スケバン刑事外伝・番外編 -“Obituary ZERO”-

“friend and foe”-ケータイ刑事 vs. スケバン刑事 [retake]-

登場人物
ケータイ刑事
銭形 愛銭形姉妹の長女 (演: 宮崎あおい)。大学 1 年生。警視正。
銭形 泪銭形姉妹の次女 (黒川 芽以)。大学 1 年生。警視正。
銭形 舞銭形姉妹の三女 (堀北 真希)。高校 3 年生。警視正。
銭形 零銭形姉妹の四女 (夏帆)。中学 2 年生。警視。
高村 一平警視庁捜査一課の刑事 (草刈 正雄)。巡査。
五代 潤警視庁捜査一課の刑事 (山下 真司)。巡査部長。
柴田 太郎警視庁鑑識課所属 (金剛地 武志)。
遠州 理津謎のパイ屋 (佐藤 二朗)。柴田の弟・二郎、銭形家の護衛・佐藤 公安との類似も指摘される。
多摩川ドイル史上最年少の検事正 (村上 雄太、十川 史也)。10 歳。
荒畑 任五郎テロリスト グループ「海王星団」の首領 (矢島 健一)。
袴田 権四郎稀代の犯罪者。通称「モリアーティ」(織本 順吉)。
銭形警視総監銭形姉妹の祖父 (?)。
 
スケバン刑事
浅谷 美咲かつての麻宮サキ (斉藤 由貴)。
早乙女 志織二代目スケバン刑事 (南野 陽子)。
矢島 雪乃早乙女志織の親友 (吉沢 秋絵)。
風間 唯三代目スケバン刑事。忍者集団・風魔の頭領 (浅香 唯)。
風間 結花唯の長姉 (大西 結花)。
風間 由真唯の次姉 (中村 由真)。
菅原 祐美*元スケバン刑事 (「スケバン刑事―少女新生初伝篇―」)。19 歳。
澤里 悠希*元「麻宮サキ」 (「スケバン忍法帳」)。18 歳。
かつての「ビー玉のお京」、早乙女志織の親友 (相楽 晴子)。現暗闇司令の側近。
暗闇司令*内閣機密調査室内の秘密組織「暗闇機関」の総司令官。かつて「零」というコードネームで「麻宮サキ」たちと活動していた。
“*”は“pastiche mr”におけるオリジナル キャラクタです。

海王星団の逆襲――銭形愛殴打事件――(前編)



 銭形家の朝はにぎやかである。
「おはよう――レレレ?」
 零は立ち止まった。見慣れないものを見た、と思った。
「おねえちゃま」
「おっそいなぁ、零」
「どうしたの」
「雨が降ったら困るなぁ、あたし」
 朝食を食べ終わった舞は、皿とカップをシンクに運んだ。
「降らないよ。降水確率 0% だって。
 もう天気予報だってしっかりチェックしてるんだから」
 どういう風の吹き回しか、もともと寝起きの悪い傾向はあったが、大学生になってますますそれに拍車がかかった長女の愛が、今日に限って三人の妹達より早く起きていた。
「天気予報は簡単に 0% って言うから嫌い」
 零はテーブルにつきながら言った。
「おねえちゃまの早起きは自然界の法則も崩しちゃいそうな気がするな」
「舞、何か言った?」
「いいえぇ」
 自分の食器は自分で片付ける。それが、両親とも警察官で時間の不規則なことが多い銭形家の朝のルールである。舞は皿の汚れをざっとぬぐうと、食器洗浄器に入れた。
「今日は特別な授業でもあるの?」
 トーストをほおばる末の妹、零。
「もう中旬だから、そろそろ本格的に始まるよね」
「そ。
 あたしも色々と忙しくなるの。子供の相手はしてられなくなっちゃうなぁ」
 愛はそう言いながら、自分のカップにコーヒーを継ぎ足した。
「って、のんびりお代わりしてるし」
 零がつぶやくと、すっかり身支度を終えた次女、泪が戻ってきた。
「まだ食べてる」
「コーヒーをゆっくり味わう余裕くらいないとね」
「お店が開くまでまだ 2 時間もあるもんね」
「店?」
「あたしの推理」
 愛を鋭く指差す泪。
「先週から騒いでる癖に、体育で使うスウェットをまだ買ってない。
 いよいよ今日から始まるから、行く途中で買っていこうと思っている。
 絶対に寝坊できないから、早番のママに起こしてもらった」
 舌打ちをし、眉間にしわを寄せてカップからすする愛。
「あったりー」
 パチパチと拍手する泪。
「そんなとこだと思った。
 この目玉焼きはママのだもんね。ピンクの黄身が 2 つちゃーんと並んでる」
 舞が、零のプレートを指して言った。
「おねえちゃま、手伝いもしてないんだ」
 零は、その黄身にフォークを突き刺した。
「あぁ、潤む、悪のしずく」
「誰が悪よ!」
 泪が得意のフレーズを言うと、愛の堪忍袋の緒が切れたようだ。カップをテーブルに叩きつける。
「あんたたち、長女に対する態度じゃないよ、それ」
「だーって、大学生になったら、だらしないのがひどくなってるし。威張れた立場じゃないでしょ」
「泪!」
 ケータイが鳴る。泪は、愛を無視した。
「あ、祐美ちゃん。うん、今、出るから。そうだね、30 分くらいかな。はい。じゃーねー。
 じゃ、行ってきまーす」
 出かけていってしまう泪。
「長女とか言ったって妹と同学年だし」
「零!」
 ここで怒鳴ったのは舞の方だった。
 愛は、高校三年になろうという春に小笠原の神無島に警察署長として赴任した。島に大学はなく、本庁に戻ってきた時期も中途半端であったため大学受験の機会を逸し、一年の浪人生活を送らざるを得なかったのである。その結果、一つ下の妹の泪と同学年ということになってしまった。
 別に彼女が怠けたのが理由でそうなったのではない。普段は一緒になって愛をからかったりすることもある舞だが、そこを許すことはなかった。
「くやしかったら、あんたも早く警視正になってみせなさいよ」
 愛は零に向かって舌を出して見せた。
「すぐになってみせますぅ」
「お待ちしておりますぅ」
「あたしは、今度の試験では、100% の確率で受かりますから」
「それはそれは。
 あんただけなんだからね、警視のままなの」
「ちょっと、おねえちゃまも」
 愛は、ふん、と言ってカップをそのままに出て行ってしまった。玄関をバタンと閉める音が聞こえる。
「今のは零が悪いんだよ」
 零は、はーい、と肩をすくめた。
 IQ180 の天才少女。
 それが彼女達の共通点である。
 彼女達は、その頭脳と、比類ない推理力を買われ、祖父の銭形警視総監から特別の命令を受けて、複雑な事件の捜査に当たる、「ケータイ刑事」なのである。
 勿論、若いこともあり、学業もおろそかにはできない。誰がどのように活躍するかについては、その時々の状況が考慮される。現在は、彼女達の誰も「ケータイ刑事」として活動していない。
「あ、おねえちゃま、からかってたらこんな時間。
 あたし今日、掃除当番なんだ」
 零もバタバタと出かけた。
 舞は愛と零の食器を洗浄器に入れて火の元と戸締りを確認、ホーム セキュリティ システムを作動させると玄関を閉めた。
「あたしって、本当にできた娘だなぁ」
 そうつぶやくと軽やかに歩き始めた。

 銭形総監は、椅子に身を沈めた。同じように深刻な顔が総監室に並んでいる。
「総監…」
 副官が言った。
「警察庁長官は」
「こちらに向かっているとの連絡が先ほど」
「公安委員会は…我々が行くべきか。長官と一緒に向かうことにしよう」
「では、そのように手配いたします」
「待ちたまえ。
 最高裁は」
「は?」
「ここにあるのは、公安関係者ということだ。有罪判決を下した判事が含まれる可能性もある。検察庁にも連絡を取りたまえ」
「はい」
 バタバタと出て行く。普段は静かな総監室も、しばらくはこうなりそうだった。孫達に会う時間も減るかもしれないな、と総監は思った。
(いや…逆か)
 国家転覆を狙うテロリスト集団、「海王星団」。
 これまで、表に出るかどうかの違いはあれ、4 人のケータイ刑事が担当した事件のいくつかに関与していた。その後、主に次女の泪の活躍で首領と副官クラスは捉え、相当に弱体化しているはずだが、残った者達が暴発したのだろう。あるいは、起死回生の一発を狙った、と考えるべきか。
 彼らは、服役中の仲間の釈放に加え、公安幹部の総退陣と国外退去を要求してきた。応じなければ、実力行使に出る、と言う。つまり、生命は保証しない、ということだ。
 更に、その実行を促すため、断続的に東京の交通機関を、手段と被害範囲を選ばずにストップ、あるいは破壊する、とも付け加えられていた。
 誰の退陣を要求するのかについては、後に一覧が送られてくる。
(悪いおじいちゃまだな、私は)
 ケータイ刑事たちは、海王星団の手口を知っている。頭のよい娘達なので、それを元にした勘も働くだろう。その、交通機関破壊の内容にも寄るが、彼女達を総動員する、というのは有益だ。
 海王星団は活動を停止したわけではない、という情報は数ヶ月前からあった。スコットランドヤードに留学していた愛を半ば強引に呼び戻したのはそれが理由である。どちらかと言えば、日本の警察が手を出せないところにいることの危険を考えたのだが、それが妙な形で役に立つことになりそうだった。
 勿論、長女がやっと二十歳という娘達のことで、危険はある。それは、当然のように退陣要求の対象に含まれるであろう自分自身や警察庁長官などと同じようにしっかりした護衛体制をしけばよい。刑事の捜査は二人で組むのが基本であるし、重大な事件だからとそれを 3 人や 4 人にすることは無理ではない。一石二鳥だろう。彼女達とパートナーを組んだことのある刑事を本庁に呼び戻す必要があるかもしれない。
 彼女達の、悪を憎み正義を愛する、という気持ちは強い。そして、その才能を、もつれた犯罪の謎を解き明かすために活用する、ということにも喜びを感じているようだ。
 だが、そろそろ、それでいいのか、ということを真剣に問うべき頃合かもしれない。
 きちんと逮捕術をマスター、警察学校を卒業して、特命の必要がない刑事になる、というのも一つ。頭脳を活かし、警視長、警視監として指揮に専念するのも一つ。
 あるいは、マウンテン バイクを別にすれば、格闘技を含むスポーツがどうにも苦手なことを慎重に考慮して、警察ではない別の道を探すのも一つ。
(辞令は、全体像を把握した後だな)
 それにはまだ情報が足りない。
「君」
 指示を待っている側近に声をかける。
「は」
「もう一つ、声をかけて欲しい組織がある」
「はい。
 どちらでしょう」
「内閣機密調査室の暗闇機関だ。
『暗闇司令』を呼んでくれ」
 警察庁や国家公安委員会など、「表」の公安組織の面々は、警視庁が、「裏」の組織である「暗闇機関」とコンタクトを取っていたらしいということに眉をひそめたが、やはりその情報量と質は彼らとはまるで違う。事実かどうかを知る者は少ないが、「忍者」集団とのつながりもある、という噂もあり、動員力も、決して警視庁に劣るものではないらしいと言われていた。
 海王星団のその後については暗闇機関も懸念を抱いており、事実、海王星団がなにか計画している、という情報をもたらしたのは彼らだったのだが、当然のように全面的な協力を約束した。
 いつのまにか代替わりし、若い指揮官となっていたが、現「暗闇司令」は相当に冷酷である、という噂が流れている。そのことと、あっさりと協力を約束したこととは、妙にミスマッチだった。

Ver.1.0: 2005/4/10

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