら階段って教えろよ」
「もうそろそろいいんじゃないの、目隠しとってくれても」
「黙って歩け」
高村も同じくつまづく。体が手すりに触れた。体勢を立て直した、と思ったら反対側へ。
(せまいな、この階段は)
「しっかり歩け!」
男が、後ろ手に縛られている高村の手を引っ張る。
「エレベーターくらい使わせてくれよ。危ないだろう?」
「黙れ!」
「まったく」
ゆっくりと登る。
段がない。踊り場だ。
高村は急に振り返った。ふいの動きで、高村の手を掴んでいた男がバランスを崩した。その気配を目標に足を振り上げる。
入った。
男が転落していく音が聞こえた。
「潤!」
五代も察したようだった。階段を駆け上がる。五代を掴まえていた男がつまづいてころんだ。そこを高村が蹴り上げる。
「一平さん」
ふたりは背中合わせになった。
「向きを変えてしゃがめ。僕の手に顔を」
「え」
「Quick!」
言われた通りにする。五代の顔が高村の手にかかった。まさぐる。目隠しを探り当てた高村はそれをひっぱった。
「あたたたっ!」
ひっかき傷は残ったが、目隠しは外れた。
「潤、俺のも」
同じように乱暴に外す。
と同時に、騒ぎを聞きつけた者達が走ってくるのが見えた。
「逃げろ」
「なんで上に!」
「下から追ってくるからだよ!」
2 階よりも上はオフィスのようだ。二人は手は縛られた状態のまま、追っ手を気にしながらも、すべてのドアノブを回していった。
「開いた」
中に飛び込む。
「押さえてろ」
幸い、ここは事務室だった。いくつかの机で引出しを開けていくとカッターナイフが見つかった。
五代は応接セットをドアに並べていた。
「よくやるねぇ、その手で。
後ろ向いて」
背中合わせになり、首をひねって位置を確認してロープに刃を当てる。
「動脈は切らないでくださいね」
「努力はするよ」
力をこめて手を動かす。
「痛かったら痛いって言ってくれよ」
「歯医者じゃないんですから」
真後ろの下を見ようとしているから首筋がつりそうになる。外を叩く音も大きくなっていた。
「つ」
「我慢しろ」
「やっぱり歯医者だ」
手ごたえがある。
「潤、上にひきつけながら、左右に引っ張れ」
言われた通りにする。確かに、前よりは楽になっている。二人は、それぞれに力を入れた。切れる。
「やった!
一平さん、かわります」
今度は楽だった。
「さて。
ここ何階だっけ」
「4 階ですよ」
「飛び降りるわけにはいかないね」
「別々に逃げましょう」
「そうだな。どっちかだけでも逃げられれば OK だ。
もし逃げられなかったら、なんとかして誰かに連絡を取るんだ」
「連絡?」
「ここはオフィスだよ。電話は生きてる筈だ。声を出すのがまずかったらメールでもいい」
「メール?」
「電源が入ったままのコンピュータがあればラッキーだな」
「社員共有のケータイがあるかもしれない」
「そういうこと」
ドアは開きかけていた。応接セットがはねている。
「あ、メールだったら」
高村は声を潜めて潤に何事か耳打ちした。
同時にドアが開いた。
「逃げるぞ!」
泪は動かなかった。監禁はとかれ、ケータイも返されたが、そのまま、最初に連れてこられたマンションの部屋に閉じこもっていた。
美咲が信じられない。
“SD”の謎は間だ解明されていない。それが「スケバン刑事」を指しているのではない、という証拠もない。何をしても尾けられそうな気がする。一歩も動けなかった。
ケータイが鳴る。慌てて取りあげた。
末の妹だった。
《おねえちゃま?》
何かあったのかと思ったのが、ごく普通の声だった。泪は逆に、わずかに苛立ちを感じた。
「なによ」
《どうしたの?
舞おねえちゃまは家に戻ってくるよ》
「うるさいわね」
《雫は、潤んだ?》
「…」
あ、と口が開く。
悪事の存在を直感したときの閃き、泪を捉える予感がまだ訪れていない。これはどういうことだ。ここまでの間に泪の周りで悪辣なたくらみが行われていない、とでも言うのか。
黙っていた電話の向こう側。かすかに息。
《響く…悪の余韻》
舞はケータイに飛びついた。メール。送信者に心当たりはないが、予感がある。ボタンを押すのももどかしくメールを開いた。
7945130.
7894300.
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「まさか」
部屋の中を見回す。机の上にメモ用紙だけはあった。
前と同じように、ケータイのボタンに当てはめて見る。
7945130.
7894300.
74
「何…?」
字の形にならない。回転して見ても同じだった。
またケータイが鳴る。
「おねえちゃま」
泪だった。
《変なメール行ってない?》
「来た。
でも、字にならない」
《あたしも。
おかしいよ。偶然の筈がない》
「愛おねえちゃまは?」
《まだ聞いてない》
「行こう!」
《…わかった》
愛と祐美のいる部屋に集まる。唯と美咲も同行した。
銭形姉妹は、大き目の紙に書き写したその数字を睨んでいた。
泪のもとに送られてきた番号は
7948130.
7894300.
7451300 舞のものは
7945130.
7894300.
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どちらも字にならなかった。
「別の種類の暗号かな…」
祐美がつぶやく。誰も答えない。唯と美咲はずっと黙っていた。
「似てるよね…」
やはり無言。
2 行目は全く同じ。1 行目は 1 字だけ違う。3 行目はなんとも言えない。
「似てる…」
つぶやいたのは愛。
「わかった。
途切れてるんだ」
舞が叫んだ。
「この送信者は、同じことをあたし達に送ろうとした。でも、あたしに送ろうとした人は、最後まで送ることができなかったんだ」
「1 行目は打ち間違い!」
泪が言う。あらためてケータイを見た。5 のボタンと 8 のボタンは縦に並んでいる。間違う可能性はある。
「でも、ケータイじゃ字にならないんでしょ?」
祐美が口をはさんだ。
「それに、ケータイに‘.(ピリオド)’のボタンはないよ」
「‘0’が二つ並んでるのも…」
愛がつぶやく。また沈黙。目を閉じる銭形姉妹。
「送信元は会社のアドレスって言った?」
と愛。その声に泪と舞は同時に顔を上げた。視線を合わせる。
「どうした」
「謎はとけたよ、ワトソン君!」
声が揃う。美咲と唯は困惑するのみである。
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