スケバン刑事外伝・番外編 -“Obituary ZERO”-

“PACIFIC”-ケータイ刑事 vs. スケバン刑事 [take 3]-


二人の大人 (前編)



 海の顔が青ざめた。
 祐美と弥帆が捜索に向かったビルが爆破された。
 死者 3 名、それが暗闇機関のエージェントだけであることが幸いと言えば幸いではあった。
「おじいちゃま、二人は…」
「命に別状はない」
「それ」
「怪我はしているようだ。その二人のどちらかどういう状況かまではわからない」
「二人はどこにいるの」
「わからない」
「って、それくらい聞き出してよ!」
 雷が怒鳴る。海は何も言えないでいるようだった。
「あたし達は嫌がられてても、おじいちゃまは公式ルートで連絡取れるんでしょ?!」
「公式ルートで聞いたら、そういう細かい情報は入ってこないんだよ、雷」
「細かいって、どういうこと。
 エージェントが死んでるんでしょ?! ほかのメンバーがどうなったかは大事なことじゃないの?
 おじいちゃままでそんなこと。
 海、あんたも何か言いなさいよ!」
 振り向く雷の顔から怒りが影を潜めた。
 海は唇を噛み、目に涙をためていた。
「あたしのせいだ…」
「海…」
「あたしが、あのとき、連絡するのを迷わなかったら、こんなことには。
 もっと早く知らせることができたのに。
 二人はあたしのせいで」
「馬鹿言ってんじゃないわよ!」
 鋭い音が総監室に響いた。岡野と松山はその音にびくっと体を振るわせた。
「あんた、何寝ぼけてんの」
 雷は、海の頬をうった自分の手を握った。そこが痛むかのようだった。
「爆弾を仕掛けたのは海王星団でしょ。
 なんであんたのせいなのよ」
「だって、あたしが!」
「あんたが迷ったのは一体どれだけ? 5 分? 10 分?
 ほんの一瞬でしょ。その間に、爆弾を撤去したり、避難したりなんかできるわけないじゃない」
「…だって」
「クールなあんたはどっかに置いてきちゃったみたいね。
 それとも、川崎の爆風で吹き飛ばされちゃった?」
 まだ何も答えられない。
「行くわよ」
「え、どこに」
「城南大学。
 こうなったら和泉教授を直接しめあげるしかないわ。
 こっちには不正入試の件があるんだから、それが利いてるうちにやらないと。
 岡野さん、松山さん」
 雷はまだ困惑している海の手を引くと出て行った。
「おじいちゃま、あたし達が戻ってくるまでに、祐美さん達が入院してる病院、聞き出しておいてね!」
 廊下から声が響いてくる。
「岡野警部、松山巡査」
 それを総監が止める。
 岡野と松山は総監の前に並んだ。
「二人を頼む」
「はい」
 敬礼。
「お二人には、よい友人ができたようです」
「そのようだ」
「奴らを再会させます」
「頼む」
 靴音が戻ってくるとドアが乱暴に開いた。
「岡野さん! 松山さん!」
 怒りの形相の雷だった。

 重い扉が開く。
 峰石が顔を上げる。男は後ろ手にその扉を閉めた。ガシャン、という音が響いた。
「初めて見る顔ね。
 素敵なおじさまでうれしいわ」
 野口は無言でリボルバーを取り出した。余裕のある顔を一転して引きつらせた峰石をよそに、その弾倉を開いた。軽い金属音をあげて、弾丸が床に落ちる。
 そこから二発拾い上げると、一発を装填、弾倉を回転させてから残った一発を込める。また弾倉を回転させ、手首のスナップでそれを戻した。
「君が話した川崎の拠点は空だった」
「そう。
 撤去されちゃったのね。あたしが捕まっちゃったからじゃないかしら」
「それは仮説として考えられるが」
 野口はそのリボルバーを一度、指先で回転させた。
「君が、すでに撤去されてしまった拠点を口にした可能性も否定できない」
「なんですって?」
 峰石は立ち上がった。
「私はもう自分の状況を理解してるわ。
 ここから解放してもらうには、あんた達暗闇機関に協力するしかない。
 そんな嘘をついて何の得があるの?」
「ただの下っ端ならそれに耳を貸すこともあっただろうが、君はそうではない。
 清真学園を落とせ、という指令を与えられて、一人で乗り込むほどのランクにいる。
 母体となる海王星団への忠誠心、その理想への傾倒はそれなりに強いと考えるべきだ。
 だとすれば」
 もてあそばれていたリボルバーの音が止まった。
「命を賭けて偽証をしたとしても何の不思議もない」
 峰石が息を呑む。野口の目には殺気がみなぎっていた。
 野口が足を進めた。靴の先で落とした弾丸を蹴り飛ばす。
「君にチャンスをやろう」
「どういうこと…」
 峰石は逆に下がった。二歩、三歩。そして、壁。ひんやりとした感触が峰石の手、背中に伝わった。
 野口はリボルバーを峰石の鼻先に突き出した。
「装弾数は六発だが、さっき見た通り、二発入れてある。
 これで君が助かったら解放してやる。
 助かる確率は 2/3 だ。そう悪くないだろう」
「ふざけないで」
 声がかすれた。
「これを拒否するのだったら、君の真摯な協力を要求する。
 海王星団の本拠地、首領の居場所を教えてもらおう」
「知らないわ」
「では、これだ」
 リボルバーを更に近づける。
「どっちも嫌よ!」
「そうか」
 野口はリボルバーを左手に持ち替え、スーツの胸元からオートマチックを取り出した。
「ちょっと…」
 もう声にならない。
「あたしを殺したら」
「海王星団は君と首領の二人だけで構成されているわけではあるまい。
 情報源はいくらでもある」
「嘘よ、あんた達なんかに」
「我々の仲間が既に和泉教授の元に向かっている」
「和泉」
「どうした。
 自分の立場を理解したのではなかったのか。
 ここはそういう組織だと、取調べのエージェントが何度も言っている筈だ」
「…」
「早く決めろ。
 非協力的な人間に費やすことができる時間は長くはない」
 野口は両手で二挺の銃を掲げる。峰石の目はそこへ釘付けになった。

 雷と海は城南大学に飛び込んだ。教育学部の建物に向かう。
「なんだ、あいつら」
 松山が顔をしかめた。
「急いでください」
「銭形、ちょっと待て」
「どうしたんですか」
「あいつら、学生じゃないぞ」
「え?」
 松山は、不信感のにじんだ顔で、何人かの人間を指した。
「どうしてですか」
「どうして、って。
 勘だよ、勘」
「また先輩の山勘が始まりましたか」
 岡野が呆れたように言う。雷も顔をしかめた。
「馬鹿。
 学生だろ。もっと気楽な顔してるよ。
 しかも今は試験も終わった春休みだ。それにしちゃ多いと思わないか?」
 言われて見れば、そういう気もしてくる。
「あ、あっちはうちの捜査員ですよ」
 岡野が指さそうとして、雷に手を叩かれる。
「ってことは、暗闇機関?」
「そうか。
 和泉教授を監視してるんですね」
「じゃ、私達も急ぎましょう」
 甲高い音を上げないようにして階段を登る。
 和泉の研究室があるフロアに上がり、角を曲がると女が二人立っていた。
「ちょっと待ってもらえるかな」
「?」
 そう言ったのは、大きな目の年長と思われる女。
「こちらが先約です」
 後ろにいた女が、やや攻撃的な口調で言った。
「なんのつもりですか。
 私達は」
「わかってるよ、銭形警視監」
 雷達が息を呑んだ。
「あなた…。
 暗闇機関の」
「ま、そんなとこだよ。
 司令の坊やに頼まれて、和泉とかいう教授に話をしに来た。
 なんなら一緒に来るかい?」
「美咲さん、いいんですか」
「いいだろ、別に警察を入れるなとは言われてないし。
 この人達も情報はいるだろうしね」
「でもあたし達が」
「あたしが、こうこうこうでした、って説明したって、はいそうですか、とはいかないだろ。警察の皆さんとしては」
「わかりました。
 ご一緒します」
「すいません、お名前を教えていただけますか」
 海が言った。まず、後ろの女が答えた。
「浅谷慧」
 彼女はまだ納得してはいないようである。
「あなたは」
「浅谷美咲、って言っておこうか」
「どういうことですか」
「まぁ、いいじゃないか。
 行こうか」
「そういうわけには」
 海は食い下がったが、美咲は背を向けて歩き始めた。
「本当の名前は、麻宮サキ。
 違いますか」
 雷が押し殺した声で言った。
 美咲が振り向いて笑う。
「司令の坊やには、貸しとか借りとかいろいろあってね。
 今度は貸す方にまわったわけだ。
 その名前があると色々便利らしいよ」
「わかりました」
「あ、そちらの殿方は外を固めててくれるかな」
「そうはいかない。我々は」
「大学教授の研究室にこんなにたくさんは入れないよ。
 それに、向こうも多少は警戒してる。外から助けに来る可能性だってある」
「お前達んところのエージェントがたくさんいるだろうが」
「向こうはテロリストですよ」
 慧が言った。
「いくらいても多すぎるということはありません。
 それに、こちらの人数を読まれない方が何かと有利です」
「それは、確かに…」
「行くよ」
 美咲が歩き出す。
「あんた達はオブザーバーだからね」
「いえ。必要に応じて私達も聴取します」
 立ち止まる美咲。
「これは事情聴取じゃない」
「え」
「取引だ」
「司法取引は日本の法律では」
「そういうつもりなら帰ってくれるかな」
「浅谷さん」
「説得の通じる相手じゃない。奴らは自分達のやってることが正しいと思ってるんだ。
 それをひっくり返すには、脅すしかないんだよ」
「そんなことはありません。
 時間をかければ説得は可能です」
「どこにそんな時間があるんだい」
 美咲が振り向いて海の目を見た。
「今、こうしてる間にも、あんたと同じ歳の子供達が、テロリストの手伝いをされているかもしれないんだよ」
 その目の中にあるのが何か、それは雷にもわかった。
 彼女達はどうあっても若者を守ろうとしている。そのためには手段を選ばない。「スケバン刑事」達の行動原理はそれだった。
「いいね。
 口を開くんじゃないよ」

Ver.1.0: 2009/4/12

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