スケバン刑事外伝・番外編 -“Obituary ZERO”-

“friend and foe”-ケータイ刑事 vs. スケバン刑事 [retake]-

ケータイ刑事 vs. スケバン刑事 (前編)



 暗闇機関に入るための認証システムについては、泪も舞と同じように関心を示した。尤も、隣にいるのが友人であることの気安さで、あたしもやってみたーい、というものだったが。
 最後のチェックを完了。ドアが開く。が、泪はそこで止まった。
「おねえちゃま」
 愛と舞が振り向いた。
「早く入れよ」
 祐美は泪の背中を押しやった。その勢いで飛び出す泪。
「おねえちゃま」
 泪は歯を食いしばったがダメだった。大きな目から次々に涙がこぼれた。
「おねえちゃま!」
 愛はその肩を抱いた。トントン、と叩く。
「ごめんなさい、ごめんなさい、あたし――」
「なに言ってんのよ。また嘘泣きなんかして。
 なんにも悲しいことなんかなかったんだから」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「いいのいいの。嘘泣き、嘘泣き」
 舞は我慢していたようだったが、やはりそれに加わった。3 人の静かな泣き声が部屋を満たした。
 それをそのままに、京は祐美を手招きした。
「こっちは初顔合わせだ」
「風魔水組の澤里悠希です。
 はじめまして、先輩」
 祐美よりはわずかに背が低い。だが、確かに風間三姉妹と似た空気を持った少女だった。
「先輩?」
「彼女もほんのちょっと前まで『麻宮サキ』だった」
「え?」
「詳細は一応、伏せさせてくれ。
 あとで新聞の縮刷版でも調べるんだな」
 祐美は口の端をゆがめた。京は吹き出しそうになったが、銭形姉妹のことを考えて遠慮した。
「そう。愛さんをかくまってたんだ」
「えぇ。
 全員の無事が確認できましたので、そろそろお返ししてもいい頃かと思ってお連れしました」
「麻宮サキのわがままが始まった、と司令官殿はご立腹じゃ」
 唯も加わり、今度は暗闇司令を見てニヤニヤ笑った。
 デスクの上の電話が鳴った。暗闇にとってはベストのタイミングだった。
「はい」
 暗闇は急に立ち上がった。椅子が大きな音を立てた。全員の視線が集まる。
「わかりました。
 出かけます。いや、一人で行きます。はい」
「どうした」
 京がそばに寄った。表情は既に真剣なものに戻っている。
 暗闇は、それには答えずにもう一度、電話を取った。
「総監に、警視庁以外の場所で会いたい、と伝えてください。特に向こうの要望がなければ、こちらから指定して。具体的には野口さんにお任せします」
「暗闇司令、何があったんですか」
 デスクの周りに集まる。
「君たちを家に帰すことはできなくなった」
「どういうことですか」
 愛が噛み付いた。
「…」
「暗闇司令!」
「君たちの妹、銭形 零が誘拐された」
「零が?!」
「誰にですか」
「決まっているだろう」
「あたし達を帰らせてください」
 泪がデスクの端を握り締めて言った。
「だめだ」
「あたし達の妹なんです。あたし達が助け出します」
「どうやって!」
 暗闇が怒鳴った。娘達は静かになった。
「彼女は、荒畑 任五郎に会いに刑務所へ行った。そこでさらわれたんだ。刑務所の中で、だぞ。
 もう、警視庁も警察庁も信用できない。やるとすれば君達 3 人だけでやることになるんだ。それが可能だと思っているのか」
「おじいちゃまがそんな」
「五代さんや高村さんだっています」
「3 人が 5 人に増えたところで大した違いはない」
「暗闇司令」
「はっきり言っておく。君たちが動いた結果は、今のところ、すべて裏目に出ている。これ以上、自分の判断で動くことを許すわけには行かない」
「なんの権利があって」
 泪が食い下がった。
「市民の生活を守るためだ。聞かなきゃわからないのか」
「令、言いすぎだよ」
 京が止めた。だが、銭形姉妹のやったことがプラスに作用していない、というのは事実だった。それはもちろん、彼女たちが悪いのではなく、どうやら海王星団が銭形姉妹をメインのターゲットにしているからだ。
 また電話。暗闇は、受話器を取る前にはっきりと舌打ちをした。
「零さん?」
 唯が痺れを切らした。暗闇は電話が終わっても何も言わない。
 誰も「暗闇司令」とは呼ばなくなった。余裕が消えかけている。
「多摩川ドイルという名前は知っているな」
 それは、法務大臣の孫にして、小学生の検事正、多摩川ドイルだった。
「まさか」
「彼を含む 7 人が一度に誘拐された。
 わかったか。海王星団はペースを上げている。ここで君たちを――」
「におう…悪の香」
「おねえちゃま」
 愛は、かすかに暗闇司令を見上げていた。不信感。
「教えてください」
「何だ」
「泪をすぐに保護しなかったのはなぜですか」
「すぐ、というと」
「あなた方の捜査能力を持ってすれば、あたしたちみたいな小娘一人の居場所を突き止めるのは簡単なことのはず。一体、何日かかりましたか」
「彼女は逃げ回っていた」
「警察と一緒だったとはいえ、あなた方には、舞を半日で助け出したという実績があります。
 ケータイを持って移動している人間をどうして見つけられなかったんですか」
「…。
 君が考えている通りだ」
「おい」
 京と唯が暗闇を振り向いた。
「囮ですか」
「そうだ」
 暗闇司令はあっさり認めた。
 舞ははじかれたように振り向いた。
 愛は暗闇を睨みつづけていた。
 泪が祐美を見る。祐美は目を逸らした。
「祐美ちゃん…」
「釈放を要求されている者ではなく、現在の海王星団のメンバーを押さえていく必要があった」
「だから泪を利用したんですか」
「祐美ちゃん…?」
「フォローしたのは祐美一人じゃない。君の妹はむしろそれ以前よりも安全な状態だったはずだ」
「だから許せ、って言うんですか」
「許しを請うつもりはない」
「祐美ちゃん…!」
「暗闇司令、あなたと私達は随分と考え方が違うようです」
「だから別の組織になっているんだ」
 誰も動かなかった。
「もう一つ、聞きます。
 海王星団が退陣を要求した人物の中に、既に他界している最高裁判事の名前がありました。
 それについてはどうお考えですか」
「すでに答えはあるんだろう」
「あるのは疑いだけです」
 舞は愛の顔を覗き込んだ。
「前に聞いたことがあります。暗闇機関を創設したのは、ある判決に抗議するために最高裁を辞めた人物で、暗闇機関はその真相をつきとめるのが当初の目的だった。違いますか」
「その通りだ」
「なぜ、その人の名前が一覧にあるんでしょう」
「一つは、機関の存在を表に出し、活動できない状態にすること」
「ヤバい組織ですからね」
「もう一つは、こういう状態を招くことだ」
「暗闇機関と海王星団は裏で繋がってるんじゃないか、と思わせること、ですね」
「おねえちゃま!」
 舞の抗議。愛は、わかっている、と頷きかけた。
「流石にそこまでは考えていません。
 曲がりなりにもあなた方はあたし達三人を助けてくれた。そのお礼も言います。
 でも、妹の救出を邪魔するのなら、話は別です」
「では好きにしろ」
「そうさせてもらいます。
 行くよ」
 泪は祐美が何か言うのを待っていたが、祐美は目を合わせようとしなかった。泪はやがて愛に続いた。
「暗闇司令…」
 舞は動かなかった。
「あたしを騙していたんですか?
 会議にも加えてくれたのに。あれは――」
「騙してはいない。
 隠していただけだ」
「舞、行くよ」
「暗闇司令…」
「舞」
 愛が舞の手を取った。部屋を出て行く。
「悠希、家まで送ってあげて」
 唯の指示で小走りに出て行く悠希。
「なんであんな言い方しなきゃならないのか理解に苦しむね」
 最初に口を開いたのは京だった。
「そうじゃ。わざわざ敵に回すようなこと」
「銭形姉妹は味方じゃない」
「…どういうことだ」
「彼女達は本来、暗闇機関などという組織のことを知っているべきではない」
「しょうがないだろ」
「暗闇司令が、警視以上には知らせる、という合意を取り付けたのは、そこまで行けば、一定の年齢になっている、この種の事情に対して分別が働くだろう、と考えたからだ。
 だが一番下の妹はたった 14 歳だ。分別も何もあったものじゃない」
「あたしがヨーヨーを押し付けられたのはその 3 年後だ」
 祐美が言った。
「お前は違う」
「うれしくないね、認めていただいても!」
 デスクを叩く。
「あたしはたった今、大事な友達を失った。
 零さんのせいだとは言わないけど…もし殴らせてもらえるんなら大喜びで殴ってやる」
「いつでもいいぞ」
 祐美はその代わりに、もう一度、デスクを叩いた。そうして部屋を出て行く。
「どうした。
 暗闇司令殿らしくないぜ」
「どうもしない」
 そろそろ限界だと思ったのだろう、京ははっきりと言った。
「若い連中を守りたいって気持ちは正しいと思うけど、あいつらだって、それなりの意思はある。それを踏みつぶしてまで守ってやる必要はないんじゃないか」
「これが『スケバン刑事』の事件で、我々が我々のペースで動けるんなら、それでもいい。
 だが、自分の身も守れないような連中が勝手に動く。はっきり言って、それは障害だ」
「じゃけんど、零さん、あの子達の才能は」
「だから銭形 舞にはそれなりのポジションを用意した。彼女達はああいう用兵をするべきだ。前線にいてもらっては迷惑だ」
「迷惑…って、お前な」
「かき回さずに黙ってさらわれてくれた多摩川ドイルの方がまだましだ」
「そういうところは、立派なお偉いさんだな、令」
「なに?」
「祐美のフォローはやっとく」
 京は、暗闇に背を向けてデスクに寄りかかった。
「それで、次はどんげするんじゃ」
「銭形 零については彼女達に任せる。我々は手出しをしない方がいいだろう。
 我々は、もっと深いところをさぐる。そのための『暗闇機関』だからな」

 帰宅した愛は、父と母に、息もできないほど抱きしめられた。父親は何も言わなかったが、母親は、心配した、と何度も繰り返した。
 その再会は、警視総監からの電話で打ち切られた。父親が出る。
「おと――いえ、総監。
 はい…しかし…わかりました」
 電話をそのままに娘達に向き直る。
「零の携帯電話が警視庁に届けられたそうだ。零のメッセージが入っているらしい」
「おじいちゃまに、すぐに行きますって」
「行くのか」
「ダメです。もう家から出ることは許しません!」
 母親が道をふさいだ。
「ママ!」
「ね、大丈夫だよ。みんな一緒だから」
「ダメです」
「零を連れて帰ってくるから!」
 愛が叫んだ。
「4 人揃って、帰ってくるから」
「約束する」
「…危ないことはしないのよ」
「うん」
 母親はもう一度、3 人の娘達を抱きしめた。
「高村巡査が迎えに来るそうだ。
 十分に気をつけてな」
「はい」

 高村はぎこちない表情で車を降りた。泪に何と言えばいいのかわからないようだった。
「高村さん」
 口を開いたのは泪の方だった。
「あ、はい」
「終わったらお寿司食べたいな、あたし」
「え? あ、あぁ、わかったよ、うん。
 何でも食べなさい。そうだな、みんな一緒に行こうか」
 やった、と飛び上がる娘達。
「柴田さんもね。
 ネタの鑑定してもらおうよ」
「さんせーい」
「さ、そうと決まったら、急ぎましょう。
 できれば今夜がいいなぁ」
 車はにぎやかに警視庁へ向かう。

Ver.1.0: 2005/5/15

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