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敗北感。 この一年間、映画監督としての四ノ宮浩が、迷いながらも追い続けてきた「戦争と平和」というテーマの前に、今、この三文字の言葉が何より重たく感じられる。 けれど勘違いしないで欲しい。イラクの人々は懸命に生きているし、人間の盾として命をかけて戦争に抗議した人たちがわずかながら、いた。世界中に「NO WAR!」というパワーは本当に溢れていた。だからこそ僕は、アフガニスタンでの撮影を途中にしたままイラクへ飛んだのだ。 けれども戦争は起こってしまった。イラクの人だけでなく、アメリカ軍にもたくさんの死者が出たし、心に傷を負った人たちが国境を越え、今、消せない悲しみに沈んでいる。 僕は、「戦争と平和」というテーマで映画を撮ることを決意してから、急激に刻一刻と状況の変わる情勢に着いて行くのに必死だった。自分自身の日常と、仕事と、「戦争と平和」。 けれど、それは僕だけじゃない。何よりイラクの人々は、まさにその恐怖と緊張感の中で、開戦を迎え、極めて不安定な環境の中で生きていた。 僕の中の敗北感は、戦禍のイラクに滞在できなかったことだ。そこでしか感じられなかったであろうこと、得られなかったであろうことを、痛烈に悔やんでいる。爆音を聞きながら、人々は何を考えたろう。自分のことか、家族のことか、社会のことか。諦めたのか、死を覚悟したのか、それとも・・・。僕は今なお、いや、今だからこそ、戦争と平和という問題を前に、混乱している。 この敗北感をバネにするしかない。これまでのすべての時間をも糧に、戦争を体験してしまったイラクの人々と、米軍の若者たちに、僕は問いたい。「戦争とは何だったのか?」「平和になるためにはどうしたらいいのか?」と。 米軍の捕虜や死体の映像をテレビで放映しなかったアメリカのメディアは、また、そういった内容を見ないまま戦争に関わることになってしまったアメリカ国民は、今、何を思うのか。 僕は先日まで、バクダッド市内で撮影取材をしてきた。米軍による激しい攻撃は、ほとんど済んだ後だった。主たる政府関係の建物や、病院、学校などは略奪に見舞われ、焼け落ち、廃屋と化していた。金持ちのスーパーマーケットの棚からは、食料、水、生活用品、ありとあらゆるものが奪い去られていた。アメリカ軍の統制により、現地の警察もようやく機能し始め、混乱も治まってきたように見えなくもないが、戦争が生む被害は、爆弾や銃だけでは終わらないことを忘れてはいけない。 大人たちは、暮らしを再開するための準備と、仕事探しに追われながらも、まだまだ、この不安定な状況を見守っているような雰囲気だった。子どもたちの学校も、ちらほらと再開され始めているところもあるが、電気や水は開通していないし、本や文房具なども不足している。 サダムフセイン小児病院の庭には、たくさんの死体が埋葬されていた。その光景は、単純に、ショックだった。 市民は言う。「フセインも嫌だ。ブッシュも嫌だ」イラクの人々はたくましい。イランイラク戦争、湾岸戦争、そして今回の戦争と、三度の戦争に、痛ましいたくましさを身につけている。ただ、そんな住民を前にすると、サダム・フセインの独裁恐怖政治が崩壊し、大人たちが自由に発言し出したことは、明るい兆しに見えてもくる。例えば、タクシーに乗ったときなど、運転手などが、それまでは決して口にしなかったフセインの悪口(あいつはすごい奴だよ・・・などと)を、堰を切ったように話し出した。これは戦争が終わってみて、大きく変わったことの分かりやすい一つの体験だった。悪口を言うことが良いということではない。ただ、これまで、どれだけの抑圧が、国民一人一人にかかっていたかが痛いほど如実に現れていた。 もちろん、不安はある。この解放が伸びやかに本当の平和や幸せに向かっていくための課題は計りきれない。親を亡くしても懸命に生きようとしている子どもたちや、戦争をこうして体験してしまった子どもたちの中には、静かに見えて傷の深い混乱があるはずだ。これから、長い時間をかけて親身なケアをしていかねばならない。真剣に! たくさんの犠牲者と、消えない傷を生んでしまった「戦争」を、やはり肯定など出来るはずはない。 だからこそ僕は、今のイラクの人々と、米軍として戦争に参加したアメリカ人の真実の姿を映して、戦争と平和について問い、また、すべての人間に問いかけたい。 あなたにとって、戦争はどういう意味があったか、そして、今こそどうして平和を望むのか。 アメリカを作るアメリカ政府、アメリカに生きる人々、フセインを崇めるしかなかったイラクの人々と、それを見て育った子どもたち、そして、僕ら日本人、世界中の人々。すべての人に関わってもらい、すべての人に見てもらいたい。 何かを敵と見なしてクリアしていくやり方では、ますます混乱を生むだけだ。まずは僕自身が、自分への憤りを乗り越えることから始まる。 何を持てば戦争に向かってしまう構図を止められるのか。映画で本当に戦争を止めることが出来るのか。僕は挑戦を終えるわけにはいかない。 |
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